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特別シンポジウム「FLY TO THE FUTURE 100年先の未来をつくろう!」レポート(後編)
~東北大学機械系が夢見る未来


航空宇宙工学専攻の内山勝教授
 前編でお伝えした、ゲストスピーカー2名による講演の後、東北大学機械系に所属する研究者5名が「東北大学機械系が夢見る未来」としてそれぞれ講演を行なった。後編ではその模様をレポートする。

 東北大学機械系とは、東北大学大学院工学研究科の機械システムデザイン工学専攻、ナノメカニクス専攻、航空宇宙工学専攻、バイオロボティクス専攻の4専攻と情報科学研究科、医工学研究科などにある関連講座(研究室)の総称である。これだけの分野によって構成されている機械系のシンポジウムであるが故、登壇者の分野もロボットにバイオや宇宙、世代も教授から准教授、助教と幅広く、それぞれの専門、世代に基づいた『100年先の未来』を語った。

 航空宇宙工学専攻の内山勝教授は『心が動く 人とロボットの未来』と題し、「センサ・アクチュエータ・知能がシステム統合された新しい機械がロボット」と定義した上で、内山研で研究・開発された宇宙ロボットの遠隔操作システムやそのテストベッド、内山研で製作されたハプティックインターフェイスやそれを用いた脳外科手術のシミュレータなどを紹介した。

 また内山研のロボットとして、2005年の愛知万博で出渕氏がデザインした『HRP-2 Promet』を使い、和太鼓を叩いたり棒術を演じたりしていたのを記憶している方も多いのではないだろうか。このような動作を『インパクト動作』といい、衝突や運動によってロボットに加わる反力を足で受け止める、計算された全身運動の結果として実現されるものである。講演では愛知万博よりも以前に、内山研でヒューマノイドロボットHOAP-2を用いて実験されていたインパクト動作として、板割り動作のムービーが紹介された。

 100年後の未来について内山教授は「ロボットの未来は人間・ロボット協調システム」と、人間中心・人間支援を考え、人間の補助となるロボットがこれからのロボットとなるであろうと述べた。また、100年後の機械工学の姿は? という問いには、「動きあるところ、機械あり」と、機械及び機械工学が100年後も姿を変えつつも必ず社会に存在しているだろうとの見方を示した。


宇宙ロボットの遠隔操作システムのテストベッド。宇宙空間と地上との間に発生する通信時間遅れなどもモデリングできる 【動画】HOAP-2による板割り動作。当初、愛知万博でもHRP-2で板を割る予定だったが、安全性の観点から断念

バイオロボティクス専攻の山口隆美教授
 バイオエンジニアリング部門の委員として機械分野のアカデミックロードマップ策定に関わりつつも、30年先のバイオエンジニアリングの将来予測として「まったくわからない。『生命とは?』という問いに対する本質的な回答が与えられていない」と述べたのは、バイオロボティクス専攻の山口隆美教授。医学部の出身で、心臓外科医として勤務していたこともある異色の経歴の持ち主であるが、「キッタハッタをやめて」メスをコンピュータに持ち変えたという。医学と工学、両方の専門を生かし、コンピュータシミュレーションによって病気の原因や発生のメカニズムを探る生体力学シミュレーションを専門としている山口教授は、『バイオエンジニアリングの未来 -予測できる将来と、想像もつかない未来-』と題して講演を行なった。

 バイオエンジニアリング部門のロードマップにおける検討分野の1つである『人工臓器』がどこまで進むかという問いに対して、個人の見解として人工臓器そのものが無理ではないかとの考えを示した山口教授。細胞そのものを培養するのは簡単だが、臓器や骨の形はそこまで人間が発育してきた環境下で形作られてきたものであり、培養した細胞から人工臓器・人工骨を人工の環境下で形作るのは難しいだろうという。

 さらにカズオ・イシグロの『私を離さないで』やドナルド・モフィットの『星々の聖典』など、移植用臓器培養のためのクローン人間の問題を扱ったSF小説を挙げ、「移植用の完全な臓器を作るためには、人間としての完全な環境が必要。組織再生学としてやらなければならないかもしれないこと」とした上で、「バイオエンジニアリングの未来像は手放しに明るくない。倫理問題の解決が必要」との自身の考えを示した。

