産総研の女性型ロボ「HRP-4C」開発者座談会(その2)

~目指すのは“人の役に立つ”ということ

Reported by 森山和道

 3月16日に発表されたヒューマノイドロボット「HRP-4C」。ここでは前半に引き続き、「HRP-4C」を開発した独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)知能システム研究部門 ヒューマノイド研究グループの4人と、筆者による座談会の模様をお届けする。

「HRP-4C」の開発理由

――たぶん一般の人が一番聞きたい、一番知りたいことは、あのロボットをどうして作ったんだろうか、ということだろうと思います。どうしてというのはどういうことかというと、あのロボットを作ることで、どんな問題が解決できるんだろうかと。そういうことです。「こういう問いに対してこういう解答が出せる」ということです。問いも解答も、どんなものなのか良く分からないんですが、そういう面で皆さんが考えていることはありますか。「役に立つ」といっても、かなり広い意味で結構です。

ヒューマノイド研究グループ前研究グループ長梶田秀司氏。専門は二足歩行制御技術

【梶田】そもそも、ヒューマノイドの研究開発をやってきて、ヒューマノイドが当初の期待よりも実際に役に立たせることはなかなか難しい、ということが見えて来たときに、「でも、ヒューマノイドを使って、何かしら実際に産業に結びつかせるようなことをやらなくちゃいけない」という話が出て来たわけです。でも二本足で歩くだけで何か産業に結びつくところがないかと考えたときに「よし、エンターテイメントだ」となったわけです。それで中岡がやったような「会津磐梯山」なんかは、ただ踊るだけなんだけど圧倒的に注目を集めちゃうと。ということは「人間型ロボットが、人間っぽく動く」ということが、実際に産業やビジネスに繋がってくるはずだ、というのが「HRP-4C」の開発理由ですね。

――言ってみれば、存在そのものに価値があるということですね。

【梶田】はい。

――他の方はどうですか?

中岡慎一郎氏。専門はヒューマノイドメディア、ロボットシミュレーター

【中岡】やっぱりヒューマノイドである以上は、一度、人にとことん近づけたい。たとえば踊りをやるにしても、これは東大の池内先生が仰っていたことですけども「伝統文化の保存」ということを目的として「会津磐梯山」はやっていたわけです。そうなると「HRP-2」みたいなロボットでいいのかとなりますね。あれは人と同じ動きをするところに意味があるわけなので、だとしたらロボットも、もっと人と近づくことで、価値が高まるということはあるんじゃないかと思います。たぶん色んな方がそう思ってやってらっしゃると思います。これだけリアルで、足までついて、全身で動けるロボットというものは今までなかったものですので。

【三浦】私は正直に言ってしまうと、産業に役立つというよりも、研究者としての自分の楽しさを追求してしまっているところがあります。なので理由付けを「たとえばこういうことに役立ちますよ」と言ってしまうと、逆に自分の中では言い訳になってしまいます。

――そこは面白いので、では聞き方を変えましょう。ヒューマノイドの研究の何が楽しいですか?

三浦郁奈子氏。専門は二足歩行ロボットの動作生成技術等

【三浦】やっぱり、動きをどんどん作れる、ロボットが動くというところが、まず純粋に楽しいんですよね。多足型とか、産業型のモーションを作るのと違って、私はやっぱり、ヒト型であるところにすごく面白みを感じるんです。バランスもすごく取りにくい、でもだからこそ面白い動きが作れる。そういうところを突き詰めて行くと、いずれ、ヒューマノイドも使い道になるような技術ができてくるのではないかと思います。

 ですけれど、現時点で国民の皆様に「平成何年までにまったく人間と同じように動くようになって介護の手伝いができます!」とか、そんな約束はできないですよね。「役に立つ」のもその人それぞれ、その人の価値観で違いますし。なんていうんでしょう、うまくまとまらないんですけれども。

 だから「HRP-4C」に対して、こういう方向に絶対に役に立って、絶対に売れて、日本の経済に役に立てます、なんてことは私はぜんぜん言えないです、ごめんなさい。

――そこまであれに期待している人はいないでしょう(笑)。それとも、対外的にはそういうことを言えということになってるんですか?

