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「第二回マイクロロボコン高校生大会」レポート
~1インチ角のキューブ・ロボットに知恵と夢を凝縮する


【写真1】日本工業大学・宮代キャンパスで開催されたマイクロロボコン高校生大会。まだ2回の新しい大会だ。このサイズの小さなロボット大会は、ほとんど行なわれていない
 9月13日、埼玉県の日本工業大学・宮代キャンパスにおいて、「第二回マイクロロボコン高校生大会」が開催された【写真1】。このコンテストは、微小化が進むセンサーやアクチュエータなどのマイクロメカニズムの実用への応用と、ロボットコンテストを融合し、高校生の創造性を刺激する新しい競技を目指して開かれたもの。

 第一回大会は、日本工業大学の創立100周年記念行事の一環として昨年に開催されたが、参加者や関係者から好評を博したため、今年も引き続きコンテストが行なわれた。大会への準備として、参加者がマイクロメカニズムやロボット設計に必要な基礎知識や技術について学習する、講習会や工作教室なども行なわれた。

 本コンテストでは、わずか1インチ(2.54cm)角という小さなロボットを使用し、所定コースを自律走行させてタイムを競う【写真2】。従来さまざまなロボット競技が開催されてきたが、この種の微細ロボットによる競技会は少なく、ユニークな大会といえるだろう。マイクロロボットは、1インチ角内にCPUやバッテリを搭載するだけでなく、通常のロボットに匹敵するような機能が要求される。本コンテストへの参加者には、日本工業大学からロボット製作キットが無償で提供された【写真3】。

 キットには、ロボットの頭脳となるPICマイコンや、2個の赤外線センサー、マイクロDCモーターなどが含まれており、これらを組み立てればロボットの機体は完成する。また、ロボットの構成材料は実習などで余った端材で製作することもできる。そのため省エネルギー・省資源をめざすエコロジーなロボットコンテストでもあるという。小型CPUやモーターなどの技術に慣れれば、製作費やメンテナンスのコストを軽減できるため、気軽に参加することが可能だ。

 競技ルールは、財団法人ニューテクノロジー振興財団マイクロマウス委員会によって制定された「ロボトレース競技規定」に準拠している。ただし、寸法や決勝トーナメントの運営方法などに関しては、大幅に規定を変更している。ロボットが小さいため、競技フィールドもA2サイズ程度のマット合成紙で小さくできている。

 具体的な競技内容は、フィード上に描かれた5mm幅の白いラインをロボットでトレースしながらコースを周回し、ラップタイムを競い合うというもの。直線と曲率の異なる曲線でコースが構成されており、ゴールラインはスタートラインから100mmのところにある。詳しいコースについては、大会当日までは公開されない決まりだ【写真4】。


【写真2】大会で使用するマイクロロボコンの一例。本体サイズはわずか1インチ(2.54cm)角。本当に指先でつまめるほどの大きさだ 【写真3】ロボット製作キットは日本工業大学が無償で提供。このサイズにPICマイコン、発振器、そのほかの各種電子デバイス、赤外線センサー、マイクロDCモーター、センサー調整用ボリュームなどが搭載される 【写真4】走行競技用のフィールド。ロボットが小さいためフィールドもA2サイズと小さい。こちらは第1回戦の予選で使用されたもので、比較的簡単なトラックだ

長野県勢が圧倒的な強さをみせた

 午前中の催しは、主催校である日本工業大学の柳澤章学長による挨拶など、盛大な開会式から始まった【写真5】。競技前には参加者が各自で製作したロボットが規定どおりにできているか、レギュレーションチェックも行なわれた【写真6】。

 ここでは本体サイズはもちろん、直線コースを規定時間内に走行できるかなど、基本機能がチェックされた。2回目となる本大会では120台がエントリーし、92台がレギュレーションを通過したという。「第1回大会に比べて、レギュレーションで落ちる機体が少なくなり、全体の技術レベルが底上げされた」と評するのは、大会実行委員長の中里裕一教授だ【写真7】。


