「ロボカップジャパンオープン2009大阪」レポート【2】

~国際協調力がある未来の技術者を育てる、ロボカップジュニア編


会場の京セラドーム大阪

 5月8日(金)~10日(日)の3日間にわたり、京セラドーム大阪で「ロボカップジャパンオープン2009大阪」が開催された。主催はロボカップジャパンオープン2009大阪開催委員会、共催は社団法人日本ロボット学会、社団法人人工知能学会、社団法人計測自動制御学会システムインテグレーション部門。

次世代の技術者育成が目的「ロボカップジュニア」

 ロボカップは「2050年までに、人間のサッカー世界チャンピオンチームに勝つロボットチームを作る」という遠大な目標を掲げている。そのためには、次世代のロボカップの担い手を育成する必要がある。そこで小学生~高校生を対象に、子ども達の好奇心や探求心を育み、将来を担う技術者となるための学習の場と位置づけたロボカップジュニアを実施している。年々、競技人口が増え、今年は30都道府県で予選を実施し、参加人数は3,000人を超えた。

 ロボカップジュニアは、ロボットの性能を競うだけではなく、競技会場で国際協調を含むコミュニケーションを体験する総合学習が目的に掲げられている。そのため、他チームと協力して競技を行なう「マルチチーム方式」や、会場に張り出されたペーパープレゼンも行なわれる。

 今大会には、中国とスペインからの参加者と国内の各ノード大会(地区予選)を勝ち抜いた計162チームが出場した。大会で優秀な成績を残した日本チームは、6月29日からオーストリアで開催されるロボカップ2009グラーツ世界大会のジュニア部門への出場権を得る。

 今年の世界大会ジュニア部門参加予定国数は、昨年より4カ国多い26カ国で過去最大となった。それに伴い、各国からの参加可能チーム数は厳しくならざるを得ない。日本の世界大会出場権は、各チャレンジ合計で去年より8チーム減り14チーム。数少ない代表権を目指して、参加者達が技術力を競いあった。

 ジュニアの競技は3種目ある。参加者が一番多い“サッカーチャレンジ”、4つの部屋で被災者を発見する“レスキューチャレンジ”、創造性とプレゼンテーションが評価される“ダンスチャレンジ”だ。いずれのロボットもセンサー等で自律動作する。整備ブースには、保護者は一切立ち入りできず、競技中のトラブルには参加者自身が対処しなくてはならない。参加申込時の年齢によってプライマリ(小学生~中学2年)、セカンダリ(中学3年~高校生)の部門に別れる。

「サッカーチャレンジ」にスペインチームが初出場。3年かけてロボットを製作したという2009年国際ルールに採用された新フィールド。ジャパンオープンではバージョンBとして併催された「レスキューチャレンジ」のフィールド。4つの部屋をスタートからゴールまで、ミッションをクリアしながら進む
「ダンスチャレンジ」は、ロボットと人の協調パフォーマンスを競う車検を受ける参加者達ジュニアチャレンジの開会式
メンテナンスブースには、保護者は立ち入りできず、マシントラブルは全て参加者が対処するセンサーの使い方やプログラミングについて、活発な技術交流が行なわれていたペーパープレゼンテーションでも技術を公開

新たなレギュレーションが始まった「サッカーチャレンジ」

 サッカーチャレンジは、赤外線を発光するボールを追いかけて、ロボットが2対2でサッカーゲームを行なう。

 従来のフィールドは白~黒のグラデーションで、ロボットは地磁気センサーやカラーセンサーなどを使い、ゴールの方向を認識してゲームを行なった。国際ルールで採用となった新フィールドは、社会人が参加するサッカーリーグ同様のグリーンカーペットで、周囲の壁もなくなった。ゴールは青と黄色に色分けされている。

 ジャパンオープンでは、従来フィールドをバージョンA、新フィールドをバージョンBとして併設し競技を行なった。バージョンA出場者は、各ノード大会の上位入賞者だが、バージョンBの出場者は公募で選出し、セカンダリ・プライマリの区別はつけていない。過去2年のジャパンオープンで上位4位に入賞経験があるメンバーがいる場合、原則としてバージョンBに出場となる。

 バージョンAはプライマリ部門に52チーム、セカンダリ部門に23チームが出場。9日に予選リーグを行ない、10日に決勝トーナメントを行なった。両部門、1位2位が世界大会への出場権を得た。

 プライマリ部門の決勝戦は、M ROBOTS(四国ブロック) VS くるくるミラクル(静岡ブロック)。両チームともロボカップ出場は今年が2年目、兄弟(妹)でチームを組んでいる。くるくるミラクルはオムニホイールや方位センサーの採用で、去年より攻撃力・守備力をアップして試合に挑んだが、結果は8-0で完敗。しかしジャパンオープンの目標にしていた「日本中に友達を増やす。負けても“ありがとう”と握手する!」を果たしていた。