 また、ロボット研究者における『鉄腕アトム』のように、生体力学シミュレーション研究者へのきっかけは映画『ミクロの決死圏』という人が多いという話のもと、まさに『ミクロの決死圏』を実現したかのような血流シミュレーションや、赤血球の動きを参考に自然に変形して狭い隙間を通り抜ける飛行船など、山口研で行なわれている研究の紹介を行なった。


16,000個の赤血球をそれぞれモデリングしたという血流シミュレーション。スパコンを使っても、1mmの長さの血管の1秒間の流れしかモデリングできないという 【動画】右目と左目で全く違う視野を持たせることができる『ヴァーチャルカメレオン』。このようなシステムで人間の限界を拡張することは可能?

バイオロボティクス専攻の西澤松彦教授
 山口教授と同じバイオロボティクス専攻の西澤松彦教授も、もともとは化学バイオ系の出身。『ものづくりの未来 -バイオケミカルマシンの可能性-』と題し、タンパク質や細胞の自己組織化を利用したモノづくりや、酵素を触媒としたバイオニック発電などの研究を紹介した。

 「タンパク質はスーパー触媒(酵素)であり、スーパーセンサ素子(抗体)である」として、紹介した西澤研の研究の一つはバイオ組織化の誘導技術。タンパク質や細胞の自己組織化を、外部から電極を用いてコントロールすることができるといい、種類の違う抗体タンパク質を3種類、それぞれ種類ごとに3点に並べて配置したバイオセンサーを開発している。このセンサーはその場ですぐ検査結果を見ることができる検査チップとして利用することができ、食品検査・環境検査・医療検査などの分野に適応することが可能だという。また、現在注目されているiPS細胞技術と細胞の自己組織化を組み合わせることで、自分の細胞で薬の副作用などの予備実験を行なえるのではと期待されている。

 もうひとつ、未来につながる研究として紹介されたテーマがバイオニック発電である。酵素としてタンパク質を利用することで、糖・アルコールなどのバイオ材料を分解して電気エネルギーを取り出すというものであり、他の燃料電池と比べて価格面やサイズ、安全面で非常に有利だという。血液を用いて発電し、自身の電力をまかなう埋め込み型ナノ医療デバイスなどに応用が期待されているが、食物からも発電が可能ということで、どら焼きを食べてエネルギーを得る『ドラえもん』にもつながるかもしれない。

 将来のものづくり、バイオケミカルマシンの将来として西澤教授は、バイオマシン・タンパク質デバイスがその「脆さ」という弱点を克服してより機械的になる一方、現在の機械はよりバイオ的になり、融合していくだろうとの見解を示した。最後にこれからの機械工学について、社会を便利にするだけではなく環境・生活の健全を守るために使われるべきとし、「環境・ライフと調和する機械はバイオケミカルマシン、そんな未来が来ればいい」との期待を述べた。


タンパク質で創られたエネルギー変換マシン、モータのエネルギー変換率はほぼ100%だという バイオマシンと機械との融合によって、新しい機械工学が生まれるという

航空宇宙工学専攻の永谷圭司准教授
 自身が大学生の頃から現在まで一貫して続けてきた、移動ロボットの未来図に絞って『フィールドロボット/宇宙ロボットの現状と未来』と題した講演を行なったのは、航空宇宙工学専攻の永谷圭司准教授。最初に吉田・永谷研で行なわれている惑星探査ローバーの環境認識に基づく経路探索や砂上での車輪制御、同じく機械系の田所研などと共同で行なっているレスキューロボットのセンサー情報に基づく制御や3次元環境認識技術などの研究を紹介した。

 それら現在の研究を紹介したあと、ロボットにとって100年先の未来は先すぎるということで、30年後である2040年の惑星・衛星探査、レスキューロボットの姿を示した。惑星・衛星探査において一番の障害となるのは距離・時間とコスト。距離が離れるほど時間もかかるという点と、極地域に水が存在する可能性があるという点で、2040年においてもやはり月が探査対象となると考えられる。しかし、距離の壁よりも技術の壁よりも高いというのが『コストの壁』。技術の進歩ももちろんながら、みんなでやろう! という気持ちでコストの壁をクリアしないといけないとの考えを示した。