【三浦】そういうわけではありませんが、たとえば一般論として予算申請する上では、そういう話になりますね。「バーチャルヒューマノイド」もそうでしたけど、あれの場合は「メディアプレーヤー」、たとえばゲームのコントローラーとして、いまのゲーム機のバージョンが上がったある未来を想定するわけです。つまり、いま現在何台売れていて、それの将来市場がこのくらいだから、そのうちの10人のうち1人が「バーチャルヒューマノイド」を1体いくらで買ったら、このくらいの売り上げになる可能性がありますよと説得して予算をもらうんですよ。そういう意味での理由付けが私のなかで出来る前に、私自身がロボットを動かすのが楽しくて、理由付けするのを怠ってしまっているというか……。

 「『楽しい』ということだけで研究に打ち込んでいます」と開き直ってると思われたくはないんですが、かと言って、たとえば「数年後に人そっくりな介護ロボットとしてどうこう」なんて、自分が信じられない事を約束することは抵抗があるんです。

 自分がわくわく仕事している結果として、世間の役に立つ、というのが一番幸せです。でも、ある研究結果がどう使われ役立つかは、使う人が出て来るまで分からないという側面もあると思います。

――なるほど。そういう面で何かと質問されることも、答えることも多いだろう、梶田さんと金子さんはどうですか?

金子健二氏専門はヒューマノイドロボットの全身運動制御、歩行安定化制御技術。ハンドの研究も

【金子】ヒト型ロボットの発展を考えたときに、まず「何ができるの? 現状のロボットで何ができるんですか?」となりますよね。

 私はハンドの研究もやってますが、ハンドがないロボットは、単に歩くだけで役に立たないと正直言って思ってるんですよ。個人的にはロボットは人の為に役に立つものであるべきだと思っているので、役に立つ路線にいきたいんですけれど、人間型ロボットが役に立つのはだいぶ先の先の先の先。僕が定年になっても役に立ってない可能性も大です。

 でも研究を続けるためには、今のロボットで役に立つのは何なのかと考える。そうなると、比留川の言い方を借りると「ヒト型をしたことに特徴があるような仕事」ですよね。たとえばイベントのMCであったり、たとえばASIMOがホンダの本社でやっていたような受付サポートとか、宣伝に出て企業の広告活動の宣伝塔になるとか、多分そのくらいしかないと思うんですよね。そうなった場合に、「ヒト型」である特徴をいかせる職業の一つがモデルさんかな、そうなった場合に、ヒト型っぽいものを作る必要があるね、というのが答えです。

ホンダ「ASIMO」による受付サポート業務

 個人的には、やっぱり働くロボットのほうが良いと思っているんです。

 「HRP-4C」の名前付けのときに、「HRP」を付けるのかどうか議論したことがあったんですよ。「HRP」は、働く人間型ロボットというのが一番最初にあったので、「肉体労働しないロボットにはHRPを付けるな」と僕は「HRP」をつけるのに反対したんです。でも多数決をとって、HRPをつけることにしたんですよね。

【梶田】いやいや、ファッションモデルだって肉体労働ですよ。

――金子さんが仰りたいのは、ボディを使って力で直接、人間をサポートするような労働をする、という意味ですよね。第一次産業、第二次産業のような。

【金子】そうです。ただ歩くだけじゃなくて、ロボットに人をサポートする仕事をさせたいというのが僕個人の夢なんです。変な意味に取らないで欲しいんですが。

――仰りたいことは分かります。

【金子】「ガテン系」か「お姉さん系」と言っているんですけどね。「ガテン系」のほうが好きなんです。

――でもバックホウでガーって穴を掘っていたり板を運んだりしていたのが、今度はモデル。「いったい何がしたいんだ、産総研」と感じる人がいるのは当然だと思いますよ(笑)。

2002年には遠隔操縦によるHRP-1Sが作業用保護ウェアを装着してバックホウを操縦した2003年、「働く人間型ロボット」の最終成果発表時に公開されたデモでは実際に水を浴びながらの作業を公開した人と協調して板を運ぶHRP-2