 優勝した「M ROBOTS」は、小5と小1の兄妹で参加。4輪オムニホイールで素早く動き、ボールを見失ったときには待機場所に戻るように工夫したという。

【動画】プライマリ決勝戦。くるくるミラクル(静岡ブロック) VS M ROBOTS(四国ブロック)くるくるミラクル(静岡ブロック)とM ROBOTS(四国ブロック)【動画】プライマリ3位決定戦。teamtakahama3rd(東海ブロック) VS フェニックス(九州ブロック)

 セカンダリ部門の決勝は、マイスター(九州ブロック) VS ラジオペンチ(北信越ブロック)。ラジオペンチのオウンゴールもあり、11-3の大差でマイスターが優勝した。ゴールキーパーとフォワードの役割を分担し、失点率を下げた作戦が功をなしたという。先輩からのアドバイスで、センサーの誤動作を防ぐためIRに遮光シートを張り外光の影響を抑えボールだけに反応するよう工夫した。

 両部門とも優勝チームは、電磁力を利用したソレノイド機構を搭載し、キック力をアップしていた。他にも採用しているチームが多く、今後、ジュニアでも注目の技術となりそうだ。

【動画】セカンダリ決勝戦。ラジオペンチ(北信越ブロック) VS マイスター(九州ブロック)ラジオペンチ(北信越ブロック)とマイスター(九州ブロック)【動画】セカンダリ3位決定戦。宗高アマテラス(九州ブロック) VS 御眼鏡(北信越ブロック)

 バージョンBには13チームが出場し、リーグ戦の成績で世界大会出場チームを決定した。カラーセンサーや画像処理でゴールを認識しているチームは少なかったが、地磁気センサーで自陣敵陣を認識して、ゲームを行なっていた。

 ロボカップジュニアは、ペーパープレゼンで互いの技術を公開している。今年度は、10日にプロジェクタを活用し質疑応答もある口頭プレゼンテーション時間を設けた。

 この口頭プレゼンテーションで、チーム高浜(東海:愛知工業大学名電高校1年)とTeam KCT-i(九州:北九州工業高等専門学校ロボカップ部)が、画像処理について解説を行なった。

 チーム高浜は、ロボットに超小型PC「PICO820(サイズは10×7.2cm、OSはWindows XP)」を搭載し、USBカメラを接続。OpenCVで画像処理を行なっている。カメラが撮影した画像をRGBデータからHSVへ変換し、色相(H)、彩度(S)、明度(V)をそれぞれ二値化してから合成、ゴールの色(青または黄)を抽出しているという。

 画像処理については、全く知識がない状態でインターネットや書籍で情報を集め独学で勉強したそうだ。今後、Team Takahamaのサイトで画像処理の技術を解説するというので楽しみだ。

 バージョンBで世界大会出場権を獲得したのは、リーグ戦上位の「宗高F.S.アマテラス」(九州ブロック)、「Asagi the 3rd」(北信越ブロック)、「MicroWaveUSDX」(北信越ブロック)、「KCT-i」(九州ブロック)の4チーム。

【動画】MicroWaveUSDX(北信越ブロック) VS チーム高浜(東海ブロック)チーム高浜が、USBカメラでゴールを認識する技術をプレゼンした【動画】KCT-i(九州ブロック) VS AIRS(関西ブロック)

自律性と確実性が要求された「レスキューチャレンジ」

 レスキューチャレンジは、4つに別れている部屋をロボットが自走して床面に貼られた救助者マークを発見しつつゴールを目指す。各部屋の課題をクリアしたポイントと、ゴールまでのタイムで順位を競う。

 出場したのは、プライマリに32チーム、セカンダリに19チーム。 優勝は、プライマリは「ハイビスカス」(九州ブロック)、セカンダリAlgebra(関東ブロック)だった。

 今大会では、初日に2回走行し合計ポイントの上位12チームが、2日目に3回目の走行を行なった。成績は3回の合計ポイントとなるため、コンスタントに課題をクリアすることが要求される。

 フィールドは、最初の部屋は入り口から出口まで黒いラインが描かれているので、トレースして進む。2つ目の部屋は、ライン上に大きな石や直径10mmの半円形パイプ(減速バンプ)、木製ダイスが置かれたり、ラインが途切れたりしている。3つ目は部屋というより2階へ登るためのスロープだ。ここから先はラインが全くない。最後の部屋は、床一面に3mmの棒が撒かれ被災者マーカを発見しづらくなっている。

