「産業交流展2009」レポート

~ロボット技術・製品展示ゾーンに全国から多種多様なロボットが集結


ロボット技術・製品展示ゾーン。左が新エネルギーゾーン

 11月4日から6日まで、東京ビッグサイトで「産業交流展2009」(主催:産業交流展2009実行委員会)が開催された。来場者は3日間合計で6万2,744名。今回、特別企画として、「全国新エネルギー及びロボット技術・製品展示ゾーン」が設けられ、全国のものづくり系中小企業が独自または産学連携で開発中またはすでに販売中のロボットを展示した。それらを紹介する。

キュー・アイは小型水中ロボット「DELTA-100R」を出展

 上下水道などの管内点検から海洋での研究調査まで、水中でのさまざまな使用を想定して横浜市のキュー・アイが開発したのが小型水中ロボット「DELTA-100R」だ。キュー・アイはこうした水中・陸上を問わず探査用のロボットを開発しており、その新型がDELTA-100Rということになる。

 同機は、水深150mまで潜行でき、従来製品の約3分の1の小型・軽量化を達成している。バッテリで動作可能だが、ケーブルを利用して電源供給を行なうことも可能。従来製品の約4分の1になる省電力化や、約2分の1の低価格化も実現している。カメラは高解像度・高感度のカラーCCDを搭載し、光学3倍ズームが可能。スラスタは3基搭載し、前後進、左右旋回、浮上潜行を自在に行なえる。操作は、ゲーム機型のコントローラで行なう。センサー類の追加などで、オートパイロット機能を持たせることもできる。

DELTA-100R。点検、探索、調査など水中でのさまざまな使用を想定している小型ロボットだ後方の様子。前後進用のスラスタを2基備える。横向きのものはないので、左右への横進はできないスラスタは3基搭載。これは、上下移動用のもの
暗い水中でもカラーCCDカメラで撮影できるよう、省電力高輝度LED6灯を左右に備えている【動画】カラーCCDカメラを搭載しており、しかも、広角にパンとチルトを行なえる

丸富精工は無線台車ユニットやハプティックインターフェイス製品版を出展

 岐阜県の丸富精工が出展したロボット系製品は2種類。ひとつが、ロボット用の移動システムや移動広告、搬送、案内用途としての利用を想定して産学連携で研究開発が進められている、無線移動台車ユニット「G-Move」(型名はGM-100)。岐阜工業高等専門学校電子制御工学科助教の小林義光氏の研究室を筆頭に、ブイ・アール・テクノセンタークトロ・モデリングサービスユニメックというすべて岐阜県内の教育機関や企業が手を取り合って開発しているというわけだ。

 G-Moveの仕様は、外径が450mm、高さが250mm。バッテリなどを含める総重量は16.2kg。荷搬重量は20kgとなっている。最大速度は1~3km/hで、全方位センサーや接触バンパー、通信断絶時に自動停止する機能などで安全面を確保している。

 ロボットの移動システムとして利用する場合は、生活支援サービスロボットへの利用が考えられている。具体的に挙げられていたのは、「屋外公園緑化支援サービスロボット」。都市部のヒートアイランド対策として、公園のさらなる緑化が現状で比較的実施しやすい対応策なのだが、それでも整備や管理などいろいろと課題がある。そこで、数100mから数kmの範囲で移動できるロボットで支援しようコンセプトで屋外公園緑化支援サービスロボットが考えられているわけだ。運搬支援、水やり、芝刈り、観察・見回り、お年寄りの歩行介助などに対応する必要があるため、移動システムには確実性が求められるのである。なおデモ機は、任天堂のゲーム機Wiiのコントローラ「Wiiリモコン」で操作する仕組みだった。

無線移動台車ユニット「G-Move」【動画】G-Moveの動作するところ

 丸富精工のもうひとつのロボット系製品は、対向5指型ハプティックインターフェイスロボット「HIRO III」(Haptic Interface RObot 3世代目)だ。先頃発売を開始したばかりの製品版である。特徴は、人の5本の指先に3次元の任意の方向に力覚を提示できることで、同方式のインターフェイスは世界初だそうだ。丸富精工が販売を手がけるが、開発には岐阜大学工学部教授の川崎晴久氏と同准教授の毛利哲也氏の共同研究室を中心に、複数の企業が参画したG-Move同様に産学連携となっている。ダイニチイー・バレイ、テック技販(テック技販)などが共同開発を行なっている。

