近未来ハイテク兵器が活躍するアクション映画「G.I.ジョー」

~加速装置付きのパワードスーツ「ハイパー・スーツ」に注目


ポスター。上がコブラ(の前身)のメンバーで、下がG.I.ジョーのメンバー

 7日より日米同時公開で、丸の内ルーブルほか全国ロードショーとなった映画「G.I.ジョー」(監督:スティーブン・ソマーズ、配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン)。史上最強のエキスパートチームである国際機密部隊「G.I.ジョー」と、世界最悪のテロ組織「コブラ」が激突する、ミリタリー要素、SF要素、そして敵味方を超えて存在するヒューマンドラマ(恋愛要素も)を盛り込んだ、アクション大作だ。パワードスーツの「ハイパー・スーツ」などロボット系の武器や兵器も登場する要注目の作品である。ここでは、それらロボット系の武器や兵器にもフォーカスしつつ、映画の内容を紹介しよう。

アクションフィギュアの元祖G.I.ジョーのおさらい

 まずはG.I.ジョーそのものについて説明しよう。もともとは、世界最大のトイメーカーである米ハスブロ社が1964年から発売を開始した、米軍兵士を題材にしたミリタリーアクションフィギュアのシリーズだ。アクションフィギュア、アクション・ヒーローといった言葉を生み出し、少年が人形遊びをするようになったエポックメーキング的なトイである。おそらく、G.I.ジョーといわれて、40代半ばから上の方はここら辺を思い浮かべるのではないだろうか。

 そして1971年になると、「ニューG.I.ジョー」としてリニューアルされることになる。キャラクターのラインナップに、スポーツ選手などの「スポーツ・ジョー」や、ヒーロー色を打ち出した「正義の味方」などのシリーズが加わったのだ。

 さらに、1984年に新シリーズ「コンバット・ジョー」が発売されたことで、G.I.ジョーは大きな転機を迎える。コンバット・ジョーは正義の味方シリーズの中の「変身サイボーグ」からのスピンオフなのだが、これが大ヒット。翌年のテレビアニメシリーズ「地上最強のエキスパートチーム G.I.ジョー」の放映につながっていくのである。

 そのアニメ版だが、同じハスブロ系ながら、日本でも何作ものシリーズが放映された「トランスフォーマー」とは異なり(トランスフォーマーはタカラ製だが、アメリカではハスブロが取り扱っている)、国内では1年ほどしか放映されなかったため、あまり人気が出なかったイメージがある。しかし、本国アメリカでは数シーズンに渡って放映され、非常に人気を博した。

 ちなみに、記者は高校生の頃にこのアニメをちょこちょこ見ていたのだが、敵も味方もどんなに激しい戦闘でもひとりも死者が出ないという「アメリカの子供向けアニメの掟」の不自然さのインパクトが強かった。それから忘れられないのが、場面転換で陣営が変わる時のかけ声。「ゴー! G.I.ジョー!!」とか「コォ~ブラ~!」というのだが、これも強烈だった(笑)。

 ストーリーに関しては、アメリカのアニメだと感じさせる、完全に子供向けのリアルさもへったくれもあったものではない内容だったが、敵も味方もとにかくパワフルな(というか濃い)キャラが多かった記憶がある。残念ながら、バタ臭いタッチやその荒唐無稽ぶりが日本人の感性にマッチしなかったのだろうか。あまり受け入れられず終わってしまったのだが、本国アメリカでは長期に渡ってコミック版とともに子供たちに楽しまれ、定着。その人気ぶりは、日本におけるガンダムのような存在で、アメリカ人の男の子はほぼ必ず通過するというほどだそうだ。

今回はアニメ版をベースにそのエピソード0ともいうべきストーリーに

 今回の映画は、そんなテレビアニメシリーズがベースとなっている。元祖G.I.ジョーのミリタリー要素もあれば、現実には存在しない数々の未来的な武器・兵器も登場するという内容だ(現在より10年後という設定の模様)。そして、アニメで悪の組織としてG.I.ジョーと激闘を繰り広げた(まぁ、ジャレ合っていたようにも見えるのだが……)コブラが結成されるまでが描かれる。原題のサブタイトルが「THE RISE OF COBRA」となっており、テレビアニメシリーズのエピソード0的な位置づけというわけだ。

