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小惑星探査機「はやぶさ」のドキュメンタリー映画が完成
~全編CGの43分間、人間は1人も出てこないヒューマンドラマ


 3月26日、大阪市立科学館にて「全天周映像 HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-」のプレス向け完成試写会が開催された。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」の打上げから帰還までを描いた全編CGのドキュメンタリー映像。4月1日より1年間、同科学館のプラネタリウムホールで上映される。上映時間は43分間で、料金は大人が600円。


パンフレットの表面 パンフレットの裏面 大阪市立科学館(大阪市北区)

 「はやぶさ(MUSES-C)」は、2003年5月9日、当時の宇宙科学研究所(現・JAXA宇宙科学研究本部)がM-Vロケット5号機で打上げた小惑星探査機である。イオンエンジンによる惑星間航行、自律制御によるランデブー・着陸、小天体からのサンプル採取、再突入カプセルによる地球帰還など、サンプルリターン技術の確立を目指したもので、当初は2007年6月の帰還を予定していた。

 しかし、目的地である小惑星イトカワにて、二度の着陸のあと、スラスタの燃料漏れが発生。姿勢を維持できなくなり、一時は通信途絶にまで陥った。現在は姿勢も安定しており、地球帰還に向けた運用を続けているところだが、すでに3基中2基のリアクションホイールが故障、スラスタも使用不可能と、満身創痍の状態。イオンエンジン用のキセノンガスを姿勢制御に利用するなどの“職人技”を駆使し、何とかここまで持ってきた。

・「はやぶさ」のこれまで
2003年5月9日内之浦宇宙空間観測所より打上げ
2004年5月19日地球スウィングバイ成功
2004年12月9日イオンエンジン延べ20,000時間稼働
2005年7月31日リアクションホイール1基に不具合
2005年9月12日小惑星イトカワに到着。約20kmの距離で相対停止
2005年10月3日リアクションホイールのもう1基に不具合。正常動作は1基に
2005年11月4日第1回降下リハーサル。異常を検知して途中で中止
2005年11月12日第2回降下リハーサル。探査ロボット「ミネルバ」を分離するも届かず
2005年11月20日第1回着陸。後のデータ解析で、約30分間も着陸していたことが判明
2005年11月26日第2回着陸。しかしその後スラスタに異常が発生
2005年12月4日キセノンガスの噴射による姿勢制御に成功
2005年12月8日再度の燃料漏れによる外乱で通信途絶
2005年12月14日地球への帰還を2010年6月に延期すると発表
2006年1月23日ビーコン信号を受信
2006年7月太陽光圧を利用した姿勢制御を実施。キセノンガスの消費を抑える
2007年4月25日イトカワの軌道を離脱。帰還に向けた巡航運転を開始
2007年10月18日燃料節約のため、イオンエンジンを停止
2007年10月24日リアクションホイールを停止、姿勢制御を一旦スピン安定に
2009年2月4日三軸姿勢制御を確立し、イオンエンジンを再点火
現在地球からの距離3億4,604万kmを航行中


 本作品では、不本意ながらドラマチックになってしまった「はやぶさ」の旅路を、全編CGで描く。ナレーターは、ウルトラマンタロウの主人公役でお馴染みの篠田三郎氏が1人で務めている(以下の画像は全て(C)「はやぶさ」大型映像制作委員会)。


探査機内部が透けて見える演出も 地球を出発し、航行中の「はやぶさ」 地球スイングバイ。赤い枠中を抜ける必要がある

小惑星イトカワに到着した「はやぶさ」 イトカワの大きさはタンカーよりも少し長い程度 内部構造を説明するシーンではなんと真っ二つに

小惑星イトカワに着陸する瞬間 イトカワから上昇。この後でトラブルが 映画ではイトカワがリアルに描かれている

 26.5mのドームスクリーンに投影される映像は迫力満点。「はやぶさ」と一緒に、宇宙空間を飛行している気分にしてくれる。画面いっぱいに広がる小惑星イトカワの存在感も圧巻だ。同科学館の全天周デジタル映像システムは2004年に導入したもので、大きさは世界最大級。6台のプロジェクタを使って映像を投影しているそうだ。


大阪市立科学館のプラネタリウムホール 監督は有限会社ライブの上坂浩光氏 イトカワの模型を持って説明する監修のJAXA吉川真氏

 前述のように、「はやぶさ」はまだ地球への途上であるが、映画では帰還までが描かれる。制作時に「まずいのでは」との声もあったというエンディングの演出は……各自が実際に観て確かめて欲しい。「素直に本当のところを表現したかった」とは上坂浩光監督。ちなみに、「はやぶさ」は2010年6月に帰還、小惑星イトカワの試料が入っているはずの再突入カプセルをオーストラリアのウーメラ砂漠に向けて投下する予定だ。

 本作品は、大阪市立科学館のほかに、すでに日立シビックセンター天球劇場(茨城県日立市)での上映も決定している。こちらの上映期間は、4月1日から6月28日まで。日本国内には全天周デジタル映像を上映できる施設が30カ所ほどあるということで、随時増えていく見込みだ。上映館の情報については、公式WEBサイトで確認して欲しい。

 この映画には、JAXAも制作に全面協力。会見に出席した月・惑星探査プログラムグループの樋口清司・統括リーダーは、「我々は科学者・技術者として人生を賭けてやっているが、そういうものの感動がこのような形で、一般市民に理解・共感してもらえることは、実施する側としては非常に嬉しい」とコメント。「我々の熱い想いがこの映画には入っている」とアピールした。

 ところで、「はやぶさ」の後継プロジェクトとして、「はやぶさ2」が計画されているのをご存じだろうか。問題のあったリアクションホイールなどはもちろん改良するものの、基本的には同じ設計の探査機で、イトカワとは異なるC型と呼ばれる小惑星を目指すものだ。当初、2011年の打上げを目指していたが、すでに間に合わないため、いまは次のウィンドウである2014年をターゲットにしているという。

 現在、「はやぶさ2」はJAXA内部で、正式なプロジェクトの一歩前の“プリプロジェクト”として扱われている。一応、予算は付くが、探査機を本格的に開発するほどの金額はなく、計画実現のためには、1日も早い“プロジェクト化”が求められる。はやぶさ2の責任者である吉川真氏によると、「厳しい状況だが、2009年度中にはプロジェクトにしたい。2010年度から予算が付けば間に合う」とのことだ。

 年間400億円と言われる「きぼう」の運用コストなどもあり、無い袖は振れない、というのが経営側の言い分だろうが、小惑星探査は、日本がリードしている分野の1つだ。海外からの評価も非常に高い。この映画によって、「月探査以外にもこんな面白いことをやっているんだ」と一般からの注目が集まれば、あるいは……と願わずにはいられない。


URL
  全天周映像 HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-
  http://hayabusa-movie.jp/
  大阪市立科学館
  http://www.sci-museum.jp/
  小惑星探査機「はやぶさ」
  http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/


( 大塚 実 )
2009/03/27 20:37

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