● 今年度より北関東・南関東の地区大会も実施!
2月5日、東京・大手町のサンケイプラザにおいて、組込みソフトウェアの若手人材育成を目的に開かれている「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト」(以下、ETロボコン)の記者発表会が催された。
まず実行委員会 副実行委員長の渡辺登氏(IPA/SEC)が登壇し、ETロボコンの概要について説明した【写真1】。ETロボコンは、日本の産業競争力に必要不可欠な「組込みソフトウェア」分野の教育を推進すべく、UML(Unified Modeling Language)などの手法によって分析・設計したソフトウェアを競うコンテストだ。主催は社団法人組込みシステム技術協会で、ETロボコン実行委員会が企画・運営を行なっている。
このコンテストの具体的な内容は、同一の「LEGO Mindstorms」による走行体によって、あらかじめ決められたコースを自律走行し、ロボット走行性能を競いあうものだ【写真2】。タイムレースで決まるロボットの制御・性能は重要な要素の1つとなるが、ETロボコンではソフトウェア設計モデル(モデリング)の内容も審査される。つまり競技だけではなく、設計過程も重要なポイントとなるわけだ。このあたりが他のコンテストとは大きく異なる特徴といえるだろう【写真3】。とはいえ「開発現場でのモデリングは、まだそれほど浸透しているとはいえない状況だ。ETロボコンによって、全国共通・産学官を巻き込んだ実践教育スキームを目指したい」(渡辺登氏)という。
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【写真1】実行委員会副実行委員長の渡辺登氏(IPA/SEC)。ETロボコンの概要について説明
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【写真2】昨年11月にパシフィコ横浜(ET2008併設)にて開催されたチャンピオンシップ大会の模様
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【写真3】ETロボコンでは、ロボットの性能だけでなく、設計プロセスのモデリングも重要な要素とな
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ETロボコンは今年で8年目を迎えるが、その認知度もかなり広がってきたといえるだろう。たとえば昨年2008年大会では、約1,500人、291チーム(海外参加も含む)がエントリーし、第1回大会の約15倍もの規模に膨れ上がった。2006年までは東京のみの開催であったが、2007年より関東・東海・関西においても地区大会が開かれた。そして昨年は九州・東北でも大会がスタートし、同地区の参加チームが爆発的に増えた【写真4】。いまやETロボコンは全国で参加できる体制になりつつあるという。
発表会では、今年度より新しく開催地区が2つ追加されることがアナウンスされた。1つは北関東(群馬県太田市)、もう1つは南関東(神奈川県横浜市)だ【写真5】。また北海道・北陸・沖縄でもETロボコンの実施説明会を開催し、来年以降の開催に向けて準備を行なう予定だという。地区大会が拡大されるため、多くのチームの参戦が予想されるが、現時点で350チームぐらいを見込んでいる【写真6】。各地区から勝ち抜いた選抜チームによるチャンピオンシップ大会は、この11月にパシフィコ横浜(ET2009併設)で開催される。
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【写真4】2008年は九州・東北でも大会が開かれた。地元での予選開催によって、同地区の参加チームが急激に増えた
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【写真5】2009年は、さらに北関東と南関東でも地区大会が催される予定だ。いまやETロボコンは全国で参加できる体制になりつつある
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【写真6】参加者人チームと人数の推移。今年は350チームを見込んでいるという
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● NXT搭載の新走行体と開発環境で、奥行きの深い作りこみが可能に!
さて今年の競技で目玉となるのが、従来の現行機・LEGO Mindstorms RCXに加え、新しく採用される走行体だ。これは既報のとおりだが、LEGO Mindstorms NXTを採用した「二輪倒立振子ライントレースロボット」という位置づけである【写真7】。2009年大会は、新旧走行体の移行期間とみなしており、とりあえず旧走行体も継続して利用できるという【写真8】。
発表会では来年の競技に向け、新走行体によるデモも実施された【動画1】。技術委員の近松隆氏(サイバネットシステム)は「NXTの導入によって、CPUも32bitのARM7になり、メモリ容量もセンサー利用も広がり、開発の敷居は低く、奥行きが深い作りこみができるようになる」と説明した。
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【写真7】新しく採用される走行体(写真奥)。Mindstorms NXTを採用した二輪倒立振子のライントレースロボットだ
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【写真8】従来のLEGO Mindstorms RCXによる走行体も継続して利用できる。2009年大会を新旧走行体の移行期間とみなしている
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【動画】このデモでは、NXTで動かせるパフォーマンスの半分程度の力だという。競技を通じて、ヨチヨチ歩きの段階から、ロボットがどのくらい進化するかというところが見どころ
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新走行体のセンサーには、光センサー、ジャイロセンサー、タッチセンサー、超音波センサーを搭載し、駆動系はエンコーダ内蔵DCモータで左右の車輪を独立制御する仕組みだ【写真9】。詳細の競技内容については、今年の春ごろに決定するというが、この二輪倒立を行なう走行体によって、技術的な面で、不安定なものを安定化して動かすという制御技術の真髄にチャレンジできる。