 レスキューロボットについては、現状の問題点は・耐水性など技術的に改善が可能な問題と、操作性・走破性やセンサーの感度など主要な研究トピックとなる問題に分けられるが、現存するレスキューロボットでももちろん活躍の場はあるという。しかし永谷准教授は、積み重ねられた技術があるレベルを超えた時にそれがブレイクスルーとなるとの自身の考えを示し、技術の蓄積によって自律性の高いレスキューロボットが未来に実現されるだろうと述べた。

 最後に永谷准教授は「『○○したい』! という気持ちが未来を創る」という思いを述べ、『○○したい』という気持ちに加えて、そのコストやスケールを理解すると未来が見えてくるであろうという考えを示した。


【動画】惑星探査ローバーの環境認識に基づく経路計画。これは『知能』か否か? この先の未来30年の宇宙ロボット、レスキューロボットのできごと予測。JAXAから出された長期ビジョンに基づいている

航空宇宙工学専攻の河内俊憲助教
 最後に登場したのは今回の登壇者では最年少となる、航空宇宙工学専攻の河内俊憲助教。『飛行機は100年後飛んでいるか? -僕とスクラムジェットエンジンと研究-』と題して講演を行なった。

 河内助教が高校生の頃から憧れて仙台行きを決意し、大学生のころから現在まで一貫して研究を行なっているのは、スペースプレーン用のエンジンであるスクラムジェットエンジン(超音速燃焼ラムジェットエンジン)。ロケットの様に打ち上げるのではなく、航空機のように飛行して宇宙空間へと飛んでいくのがスペースプレーンであり、重力による損失が少なく、大気を積極的に利用して揚力を得ることができる。

 通常のジェットエンジンは羽車を用いて空気をエンジン内へと吸い込むが、より高速度が必要となるスペースプレーン用のエンジンではその羽車が抵抗となるため、羽車をなくして空気の勢いでもって空気をエンジン内へ吸い込み燃焼に用いるエンジンだ。河内助教はそのような高速流の中での燃焼現象の解明・解析や、燃料の配合率などの改良を研究している。

 航空機の燃料消費率から計算した人間1人分の移動コストと、人間1人分の情報を別の場所に送る際の伝達コストを比較すると、推測に基づく概算でも移動コストの方が3万倍以上もかかるという。それでもスペースプレーン用のエンジンを研究する理由として河内助教は、モアイを作ったことで資源を失い、島の外に出ていく術もなく文明が滅びた『イースター島の悲劇』を例に挙げ、地球を出ていく力を持つことが心の安定につながるとして「『地球は人類のゆりかごだが、われわれが永遠にゆりかごにとどまることはないであろう』、そんなロマンチックな言葉に騙されて宇宙を研究しているんです」と語った。


大気に逆らって上昇するロケットに対して、スペースプレーンは大気を利用して加速によって揚力を得て上昇する 実験に用いるスクラムジェット模型はスライド右上の小型のもの

瀬名氏、出渕氏ともファンと笑顔で言葉を交わしながらサイン会が行なわれた
 最後に、瀬名氏をコーディネータとして登壇者全員によるパネルディスカッション「イマジネーションが光速をこえる!」が行なわれた。アシモフの『ロボット工学の3原則』やロボットの『知能』『心』などについて、講演者がそれぞれの立場から定義や解説、その実現可能性などを工学のみならず社会倫理やアートの分野にまで議論を広げ、意見交換を行なった。

 進歩する技術が社会的・倫理的に選択され方向付けられ、未来を創り100年後の機械工学を構築していくだろうという研究者の意見に、瀬名氏が「SFは変わってしまった未来や倫理を描くのは得意だけど、変わっていく過程を描いたものは少ない。そういうのをちゃんと書く小説を書いてみたいな」と、機械系から受けた刺激による新たな小説への意欲を語り、シンポジウムは終了した。

 シンポジウム終了後にはロビーにて手瀬名秀明氏、出渕裕氏の両氏によるサイン会も開催され、それぞれの著作やDVDなどを手にしたファンが長い列を作った。


URL
  東北大学
  http://www.tohoku.ac.jp/
  東北大学機械系
  http://www.mech.tohoku.ac.jp/j/
  瀬名秀明がゆく!
  http://www.mech.tohoku.ac.jp/sena/index.html

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( せとふみ )
2009/02/18 00:23

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