 HIRO IIIを使用する際のポイントは、ロボットハンドの指先に自分の指先をくっつけてするため、拘束感や圧迫感がないこと。ちなみに、どのようにして指先がロボットハンドの指先から離れないようにしているのかというと、永久磁石付きの指ホルダーを5指の先に装着することで実現している。しかも、永久磁石はボール状なので、指を動かしてロボットハンドの指先と自分の指先の角度が変わっても、気にせず吸い付いていてくれるというわけだ。ロボットハンドの指は、どれも3関節3自由度あり、指先先端には3軸力覚センサーを搭載。さらに、上腕と前腕を有するアーム部分もあり、こちらは肩部に3自由度、ヒジ部に1自由度、手首部に2自由度を有する。

 卓上で利用できるサイズで作られており、用途としては、人型ロボットハンドの遠隔操作、触感を提示する3次元CAD、製造現場における熟練技能の記録と伝達、医学分野における触診訓練や手術訓練などが想定されている。

 実際に利用させてもらい、ノートPCのモニタ上に表示されているバーチャルなCGのボールをつかんでみたのだが、視覚と連動して違和感がない形でちゃんと感触があった。別の多面体のCGを回転させるデモでも、角がボコボコと指先に当たる感触が十分にある。VR技術と併用すれば、材質まで確かめながら作業をするという3次元CADに利用できることだろう。

「HIRO III」本体。制御機構は、机の下にあり、PCで行なっているHIRO IIIのハンド部分を正面から「HIRO III」本体を側面から
ユーザーは5指の先端にマグネット付きホルダーをつけて利用する【動画】電源を入れてスタンバイ状態になるまでの様子。ちょっとカッコいい【動画】実際に利用している様子。左側のノートPCの画面に5指を表す5つの小さな球体があり、CGに触れる

ロボット用の全方位移動装置「RBT-005」を出展したリーフ

 福岡県のリーフもロボットの移動システム「RBT-005」(「BER」という別名もある)のテストタイプを出展。RBT-005の特徴は、球駆動式を採用した全方位移動装置という点だ。サイズは外装がある状態で幅約240mm×奥行き約360mm×高さ約210mm。重量は約15kgで、荷搬重量は約50kgとなっている。乗り越えられる段差は最大で約25mm。同機も産学連携の産物で、九州工業大学大学院 生命体光学研究科 脳情報専攻 脳型情報処理機械講座 脳型知能機械 准教授の宮本弘之氏の研究室と共同開発されている。

 最大の特徴は、3個のシリコン製の球体を利用して全方向への移動を実現していること。球体を利用することのメリットは、安定性を得られる点だ。球体の回転方向とRBT-005全体の移動方向が一致するので、オムニホイールのように滑りが生じにくく、結果として路面の凹凸や路面の摩擦係数の変化など外乱に対する影響を受けにくくなるし、速度ムラも生じず、車輪のような切り返しも必要がないので安定性が増すというわけだ。また、機構的に部品点数が少ないので、オムニホイールと比べてノイズや振動も生じにくいという点もメリットである。

 ちなみに全方位に対して移動させられるので、さぞかし複雑な機構かと思いきや、球体ひとつに対してモータもひとつしか使用していないという。正確には、球体と球体の間にモータと接続した駆動輪がある。2個のモータで本体を進行させたい方向に適した位置の1個の球を駆動球にし、方向転換したい時は3個のモータがそれぞれ1個ずつ球を動かして、その場で旋回するようなベクトルを発生させるという具合である。しかも、そうした機構やインターフェイスなどの情報は公開されており、カスタマイズ性に優れている点も特徴となっている。

展示用のRBT-005。側面にあるのは、測距センサーこちらはデモ用のRBT-005
【動画】RBT-005のシリコン球が回転する様子。ちょっとロボット顔【動画】動作デモ。路面の凹凸が激しかろうが、人工芝のような空転しやすそうな場所でも普通に移動する

