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人間型ロボットハンドを手話やリハビリ用に応用
~日本機械学会 関東支部埼玉ブロック「機械の日」特別講演会より


【写真1】岐阜大学工学部 人間情報システム工学科知能制御システム工学講座 毛利哲也講師
 日本機械学会の関東支部埼玉ブロックは8月8日(金)、東洋大学川越キャンパスにおいてロボットハンドに関する特別講演会を開催した。本講演会は「機械の日」のイベントの一環として催されたもので、岐阜大学工学部の毛利哲也講師【写真1】が、「ロボットハンドの現状と未来」をテーマに、多指ロボットハンドについて解説した。

 毛利氏は、過去の文献や写真を交えながら、ロボットの歴史や定義などの基本知識を説明した後で、現在研究しているロボットハンド「Gifu Hand」について紹介した【写真2】。このロボットハンドは、岐阜研究開発財団の助成を受け、1996年から岐阜大学川崎研究室と株式会社ダイニチが共同研究を開始したもので、2006年度には文部科学大臣表彰(科学技術賞)も受賞している。Gifu Handは、さまざまな改良を経て、現段階で「Gifu Hand III」に加えて、現段階で軽量の「Gifu Hand III L」と小型・高速型の「KH Hand S1」が市販されている【写真3】【写真4】【写真5】【動画1】【動画2】。

 これらハンドの最大の特徴は、いわゆる機械的な形状の産業用ハンドとは異なり、人の手に近い形をした人間型ロボットハンドであること。1本の指で4関節3自由度(5本指で合計20関節16自由度)を持ち、駆動にアクチュエータ内蔵方式を採用している【写真6】。関節には、DCモータ、ギアヘッド、エンコーダで構成するサーボモータユニットを内蔵。ギアヘッドの遊星ギアで低回転・高トルクになるように出力を変換し、エンコーダで関節角を計測する。


【写真2】2006年度に文部科学大臣表彰(科学技術賞)を受賞したロボットハンド「Gifu Hand」。最大の特徴は、人の手に近い形をした人間型ロボットハンドであること 【写真3】小型・高速型のKH Hand S1。こちらの写真は、東洋大学機能ロボティクス学科の山川研で導入されているもの 【写真4】講演後に山川研において、実物のKH Hand S1によるペットボトル把持のデモを実施していただいた

【写真5】デモの様子。パソコンの専用ソフトによって各指関節ごとに回転角度を設定したり、実際にハンドが動いた角度や電流値(トルク)を表示できる 【動画1】KH Handの動き。人間の指のように素早く、柔軟に動作していることが分かる

【動画2】こちらはデータグローブを利用したマスター・スレーブ動作。マスター側に遅れることなく、スレーブ側のロボットハンドが追従していく 【写真6】初期の指部分のプロトタイプ。付け根部分の第1関節と第2関節で回転・屈曲できるようになっている

 制御システムは、パソコン側のD/A変換ボード(モータ制御の指令電圧を出す)とA/D変換ボード(モータからの電流値=トルク値を取り込む)、カウンタボード(ロボットハンドから送られてきたエンコーダのパルス信号を計測し、位置や速度を把握する)のほか、独立した16chモータアンプなどで構成【写真7】。

 一方、機構部については「関節単位でのモジュール化や指単位でのユニット化」によって、コストや生産面での工夫を凝らしている。機構部の設計ポイントは、親指(以下、拇指)の第1関節と第2関節の軸が、掌の近傍で直交するように(各軸間の距離を縮める)非対称のディファレンシャル機構を使っていること【写真8】。人の親指は、内転・外転と屈曲・伸展を指の根元1点によって同時に動かせる。そこでロボットハンドでも、できるだけ掌面に近い1点で動かせるような仕組みをとっている。また指関節の機構では人の手の動きと同様に「第3関節と第4関節が協調して動く平行リンク機構も採用している」という【写真9】。

 さらに毛利氏は、設計全体のポイントとして「拇指の対向性をどうクリアするかということが重要だった」と説明。人の親指は、そのほかのすべての指と対向するようになっており、これが物体を器用に操作できる理由の1つになっている。そこで評価関数を用いて、指の定量的な対向性を調べたという。そして指の可動域ができるだけ大きくなるように、ロボットの指配置を工夫することで、人と同じ指の動きを実現したそうだ。さらに、この指の対向性に加えて外観も人間の手に近いものにしている。人の手を広げると、中指の中心点から描いた円周上に、すべての指先が乗るようになっている。「そこでKH Handでは、拇指から薬指まで同一円周上に乗る設計にした」と毛利氏は語る。

 また、このロボットハンドにはもう1つ大きな特徴がある。それは指先端に市販の6軸力覚センサを付けたり、指・掌の表面に分布型触覚センサ【写真10】を装着することで、物体の把持力の加減をコントロールできるということ。6軸力覚センサは内部に歪ゲージがあり、力やモーメントを計測できる。一方、分布型触覚センサは、プラスチック・フィルム上に導電性インクで電極パターンを描き、2枚のフィルムを重ねた際に電極パターンが交わる部分の接触力を計測するもの。これにより、物体を把持した際の掌の力分布を求めることが可能だ。