【写真5】開会式の模様。主催校である日本工業大学・柳澤章学長の挨拶 【写真6】レギュレーションチェックの会場。ロボットのサイズ、規定どおりの走行性能があるかチェックされる 【写真7】ルール説明を行なう、大会実行委員長の中里裕一教授。昨年よりも参加者の技術レベルが上がったという

 予選競技では、全部で12個のレーンが用意され、同時に競技が行なわれた。競技時間は1人3分間で、最大5回まで試技が可能だ【写真8】【写真9】。そのうちラップタイムが最もよい記録が採用される。なお本年の大会より、タイムを自動計測できる記録システムが導入された。赤外線センサーで計測の開始・終了を行なえるため、厳正な結果を残せるようになった【写真10】。

 また、携帯電話でQRコードを読み取って、サーバー上にアップされた記録をすぐに確認できるような工夫も見られた【写真11】。


【写真8】いよいよ予選競技の開始。12個のレーンが用意され、同時に競技がスタート。モノが小さいため、競技の模様はスクリーンに映し出される 【写真9】予選競技。競技時間は1人3分間で、最大5回まで試技が可能。最も短いラップタイムを記録にすることができる

【写真10】今年から導入された自動計測記録システム。赤外線センサーでスタートとゴールを検出するため、厳正な結果を残せる 【写真11】こちらも便利なアイデアだ。携帯電話でQRコードを読み取り、自身の記録をすぐに確認できる

 第1次予選では10秒56までのタイムに入ったチームが次の試合に進んだ。予選1位になったのは長野県・飯田工業高専の「Helios」(桐生敦行くん)で、5秒41とダントツの記録を残した。この記録を筆頭にして今大会では、予選通過者32名のうち21名までが長野県勢で独占されるという結果になった【写真12】。

 ロボットはキットであるが、やはりサイズが小さいため、半田付けを含めて製作が大変だったようだ。外見は似ているものの、実際の試合結果でわかるとおり、プログラムの組み方などによって、だいぶ個性が出てしまうようだ【動画1】【動画2】。


【写真12】記録集計係。予選を通過した32名のうち、なんと21名までが長野県勢という結果になった 【動画1】第1次予選の模様その1。カーブと直線コースのライン・センシングによって、ロボットの動きが微妙に異なっているようだ 【動画2】第1次予選の模様その2。センサーのサンプリングタイムを短めにしているようで、ラインに沿って安定した制御が行なわれている。高速走行と制御の兼ね合いが重要なところ

 続く第2次予選は、第1次予選と同じようなタイムトライアル競技が、選抜された32名によって行なわれた【写真13】。2次予選のコースは8レーンほど用意されていた。コースはより曲率のあるカーブが含まれており、第1次予選のコースと比べて一段と難しくなっていたようだ【動画3】。第2次予選通過者は8名だが、第1次予選で大量通過者を出した長野県・箕輪進修高校が6名進出という結果になった。そのほかの高校では長野県・駒ヶ根工業高校の「駒工雷電1号」が2位、栃木県・宇都宮工業高校の「ポチ」が4位に食い込んだ。


【写真13】第2次予選のコース。より曲率のあるカーブが含まれている。某サーキットのコースにも似ているような気もする 【動画3】第2次予選の走行の模様。カーブでスピードを落とさずに、いかに滑らかに走行することができるかが好記録のポイントとなる

知恵と夢が凝縮された優勝ロボットは?