【一同】(笑)。

【三浦】でも、ロボット関係者の人の「役に立つ」という価値感が、「使役する」ということにあるんだなあというのは感じる時がありますね。「エンターテイメントは役に立たない」「直接人の役に立っているわけじゃない」「一部の第三次産業は人の役に立たない産業だ」、そう考えているような雰囲気を感じることはあります。

 私もどちらかというと、第一次、第二次産業、または第三次産業でもハウスキーピングや介護の場で役に立たせることができたら素晴らしいなって思いますが、いまの時点でそれを約束するのはすごく難しいなあ、そこを目指してはいるんだけど目指す途中の「死の谷」を世間が許してくれないのか、ということを、すごく感じます。

ヒューマノイドはカッティングエッジを切り開く

【梶田】そのへんは言いたいことはいろいろあるんだけど……。世の中が世知辛くなって、産総研の中でも、役に立つ道筋がはっきり見えてない研究はやるなと言われるようになってしまったんだけど、でも「役に立つ道筋」がはっきり見えていることって、研究開発の歴史を考えてみるとあまりないんですよね。

 逆に思わぬところで「役に立たない」と思われていた物が結果として役に立っちゃったことはあるんですが。たとえば良い例がロボットの研究のなかでもあって、ロボットの運動方程式を導出するというのはすごく大事なことなんですが、その研究のなかで、歩行ロボットの研究は重要な役割を果たしているんです。

 もともと産業用マニピュレーターからスタートしたんですけど、1980年代に、M.W.ウォーカーとD.E.オリンという人たちが、ものすごく効率の良いコンピュータシミュレーションの方法を開発するんですけども、そのなかでブコブラトビッチの研究が絡んでいるんですよ。ブコブラトビッチというのはZMPを用いる歩行制御理論を考えた人なんですけれども、歩行ロボットの研究が、結果としてマニピュレーターの制御の高度化に役立っているわけです。

 今回の「HRP」のプロジェクトに関しても、そのなかで生まれたきた「OpenHRP」というシミュレーターは僕らはヒューマノイドの歩行シミュレーション用に開発したんだけど、それがあらゆるロボットのシミュレーターとして使えるようになりました。

 ヒューマノイドというのはやっぱりそういう意味で、研究のカッティングエッジを切り開いていく上で、すごく役に立つんです。実際に有効な方向性だと思っています。それに対して、10年後、20年後にどう役に立つんだ、どのくらい儲かるんだというのはちょっとどうよという気がするんですね。

――産総研の言い方だと第1種基礎研究(従来型の基礎研究)、第2種基礎研究(製品化に繋げるためのシステマティックな応用研究)の違い、ということになりますか。

【梶田】そうですね。うん、僕に言わせればヒューマノイドは第1種の研究なのかもしれません。

 何よりやっぱり、中岡や三浦のような、若手がものすごく情熱を持って取り組めるプロジェクトであるということ自体が素晴らしいことだと思うんですよ。

【中岡】今回の「HRP-4C」の発表でも、批判もあるんでしょうけど、やっぱりみんなロボット好きなんだなあということを、すごく感じました。まあ、なんていうんでしょうか……。みんな好きだから、研究ができているという部分もあると思うんですけどもね。

――それは開発している側が? それとも……?

【中岡】うん、一般の人たちも含めてです。すごく反応がいいし、「もっとどんどん進歩させていって欲しい」という人が、いっぱいいるじゃないですか。実際、三浦が言っていたようにすごく楽しいじゃないですか。もちろんそれだけ言っていても駄目なのは分かってるんですけども、一番根本的にはそういうのがありますよね。

――三浦さんにも伺いましたが、何が楽しいんですか。中岡さんの研究でいえば、記者会見で発表されているのは「ヒューマノイドロボットの踊り」ですが、実際にはかなりややこしい、たとえば運動プリミティブがどうこうとか、下半身タスクモデルがどうこうとか、高次元の動きをカットするためにどうするかとかといったご研究がベースになっているわけですよね。そういう数学的な事柄を詰めて考えていくのが楽しいのか、それとも最終的に、ロボットにあるアクションをさせるのが楽しいのか。あるいは全部なのか。個人的に、どの段階のどれが、何が楽しいですか?