【写真7】システムの全体構成。パソコン側からサーボモータに指令電圧を出す。モータが動くとエンコーダからパルスが返る。これをフィードバックして位置・速度制御の指針とする。またモータ電流値を制御システム側に戻して、トルクをコントロールすることも可能だ 【写真8】拇指の機構。設計のポイントは、付け根部分の第1関節と第2関節にある。できるだけ掌面に近い1点で動かせるように、非対称のディファレンシャル機構を採用

【写真9】そのほかの指の機構。設計のポイントは第3関節と第4関節が協調して動く平行リンク機構。これによって、人間の指と同じ様な動きを実現 【写真10】指・掌の表面にシート状の分布型触覚センサを装着できる点は大きな特徴。ロボットハンド用として使えるように市販品センサを特注したという

未知形状の物体把握やフォースフィードバックによる遠隔制御も

 次に毛利氏はロボット制御についても説明した。制御方法は大別して、自律的制御と遠隔制御(操縦・操作)に分けられる。

 まず自律的制御の研究例として、乳児が無意識で行なう「握り反射」の動作について紹介【写真11】。握り反射とは、乳児の掌に棒を当てると指でその棒を固く握り、さらに棒を奪おうとすると強固に握り返す反射動作のこと。面白いことに、乳児はこのような把握・保持動作を、実際に物を見て行なっているわけでなく、物体に触れたかどうかという情報だけで行なっている。毛利氏は「この握り反射を研究すれば、視覚情報に頼らずに未知形状の物体を把握できるのではないか」と考えたという。そこで握り反射のアルゴリズムをプログラム化して実験を試みたそうだ。

 具体的には、物体がロボットハンドの触覚センサに触れると、ハンドは一定の角速度で制御され、指を曲げていく。指を曲げた後は一定の力で物体をホールドする。実験ではペットボトルを傾けた状態でも、物体形状に合わせてうまく把持することができた【動画3】。さらに本当に一定の力で把持しているのかどうか、壊れやすい紙コップを使って調べたところ、柔軟な平均力で握っていることも確認できたそうだ【写真12】。


【写真11】自律的な制御の研究例として、乳児が無意識に行なう「握り反射」に注目。握り反射によって、視覚情報に頼らずに未知形状の物体を把握できる 【動画3】握り反射によるペットボトル把持のデモンストレーション。ペットボトルを傾けた状態でもうまく把持することができたという 【写真12】紙コップの把持。速度制御の場合には紙コップがゆがんでしまうが、握り反射では均一な力で把持できることが分かる

 毛利氏は、ハンド単体だけでなく、産業用ロボットの先にハンドを付けて、アーム部までを含めた形での実験もしている。物体把持の成否は、初期の接触点の位置で決まってしまうのだが、ハンド単体の場合は接触点の位置を変えることは不可能だ。そこでアームを利用して、物体と最初に接触する位置が掌の中心にくるように移動する。接触点の法線方向を力制御で、直交する面内を位置制御でコントロールすることで、さらに物体を握りやすくなったという。

 ただし、一定の力で物体をホールドしている際に、もし何らかの外力が物体に加わると、その影響でハンドの指が開いて物体を保持できなくなることがある。そこで外力による物体接触点のズレもセンサで検出し、より力強く把持できるような制御も行なっている【動画4】。この把持戦略のためのアルゴリズムは「物体に触れたら指を曲げる」「指を曲げたら一定の力でつかむ」「さらに外力が加わった時にはより強い力を込める」という流れ。極めて単純であるものの、幾何学的情報を何も必要とせず、3次元の未知形状であっても把持できるという大きなメリットがある。

 このほかにも毛利氏は「適応制御」の実験例などを紹介した。これは対象物のさまざまな制御パラメータをオンラインで推定しながら最適なものに収束させていくというもの。軌道制御を繰り返していくうちに、最初は大きかった位置誤差が徐々に減少していくことが分かる。

 一方、毛利氏は、もう1つの制御方法として、遠隔制御(操縦・操作)の研究についても触れた。遠隔制御では、操作者のデータグローブ(マスター側)から関節の角度・位置・姿勢といったデータを得て、ロボット(スレーブ側)のデータとの差を補償する方向に制御を行なうことが一般的だ。この場合は、操作者側の情報がロボットハンド側に送られるだけの一方通行の制御となる。ロボットが物体に触れても、操作者側には物体の感触などは戻ってこない。そこで先ほどの力覚センサや分布型触覚センサによって、「力の情報を戻し、操作者側で力の感覚がつかめるようにフィードバックをかけるForce feedback gloveの開発も行なっている」という【写真13】。


 具体的には、マスター側のデータグローブ側にフレキシブルチューブとスパイラルチューブを取り付け、そのチューブの中にあるワイヤーをサーボモータで動かして指先の先端を引っ張る仕組みだ。もちろん力センサも付いているため、ロボット側の感触に応じた力が操作者側にも掛かる。さらにユニークな点は、ロボットハンドに物体が触れている位置もマスター側に伝えられる工夫を凝らしていること。手の各ポイント(各指に2点、掌に1点の合計11点)に振動モータを取り付け、操作者に振動の感覚を提示できる。

