二足歩行ロボットサッカーイベント「ダイキカップ」レポート


 2009年7月11日、愛知県安城市のダイキエンジニアリング東海支社特設会場にて、二足歩行ロボットによるサッカー大会「ダイキカップ」が開催された。関西・関東からの遠征チームも含めた10チームが、記念すべき第1回大会の優勝を争った。

きっかけは「とよたこうせんCUP」

 この大会が開催されたきっかけは、3月に愛知県豊田市で行なわれた「とよたこうせんCUP」に関係者が見学に来ていたことだという。その懇親会で半ば冗談のように「やります」と言ったことから企画がスタートしたそうだ。会場となったダイキエンジニアリング社は、社内に“部活動”のようにして存在するロボット愛好会が中心となって他の社員を巻き込み、社屋まで使用して開催してしまったというわけである。

 そんな経緯で生まれたイベントだけに、当然運営はすべてアマチュア。しかし、楽しいイベントにしようという思いは強く、ルールはいくつか細かい違いはあるものの、試合球は硬式テニスボール、コートサイズも4m×3mと「とよたこうせんCUP」で使用された「RoboCup SSL humanoid」のルールをたたき台にして、無線操縦のサッカー向けにアレンジしたものを新たに作成。市販キットをベースとした機体に楽しんでもらうために、機体の大きさも制限した。当日機器トラブルで見られなかったのは残念だったが、得点表示用の電光掲示板も用意していたというから、その本気が伺えるだろう。

 「何チームくらい参加してくれるか」と、開催前は不安だったというが、フタをあけてみれば10チームの枠は募集開始からあっという間に埋まり、個人参加者は既存のチームのサブメンバーに入ってもらうようにお願いするほどだったという。地元・愛知県だけではなく、大阪から大挙3チームが遠征。また、東京から「RFCバンブーブリッジ」が、静岡から「G-TRES」が参加した。

会場はダイキエンジニアリング東海支社の2Fと3Fを利用会場入り口にはウェルカムボード(?)が掲示されていた
フィールドも普通のカーペット床にテープでラインを引いた、手作りのもの作業スペースはちょっと狭めだったが、会場の許容量いっぱいまで参加チームを拡大した証か

予選は5チームのリーグ戦×2

 予選は参加チームを5チームずつに分けた、2リーグでの総当たり戦。前後半はなく、5分一本だけの勝負となる。勝ち点で順位を決定(同点の場合は得失点差)し、上位2チームが優勝を決める決勝トーナメントに進出。その他のチームは“予選落ちチームのトップ”を決める予選落ちトーナメントに挑む……という、予選落ちの参加者が観客に回る暇がない、盛りだくさんのイベントとなった。

 Aリーグに振り分けられたのは、大阪遠征チームのエース級を集めたという「全員前衛(オールフォアーズ)」、同じく大阪の「たかぽん♪」、地元愛知の「大同大学ロボット研究部」、主催者チーム「Team DIK-e」そして筆者も参加している東京からの遠征チーム「RFCバンブーブリッジ」。

 オープニングゲームは「全員前衛(オールフォアーズ)」対「Team DIK-e」。名前の通りキーパーまでが前線に上がっていく「全員前衛(オールフォアーズ)」のプレイスタイルと、とにかく賑やかな台詞に「Team DIK-e」は圧倒されてしまったか、「全員前衛(オールフォアーズ)」が2点を決めて大会第1号勝利を記録した。

 この「全員前衛(オールフォアーズ)」と、ロボットサッカーの古参チームである「RFCバンブーブリッジ」がAリーグの中心となって進み、「全員前衛(オールフォアーズ)」は「Team DIK-e」戦と「大同大学ロボット研究部」戦で2ゴールずつ決め、リーグトップの攻撃力を見せつけたものの、「たかぽん♪」戦と「RFCバンブーブリッジ」戦で引き分けてしまい、勝ち点8の予選2位に。1位はその「全員前衛(オールフォアーズ)」とスコアレスドロー、他のチームにはすべて1-0で勝利し、3勝1分け・勝ち点10を獲得した「RFCバンブーブリッジ」が入った。

 とはいえ、「RFCバンブーブリッジ」は盤石だったわけではなく、攻め続ける中で1機が故障し、数的不利の中でPKをもらって助かった「大同大学ロボット研究部」戦に象徴されるような、薄氷の勝利を重ねたものだった。紙一重のところで勝利をものにできたのは、ロボットサッカーの経験値が高かったからかもしれない。