【中岡】僕はもともとコンピュータが好きで、プログラムを組むのが好きだったんです。ゲームを作ったり、グラフィックを描いたり。いろんな要素があるじゃないですか。絵を描いたり数学的なことをして計算したり、それが画面上に出て来て反応したりする。そこが面白いんです。

 ロボットもコンピュータですよね。ロボットの場合は実物が動いてくれるので、さらに輪をかけて楽しいんです。反応してくれる部分がありますから。自分で表現してくれる部分というのがかなりあるので、それをプログラムして動かすということが結びついたときに、しかも人とそっくりに動いたりすると、すごい面白いんですよ。「やったー!」っていう感じがあるんです。

――今後はどんな動きを実現させていきたいですか? 「動く」といっても単純に歩く、ものを操作する、いろいろあると思いますけれども。

【梶田】僕は腰のロール軸を使ったモデル歩行がきちんとステージの上でできるように。とにかく、見るからにこれはモデルさんの歩きだな、と思うようなものを実現するのが「HRP-4C」の目的だと思っているので。早稲田大学の「WABIAN」はけっこう綺麗に歩いてますよね。今はまだ負けているんで、悔しいんですよね。

――もっと人間っぽく?

【梶田】ええ。そのためにモーションキャプチャーのデータで動きを作る技術を作って来たので。記者会見のときにはまだ、それをきちんと信頼性高く再現するところで、制御技術が追いつかなかった。それができれば、僕としては。

――確認ですが、モーキャプでとった人間のデータを、自由度や関節リンク長のロボットの動きに変換するソフトウェアはできているんだけど、それを実装するときの制御のほうが追いつかないということですね?

【梶田】そうですね、それを実際のロボットで実現しようとすると、ノイズやキャリブレーション誤差で、けっこう転んじゃうんです。そこは制御技術が追いついてないところでもあります。

――うん? 三浦さんは、そうでもない部分もあるって顔をしてますね?

【三浦】実際に動きを載せるときにはどっちが悪いのかはグレーゾーンなんです。パターンが悪いのか、スタビライザーが悪いのかは分からない。梶田は自分の責任としてやっているわけですが、私のほうでやらなくちゃいけない部分もまだまだあるわけです。なんていうんでしょうね、まだもうちょっとパターンの作り方も改良の余地があると自分では思っているんです。

――パターンの作り方ですか? モーションキャプチャーデータからのパターンの作り方のことですよね?

【三浦】そうですね。結局は従来の技術の延長で作っているんですけども、受動歩行みたいなものをベースに何か作っていくことができればと考えています。

――受動歩行を? あのメカでですか?(受動歩行については、大須賀公一教授による講演記事などを参照)

【三浦】機構的にそのまま受動歩行させるのは無理ですが、挙動を参考にしたいと考えています。まずはシミュレーション上でパターンを作っていくんですが、ZMPの動かし方に関しても、人間はもっと別の動かし方をしていると思うんですよね。でもロボットの場合は常に一点に固定していて、ある一定時間後にはここに動かすといった動かし方をしているので、もうちょっと、もっと滑らかにしてみたらどうかとか、そもそも人はそんなふうに歩いているのか、という部分も解明しきれていないと思うので。

――人間は真っ直ぐ立っていてもぴったり止まれないそうですしね。

【三浦】そうですね。

――たしかにその辺、人間とロボットは根本的に違うなあと私もいつも感じています。が、逆に金子さんからすればどうなんでしょう? 何もしてないのに立っているだけでZMPがふらふらふらふら動いているようなロボットなんか許せん!という感じなんじゃないですか(笑)?

【金子】そうですねー(笑)。ロボットは疲れ知らずで、ずっと立ってくれているほうが僕は良いんですけどね。でも微妙にロボットも動いてますよ。人間と同じくらいじゃないですか。

――そのへんはまだまだ検討の余地がある?