 キャッチコピーには、「史上最強の国際機密部隊“G.I.ジョー” VS 悪の組織“コブラ”」とあるのだが、実際にはG.I.ジョー VS コブラの母体となる組織という具合で、コブラの幹部たちがそろってくるという内容である。

 映画の物語のキーとなるのは、ナノテクノロジーによって開発されたナノマシン(ロボット)の「ナノマイト」(ナノマイトを化学物質とする表記も見受けられるが、正確にはナノマシン)。時代設定は現在から約10年後ということで、現代と変わらないものも多いが、一部の技術は非常に進歩して入るという具合だ。

 ナノマイトを開発したのは、世界の約70%の武器・兵器を製造しているという、国際巨大軍需企業のMARS産業。そのCEOであるジェームズ・マッカラン(クリストファー・エクルトン)が、ガン細胞の治療薬という平和利用の名目でNATOの協力を得て開発したのだ。開発を手がけたのは、ナノテクノロジーの権威で、マッカランの部下のひとりであるザ・ドクター(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)と呼ばれる謎の人物。かつて命を失いかねない重傷を負ったことがあり、そのため生命維持装置を常に顔の半分に装着しているという、本名を初めその素性が一切不明のマッドサイエンティストである。

先祖代々武器商人のジェームズ・マッカラン。コブラで武器商人といえばあの人……?上のコブラ側の右端にいるのがザ・ドクター。その左隣は、後のコブラの一般兵

 実は、マッカランは最初からナノマイトの悪用を目論んでいた。ナノマイトは、金属を恐ろしい勢いで分解してしまうという力も持っており、都市で使用すれば、核爆弾のように放射能の問題なしで壊滅させられるという次第。さらに、人の体内に注入すると痛覚が麻痺し、感情さえも失ってロボット化してしまうという恐ろしい効力も持つ。ナノマイトは毒素など体内の異物を処理するよう働くので、耐久力も常人を遙かに上回る仕組みで、コブラの一般兵はこのようにして誕生するというわけだ。

 マッカランは、「世界は統一を必要としている……。たとえどのような手段によろうとも」という、誇大妄想の入った哲学の持ち主。ナノマイトを悪用することで、世界のパワーバランスを崩そうというわけだ。ただし、自分でそのまま悪用せず陰から操ることを考えており、テロリストが強奪するという筋書きを立てる。そこで雇われたのが、フリーの暗殺者であるストームシャドー(本名はトーマス・S・アラシカゲ、演じるのはイ・ビョンホン)や、クールビューティーの女性スパイのバロネス(本名はアナスターシャ・デコプレイ、演じるのはシエナ・ミラー)たち。こうして、アニメで活躍したコブラのメンバーが徐々に姿を現すというわけだ。なお、この時点では、マッカランの私兵という感じで、まだコブラというわけではない。

悪なのに全身白という出で立ちのストームシャドー。イ・ビョンホンの存在感は抜群だったストームシャドーの戦闘(忍者)スタイル。頭巾とマスクで顔を隠し、二本の日本刀を武器に戦う
バロネス。ポスターだとなんかケバい感じだが(笑)、劇中ではクールビューティーな女スパイ長いストレートの黒髪、知的な目元、身体のライン丸出しのボンテージファッションがバロネスの外見的特徴

 ナノマイトはMARS産業のキルギスタン工場で開発されており、そこから本部への護送を任されたのが、本作の主人公であるコンラッド・R・ハウザー大尉(チャニング・テイタム)率いるNATO軍の特殊部隊。護衛部隊が出発して間もなくすると、そこへテロリストたちがMARS産業製の次世代ジェット機「マーズ・レイザー」を駆って襲撃をかけてくる。バロネスは情報投影を行なえるコンピュータ内蔵アイウェアや、人体を破壊するエネルギーパルスを発射する2丁のパルスガン、ボディーラインの出ている流動性防護服で身を固め、次々と護衛の特殊部隊兵士を殺害していく。シャドーストームも、忍者アラシカゲ一族の出身として、二本の日本刀と驚異的な体術を駆使して、ナノマイト強奪のための障害物を次々と排除していく。大混乱の中、ハウザーは、バロネスを見て衝撃を受ける。戦死した友人の姉にして元婚約者のアナだったのである!

