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「産総研オープンラボ」が開催
~今年は250研究室・300テーマに規模を拡大


産業技術総合研究所・つくばセンター。広大な敷地に多数の研究棟がある
 10月20日~21日の日程で、産業技術総合研究所(産総研)がオープンラボを開催した。産総研の「つくばセンター」(茨城県つくば市)にある約250の研究室が成果などを公開するもの。従来は各部門で独自に行なってきたが、今回初めて全体規模のイベントとして実施された。

 多くの来場者を集めて、産学連携を促進するのが狙い。また産総研の研究者にとっては、社会にどんなニーズがあるのか肌で知るいい機会でもある。

 このページを見てもらえれば分かるように、今回のオープンラボでは幅広い分野の研究が紹介されていたのだが、ロボット関連が多いのは「知能システム研究部門」である。本記事では同部門の研究内容をレポートしたい。


HRP-4は女性型になる?

 ヒューマノイド研究グループの梶田秀司氏からは、多指ハンドの研究が紹介されていた。産総研はヒューマノイドロボット「HRP-2」「HRP-3」などを開発してきたが、研究を進めるにつれて、「いろんな作業をさせたいという欲求がでてきた」という。そのために、同氏のグループではロボットハンドの開発を進めている。


HRP-2による「会津磐梯山踊り」も披露された。これはお馴染み HRP-3に電気ドリルを持たせてナットを締めることも試した

 残念ながら撮影は不可だったのだが(この写真が参考になる)、HRP-3プロトタイプに取り付けられた4本指のロボットハンドでテニスボールを掴むデモが行なわれた。13個ものモーターが使われている自由度の高さがウリで、テニスボールを落とさずに持ち直す仕草が実現されていた。まだ開発の初期段階とのことだが、将来的には「目で見た物を全て掴めるようにするのが目標」だという。

 また氏からは、現在開発中の「HRP-4」に関する言及もあった。もっとリアルな人間に近づけることを考えているそうで、たとえば膝を伸ばした歩行を実現することが目標の1つになっているようだ。すでに下半身部分が完成しており、来年の春くらいには発表できる見込みとのこと。


どこかで見たような……。これはまあイメージだが、もっと人間に近く、ということ 綺麗な歩行を実現するために、ファッションモデルの歩行動作もキャプチャした HRP-4の開発スケジュール。来年春ころには見ることができそうだ

生活を支援するロボット

 自律行動制御研究グループの横井一仁氏からは、生活を支援するロボットの研究が紹介された。プラットフォームとなっているのはHRP-2で、人間と音声でコミュニケーションを取るための音声認識・発話機能(NECが開発したモジュールを採用)が実装されているほか、環境を認識するための視覚機能が強化されている。

 デモでは「冷蔵庫を開けて飲み物を持ってくる動作」と「テーブルの上の赤いコップを掴む動作」が披露された。後者のデモは、赤いテーブルの上に赤いコップが置かれており、色のみで認識するのは難しい。また同じ形の青いコップも置かれているので、形だけでも判断はできない。色と形の両方を用いることで、日常生活の中で対象物をうまく認識できるようになるという。


【動画】冷蔵庫を開けて飲み物を持ってくるデモ テーブルの上のコップを認識して掴むデモ 様々なセンサーが搭載されている

 そのほか、デモは行なわれなかったものの、重量物を持ち上げる動作の研究も実施したそうだ。HRP-2は片手で5kgが標準だが、この実験では両腕で23kgの持ち上げに成功したという。重い物でも、静的に保持できる姿勢はいくつかあり、その2つの姿勢の間を一気に動かすことで実現した。このあたりはウエイトリフティングと同じ理屈になるだろう。


重い物でも、緑の範囲では保持することができる。その間を一気に動かす 障害物の回避動作も研究している。高速に干渉を検出できるアルゴリズムを開発した

職人技とロボットの融合

これが「へら絞り」の技。2005年に福岡で開催された国際宇宙会議でも披露されていた
 個人的に興味をそそられたのは「ロボットへら絞り」の紹介。へら絞りは「町工場の職人技」といったイメージが強いが、いまだに航空宇宙分野でも使われるなど、現代産業にとって欠かせない技術である。金型を必要としないので、特に多品種少量生産などに適している。