【三浦】まだまだやることはいっぱいあると思ってます。

【中岡】まだ我々が本腰を入れてやらなくちゃいけないこととは違うんですけど、今回、顔がついて、ファッションショーで歩かせたりしたじゃないですか。そうすると、目線の問題もあるんですよ。ドシンドシンとロボットが歩くと、今はそのまま一緒に顔がグラグラと揺れちゃっているんです。でも、ある一点を見つめるにようにして、それがフッ、フッと移っていくようにするだけで、だいぶ印象が違うという話もあるんです。やらなきゃいけないことがいっぱいあるので、今は全部はとてもできないんですけど、ああいうハードウェアができたことで、そういうことがいっぱいあるという感じですね。

【三浦】新しい故に、新しい課題があるんです。

――たとえば腰の高さ一定の歩行制御アルゴリズムではなくて、頭の保持優先で姿勢を制御するとか、そういうことですか。実際にそれで人間っぽく見えるんですか?

【梶田】空間のなかで目線を保つというのが人間らしく歩くためには必要だと、ある人からは聞いてます。

――なるほど。でも人間は目線に非常に敏感ですよね。例えば、いまお台場で「ターミネーター展」をやってますが、あそこにDVD-BOXのメインビジュアルになった女性型ターミネーターの胸像があるんです。会場でその目線方向に立ってみたんですが、ぜんぜん目線があってる感じがしないんです。こっちを見られている感じがしないんです。たぶん眼球の輻輳の問題だろうと思うんですよね。ほんのわずかなことだと思うんですが、そういうことにも非常に敏感だから、それも考えて人間らしさをやりだすと、かなり難しそうですね。

【中岡】そうですね。

再び「顔」の話

――あの表情ですが、今後も改良は続けていくんでしょうか?

【中岡】はい。改良というか、とにかくそういうものを気楽に作れるツールが必要だと思ってるんです。現状ではまだ基本的な部分しかないので、それをどんどん良くして、表情に関しては「表情を作りたい」という人にどんどん作ってもらいたいなと思ってるんです。そういう方向です。

――では先ほどからの「動作生成ツール」の話は、ボディの動きだけの話じゃないんですね? 首から上も含めての話なんですね?

【中岡】そうです。ただ表情は難しい。スキンがあるのでシミュレーションがちょっと難しいんです。現状ではCGで確認することができないので、実機の首を置いてやってるんです。そこはまだ何ともしがたいんですけど。

――じゃあ頭だけ売り出すとか(笑)? いまは頭は2個あると聞いてますが。

【中岡】そうですね(笑)。あとはハードの設計もあるんですけど、けっこう表情を出すのが、すごく難しいんです。可動範囲がすごく狭いとか、顔の一部を上げるためのアクチュエータがないとか、いろいろあるので、そういうのも多分、もっと良い物をとなるとハードも改良しないといけないと思います。そのためにはまずはいろいろな表情を作ってみるというのが大事かなと思ってます。

――先日、早稲田大学の「KOBIAN」を見せてもらったんですが、顔や手も込みの全身を使った感情表現というのはなかなか面白いものですね。手先も込みでやると非常にインパクトあるんじゃないかと思いました。

早稲田大学「KOBIAN」全身を使って感情表現をする【動画】デモの様子

【中岡】そうですね。会津磐梯山のときもなめらかな手先が大事だという話があったんですけど、そういうのも実現していきたいと思ってます。

――顔そのものの評価についてはどうですか? 皆さんのなかでは。世間では「気持ち悪い」という人もいたし、「いや、これはけっこういけてるんじゃない?」という人もいて、バラバラですが。皆さんのなかではあれが来たとき、実際のところ、どうだったんでしょうか。

【梶田】最終的にお化粧をしてメイクアップしたときに「けっこういけてるな」と僕は思いました。

【金子】私はあまり印象がなかったですね。顔だけ株式会社ココロが開発しているアクトロイドなどを見てますので。

「2007国際ロボット展」で展示されたアクトロイドの頭部

【中岡】中身はけっこうこわいですよね(笑)。

――我々も以前、「2007国際ロボット展」で拝見しました。

【中岡】僕は「すごくよく出来ているな」と思いましたけどね。

【三浦】私も「思ったほど不気味ではないな」と思いました。

【中岡】表情を作ることになっていたんで、机の上にポンと置いて夜遅くまでやっていたんですけど、ぜんぜん怖くなかったんで(笑)。やっぱりよくできているなあと思ってました。