コンラッド・R・ハウザー大尉。新人のチャニング・テイタムが演じたMARS製の武装を身に帯びたテロリストたちがナノマイト奪取を目的にハウザーたちを襲う

 バロネスは元婚約者の姿を見て、わずかな逡巡を見せるもののテロリストとしての任務遂行をやめることはしない。護衛部隊の生き残りが、ハウザーとその親友で副官のウォラス・ウィームズ中尉(マーロン・ウェイアンズ)たちだけになり、このままではバロネスに強奪されるのみという窮地に立たされた時、空から駆けつけてきた者たちがいた。それが、G.I.ジョーのチーム・アルファだったのである。忍者アラシカゲ一族のひとりでストームシャドーの因縁のライバルであるスネークイアイズ(本名は不明、演じるのはレイ・パーク)、頭脳明晰な女性隊員スカーレット(本名はシャナ・オハラ、演じるはレイチェル・ニコルズ)、あらゆる火器を使いこなすヘビー・デューティ(本名はハーシェル・ダルトン、演じるのはアドウェール・アキノエ=アグバエ)、超一流のハッカーでもある元モロッコ王国軍兵士のブレイカー(本名は:エイベル・シャズ、演じるのはサイード・タグマウイ)の4名の加勢により、からくもナノマイト強奪は防がれたのであった。

スネークアイズ。驚異的な体術を有する忍者アラシカゲ一族のひとり。アニメ同様一切しゃべらないスカーレット。G.I.ジョーのチーム・アルファの紅一点。頭脳も明晰で、射撃の腕も超一流あらゆる火器を使いこなすヘビー・デューティ。チーム・アルファの現在の隊長的なポジション
ブレイカー。ハッキング能力に秀でた元モロッコ王国軍兵士G.I.ジョーのチーム・アルファが救援に駆けつけ、なんとかナノマイト奪取は防がれる

 しかし、ハウザーたちは得体の知れない助っ人たちを信じられない。そこへ、元NATOの将軍で現在はG.I.ジョーの指揮官であるホーク(本名クレイトン・アバナシー、演じるのはデニス・クエイド)が立体映像で姿を現すと、さすがに信じざるを得ず、エジプトにあるG.I.ジョーの秘密基地のひとつで、本拠地である「ピット」にナノマイトを運ぶことにする。しかし、マッカランの策略で、ナノマイトを収納したケースの発信装置を作動させられ、G.I.ジョーの本拠地がテロリストたちに知られてしまう。ストームシャドーやバロネスらが襲撃し、基地は人的にも施設的にも大きな被害を受け、なおかつナノマイトも強奪されてしまうのだった。

G.I.ジョーの司令官のホーク将軍。元NATOの指揮官ホーク将軍の秘書のコートニー・“カバーガール”・クリーガー。モデルからG.I.ジョーの一員になったホーク将軍とコートニー
エジプトにあるG.I.ジョーの本拠地ピットにナノマイトは持ち込まれることにピットを襲撃するストームシャドーとバロネススネークアイズとストームシャドーの因縁の対決がピットで繰り広げられる

 遂にナノマイトを手に入れたマッカランは、世界を大混乱に陥れるための策略を進めていく。ナノマイトをミサイル弾頭化し、3発を製造。まずはテストとして、1発目のターゲットにパリのエッフェル塔を選ぶ。その命を受け、ストームシャドーとバロネスたちが、MARS産業製の全地形対応戦闘車両「スカラベ」に乗ってエッフェル塔を目指す。一方、それをキャッチしたG.I.ジョーも暴挙を阻止すべく、チーム・アルファを出動させる。その中には、厳しい訓練を経て入隊した、ハウザーとウィームズの姿もあった。ふたりは、デュークとリップコードというコードネームを得て、チーム・アルファの新たなメンバーとしてテロリストたちに立ち向かう。

