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第18回ヒューマノイドカップ・ロボットバトル大会レポート

~第11回ROBO-ONE大会直前・最後の認定大会

開会式の様子
 3月4日、福岡市博多区にある博多リバレイン5Fのアトリウムガーデンにおいて、第18回ヒューマノイドカップ・ロボットバトル大会が開催された。この大会はロボスクエアが主催する二足歩行ロボットの大会で、今回が18回目になる(ただし、バトル大会だけでなく、サッカー大会も含めての数になる)。

 今回のヒューマノイドカップ・バトル大会の最大の目玉は、優勝者には第11回ROBO-ONE決勝トーナメントへの出場権が与えられることだろう。これまで関東や関西でROBO-ONE認定大会が行なわれてきたが、今回の大会が第11回ROBO-ONE認定大会のラストとなる。大会の優勝とROBO-ONE出場権を目指して、31台のロボットが全国から参加した。

 ただし、ROBO-ONE GP勢と、すでに出場権を得ているロボットに対しては、参加の段階で出場権の放棄が義務付けられた。具体的には、ROBO-ONE GP勢のARIUS、アリキオン、Metaric fighterの3台、それに「わんだほー」で出場権を獲得しているクロムキッドの計4台。

 場合によっては、上位すべてが出場権を放棄した機体によって占められる可能性もあったわけで、ロボスクエアでは決勝トーナメントの1回戦を勝ち上がった機体によって、出場権獲得の追加トーナメントを行なうことも考えていたようである。


予選のスプリント大会

 決勝のバトルトーナメントの前に、予選のスプリント3000が行なわれた。これはパンチカーペットを敷いた3mのコースを2回走り、いい方の記録のベスト16位までが決勝のバトルトーナメントに出場できる。

 この予選をトップで通過したのはARIUSだった(タイムは6秒48)。1回目のトライはコースアウトしてしまい記録なし。どうなることかと思われたが、2回目は6秒48の記録を出して、きっちりと予選1位を獲得した。

 意外な伏兵は関西からやってきたパンダロボの極だ(関西のイベントでは極悪パンダなどと呼ばれているらしい……)。1回目のトライでいきなり6秒67の記録を出し、周囲を驚かせた(1回目のトライが終了した時点ではトップだった)。

 3位にはアリキオンが入り、GP勢強しを印象付けた。

 地元の九州勢で、一番順位の高かったロボットはTYRANTだ。1回目のトライでは26秒72どまりだったが、2回目のトライでは20秒近くもタイムを縮め、7秒29で4位に入った。

 予選を突破したロボット16台は以下の通り。

・ARIUS(住井杏里奈) 6秒48
・極(大和) 6秒67
・アリキオン(住井奈々子) 7秒22
・TYRANT(江藤勉) 7秒29
・スーパーディガー(ひろのっち) 8秒08
・九共大ー疾風(九州共立大学メカエレ工房) 8秒90
・クロムキッド(くぱぱ) 8秒99
・シンプルファイター(ぜの) 9秒31
・automo02(Holypong) 9秒51
・ワイルダー01(勝野宏史) 9秒72
・フロスティ(山口) 9秒91
・成龍(湯前裕介) 10秒09
・九共大ーZERO(九州共立大学メカエレ工房) 11秒41
・rsv3(吉田) 13秒58
・Gパワーローダーネクスト(角さん) 14秒00
・Q(Qの母) 14秒35


 この中で一番回りを驚かせたのは、16位のQだろう。このロボットは、ロボトスクエアのロボット教室に参加した地元の中学生が組み立てたノーマルのKHR-2であり、しかも大会当日は「組み立てた本人が修学旅行で出場できず、代わりに母親がロボットを持って参加した」という、なかなかにすごい事情のロボットである。

 なお、Metaric fighterの森永氏は、今回新しく加えられたロボットの重量制限(3kg以下)の情報を把握しておらず、急遽当日の会場で軽量化を余儀なくされた。さすがにそれでは本領を発揮することはできず、予選落ちしてしまった(森永氏はROBO-ONE出場権獲得とは関係ないが、「ROBO-ONE本大会の前にバトルをやっておきたかった……」と実に無念そうだった)。