【三浦】でもノーメイクのときはけっこう怖かったですよ。

【中岡】あー、そうだったかな。

【三浦】皮だけの状態で何も施してないと、黄色っぽい肌で、眉もないし睫毛もない状態なんです。その状態で動かれると、けっこう不気味でしたね(笑)。

――それはまた別の意味で不気味なんですね。

【三浦】はじめてあの顔で歩いたとき、ちょっと怖くなかったですか。「貞子みたい」ってコメントを動画に付けていた人がいましたが、足をつくたびに頭がゆら、ゆら、とするのは「あ、ちょっと怖いかも」と思いましたよ(笑)。

【梶田】僕は「すごい、歩いたんだ」ってすごく感動しちゃって。怖いどころじゃなかった。「わ、すごい」と。

ボディの骨格は本当に細い

【三浦】歩いたことについては「キャクモ(足だけのHRP-4のこと)」の時点で私は「すごい」と思いました。

【梶田】僕は間に合わない可能性がかなりあると思っていたんで、金子と金広(ヒューマノイド研究グループの金広文男氏。座談会には欠席)があっさり歩かせちゃったときにはびっくりしたなあ。あれっていつだったっけ。全身モデルが歩いたのって、1月だったっけ?

【金子】2月頭じゃなかったっけ。

【三浦】ある一定の時期を超えるとみんな、見てくれを気にする余裕がなくなっちゃったんです(笑)。

 内装だけで、ぜんぶ取っ払ってプレスリリースしたら、反応はまた全然違ったんじゃないでしょうか。「軽量にしました、実験でもすごく安全で、倒れても私が手でおさえられます、色んなことを検証する上ですごく便利です」と。モーターのパワーもないし、ある意味省エネとも言えますよね(笑)。価格も抑えられる見込みがあります、というと、ある意味、別の評価をされたかもしれない。

 やっぱり、プロの研究者でさえ、あの外見にしてしまうと、いま言ったような部分を見ずに、まず外見の批判に走るのは、もったいないな、あのロボットと思います。もっと中身のほうを見てもらいたい。プロの研究者ですらもその外側に目を奪われてしまう。その意義みたいなものを考えてしまう。

【中岡】うん、たしかに顔もよく出来ているんですけど、胴体の中身を最初に見たときに「細い…」と思ったんです。「すごい、ここまでできたんだ」と思いました。

【三浦】梶田さんは「骨格だけでいいじゃん」って言ってなかったでしたっけ? 「かっこいいじゃん、このままで」って(笑)。

【梶田】そうだったね(笑)。

――そう思ったんですか。

【梶田】そうですね。

――実際にはあの外装の中身よりも、ずっと細いということですね。ただ、骨格は関係者の方しか見てないですからね。見たことがない我々はなんとも言えません。

「HRP-4C」の次は?

――「HRP-4R」という研究用モデルもいま開発中と聞いてますが、それはどういう段階にあるんでしょうか。

【梶田】そうですね。「開発中」です。だけど、それほど進んでいません。

――研究者用に発売するんですか?

【三浦】あれについては我々の手は離れたと思っていいんですか?

【梶田】そうでもないと思うけど……

――もう「HRP-4C」のハードウェアの開発はほぼ終わったという感じなんですか。

【三浦】改良点はまだまだあると思いますが、現時点で「HRP-4R」の開発について我々が何か関わることはあるんでしょうか?

【梶田】うーん。僕らの中でもまだ。ただ、「HRP-4C」のレベルでまだ解決しておかないといけないことがあるので。「HRP-4C」をまだいろいろ動かしてみて、経験を積みたい。そうしないと「HRP-4R」の開発に活かせないから。

――そのデータをフィードバックして、川田工業なり、ゼネラルロボティクスなりから発売されるということですか。

【梶田】そうですね。

――「HRP-4C」はそうやって継続していくとして、さらにそのあとは、今はどうなってるんでしょうか。「人と働く」ということで「HRP-3」路線のロボットを開発していくのか。それとも新規のハードウェアの設計はやめておいて、ソフトウェアの改良を進めるのか。「HRP-3」もいま2体しかないんですよね? あれの今後はどうなってるんですか?