イーサネット接続で最大64軸の完全同機高速制御を行なえるソフトサーボシステムのコントローラ

 横浜市のソフトサーボシステムズが出展していたのが、RTEX(パナソニック製の高速サーボ制御用ネットワーク)に対応した通信ボード「FPA200」および「FPA400」。PCベースで最大32軸(FPA200)および64軸(FPA400)を高速で高精度な補間制御を行なえるというもので、イーサネット接続なので専用ハードやケーブルを極力省略でき、購入時やメンテナンスなどのコストを削減できることをメリットとしている。デモは、そんなシステムの上でロボットハンドを動作する様子を披露しており、なかなか滑らかな動きだった。

コントローラの実力を示すためにデモを行なっていたロボットハンド制御部分。コントローラ間をLANケーブルがつないでいる【動画】ロボットハンドの動作デモの様子

自律無人航空機「ゼノUAV」のシステムを出展していたゼノクロス

 地震など大規模な災害が発生した場合、上空からの状況確認は非常に有効なため、飛行ロボットといえる自律無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)の開発が現在各所で進められている。それをいち早く国内でビジネスとして実現したのが、鹿児島県のゼノクロスだ。九州大学大学院工学府 航空宇宙工学専攻講師の東野伸一郎氏の研究室との産学連携で開発されている。

 ブースでは、国産初の自律無人航空機専用制御装置の「AP-CUB」のカットモデルが展示されていたほか、同制御装置を搭載したコンプリートモデルのガソリンエンジン型固定翼自律UAVが吊され、付属のWindows用ソフトで飛行経路などを設定するための「Polar Star」も稼働していた。

 制御装置のAP-CUBは、各種センサー、コンピュータ、GPSをひとつのボックスに収めたオールインワンパッケージで、小型軽量、それに加えて低価格である点が特徴だ。搭載しているセンサは、気圧高度、対気速度、3軸角速度、3軸加速度など。制御装置を搭載することで、ラジコン飛行機はUAVにグレードアップというわけだ。

普通のラジコン飛行機を飛行ロボットのUAV国産初の自律無人航空機専用制御装置の「AP-CUB」。小型かつ軽量でラジコン飛行機に搭載しやすい飛行経路設定をするための専用ソフト「Polar Star」。ウェイポイントは100箇所まで設定可能

飲食店などの店頭で客寄せ用途としてぬいぐるみ+ロボットの「Sokkly」

 ぬいぐるみの中にロボットとしてのメカが入っていて、動いたり表情を作ったりしゃべったりというロボットトイは今や珍しくないのだが、今回の展示会で非常にインパクトがあったのが埼玉県のリトルアイランドブース。「Sokkly(そっくりー)」シリーズが展示されており、その中のひとつが「ロボットバージョン」。ぬいぐるみの中にロボットを入れてあるだけといってしまえばそれまでなのだが、一工夫あるのが、写真を元に依頼主本人だとか、テレビタレント、はたまた政治家などにそっくりに作れる点。ハンドメイド100%感があり、堅い雰囲気のテクノロジーテクノロジーしたロボット技術・製品展示ゾーンとは思えないほんわかさである。でも、センサーを搭載しているので、人が近づくと動き出したり、音声認識でお願いすると踊ってくれたりするなど、インタラクティブな感じはロボットならでは。店頭でのお客の呼び込みや、政治家の選挙活動での好感度アップなどには非常に向いている感じだ。

スタッフの女性に似せて作ったという、飲食店のお客呼び込み用「Sokkly ロボットバージョン」のサンプル【動画】人がそばに来ると動き出す
【動画】踊る様子。こんなロボットが店頭にいたら、女性や子どもにはきっと喜ばれるはずリトルアイランド代表取締役の小池浩昭氏のSokkly