NATO軍特殊部隊隊長のコンラッド・R・ハウザー大尉からG.I.ジョーのデュークへNATO軍特殊部隊副隊長のウォラス・ウィームズ中尉もリップコードとしてG.I.ジョーのチーム・アルファに
デュークをのぞいたチーム・アルファの面々デュークとリップコードはG.I.ジョーの特殊兵器のひとつであるハイパー・スーツを着用して追跡開始

 テレビアニメ版では、G.I.ジョーの現場指揮官(チームリーダー)をデュークが務めているのだが、頼れるチームリーダーがこうして誕生したというわけだ。エピソード0として、コブラの結成と合わせて、G.I.ジョーの最強の布陣が整うところも描かれることになる。このパリでの戦いの後は、さらに緊張感が増していく。MARS産業の本拠地を突き止めるが、残り2発のナノマイトミサイルは巡航ミサイルとして発射されてしまう。破壊することはできるのか? また、デュークとバロネスの関係や、スネークアイズとシャドーストームの因縁の対決など、人間関係も要注目だ。そして、コブラはどのように結成されるのか? 誰がコブラコマンダーで、誰がデストロなのか? あとは、ぜひ劇場で自分の目で確かめてみよう。

【動画】予告編【動画】テレビ15秒CM「ストーリー編」【動画】テレビ15秒CM「エキサイトメント編」

パリで大活躍するアクセラレーター付きハイパー・スーツ

 パリのエッフェル塔をターゲットに、ナノマイトの破壊力の実験を行なうことにしたマッカラン。ストームシャドーとバロネスらに渡された弾頭は、歩兵用のミサイルランチャーと同等の発射装備(対戦車ロケットランチャーRPG-7のようなイメージ)だったため、かなり接近する必要があるという状況だった。そのため、テロリストたちは「スカラベ」というMARS産業製の戦闘車両でパリ市内を発射地点まで目指す。G.I.ジョーもそれを阻止すべく動きだし、スカラベを追うための装備としてデュークとリップコードが装着したのが、アクセラレーター(機能)付きハイパー・スーツというわけだ。パリ市内を大混乱に陥れながら、スカラベを追う2体のハイパー・スーツという、ほかのアクション映画とはひと味異なるカーチェイスシーンが展開する。なおハイパー・スーツは、本国版では「アクセラレーター・スーツ」という表現がされているが、ここでは試写会の日本語字幕表記に従うことにする。おそらく、加速という意味のアクセラレーターがちょっとわかりにくい英単語のため、日本人によりわかりやすいハイパー・スーツとしたのだろう。いよいよ本記事のキモということで、ここからは記者お得意の妄想を交えつつ(笑)、解説をしていく。

MARS産業製の戦闘車両スカラベ。パリ市内で大暴れする(以下、ムービーから許可を得て撮影)スカラベの上部。上に乗っているのは追跡を試みるスネークアイズスカラベの前部には障害物(劇中ではほとんどクルマ)を上方に吹っ飛ばせる特殊装置が
ハイパー・スーツを着用して、スカラベを追跡するデュークとリップコードハイパー・スーツでスカラベを追うデュークとリップコード。突如目の前を突っ切る列車に……列車の窓をぶち破って車内を通過していくハイパー・スーツ