【金子】「HRP-3」の販売はないんじゃないですかね。コストが高いですからね。

――研究者の方は、みんな「HRP-2」で良いと?

【金子】個人的におすすめしてるのはやっぱり「HRP-2」ですね。一番良く修正が入ってるからです。多く使われて、修正されていて、信頼性が高いんです。

――「HRP-3」はどうするんですか?

【金子】個人的には「HRP-3」に思い入れがあるので「HRP-3」を使いますけども、外には出て行かないでしょうね。販売にはならないですね。

 作って販売するのは川田工業です。川田工業のようなメーカーさんが販売するためには、10年間はパーツを持っておかないといけないとか、いろいろあるじゃないですか。「HRP-2」のパーツを持って、「HRP-3」のパーツを持って、また「HRP-4C」のパーツを持ってとか、やっぱりいろんなパーツを持つということは現状の市場規模では難しいと思うんですよね。

 そういう意味で「HRP-4C」は内骨格にしたので、「HRP-2」のカバーだけを「HRP-4C」の外側につけて、外側は「HRP-2」みたいに見えるけど中身は「HRP-4C」ということもできますから、そういう売り方もあるかもしれませんけどね。いろんなものを持つのは資金的に難しいと思うので、「HRP-3」まで販売することは多分ないと思います。

 「HRP-3」は「HRP-2」よりも良く出来ていると思うんですけどね。

――金子さん個人は「HRP-4C」よりも「HRP-3」のほうが好きだそうですね。

【金子】不思議と「HRP-3」は僕が使うと、ちゃんと動くんですよね。ところが他の人が使うと、メンバー内の人でもトラブルが起きる場合があるんです。ほら、パソコンでも初心者が使うと、わけがわからないバグにいったりするじゃないですか。それと同じようにほとんど使わないような人が「HRP-3」を使うと拒絶反応をロボットが起こすんですよ(笑)。「トラブルが起きるんですよ」って言われるんですけど、「おかしいなあ、僕のほうは問題ないけどなあ」ということがあるんですよね。

 機械なんで、やっぱり愛情をかけないと。「動かないっていうのは愛情が足りないんだよ」って、いつも言ってるんですけどね。

――「HRP-4C」には愛情はかけないんですか(笑)?

【金子】「HRP-4C」にも、プレス発表まではかけましたよ。今も、今日のメンバーの中では愛情かけているほうだと思います(笑)。

【三浦】金子さんが一番さわって、一番メンテしてますからね。

【金子】今でも進化させてますよ。

まとめ

――最後なんですが、皆さんが今後、ヒューマノイドでやりたいことを教えてもらえますか。では今度は、三浦さんからお願いします。

【三浦】私からですか? やりたいことがいっぱいあって困っちゃいますね。「HRP-4C」よりもさらに関節の数を増やして、動作の質も向上させて、誰が見ても「モデルさんみたい」と感じるようなヒューマノイドを実現したいです。

――なるほど。中岡さんお願いします。

【中岡】僕は先ほどから言っているようにソフトウェアを作るのが好きなんで、シミュレーターも作ってますが、ロボットの動きを扱うソフトウェア体系というか、それは今まであまりなかったような――なんていうんでしょうか、低レベルな制御ではなく、もうちょっと高レベルな部分で動きを扱って、それによってロボットを簡単に動かせるようにして、広げていきたいなと。

 当面は「HRP-4C」もできたので、動きを試したい。いままで「HRP-2」で踊りをやっていたときも色々と制約を立ててやっていたんですけども、たとえば足に関していえば、基本的にベタ足だったんです。でも人が歩いているときは、床との間で滑りがあって色んな動きをしていますね。でもこれまでの「HRP-2」はベタ足で動いていたんです。腰も軸があまりないんで、全体的に動きが硬い感じでした。「HRP-4C」は「HRP-2」よりも関節軸数も増えているので、足先を滑りもあるような動きをさせて、動きの幅を広げていきたいなというのが当面の目標ですね。