【動画】「全員前衛(オールフォアーズ)」対「Team DIK-e」【動画】「たかぽん♪」対「RFCバンブーブリッジ」。
【動画】「大同大学ロボット研究部」対「RFCバンブーブリッジ」超がつくほど賑やかだった「全員前衛(オールフォアーズ)」の「ぷらくちす♪」は、じつは頭がスピーカー。

 BリーグはロボカップのSSL humanoidiに参加している、中部大学の「Owaribito-CU」、とよたこうせんCUPにも参加していた地元「愛知バトル軍団」と「RFC愛知」、静岡からの遠征組である「G-TRES」、そして大阪遠征組のイロモノが集まったという「チーム ヤミ鍋」。

 こちらのリーグは、緒戦の「愛知バトル軍団」戦で3-0と圧勝した「RFC愛知」が、そのままの勢いで「G-TRES」を1-0、「Owaribito-CU」を2-0と撃破し、早々に勝ち点9を積み上げて決勝トーナメント行きを決める。だが、1位通過が決まった後のリーグ最終戦では、油断があったかリーグ2位の「チーム ヤミ鍋」に0-1と敗戦。予選パーフェクトは逃した。「RFC愛知」はオリジナルメンバーもさることながら、個人参加で東京から遠征していたイガア氏の「サアガ」が大活躍。自分でゴールするだけではなく、コーナーキックから見事なアシストを決めるなど、チームの屋台骨と言っていい活躍を見せた。

【動画】「愛知バトル軍団」対「RFC愛知」【動画】「愛知バトル軍団」対「Owaribito-CU」
【動画】「RFC愛知」対「G-TRES」「Owaribito-CU」の機体は、クラフトハウス製のキット“メリッサ”を参考に超短足化したもの。

優勝は地元・RFC愛知!

 決勝トーナメントは準決勝第1試合でAリーグ予選1位の「RFCバンブーブリッジ」とBリーグ予選2位の「チーム ヤミ鍋」が対戦。もう一方ではBリーグ予選1位の「RFC愛知」とBリーグ予選2位「全員前衛(オールフォアーズ)」がぶつかった。ここから決勝トーナメントは5分ずつの前後半、合計10分の試合となる。

 「RFCバンブーブリッジ」対「チーム ヤミ鍋」は、ペナルティエリア寸前まで攻め込まれた「RFCバンブーブリッジ」が逆サイドから大きく蹴り返し、相手側のゴールキックに。「チーム ヤミ鍋」の「野分」が蹴り出したゴールキックが、運悪く待ち受けていた「RFCバンブーブリッジ」の「宗0郎」の足下に収まってしまい、カウンターでシュート。そのままゴールして先制点は「RFCバンブーブリッジ」に。後半に入って追加点が欲しい「RFCバンブーブリッジ」は、相手コーナーからのコーナーキックをミスして自陣に放り込んでしまうが、宗0郎がゴール前から一気に戻り、ゴール前に運び直す。このボール運びが絶妙な軌道を描き、なんとそのままゴール。2-0とし、そのまま逃げ切った「RFCバンブーブリッジ」が決勝に進んだ。「チーム ヤミ鍋」も押し込もうと踏ん張っていたが、結局ゴールを割るまでには至らず、3位決定戦に回った。

 「RFC愛知」対「全員前衛(オールフォアーズ)」は、「RFC愛知」サアガの猛攻を「全員前衛(オールフォアーズ)」のGK「ぷらくちす♪」がしのぐと、「YOGOROZA」が自らのロングシュートのこぼれ球を詰めて、胸で押し込み、先制する。そして前半も残り1分と言うところで、「YOGOROZA-F」のキックインをハーフウェイラインの奥で受けたYOGOROZAが「RFC愛知」ゴールにロングシュート。糸を引くようなシュートが決まり、2-0と「全員前衛(オールフォアーズ)」がリードして前半を折り返す。

 だが、ドラマは後半にあった。後ほど「前半2点取られて、ちょっとキレちゃいました(笑顔)」とコメントしてくれたイガア氏のサアガが、後半1分過ぎにボール1個分しかないような隙間を縫ってミドルシュートを決めて、1点を返す。また、そのサアガに気圧されたか、ここまで好セーブを連発していたぷらくちす♪が残り2分を切ったところで痛恨の反則(ダブルタッチ。一度触ったゴールキッカーが他のプレイヤーに触れないうちにもう一度ボールに触れること)でPKを献上してしまう。

 このPKは止めたものの、こぼれたボールを押し込まれてしまい、2-2の試合は同点に。そのまま両者譲らず、今大会初のサドンデスによる延長戦に持ち込まれた。その延長戦では、サアガがキックオフからものの20秒ほどでゴールを割り、決勝の切符は逆転勝ちを収めた「RFC愛知」が獲得することになった。