 毛利氏は、このForce feedback gloveの応用例として、アームにロボットハンドを取り付けた際の実験映像も披露した。こちらでは操作者となる人間側にも姿勢センサや位置センサを採用し、アームを含めた形での制御を行なっている【動画5】。遠隔制御をする際には、通信遅延が起きる可能性があるので、注意が必要だという。あまり長い距離の通信になると、操作者側とロボットの動きが数ミリ秒から数秒ほど遅れてしまうことがあり、それが制御系の不安定要素になることがあるからだ。そのため遠隔制御を行なう際には、通信遅延を含めた制御系を構築することが肝要になる【写真14】。


【動画4】ハンド+アーム部の実験。アームを利用して、物体と最初に接触する位置が掌の中心にくるように移動。把持した後でボールに外力を加えても、ボールをうまく握っている 【写真13】Force feedback glove。力覚センサや分布型触覚センサによって力の情報を戻し、操作者側で力の感覚をつかめるようになった。振動モータで力点も分かる

【動画5】アーム+ハンドによる遠隔操作の実例。データグローブだけでなく、操作者の姿勢や位置が分かるようにセンサを利用 【写真14】遠隔操作(マスター・スレーブ)の制御ブロック図。スレーブ側のセンサから指先力をフィードバックし、マスター側に力感を与えている。通信の遅延を考慮した制御系がポイントとなる

手話ロボットやリハビリ用の教育用ロボットなどに応用も

 さて、このような人間型のロボットハンドをどのような形で応用していけばよいのだろうか。毛利氏は、さまざまな分野で応用が利きそうな最近の研究についてユニークな事例を示した。冒頭で紹介したKH Hand S1は、人間より高速に動作する。そのため手話ロボットへの応用を検討中だという。たとえば人が発声した「あいうえお」といった音声をパソコン側で認識し、ロボットハンドの指文字として素早く表現することも可能だ【写真15】【動画6】。このほかにもリハビリ師を目指す教育ロボットや支援システムに役立つほか、手が不自由な患者が自分でリハビリのトレーニングを行う際にも応用できる【写真16】。

 また、画像認識によるロボットハンド制御の研究も進めているという。どの位置に物体があるのかを画像データから認識し、ロボットハンドを移動させて、その物体を把持することが可能だ【写真17】。さらにロボットハンドの機構を応用した「多指ハプティクインターフェイス」も研究している。こちらは、人の手と対向するロボットハンドの多指インターフェイスで、フォースフィードバックが利くため、ディスプレイの画面と連動して固さの違いや重さなどを操作者側で感じとれるもの。2005年に開催された愛・地球博のプロトタイプロボット展で出展した際には、星の重力の違いで物体の重量を体感できたり、絶滅した恐竜の皮膚や見えない微生物に触れて擬似的な触感を体験できるユニークな「百科事典」を実現していた【写真18】。


【写真15】人間型ロボットハンドの応用事例その1、手話ロボット。KH Hand S1は高速動作が可能で、指文字で素早く表現できる 【動画6】手話ロボットのデモンストレーション。音声による認識でロボットが指を動かせることがポイント 【写真16】人間型ロボットハンドの応用事例その2、リハビリ支援システム。マスター側の健康な手にデータグローブをはめて、スレーブ側で障害のある手を動かす仕組み

【写真17】人間型ロボットハンドの応用事例その3、画像認識によるハンドの制御。物体の色を認識して、UFOキャッチャーのように物体を把持ながら移動する 【写真18】人間型ロボットハンドの応用事例その4、「多指ハプティクインターフェイス」。人の手と対向するロボットハンドの多指インターフェイスだ。画面と連動して固さの違いや重さなどを操作者側で感じとることが可能

 これらリハビリ支援ロボットや多指ハプティクインターフェイスは、岐阜の中小企業と共同で研究しているものだが、毛利氏は産学連携による研究についても言及した。まず大学の研究は「すぐに成果が出るというものではなく、ある程度の期間を要することを企業側に理解してもらう必要がある」という。Gifu Handでも実用化までに5年ぐらいの期間が必要だったそうだ。さらに「大学と企業それぞれの専門性の違いを理解して、コミュニケーションを上手にとることや、現場を大切にすることも重要。どういう工程でつくるのか理解していないと、非現実的な設計をすることになりかねない」と注意を促した。

 最後に毛利氏は、まとめとして今後のロボットハンドの課題ついても触れた。「ロボットハンドの歴史はまだ浅い。小型・軽量かつ高出力な機構や、高精度な力センサ・触覚センサの開発、複雑形状物体の把持・操作(制御系の小型化)など、解決しなければならない課題は山済み状態なので、これからも研究を進めていきたい」と述べて、講演を終えた。


URL
  岐阜大学工学部 川崎・毛利研究室
  http://robo.mech.gifu-u.ac.jp/
  ダイニチ
  http://www.kk-dainichi.co.jp/


( 井上猛雄 )
2008/08/21 15:11

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