スプリント3000のコース。床面はパンチカーペット 3台のロボットが一度に走る。ロボットは、左から成龍、ガルー、アリキオン 左から予選4位に入ったTYRANT、直前の軽量化作業で不調だったMetaric fighter、9秒72で予選12位のワイルダー01

左から予選2位の極、8秒99で予選9位のクロムキッド、予選1位のARIUS。ARIUSも極も横歩きでスプリントにチャレンジ 腕をぱたぱたさせて走る極 1回目はコースラインを踏んでしまい、失格となったARIUSだったが、2回目に最高記録を出してゴール

予選16位で決勝トーナメントに進んだQの歩行。かなり安定した歩行だった そのQに敗れて17位となったGAT。「ハリセンはポリシー」だとか ロボスクエア史上最年少のオペレーター・しゅんくん(ちなみに4歳)。19秒99で完走し、20位だった。ロボットはスーパーディガーの兄弟機スーパーディガーJrで、もちろん父親のひろのっち氏の製作

決勝トーナメント開催

 決勝トーナメントは3分1ラウンドのバトルで勝負を決する。3ノックダウン、あるいは10カウントダウンで勝負が決まるところはROBO-ONEと同じだが、捨て身技の回数の制限がないなど、ROBO-ONEよりも制限の少ない戦いとなっている(ロボスクエアのロボットバトル大会は、観客に「ロボットは面白い!」と思ってもらう目的が大きく、そのため派手でわかりやすい戦いが求められる)。

 決勝トーナメントの組み合わせは、予選の結果で自動的に決まる。「予選1位と予選16位」、「予選2位と予選15位」というふうに、予選のタイムで上位に入ったものほど有利になるような組み合わせになっている。

 1回戦の目立った戦いを紹介しよう。


バトルリング 決勝トーナメントに進出した参加者 決勝トーナメントの組み合わせ

・クロムキッド VS ワイルダー01

 実はアキバロボット運動会やKONDO-CUPで、何度も顔を合わせている両者。しかし、1対1のバトル試合で対決するのは初めてだ。両者とも素早い動きでリング内を走り回り、好勝負を繰り広げた。すでにROBO-ONEへの出場権を持っているクロムキッドが、ワイルダーからダウンを奪い、その1ダウンを守って勝利した。


高速で位置取りを行なって攻撃を仕掛けるワイルダー01(左) 写真が切れているが、クロムキッドがダウンを奪ったところ ワイルダー01も反撃するが、ダウンを奪えずタイムアップ

・成龍 VS スーパーディガー

 1回戦一番の番狂わせの試合。両者は九州練習会で何度も戦っているが、公式な試合では成龍はスーパーディガーに勝ったことがない。またスーパーディガーは大阪で開催されたロボファイト4のSRC部門で優勝しており、地元勢としての優勝を期待されていた。

 しかし、この試合にかける成龍(読みは「しぇんろん」)の湯前氏の意気込みは高く、成龍にトンファーをつけて戦闘仕様に改造してきた。ディガーの攻撃を受けても倒れず、逆にトンファーでの攻撃でディガーからダウンを奪う。3-0のスコアで成龍がディガーから公式戦初勝利をあげた。


高速で移動するスーパーディガー(左)と、トンファーを装備した成龍 スーパーディガーの回転浴びせ蹴りが決まるが、成龍は倒れない トンファーのアタックで、ディガーを退け、成龍は勢いに乗った

・ARIUS VS Q

 予選1位と予選16位の戦いにして、GP勢とノーマルKHR-2の戦い。さすがに勝負は一方的なものになり、ARIUSが2ポイント先取した後、Qが倒れたまま起き上がれなくなって(接触不良らしい)そのまま勝負がついた。


ARIUS VS Q。Qは息子さんが製作したロボットなので、一応家族対決だ Qはこの体勢で起き上がりができなくなり、敗退

 その他の試合結果は以下の通り。

○automo02 1-0 ×シンプルファイター
○TYRANT 2-0 ×九共大ZERO
○九共大ー疾風 3-0 ×フロスティ
○極 リタイヤ ×Gパワーローダーネクスト
○アリキオン 2-1 ×rsv3