 さて、いよいよ午後からは、上位8台に選ばれたロボットによる熱い決勝戦が始まった。決勝戦は予選とは異なり、1対1のサドンデス方式のトーナメント戦となった。戦いの組み合わせは、第1次・2次予選の記録を考慮し、大会実行委員会が決定。決勝トーナメント1次試合(準々決勝)のコースは、シンメトリックな「工」の字をあしらったもので【写真14】、予選と比べてさらに鋭角なカーブも多くなり、難易度が上がっていた。

 準々決勝の第1試合は、箕輪進修高校の「アニメ同好会1号」と宇都宮工業高校の「ポチ」の戦いだ。残念ながら、ポチは最初のセンサーの調整がうまくいかなかったようで、アニメ同好会1号が準決勝に進んだ。

 準々決勝の第2試合は、箕輪進修高校同士の組み合わせで「Robot Industries」と「百足」の対戦となった。こちらの戦いは手の内を互いに知っているため、少しやりづらそうだったが、昨年の覇者であるRobot Industriesが際どい勝負で逃げ切った【動画4】。


【写真14】準々決勝のコース。シンメトリックな「工」の字をあしらったもの。やはり予選コースよりも難しくなっている 【動画4】Robot Industries(右)と百足の対戦。Robot Industriesが際どい勝負で次試合に進んだ

 準々決勝の第3試合は、駒ヶ根工業高校の「駒工雷電1号」と箕輪進修高校の「蜘蛛」が戦った。両者ともよい記録だったが、僅差で駒工雷電1号が敗れた。実は勝者の蜘蛛は、前試合で百足をエントリーした箕輪進修高校の武井幹くんが製作したもので、彼は2台のロボットで決勝トーナメントまで進出した。準々決勝の第4試合も箕輪進修高校同士の戦いだった。「ミノキチ」と「スカトラック改」がタイムを競いあい、接戦の末にミノキチが勝利をつかんだ。

 準決勝からは、すべて箕輪進修高校同士の戦いとなった。準決勝のコースは、日本工業大学の英語の頭文字をとった「NIT」【写真15】。1回戦目はアニメ同好会1号とRobot Industries【動画5】の対戦だ。当初、アニメ同好会1号が一歩リードしていたものの、Robot Industriesが最終コーナー付近で追い越し、勝ち越した。2回戦目の蜘蛛とミノキチの戦いも僅差の勝負で、ゴール直前では思わず息を飲むような展開になったが【動画6】、蜘蛛が勝利を収めた。

 その結果、3位決定戦はミノキチとアニメ同好会1号によって行なわれ、両者ともほぼ同時にコーナーを回っていたが、ミノキチが3位の座を手中に収めた【動画7】。


【写真15】準決勝の模様。日本工業大学の英語の頭文字をとった「NIT」のコースで対戦。ここからは、すべて箕輪進修高校同士の戦いとなった 【動画5】アニメ同好会1号(左)とRobot Industriesの対戦。後半の追い上げが激しいRobot Industries。同じロボットに見えるが、やはり勝つためのノウハウがあるようだ

【動画6】蜘蛛(左)とミノキチによる準決勝の戦い。ゴール直前で思わず息を飲むような展開になったが僅差で蜘蛛が勝利をつかんだ 【動画7】3位決定戦の模様。どちらも少しの差しかないのだが、ミノキチ(右)が3位の座を手中に収めた。この競技は想像以上に奥が深い

 そして、いよいよ頂点を極めるロボットが決まる戦いが始まった。決勝コースは、日本工業大学百周年を記念した「100」という数字【写真16】。

 Robot Industriesは、昨年のディフェンディングチャンピオン・井上大樹くんのロボット。一方、蜘蛛は決勝トーナメントに2台のロボットを進めた武井幹くんのロボットだ。

 気になる結果は、連続したカーブが続くコースで安定した走りをみせたRobot Industriesが優勝の座を射止めた【動画8】。最終的な戦いの結果は以下のとおりだ。試合終了後には表彰式が行なわれ、入賞者には賞状とトロフィーが授与された【写真17】。


●優勝
「Robot Industries」(箕輪進修高校・井上大樹くん)
●準優勝
「蜘蛛」(箕輪進修高・武井幹くん)
●3位
「ミノキチ」(箕輪進修高・山崎貴博くん)
●4位
「アニメ同好会1号」(箕輪進修高・油井考舟くん)
●5位
「ポチ」(宇都宮工業高校・池田直史くん)
「百足」(箕輪進修高校・武井幹くん)
「駒工雷電1号」(駒ヶ根工業高校・山岸誠くん)
「スカトラック改」(箕輪進修高校・原裕也くん)