【金子】僕は、人の役に立つロボット作り。それと、個人的に最近はハードウェアにはまっているので、「こんなロボットはできないだろう」というようなロボットを創りたいですね。「どんなものか」と聞かれてもパッとは出てきませんが。たとえば「HRP-4C」みたいなのもみんなそういうのはできないだろうと思っていたけど今回作れた。そういう感じです。「できないだろう」とみんなが思っているものを作りたい。たとえば「人に役に立つロボットできないだろう」とみんなが思っているけど、そんなロボットを作っていきたいですね。

【梶田】結局、僕は二足歩行の研究を1/4世紀やってきたんです。ずっと二足歩行ばかりやってきた。いまは学生のころから考えると、ある意味、夢のような状況にあるわけですよ。「HRP-4C」のようなものができるなんて、僕が学生のころには誰一人想像しなかったですから。今は曲がりなりにもハードウェアがあるので、研究者としてこれを美しく歩かせなかったら駄目だろうと。だから繰り返しになりますが美しい歩行を実現させたい。というか、実現させます。

――期待しております。

【金子】そういえば僕がこの研究所に入るための面接試験のときのことなんですけどね。当時は通産省の工業技術院だったんですけど、そのときに色んな研究所の所長や次長がいたんですが「人間のようなロボットはできないの」と聞かれて僕は「できません」って答えたんですよ(笑)。

【一同】(笑)。

【梶田】不言実行でいいんじゃないの(笑)。

【金子】自分で「そんなのはできません」って言っちゃった(笑)。

【三浦】自分ですら「出来ない」と思っていたのに作っちゃったわけですね。

【金子】そうですね(笑)。

 それと、始めの話に戻っちゃうんですけどね、まわりの印象の話ですが、盛り上がっているのは大人だけのような気がするんです。

――ああ。それは私も似たようなことを言われたことがあります。

【金子】ええ。先日もテレビ局の取材で子供がレポーターで来たんですが(テレビ東京「ロボつく」5月17日・24日放送)、「HRP-4C」を動かして見せても、あんまり反応が良くないんです。ところが「HRP-2」を動かしたときはリアクションがよかったんです。「ワー! うごいたー!」と。「HRP-4C」は何も反応がなかったんですけど。どうしてなんだか分からないですけど。

――プロの研究者でさえ外見に引きずられるわけですからね。外見には意味がないという人もいますけど、そういう人も外見に意味を見いだしてしまっているからそう言うんでしょうし、やはり外見には意味があるんじゃないですか。

【金子】良くわからないですけどね。小さい子供にとっては、人間らしい姿のロボットも、人間も、似たような存在なのかもしれませんね。歩いて当然、動いて当然。そう思ってるんじゃないでしょうか。でも「HRP-2」のようなアニメロボット系のデザインのモノが動くのはアニメでしか見たことがないでしょう。だから実物が動くと子供にはインパクトがあるんじゃないかなあと私は思っているんですけれども。

【梶田】反応が良くなかったのは、インパクトがなかったからではなくて、むしろ怖かったらかもしれない。それは「石黒効果」じゃないの? 石黒効果というのは石黒先生のロボットの話ではなくて、「不気味の谷」を年齢で比較したときに、「不気味の谷」が年齢をとればとるほど浅くなる傾向があるという話です。

――年を経ると、なんでも受け容れるということですか?

【梶田】そうそう。

――「HRP-4C」が一般向けに公開されたときの一般の方々の反応が楽しみですね。

 お忙しいところ、どうもありがとうございました。


 「HRP-4C」は、まだ一般の人に公開されたことがないが、今後、いくつかの一般公開イベントに登場することが決まっている。7月25日(土)に開催する「産総研つくばセンター一般公開」で公開される予定があるほか、9月26日(土)~27日(日)に開催される「ジャパンロボットフェスティバル2009 in Toyama」にも登場する予定だ。



2009/7/17 13:48