NEDO、生活支援ロボット実用化プロジェクトを開始

~安全技術を導入し海外市場への国産ロボット展開を目指す


 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)は、8月3日、少子高齢化による労働力不足への対応策の一つとして本格的普及が期待される「生活支援ロボット」を対象として、「対人安全性基準」と「基準適合性評価手法」を確立することと、安全性基準を国際標準とするべく提案することで国産ロボットを海外市場へと展開・普及していくことを目指すと発表した。

 分離合体するベッドを使って車椅子から移乗しやすいシステムや、安全技術を導入した警備ロボット、高齢者・下肢に不自由がある人のサポートをする着用型ロボット、搭乗型ロボットなどのロボットを開発し、リスク基準やアセスメント手法の開発、リスク低減手法の開発を行なう安全性検証手法の研究開発を横串として、4種類のロボット開発と互いにフィードバックしながら研究を進めていく。

 研究開発するロボットは、パナソニック株式会社と国立障害者リハビリテーションセンターが中心となって開発する操縦中心の移動作業型、富士重工業株式会社、綜合警備保障株式会社、北陽電機株式会社、三菱電機特機システム株式会社による自律中心の移動作業型、CYBERDYNE株式会社と筑波大学による人間装着型、トヨタ自動車株式会社と株式会社フォー・リンク・システムズ、国立長寿医療センターによる搭乗型の4種類。いずれも安全性検証手法を開発し、安全技術を導入する。

 プロジェクトリーダーは独立行政法人産業技術総合研究所の比留川博久氏。安全性検証手法は、財団法人日本自動車研究所、独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人労働安全衛生総合研究所、名古屋大学、財団法人日本品質保証機構、社団法人日本ロボット工業会、財団法人製造科学技術センター、日本認証株式会社。2013年度までの5カ年プロジェクトで、平成2009年度の予算は16億円。

NEDO技術開発機構 機械システム技術開発部長 岡野克弥氏経済産業省 製造産業局 産業機械課 課長 米村猛氏

 会見ではまずNEDO技術開発機構 機械システム技術開発部長の岡野克弥氏が概要やプロジェクト実施体制を説明したあと、3人が登壇してプロジェクトの意義を述べた。経済産業省製造産業局産業機械課の米村猛課長は、国としては2つの意味があると述べた。介護そのほかの課題において社会の選択肢を広げて生活を豊かにするという面と、産業育成だ。そのなかで大きな課題が安全面だという指摘が専門家たちの議論のなかであり、安全基準を作ることで企業の製品づくりを支援しようということになったのだという。

 生活支援ロボットは2026年には6.2兆円を超える市場を築く可能性があるとされている。だが「社会に出ようと列をなしているロボットの前に立ちはだかっているのが安全の壁」だという。ロボットを社会に出していく制度構築に関しては212社からなる「ロボットビジネス推進協議会」のなかでも議論されている。米村氏は最後に「ロボットは世の中を大きく進歩させる試み。迅速にスピード感を持って取り組んでもらいたい」と述べた。

プロジェクト背景と目的スケジュール実施体制
安全性検証体制と、それを活かしたロボット開発の両方を行なう安全性検証手法を確立して国際標準とすることを目指す
独立行政法人 産業技術総合研究所 機械システム技術開発部 知能システム部門 部門長 比留川博久氏

 プロジェクトリーダーをつとめる独立行政法人産業技術総合研究所 機械システム技術開発部 知能システム部門 部門長の比留川博久氏は、「ロボット安全拠点」をつくばに集中して整備し、プロジェクトを推進していきたいと述べた。民間企業内部ではなく国のプロジェクトとしてこれを行なうことの理由は、国際規格にするためであり、そのためには第三者が中立な立場で試験しないといけないからだとし、試験方法を確立することがこのプロジェクトの重要なミッションだという。今後、プロジェクトのなかで認証の手続きを確立し、試験データをためて、ドラフト作成に合わせてISOに提案していくという。

 比留川氏は「産業用ロボット元年」と言われた1980年当時の市場規模(760億円程度)を振り返り、生活支援ロボットに関しても、各企業あたりの売り上げ100億円超、市場全体で1,000億円程度のクリティカルマスを超えることが重要だと強調した。これまでロボットを売ることができない企業には2種類あったという。資金・技術が足りない企業群と、安全技術に問題があって売れないという企業群だ。今回のプロジェクトは後者の企業群、すなわち技術はあるが安全関連の基準がないため市場進出に及び腰にならざるを得ない企業に対して、世界でこれが標準という安全基準を確立して、市場に対してロボットを売っていくためのものだと述べた。最後に比留川氏は「個人的希望」として、「2015年を生活支援ロボット元年といわれるように事業を立ち上げてほしい」とコメントした。

CYBERDYNE株式会社 代表取締役CEOの山海嘉之氏らとWingletに乗ったトヨタ自動車理事の高木宗谷氏

 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授でCYBERDYNE株式会社 代表取締役CEOの山海嘉之氏は、筑波からCYBERDYNE社の「ロボットスーツHAL」を着けてやってきたという3人を連れて、この分野で共通基盤になるものが重要、実用化技術、商品として出すためには安全技術が重要だと述べた。1つのレギュレーションを作って社会に対して出すことはこれから必要だという。HALに関しては今後、家庭のなかでも使えるような手指リハビリ用など小型のものも開発していくという。

 なお各ロボットの安全基準に関しては、具体的には機械安全、電気安全、機能安全などからなる16の試験項目を想定。それぞれに対して静的安全試験と動的安全試験を行なっていく。たとえばロボットにダミーをぶつけ、転倒したときにどうなるのかの試験やダミーそのものの開発、繰り返しロボットに力や衝撃をを加えるとどうなるかといった試験、温度や湿度など環境を変えてみたときの試験、振動試験などを行なっていくという。

 会見ではCYBERDYNEの「ロボットスーツHAL」ほか、富士重工業の業務用掃除ロボット、トヨタ自動車の「Winglet」のデモが行なわれた。

【動画】富士重工業の掃除ロボットのデモ【動画】トヨタ「Winglet」のデモ【動画】Wingletは体重移動だけで操作できる
【動画】前後方向の移動や乗り降りも簡単【動画】つくばからCYBERDYNEの「HAL」を着用して来たという3人が登場。【動画】3人で並ぶ。腰のボタンでサポートのモードを切り替えられるそうだ
このほか移乗・移動支援ロボットの開発なども行う


(森山和道)

2009/8/4 14:53