さぬき麺機は世界初の全自動うどん・そばロボット「讃岐職人」を展示

 讃岐うどんの本場である香川県のさぬき麺機は、世界初という全自動うどん・そばロボット「讃岐職人」を出展し、麺生地からうどんの麺のできあがるまでをデモンストレーションした。足踏み(鍛え)、手打ち(仕上げ延ばし)、そして包丁きりまでを全自動で行なってくれ、ユーザーは麺生地(1~1.5kgの団子)をセットするだけ。足踏み(荒延ばし)工程を3段プレスで再現し、手打ち仕上げ工程は6本のロータリーローラーで再現。さらに鍛えて整える作用として、凹凸ロールによる揉みとひねりが加えられ、そしてヨコ延ばしで麺の厚さに整え、包丁切りで目的の切り幅にするという流れだ。

 1時間に700食分製麺でき、お客が多くて間に合わないという麺類がメインの飲食店には実に頼もしい限りである。うどんだけでなく、そばもOK。設定画面で麺の厚さや切り幅の調整が0.1mm単位で可能だ。そのほか、最大15種類の麺の形状をインプットしておけるなど、至れり尽くせりな機能を搭載。機械がこねたりして人の手によるおいしさが出るのか疑問に思う方もいるだろうが、人の手と機械の差は何かというところも研究されており、過熱成による品質のブレが起きないようにしたり、ローラーなどで圧延する時も揉みとひねり高価を加えて均一にしっかりと鍛えるなど、抜かりはない。これさえあれば、明日からでもうどん・そば屋を始められるといってもいいほどのできるロボットだ。

うどん・そばロボット「讃岐職人」。製麺の様子をお客さんに楽しんでもらうという使い方もある数パターンで製麺されたうどん。麺の太さなどはタッチパネル画面で簡単に設定できる
【動画】足踏み→手打ち工程までの様子【動画】包丁切り工程の様子

モリマシナリーは開発中のロボットハンドによるデモを披露

 岡山県に本社を構えるモリマシナリーは、安川電機のロボットアームの先端にグリップ型のハンド部を接続してデモを披露。重そうな袋をガッチリと両側でつかみ、振り回すような勢いで持ち上げてもまったく落としてしまうような心配もなく、その把持能力の高さを見せていた。ただし、まったくの開発中の製品で、製品名もまだない上に、データもまだ公開できないそうなので、詳細は不明。

モリマシナリーが開発中のロボットハンド。人の4本指側の部分は、複数の関節を備えている【動画】重そうな袋をガッチリつかんで持ち上げる様子。かなりのグリップ力があるようだ

下肢麻痺者用歩行補助ロボット「WPAL」を出展したアスカ

 最後は、アスカが産学連携で開発中の「WPAL」(Wearable Power Assist Locomotor:ウーパル)も紹介しておこう。すでに本誌でも何度か紹介しているが、事故で脊髄を損傷して下肢麻痺となってしまった人の歩行を補助しようというロボットだ。アスカのほか、藤田保健衛生大学東名プレースティムスによって開発が進められている。

 左右の股関節、ヒザ、足首の6自由度があり、装具を含む本体重量が約13.5kg。制御部は利用者が体重を支えるために利用する歩行器に備えつける形で、こちらは約12.5kg。装身具部分は利用者の体型に合わせてカスタマイズするのでサイズはまちまちになるそうだが、おおよその寸法は幅500mm×高さ850mm×奥行き300mmとなっている。歩行速度は約1.8km/hで、現在は約1時間の連続使用が可能。

 勘違いしやすいのだが、実はWPAL単体では利用者の体重は支えられない。WPALは、下肢麻痺の利用者が車いすから立ち上がったり、歩行訓練を行なったりする時に動作補助をすることを目的としている。ロボット単体で利用者の体重を完全に支え、なおかつ失われたり弱まったりした歩行機能を補完してしまうことは、あえてしていないそうだ。あくまでも利用者が歩行器も使用して自分の身体を支えつつ、自分自身で歩こうとすることが大事なのだそうだ。その自分自身の歩こうとする意志を補助するのが、WPALというわけである。

WPAL本体。股関節の機構に工夫があるという。背後の制御部は、実際には歩行器にセットされる人が実際に装着した時のイメージ【動画】WPALの動作の様子

 なお、「産業交流展2010」も開催が決定しており、来年の11月10日~12日に東京ビッグサイトで開催予定だ。


(デイビー日高)

2009/11/20 14:00