 ハイパー・スーツの動力機構だが、劇中の会話からすると、空圧と水圧を利用しているという。空圧や水圧はコンプレッサーが必要なはずなので、外見からすると小型化かつ高性能化をした機器を搭載しているのだろう。ちなみに、現在のロボットでは、株式会社ココロのヒューマノド型「アクトロイド」などに空圧式が採用されており、非常に滑らかな動きを見せている。また、メカニカル方式に比べると誤動作をした時などに身体にかける負荷が少ないため、装着者には優しいシステムというメリットもあるという。しかし、現状ではコンプレッサーがそれなりのサイズと重量を有するため、ハイパー・スーツのようなパワードスーツに搭載するとなると、スペースや重量増の問題を解決する必要がある。性能的には、走行速度がおおよそ時速50~65km/h、ジャンプも数mはできるようだ。それから、前腕部に武器が備えられている。ちなみに、装甲材質に関しては説明がなかったはずで、チタン系の素材なのか、もっと別の物を使っているのかは不明。ただし、パルスガンの直撃を受けても装甲にダメージを負っただけで機能的には故障せず、また装着者も負傷していないことから、それなりの防御力はあるようだ。それから、バッテリも詳細は不明だった。

ハイパー・スーツの着用シーン。足パーツを装着したところスネパーツを装着するところ。前後から閉じる形左腕のパーツを着用したところ。右手で確認中
右腕のガトリングガンの動作チェックをしているところシステムチェックを続けるデュークパルスガンで撃たれたところ。このあともしっかり動作していた

 操作システムは、ブレイン・マシン・インターフェイスを搭載しており、自分の身体を操るように使いこなせる仕組みの模様。最近は、理研BSI-トヨタ連携センターで開発された思考(正確には脳波)でコントロールできる車イスなどがあることから、これは10年後、しかも軍事利用ということで開発されているのなら実際に搭載されていそうな雰囲気である。ただし、ヘルメットにインターフェイスが装着されているのかと思いきや、バイザーへのヘッドアップディスプレイ(HUD)機能が主なようで、ヘルメットなしでもブレイン・マシン・インターフェイスは作動する模様だ。なお、HUD機能で表示される多数のウィンドウには、スーツステータス(左上)、鳥瞰図+方位計(左下)、速度計(中央下)、武器システム(右上)、ターゲットデータ(右下)などがある。また、スーツステータスのウィンドウによれば、パワー(充電率)、関節のストレスレベル、ショックアブソーバーの機能するレベルなどが表示されている。そのほか、ターゲットまでの距離情報、ターゲットスコープなども表示。モードはトレーニングとコンバットの2種類があり、デュークとリップコードが装着した最新のハイパー・スーツはバージョン1.3.2ということらしい。

バイザーには複数の情報ウィンドウが表示されるヘルメットなしでデュークが走ってジャンプしたところ

 そうした中で、機能的にも最も実現がかなり難しそうなのが、アクセラレーター機能だろう。動作が常人の倍になるとかそういう程度ではなくて、常人よりひと桁上の速度で動けるような文字通りの加速装置だ。例えになるかわからないが、石ノ森章太郎原作のマンガ・アニメ「サイボーグ009」の009の加速装置や、「仮面ライダーカブト」(こちらも原作は石ノ森章太郎)のクロックアップシステムのようなイメージといえば、作品をご存知の方ならわかることだろう。

 動体視力、認識、判断、反射神経といった戦闘で駆使するあらゆる能力の反応速度がアップしており、仕組みは不明だが、要するに脳の中の反応そのものが速くなっているというわけだ。その反射速度がどれぐらいかというのは、収録したムービーを見てもらえばわかる。100m位の距離はあるかと思うが、スカラベが発射したミサイルをデュークたちがかわしてしまうほどなのだ。スカラベ搭載のミサイルの飛行速度は不明だが、戦闘機などに積まれている空対空ミサイルなどは、戦闘機の最高速を超えるマッハ2以上を軽く出すのだから、スカラベのミサイルもマッハの域にあるのではないかと思われる。それをよけてしまうのだから、どれだけの速度で反応しているかわかるというもの。ハイパー・スーツが自動的に動いている可能性も考えられるのだが、デュークたちは自ら動いて回避しているようだったので、フルオートでの回避というわけではないようだ。もっとも、そんな超高速で動いて、いくら極限まで鍛えてある戦士たちだからといって、どこも身体を痛めないのは、空圧・水圧式だからだろうか? 鍛えてない人間が装着したら、急激な加減速による人体の損傷などで、すぐに行動不能になりそうである。