2回戦・激闘のブルー対決

 2回戦で一番の激戦は、2回戦最後の戦いとなった成龍 VS ARIUSだ。この大会のためにトンファーを装備してきた青い髪の成龍と、ロボスクエアには何度も来ていて観客の人気も高いARIUSとの「青いロボット」同士の戦い。

 試合はいきなりダイビングヘッドバッドでARIUSがダウンを奪い、ARIUSがこのままの勢いで押し切るのかと思われた。しかし、成龍も同じくダイビングヘッドバッドでダウンを奪い返す。両者、それぞれ1ダウンを奪い、2-2のイーブンに。このまま時間切れで延長戦突入かと思われた終了間際、成龍のダイビングヘッドバッドが決まり、成龍が勝利した。

 その他の2回戦の様子は写真で紹介する。


成龍、逆襲のヘッドバッド トンファーでの攻撃 ARIUSの猛攻に必死に耐える成龍

TYRANT VS automo02。可動範囲の大きい腕で突きを決め、TYRANTが2-0でautomo02に勝利した 疾風の豪快な飛び込みアタックがヒット。3-0で疾風は極を下した 0-0で初の延長戦となったアリキオン VS クロムキッド。最後はアリキオンの飛び込みアタックで勝負あり

準決勝の2試合

 準決勝の最初の試合は、九共大ー疾風 VS TYRANTという、九州勢同士の戦いとなった。疾風を操る水井氏は九州練習会のリーダーで、 TYRANTの江藤氏は九州練習会に最近加わった九州練習会の新星だ。試合はリーダーの水井氏が貫禄を見せ、疾風の豪快なパンチなどでダウンを奪い、3-0で勝利して決勝進出を決めた。

 決勝へのもう1枚の切符を巡る戦いは、スーパーディガー、ARIUSと強敵を倒してきた成龍と、、rsv3・クロムキッドの関東からの遠征組(実は2月12日のKONDO-CUPで優勝した「個人参加チーム」の2人)を破ったアリキオンとの対戦になった。

 試合では、成龍の新兵器トンファー攻撃が炸裂。最初こそもつれた感じでのダウンだったが、2本目は低い位置へのトンファー攻撃、最後は正面からの突きを決め、成龍が3-0で決勝行きを決めた。


TYRANT VS 疾風。九州練習会の重量級ロボット同士の戦いだ 背後へのパンチを見せる疾風

アリキオン VS 成龍。トンファーを装備した成龍に対して、アリキオンはROBO-ONEの新規定のために最大の武器であったサーベルを外している アリキオンの飛び込みアタックをしのぐ成龍 決勝行きを決めた、成龍のトンファーアタック

3位決定戦

 決勝戦の前にアリキオン VS TYRANTの3位決定戦が行なわれた。TYRANTの浴びせ倒しがアリキオンに決まり、「TYRANTの金星か!?」と思わせたが、TYRANTの起き上がりができなくなりリタイヤ。よって3位はアリキオンとなった。


激闘となった決勝戦~優勝へのサバイバル

 決勝戦は、成龍 VS 九共大ー疾風の九州勢同士の戦いとなった。湯前氏と水井氏は九州練習会のメンバーで、お互いの戦い方をよく知っている。それゆえに決勝戦はヒューマノイドカップ史上に残る名勝負となった。

 疾風は人間の構造を模して作ったロボットで、腰を捻っての強力なパンチを繰り出す。その威力は、まともに当たればKHRクラスの重さのロボットなら「飛ぶ」ほどだ。当然のように疾風は、必殺のパンチに勝負をかけた。

 そのパンチが正面からヒットし、最初のダウンは疾風が取った。しかし、成龍も負けてはいない。正面からのヘッドバッドで疾風を倒し、イーブンに戻す。お互い次のダウンを狙って技を繰り出すが、手の内を知っているので、技が仕掛けられる直前に間合いを外し、なかなか技が決まらない。時間内では勝負がつかず、延長戦に突入した。