 今年は障害物として、減速バンプとその周囲に木製のダイス、スロープ上の被災者が新たに加わった。コースは毎回変わり、カーブが鋭角になったりギャップが長くなったり、スロープ上の要救助者が増えたりと、少しずつ難易度が上がっていく。

 プライマリ優勝の「ハイビスカス」(九州ブロック)は、減速バンプをクリアするためにオムニホイールを採用している。当初、ボールキャスタを使ったが、重さが1点に集中してしまいうまく動かなかったという。他にもスロープを登る時には、モーターの速度を上げるなどの工夫をしている。

【動画】プライマリ1位の「ハイビスカス」(九州ブロック)。3回目の走行で2位に50点差をつけて、逆転優勝した【動画】プライマリ2位の「ロック・オン」(関西ブロック)。両側の超音波でコース中央を走行している【動画】「ロック・オン」3回目のコースをデモ走行。タイマーを用いて、途中で走行経路を制御し要救助者を検出している

 セカンダリで優勝したAlgebra(関東ブロック)は、競技開始前の調整時間をめいっぱい使ってセンサーの値をチェックしていた。競技がスタートしても、プログラムを訂正しており、見学者をハラハラさせた。製作者に競技後に話を伺うと、今大会はバンプを坂道と誤認識しないようにしたり、鋭角カーブのプログラムが誤動作したり、3面あるフィールドはそれぞれ外光の影響が違ったりと条件が厳しかったそうだ。しかし、「ロボットの速度には自信があるので、センサーの調整をしっかりすれば大丈夫だと思っていました」と、落ち着いたコメントだった。

セカンダリ1位の「Algebra」(関東ブロック)【動画】2回目のコースを走行する「Algebra」(関東ブロック)【動画】注目を集めた「ステッピー7」(関西ブロック)。上下する瓦礫避け機構に「カッコいい~」と賞賛の声があがっていた

創造性とコミュニケーション能力を競う「ダンスチャレンジ」

 ダンスチャレンジには、ロボットのサイズや出場台数に制限がない。オリジナリティを発揮して、ロボットと人が音楽に合わせて自由なテーマでパフォーマンスする。プライマリに18チーム、セカンダリに5チームが参加した。

 ダンスチャレンジは、1チームの持ち時間は5分。その時間内に、ロボットや小道具のセッティング、プレゼンテーション、2分間のダンスを行なう。演技後に審査員からロボットの自律性や構造、ダンスのテーマなどについて質問がある。また、ステージ外でもインタビュー審査があり、チームの役割分担や技術やオリジナリティについてアピールが求められる。

 今年の参加者を見ていると、競技前のプレゼンテーションを英語で行なっているチームが増えていた。また、出演者の衣装や小物が、浴衣や法被、扇、袴で剣舞など、国際大会に出場した時に「日本」をアピールする内容が多かった。参加者達の世界大会を目指す意気込みが強く伝わってきた。

 優勝は、プライマリが「侍VSパイレーツinJAPAN(東海ブロック)」、セカンダリは「HOUSE CLEANERS(九州ブロック)」。「HOUSE CLEANERS」のダンスは、メンバーが自作した曲に合わせて、個性的な動物ロボット8体が人と協力して掃除をする内容。各ロボットの特徴や性能を紹介したペーパープレゼンでも賞を獲得した。

セカンダリ2位の「MURAMASA」(北信越ブロック)は、ロボットと剣舞を披露したプライマリ2位の「チーム スペースミラクル」。女子が好きな魔法と男子が好きな宇宙をミックスした演技ダンスチャレンジには個性的なロボットが多く、見ていて楽しい

オリックス杯 ベストロボカッパー賞

 今大会は、ジュニア部門を対象にオリックスグループから、オリックス杯とベストロボカッパー賞が優秀チームと選手に授与された。これは、「競技成績にかかわらず誠実に技術にチャレンジした」「チーム内の協調が素晴らしかった」等、ロボカップジュニア精神を体現しているチームを参加者の相互投票によって選出するもの。

 結果、オリックス杯はサッカーチャレンジ九州ブロック代表のフェニックスが受賞。ベストロボカッパー賞には、レスキューチャレンジから「義経」(静岡ブロック)、「Algebra」(関東ブロック)、ダンスチャレンジから「ソーランボーイズ」(東海ブロック)、「侍VSパイレーツinJAPAN」(東海ブロック)が選ばれた。

ベストロボカッパー賞でオリックスカップを受賞した「フェニックス」(九州ブロック)ベストパフォーマンス賞を受賞したメンバー世界大会出場権獲得メンバー


(三月兎)

2009/6/2 00:00