【写真16】決勝戦のコース。日本工業大学百周年を記念した「100」という数字を模したもの 【動画8】決勝戦の模様。Robot Industries(左)と蜘蛛の戦い。カーブが続くコースで安定した走りをみせたRobot Industriesが勝った 【写真17】表彰式の模様。入賞者に賞状と大きなトロフィーが授与された。どの試合も優劣つけがたい、よい勝負であった。中央は優勝した箕輪進修高校・井上大樹くん

奥が深いマイクロロボコン大会! よい成績を残す秘訣とは!?

 マイクロロボコン大会で、よい成績を残す秘訣は、ハードウェアでは主にセンサーの取り付け位置にポイントがあったようだ。記録がよかったロボットは、カーブを曲がる際にコーナーマーカーを先読みして(曲率が変化するコースにはマーカーが付いている)、あらかじめカーブと判断して速度を制御するようにプログラムを組んでいた。

 箕輪進修高校のロボットでは、速くマーカーを読み取れるようにセンサー部をできるだけ前に出していたそうだ。そのため、特にカーブの多いコースではこのセッティングが効いたようだ。

 また、ロボットの重量を軽くするために機体の一部を削ったり、駆動系にベアリングを使用してシャフト抵抗を軽減させたりと、小さなロボットにさまざまな工夫を凝らす参加者もいた。製作キットをそのまま利用するのではなく、改造を施しているものが上位に食い込んでいたようだ。

 そのほかにもセンサー感度の調整も大きなポイントだろう。競技前に機体調整の時間が与えられるわけだが、ここでセンシング感度をボリュームで設定し、周囲環境に合わせた調整を行なう。しかし、昨日まで調子がよくても、当日になって突然動かなくなってしまったロボットも見受けられた。これ以外にも、センサーのバラツキが原因で動かなかったロボットが、センサーを交換したら、いきなり動き出したというケースもあったそうだ。

 試合結果は、箕輪進修高校が優勝から4位まで入賞を独占したが、同校以外にも宇都宮工業や茨城県・水戸工業、山形県・山形電波工業など、他のロボコン大会で上位に食い込んでいるような強豪校も参加している。また、岩手県・千厩高校のような遠い地区からの参加もあった【写真18】。さらに来年の第3回大会では参加者が全国に広がり、新規の参加校も入賞できるよう頑張っていただければと思う。

 この大会とは直接関係はないが、会場ロビーで後援のロボット関連メーカーによる展示とデモも行なわれていた【写真19】。ヴィストンは、子供と同サイズのヒューマノイドロボット「Vstone Tichno(ヴイストン ティクノ)」や、オーディオ出力を備えたホビーロボット「Robovie-X」などを展示【動画9】。

 ゼットエムピーは、エンジニア育成カリキュラム「ZMP e-nuvoシリーズ」のキットとして、車輪型ロボット教材「e-nuvo WHEEL」による倒立二輪のデモンストレーションなどを行なっていた【動画10】【写真20】。


【写真18】もっとも遠い地区からの参加、岩手県立千厩高校の皆さん。朝早くから出発して会場に来たという。お疲れさまでした! 【写真19】後援のロボット関連メーカーによる展示とデモ。ヴィストン(写真)とゼットエムピーが出展していた 【動画9】ヴィストンのホビーロボット「Robovie-X」によるエア三味線のデモ。オーディオ出力を備えており、音楽にあわせて動作する

【動画10】ゼットエムピーの車輪型ロボット教材「e-nuvo WHEEL」で倒立二輪のデモ 【写真20】倒立二輪といえば、やはり「セグウェイ」だろう。これは日本工業大学で制御学習用に導入しているものだという

URL
  第二回日本工業大学マイクロロボットコンテスト高校生大会
  http://ise.nit.ac.jp/mrc2entry.html


( 井上猛雄 )
2008/09/17 20:26

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