 へら絞りは陶芸の“ろくろ”のように、回転する金属素材に“へら”を当てて加工していくものだ。なので、普通は断面が円形になる加工しかできないのだが、ロボット制御を利用すれば、回転と絞りを同期させることができるので、楕円や6角形などの形状でも加工が可能となる。すでに大東スピニングと共同で、加工機のプロトタイプも開発したそうだ。


この実験装置でデモが行なわれていた(6角形に加工中)。モーターを使って“絞り”を制御している 【動画】こちらは楕円形に加工しているところ。加工ローラーが左右に動いているのが分かる 「へら絞り」としてはありえない断面。ロボット制御を使えばこういった形も可能になる

サーボモーターに新規参入?

 分散システムデザイン研究グループが紹介していたものが高機能移動検査ロボット「DIR」シリーズ。これまでに三角クローラを使ったDIR-1/2を開発してきたが、高性能である反面、コストが高すぎるという問題があったために、実用化を見据えて、コストダウンを図ったDIR-3を新たに開発した。床下点検などの用途が考えられているという。


三角クローラを採用したDIR-1(左)とDIR-2(右) 【動画】30cm以上の段差でも超えることができるという 3号機では普通のクローラになった。上下反転しても走行が可能

 通常のクローラタイプになったために、乗り越えられる段差の高さは85mm程度までになってしまったが、実際の用途ではこのくらいで十分だという。複雑な機構がなくなったために、コストは従来機の4~5分の1に下がった。また走行性能も向上している。

 ところで、このロボットにはオリジナルのサーボモーターが搭載されているのだが、これを市販する計画もあるそうだ。トルクと速度は減速比次第となるが、ハイトルクタイプが100kg・cmで回転数が15rpm程度、ハイスピードタイプが20kg・cmで150rpm程度で回転していた。実際の製品で仕様が変わる可能性はあるが、今後に注目だ。価格は4万円程度になる見込み。


サーボモーターはオリジナル。ロボット同じく、群馬県のAUCと共同で開発した 【動画】動かしてもシャープペンシルの芯が折れない。精度の高さをアピール

次世代のアクチュエータ、球面モーター

 もう1つ、アクチュエータ関連で面白かったのは「球面モーター」の紹介。通常のモーターは1自由度なので、肩などの関節を構成するためには複数個を組み合わせる必要があるが、これを1個で実現してしまおうというのが球面モーターの狙いである。モーター個数の削減により、省スペース、省エネルギーも期待できる。

 研究の歴史は意外と古く、主任研究員の矢野智昭氏によると「1985年くらいからやっている」そうだ。途中、製品化を急いだメーカー側の意向もあり、2軸が入れ子状になった“疑似型”も開発したが、やはり“本物”を作りたいということで、最近はまた本来の球面モーターの開発に力を入れているそうだ。


このあたりは初期に開発したもの 【動画】こういうものも作ったが…… 【動画】再びこういった形に。2自由度を実現

 残念ながら最新型の撮影は不可だったのだが、最新型では3自由度を実現したという。内部にある球の表面には永久磁石が配置され、外側の電磁石で回転をコントロールする。永久磁石と電磁石の配置がポイントで、様々な組み合わせをこれから試すそうだ。


夏には一般公開も

 このイベントは、いわゆる“一般公開”とは異なり、対象は企業や大学の関係者となっている(だから平日に開催されているわけだ)。一般向けには、毎年夏に公開イベントが開催されているので(今年は7月26日)、産総研の研究内容に興味があればこちらを利用したい。また同センター内には「サイエンス・スクエア つくば」という展示施設もあり、こちらは休館日以外であれば毎日見学が可能だ。


URL
  産業技術総合研究所
  http://www.aist.go.jp/
  産総研オープンラボ
  http://www.aist-openlab.jp/


( 大塚 実 )
2008/10/23 20:21

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