スカラベから発射されるミサイル。ミサイルは後部座席のシート下に格納されている感じだ白煙を引いて高速で飛んでくるミサイルをヒラリヒラリとかわすデュークとリップコード目標をロストしたミサイルが至近で爆発し、チェイスが行なわれた道路は大変なことに

 また、空圧・水圧併用方式でアクセラレーター機能を実現することそのものに疑問を持たれるかもしれない。しかし、油圧の話ではあるが、かつて高速なレスポンスを必要とするF1の世界で成功を収めたシステムもある。1990年代の話なのだが、ウィリアムズ(現在、唯一の日本人ドライバー中嶋一貴が所属しているチーム)がリアクティブ・サスペンションという、油圧を用いて能動的に車体の姿勢制御を行なうサスペンションシステムを実用化。このシステムは圧倒的な戦力をマシンに与え、「F1界の暴れん坊将軍」といわれた当時の人気ドライバーのナイジェル・マンセルに世界王座を取らせるのに大きく貢献した。後年、ルールで搭載禁止措置となったことからも、その性能の高さがうかがえるというものだ。よって、空圧や水圧など、一見するとレスポンスが悪そうな仕組みだが、決してそうでもないので、必ずしも否定できないといえよう。

 とはいっても、10年後でもさすがに実現が難しそうな高性能ぶりだが、ハイパー・スーツのコンセプトに関わったスタッフであるデヴィッド・ウォマーク氏によれば、米国防省の代表が数名ほど製作現場を訪れ、ハイパー・スーツのコンセプトをいくつか検討したと答える。「明らかに彼らは非常によく似たスーツの開発に取り組んでいます。それを着用すると兵士が速く走れるとか、身体を防御するものです。我々(のコンセプト)は、彼らよりもたぶん6、7年先はいっているでしょう」とコメントしている。

 なお、ハイパー・スーツのアイディアはソマーズ監督自らによるという。デザインは女性デザイナーのエレン・ミロジェニックがまずコンセプト・ドロイーイングを担当し、彼女が率いるチームのメンバーが起用された初日に素晴らしいデザインを描き上げたそうだが、実際に製作するのは無理と判明。そこで、「ターミネーター」シリーズや「アイアンマン」のデザインで知られるスタン・ウィンストン・スタジオ(現レガシー・エフェクツ)所属のシェーン・メイハンが起用されている。ちなみに、同じパワードスーツ系のアイアンマンとハイパー・スーツのプロップ(映画撮影用小物)としての差異は、アイアンマンがあまり実際に着用してのアクションを想定していないことに対し、ハイパー・スーツは実際に役者が着込んでアクションできるようにしてある点。そのためモジュール式のデザインになっており、歩く、走る、座る、そのほかアクションもこなせるものだそうである。でも、装着したテイタムやウィームズによれば、「見かけはクールだが、着心地は地獄のスーツ」だそうで、撮影はかなり大変だった模様だ。

 以上、映画G.I.ジョーとその中で活躍するハイパー・スーツの紹介、いかがだっただろうか。個人的にはハイパー・スーツだけでなく、敵味方のキャラクターが立っていることが非常によかった。イ・ビョンホン演じるストームシャドーの冷酷な暗殺者ぶりがなかなかかっこよかったし、そのライバルのスネークアイズのアクションもよかった。しかし、なんといってもよかったのは、クールビューティーのバロネスがよかった。記者は、改めて長いストレートの黒髪(+身体のラインがバッチリのボンテージファッション)の理知的なお姉さんに弱いことがわかった次第である(笑)。重苦しい命題は採り入れられておらず、単純にアクションとして楽しむことができるので、親子で楽しむのもありだろう。ぜひ、頭を空っぽにしてアクションを楽しんでいただきたい。

(C) 2009 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.


(デイビー日高)

2009/8/17 18:41