また新走行体の導入により、開発環境のオープン化も進めたい意向だ。参加者がモデリングやデバックなどのツールを自由に選択し、またベンダーも参加者にこれらのツールを提供できる環境も提供する【写真10】。ETロボコン実行委員会では、大会に参加する際の基本的な知識を技術教育として説明し、必要最小限の環境(サンプルコード、コンパイラー、制御ライブラリー)を整えられるようにする方向だ。たとえば、NXT用C/C++開発環境としては「nxtOSEK/JSP」が、NXT用Java開発環境としては「leJOS NXJ」(Java)がサポートされる【写真11】【写真12】。なお倒立振子制御用のAPIに関しては、前者では提供されるが、後者では未提供となるので独自に作成する必要があるという。
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【写真9】NXT新走行体の仕様。光センサー、ジャイロセンサー、タッチセンサー、超音波センサーを搭載。エンコーダ内蔵DCモータで左右の車輪を独立制御する
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【写真10】開発環境のオープン化も推進する方向。参加者がモデリングやデバックなどのツールを自由に選択し、ベンダーも参加者にツールを提供できる環境を整える
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【写真11】NXT用C/C++開発環境として「nxtOSEK/JSP」が用意される。これはTOPPERS ATK/JSPをベースとした国産オープンソースプロジェクトによるもの
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【写真12】NXT用Java開発環境としては「leJOS NXJ」(Java)が用意される。ただし、こちらでは倒立振子制御用APIはサポートされず、独自に作成する必要がある
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● 参加者のスキルアップだけでなく、審査員の人材も育成する
このほかにもETロボコン本部審査委員会の鷲崎弘宜氏(早稲田大学/NII)より、審査方式についての説明があった【写真13】。昨年のETロボコンから総合評価方式になり、モデリングと走行の優勝を個別に行なっていたが、両者をマージした総合優勝も追加された。こちらは審査員でモデルの正確性・理解性、走行体の妥当性・性能に関して定性評価を行ない、さらに両者の調和平均をとることで、バランスのよい評価が行なえるように工夫を凝らしているという。
初期の大会と直近の大会を比較したモデルから見えてくることは、参加者の技術レベルの向上だという。モデリングの種別・表現方法、接続など、より多面的な分析が行なわれるようになったそうだ【写真14】。とはいえ、モデルと走行の相関関係は、まだそれほど強くはない【写真15】。これが意味するところは、走行競技は優れた結果が出せていてもモデルが弱い、あるいはその逆にモデルは優れているが、実競技に結果が反映されないということ。「一部には両方とも優れたチームも現れているが、典型的な組み込み開発や、モデル先行開発に偏らない開発をすることが今後の課題になる」という。
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【写真13】ETロボコン本部審査委員会の鷲崎弘宜氏。審査員の立場から近年の傾向について分析
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【写真14】初期の大会と直近の大会を比較したモデル。参加者のスキルが確実にアップしており、モデリングの種別・表現方法など、より多面的な分析が行なわれるようになった
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【写真15】モデルと走行の相関関係は、まだそれほど強くない。典型的な組み込み開発や、モデル先行開発に偏らない開発をすることが今後の課題
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また参加者のみならず、審査員についても育成を図っていきたい意向だ。「大会規模の増大に伴い、従来のような本部審査による体制では、審査数の限界が近づいている。どうしても駆け足での審査になってしまい、じっくり審査することが難しい状況だ」という。そこで地区予選での審査員を育成し、本部側は主にチャンピョンシップ大会と地区審査員のサポートに注力する方針だ。
運営委員長の小林靖英氏(アフレル)【写真16】は、ETロボコン実行委員会の運営方針について説明した。多くのソフトウェア技術者の人材育成を考える際にロボット競技は大変有効な手段になる。小林氏は「昨年のETロボコンでは1,500人もの参加者があった。見方を変えると、ETロボコンという1つのプラットフォームで1,500人の人材育成ができたということ」と語る。ETロボコンの参加にあたっては、各地区において参加者に対する技術教育を2日間にわたり実施。これはボランティアベースの実行委員によって支えられている。そのほかの運営に関わるあらゆる部分もボランティアの力がなければ成り立たないものだ。また自治体や企業の活動にも支えられているが、さらなる発展に向けて広くスポンサーを募集しているところだ。
最後に実行委員長の星光行氏(ゼンテック・テクノロジー・ジャパン)【写真17】が締めの挨拶を行なった。「国内には数多くのロボットコンテストがあるが、ETロボコンでは決められた条件のもとで、ソフトウェアを開発することが重要だと考えている。参加者からはセンサーなどを増やしたいなど、いろいろなアップグレードの要望も出ているが、あくまでお金をかけずに気力と忍耐で頑張ってほしい。また教育面での効果については、教えられる人を育てることが一番のショートカットになるので、ETロボコンを通じて全国津々浦々で教育活動を広げていきたい」と述べ、関係各位への協力を求めた。
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【写真16】運営委員長の小林靖英氏。ETロボコン実行委員会の運営方針について説明。さらなるETロボコンの発展に向けて、幅広くスポンサーを募集しているところだ
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【写真17】最後に実行委員長の星光行氏が締めの挨拶を行なった。ETロボコンでは、条件のもとでソフトウェアを開発することが重要だという
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■URL
ETロボコン
http://www.etrobo.jp/ETROBO2008/index.html
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( 井上猛雄 )
2009/02/06 17:39
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