 3位決定戦では「全員前衛(オールフォアーズ)」が逆転負けの鬱憤を晴らすような4-0の圧勝。もともと同じ大阪勢ということで気心が知れているせいか、容赦がなかったように見えたのは……気のせいだろうか。

 予選落ちトーナメントのほうでは、Bリーグ2位の「G-TRES」と、同じくBリーグ3位の「Owaribito-CU」が勝ち上がり、決勝がリーグ戦の再戦という形に。小型のHPI製市販ロボット「G-ROBOTS」3機で構成される「G-TRES」に対し、同じくらいの身長ながら、「Owaribito-CU」は自作機。予選ではスコアレスドローだった対戦は、開始直後に奪った1点を守りきった「G-TRES」の勝利となった。

【動画】準決勝第1試合、「RFCバンブーブリッジ」対「チーム ヤミ鍋」【動画】準決勝第2試合、「RFC愛知」対「全員前衛(オールフォアーズ)」【動画】3位決定戦「チーム ヤミ鍋」対「全員前衛(オールフォアーズ)」
【動画】予選落ち決勝戦「G-tres」「owaribito」予選落ちトーナメント1位「G-TRES」。キャプテンのかつ氏(中央)は今大会のルール作成にも携わった人物。

 決勝戦は、「RFC愛知」サアガのキックオフがゴールラインを割り、ゴールキックに変わったものを「RFCバンブーブリッジ」のあずさ2号F型が妙な蹴り方をしてしまい、宗0郎の肘に当たってそのままゴールに。決勝だというのに、何とも締まらない形で先制点を献上してしまう。そのビハインドを取り返そうと「RFCバンブーブリッジ」が前がかりに攻める中、サアガが前半終了間際にディフェンスラインを突破して2点目を奪い、2-0で前半を終える。

 後半は「RFCバンブーブリッジ」のキックオフとなるが、その時点でGKまで前線に出る捨て身の陣形でスタート。「RFCバンブーブリッジ」は点を取らなければ勝利はないわけで、残り1分近くまで「RFC愛知」ゴールを脅かすものの、転倒が増えてきた隙を突かれ、ゴール前に抜けたボールを、今度はコーネリアスに決められて、決定的となる3点目を入れられてしまう。

 結局そのまま試合終了のホイッスルとなり、初代ダイキカップ王者は「RFC愛知」となった。

 「RFC愛知」のメンバーは「イガアさんのおかげです」と助っ人の活躍をたたえていたが、そのサアガの突撃をバックアップするコーネリアスの位置取りなど、チームとしてのまとまりが支えたことは間違いない。

【動画】決勝戦(フルタイムなので長いです)「RFCバンブーブリッジ」対「RFC愛知」手作りのくす玉で優勝をお祝いする表彰式。「RFC愛知」キャプテンのまつしろ氏(中央)も嬉しそう。参加者が家族ぐるみで参加していて、非常にアットホームな雰囲気だった観客席。
参加者全員集合。

ロボットサッカー第三極・東海地区?

 定期的に開催されている無線操縦のロボットサッカー競技会というと、元祖・福岡の「ヒューマノイドカップ」や東京で開催されている「KONDO CUP」が二大大会と言える。関西や中部地区は格闘イベントが盛んなこともあるせいか、これまでサッカー競技会はあまり盛んではなかったようだ。

 だが、3月にとよたこうせんCUP、7月にこのダイキカップと、立て続けに2大会が開催され、どちらも多くのチームを集めたということから考えると、決してサッカー競技そのものが受け入れられない土地というわけではないだろう。特に今回は地理的にも近い関西地区からの参加も多く、この地域で行なわれるサッカーイベントの可能性を見たような気がする。

 考えてみると、愛知県のお隣・静岡県は日本の中で「本物のサッカー」がお家芸の土地だ。今回は会社の建物内ということで一般の観客が多く見るというわけにはいかなかったのは残念だが、よりオープンな場所でイベントとして公開できれば、より多くの人がホビーロボットに興味を持ってくれるきっかけになるのではないだろうか。

 運営費が足りない(今回、参加費は無料だった)ため、社員が持ち寄った商品で構成されたビンゴ、手作りのくす玉など、これぞアットホーム、といったイベントだった、第1回ダイキカップ。“第1回”と冠しているいることからもわかるとおり、今回だけで終わるつもりはないそうなので、ぜひ次回も期待したい。



(梓みきお)

2009/7/30 19:40