 延長戦は先にダウンを取った方が勝ちというルールで行なわれる。ダウンを狙って技を繰り出すが、やはり技をなかなか決めさせない。延長戦でも両者ノーダウンで決着がつかなかった。

 ここでロボスクエアのスタッフが協議し、「ダウンが取れなければ、お互いのバッテリが無くなるまで続けられる」サバイバルマッチが決定。これで決着をつけることになった。両者はバッテリ交換をすることなくファイナルバトルに突入。しかし、両者とも迷うことなく積極的に攻撃をしかけていく。実は九州練習会で比較的長いデモを行なう時もあって、両者とも大容量のバッテリを積んでいたのだ。そして正面から放った成龍のヘッドバッドが疾風の巨体を倒し、ついに成龍の優勝が決定した。


決勝戦の疾風 VS 成龍。ロボスクエアのロボットバトルイベントで、九州勢同士で優勝を争うのは初めて 疾風のパンチが決まり、成龍からダウンを奪う 間合いを外され、疾風のパンチが届いていない

ファイナルバトルの直前 成龍のヘッドバッドが疾風の巨体を倒し、優勝が決定した瞬間 健闘を称えあう両者

1年間の思い結実

 優勝した湯前氏に「優勝の原因は?」と聞くと「一念発起ですかね」との答えが返ってきた。これには深い意味がある。

 以前のロボスクエアでは、イベントの1つとしてROBO-ONEの常連ロボットをゲストに呼んで、ロボットサッカーやバトル大会を開催していた。しかし、九州にも二足歩行ロボットホビーを根付かせるべく、2006年3月26日に公募制のロボットバトル大会を開催した。だが、バトル大会の上位は関西勢が占め、九州勢が上位に食い込むことはできなかった。

 その3月26日の晩に大会に参加した九州のロボットビルダーが集まり、九州練習会を結成。月に1回か2回の練習会を開き、九州の二足歩行ロボットのレベルアップを図った。

 湯前氏は3月26日の大会を観客席で観戦していて、九州練習会に参加。「九州の大会なのに、九州の人間が優勝できないのは悔しい」と言い続けてきた人物である。

 練習の甲斐もあって、九州練習会から全国的に活躍するメンバーも出てきた。リーダーの水井氏は第10回ROBO-ONEでベスト16進出、スーパーディガーのひろのっち氏はロボファイト4SRC部門で優勝、AutomoNicoのholypong氏は京商アスレチクスヒューマノイドカップの無線操縦部門で優勝している。


九州練習会のロボットと共に 表彰式での記念撮影

トーナメントボードの前での撮影。湯前氏は初戦のスーパーディガーに勝ったことで「イケるんじゃないか?」と思ったそうだ 九州共立大学メカエレ工房の指導教官で、九州練習会のリーダーでもある水井氏。「九州のレベルが上がってきたのを実感できたのがうれしい」と語っていた

 これらのメンバーに比べて湯前氏は出遅れたところがあった。見てわかるように成龍はアフロをモデルとして作られており、攻撃力があまりない。そのためこれまで目立った実績はなかった。

 だが、今回の湯前氏は「九州以外の人間にROBO-ONE決勝出場権は渡さない」と一念発起。この大会のためだけに成龍の腕にトンファーを装備し、体重を乗せた攻撃ができるモーションを組み込んだ。そのことを直前まで隠し続けて(大会の1週間前までトンファーは影も形もなかった)大会に臨んだ。

 この勝利への執念が、スーパーディガー、ARIUS、アリキオン、疾風を破り、「九州の大会での九州の優勝者」になったのだろう(成龍の腕のトンファーは、ROBO-ONEの規定に引っかかるので、さっそく取り外す予定とのこと)。

 なお、当日の会場でロボスクエアは、次回の第19回ヒューマノイドカップを5月4日に開催することを表明した。また5月6日には福岡で、京商アスレチクスヒューマノイドカップが開催されることも合わせて発表した。


URL
  ロボスクエア
  http://www.robosquare.org/


( 大林憲司 )
2007/03/08 00:33

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