サンリツオートメーション杯「第9回レスキューロボットコンテスト」レポート【前編】

~過去最大19チームが、ファーストミッションにチャレンジ


サンリツオートメーション杯「第9回レスキューロボットコンテスト」

 2009年8月8日(土)、9日(日)、サンリツオートメイション杯「第9回レスキューロボットコンテスト」が開催された。会場は神戸サンボーホール。主催はレスキューロボットコンテスト実行委員会、兵庫県、神戸市、株式会社神戸商工貿易センター、読売新聞大阪本社。今年は、過去最大の19チームがファーストミッションに出場した。

 同コンテストは、1995年に発生したの阪神淡路大震災をきっかけに考案された。被災地を模したフィールド上で、参加チームのアイデアと技術・レスキュー精神を競う。そのため、競技課題には将来レスキューロボットを実現する要素技術がいくつも盛り込まれている。

 実行委員長の土井智晴氏(大阪府立高専 工学博士)は、「学生がロボットを作る学びの場、子ども達には未来の技術を夢見る場、保護者の方々にはより安全な社会を作ることを考える場」とレスコンの位置づけを説明し、競技会をスタートした。

「第9回レスキューロボットコンテスト」出場チーム選手宣誓。レスコン工房 佐藤俊作氏(名古屋工業大学 ロボコン工房)レスキューロボットコンテスト実行委員長 土井智晴氏(大阪府立高専 工学博士)
各チーム紹介ポスター多くの観客が観戦していた神戸サンボーホール
【出場チーム】※ファーストミッション出走順
チーム名団体名
なだよりあいをこめて神戸市立科学技術高校 科学技術研究会
おかQ岡山大学 ロボット研究会
SHIRASAGI兵庫県立大学ロボット研究会
O.I.T.OBO.I.T.OB
やさしさのNICK近畿大学ロボット研究会
六甲おろし神戸大学
T.R.R.L津山高専電子制御工学科
レスキューHOT君近畿大学産業理工学部
O.U.S.桃太郎岡山理科大学知能機械工学科
MS-R金沢工業大学 夢考房
救命ゴリラ!大阪電気通信大学 自由工房
レスコン工房名古屋工業大学 ロボコン工房
メヒャ!岡山県立大学ロボット研究サークル
DRP同志社大学レスキューロボットプロジェクト
R.U.R.東京農工大学ロボット研究会
Fukaken大阪府立工業高等専門学校 福祉科学研究会
K.U.R.C京都大学機械研究会
がんばろう KOBE神戸市立高専
太助隊産業技術短期大学

レスキューロボットコンテストとは

 本コンテストは本物のレスキューロボットを用いるわけではない。現時点では架空の「国際レスキュー工学研究所」内に設けられた、被災地を模した1/6スケールの市街地の中から、要救助者役の人形(ダミヤンと呼ばれる)を、遠隔操縦ロボットにより、いかに素早く安全に救助するかを競う。

 競技には、将来、レスキューロボットを実現するために必要となる遠隔操縦技術、対象物をやさしく扱う技術、複数のロボットの協調技術などの技術要素が盛り込まれている。

 単なるロボットコンテストではなく、レスキューロボット製作を通じレスキューシステムや、日頃の防災意識について考える機会であることを重視している点に特徴がある。

約50m×50mの市街地を1/6スケールで模した実験フィールドレスキューダミーの「ダミヤン」。サイズは大小2種類。胸にいれた鉛で体重を変えている
ダミヤンインジケータ。ミッション達成度とダミヤンの体力やセンサーで検知した痛みなどが表示される評価点。ミッションポイント(救助作業の達成度)とフィジカルポイント(ダミヤンの体力)等で算出される

 基本的な競技内容は同じだが、毎年、いくつかのルール変更や追加があり、難易度は年々上がっている。今年は「ダミヤン識別」の課題と「家ガレキ」が追加された。

 ダミヤン識別は、各ダミヤンの特徴を捉え搬送完了までに審判に報告するミッション。実際のレスキュー活動でも、要救助者を発見したら直ちに本部に救助者のケガなどの状況を伝え、病院へ搬送した際、一刻も早く治療を行なえるように準備を整える。ダミヤン識別は、それを念頭においた技術課題である。今回は、各ダミヤンの識別項目として、光る目の色と発光パターン、音の周波数とパターン、胸のマーク、体重で個体を識別する。どれか1項目で判断できれば、ポイントがつく。

 レスコンはロボットに搭載したカメラの映像で遠隔操縦するため、ダミヤン識別も胸のマークや目の発光パターンを認識するチームが多かった。新たな技術を用いなくとも、確実にポイントを取得できるからだ。そうした中でも救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)は、マークを認識したら静止画に保存し、慌ただしいレスキュー活動の中でパターンを見落としたとしても後から再確認できるように配慮した。メヒャ!(岡山県立大学ロボット研究サークル)は、自動でパターン認識する技術に挑戦し、審査員から高い評価を得た。

 やさしさのNICK(近畿大学ロボット研究会)は、1号機「アイン」が体重を計測して識別する方法にチャレンジしたが、残念ながらダミヤン救出ができなかったため、性能を披露できなかった。レスコン工房(名古屋工業大学ロボコン工房)は周波数での識別に成功している。

【動画】救助を待つダミヤン。目の発光パターン・色、音声、胸のマーク、体重で個体識別される

 新たに追加された家ガレキは、床の上に柱と梁・三方の壁を残して倒壊した家屋を模擬している。この家屋内に1体のダミヤンが救助を待っている。家屋は分解できないため、崩れた屋根や壁の隙間から、ダミヤンを救出する工夫が要求される。今年の一番、見どころとなる課題だ。各チームがアイデアと技術を凝らしたロボットで課題にチャレンジしていた。

 なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)の3号機「獅子奮迅」は、車高の低い子機が家ガレキの側面から潜り込み、アームについた可動式の爪でダミヤンを救出した。親機のフラップは四方に展開できるため、子機は最短の動線で出動しダミヤンを親機へ救出できる。

 救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)の3号機「WANDA」も親子型ロボットだ。双腕型子機のアームはピンチになっておりダミヤンの服を摘んで救助する。ピンチに重量が掛かった時、機体のバランスを崩さずに移動できるよう調整に苦労したそうだ。

 MS-R(金沢工業大学夢考房)は、探索機能を有するガレキ除去専用ロボットと救助専用ロボットがチームで救助活動を行なった。家ガレキ内のダミヤンには、大型のメインアームを搭載した1号機「Sleipnir」とフォークリフト型のアームを持つ3号機「Minerva」が協力して救出作業にあたった。3号機「Minerva」が救助を行なう間、1号機「Sleipnir」は横からの画像をコントロールルームに送信しオペレータの操縦を助けていた。

 レスキューHOT君(近畿大学産業理工学部)の2号機「ホーンズ」に搭載されたアームは一風変わっていた。左右に2本ずつあるアームの先端は□字型をしており、下辺はロープになっている。このロープをダミヤンの下に潜り込ませ、アームの間隔を調整してプロテクターでダミヤンを固定し頭を保持しながら救出する方式だ。

【動画】なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)の3号機「獅子奮迅」。子機がダミヤンを救助する【動画】救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)。双腕型子機がピンチ式アームで服を摘んで救助する【動画】MS-R(金沢工業大学夢考房)は2台のロボットがチームを組んで、協力して救出作業を行なう
【動画】レスキューHOT君(近畿大学産業理工学部)の2号機「ホーンズ」によるダミヤン救助【動画】「ホーンズ」の特徴であるアームの動きT.R.R.L(津山高専電子制御工学科)の1号機「SQUARE」。フォークリフト式ハンドでダミヤンを少し持ち上げ、スライド式ベッドを差し込んで救助する

ファーストミッション活動報告

 レスコンでは競技の前に、各チームからレスキュー活動方針について2分間のプレゼンテーションが行なわれる。次に1分間の作戦会議を開く。参加者たちは、この時初めてフィールド上空に設置されたヘリテレカメラで、フィールド内の状況を知ることができる。このヘリテレからの映像を見ながら、ダミヤンの位置を確認し救出作戦を立てるわけだ。そしていよいよ、12分間のレスキュー活動が開始されるという流れだ。

 ちなみにレスコンでは、ロボットの台数やサイズには制限がない。競技開始時にロボットベースに全機体が納まり、高さ60cmのゲートをくぐって出走できればOKだ。

スピーカーによるプレゼンテーション。制限時間(2分)をオーバーすると減点となる1.2m四方のロボットベースに納まれば、ロボットの台数とサイズに制限はない。自作基地を追加してもOK競技開始前、救助を待つダミヤンの位置が観客にだけ知らされる
【動画】上空から市街地を探索する「ヘリテレ」ヘリテレから送られてくる映像を見ながら、作戦会議を行なう【動画】レスキューロボット出動!!
競技終了後に、キャプテンが活動報告を行なう

 筆者はレスコンの取材が今年で3回目となる。続けて見ていると、少しずつ救助方式が変化していくのが分かって興味深い。今年は家ガレキ内の狭所作業が要求されるためか、子機を搭載したロボットが多かった。有線型の子機は配線も複雑になるし、オペレータ間の協働作業も必要となり、さまざまな面でハードルが高い。それにも関わらず今年は、9チームが子機ロボットを採用していた。

 救助方法も、かつて主流だったクレーン型アームでダミヤンを高く持ち上げる方式は減り、鍵爪アームで引き寄せてスライド式ベッドに収容する方式が増えている。クレーン型の場合も、アームの先端が爪型からブレード型などに変化しダミヤンへの負荷が少ない救助を目指していることが伺えた。

 ファーストミッションを振り返りながら、各チームのアイデアや技術を凝らしたロボット達を紹介しよう。

 唯一の社会人チームO.I.T.OB(O.I.T.OB)は、大阪工業大学のOBが集い5年ぶりにレスコンに出場を果たした。移動スピードアップと不整地の移動を両立するために、舗装路は車輪で移動しガレキは多足歩行で踏破する変形機構を有した多足歩行ロボット「プロト」を製作した。プロトは、ガレキ除去やダミヤン救助の際には、マスタースレーブ方式で腕をコントロールする予定だったが、残念ながら、マスタースレーブは実践する機会がなかった。審査員からは「チャレンジしている技術が素晴らしい。来年に期待したい」とコメントがあった。

【動画】O.I.T.OB(O.I.T.OB)の1号機「プロトタイプ」は状況に応じて車輪から多足歩行に変形して移動する1号機「プロトタイプ」は、多足形態時に、マスタースレーブで操縦してガレキ除去やダミヤン救助を行なうメヒャ!(岡山県立大学ロボット研究サークル)の1号機「ベルワンド」は車輪走行から人型になって救助を行なうというコンセプト
車両型の「ベルワンド」

 おかQ(岡山大学ロボット研究会)は、子機を3台搭載した「トラクロス」で注目を集めた。3台の子機はガレキ除去、救助補助、親機までの搬送とそれぞれ独立した機能で協働して救助活動にあたるハズだった。しかし通信機能が働かず、稼動できなかった。

 DRP(同志社大学レスキューロボットプロジェクト)の3号機「ハガッツオ」は、ダミヤンに声をかける機能を有している。もし自分がダミヤンの立場だったら、ロボットが無言で救助しては恐ろしい思いをするだろうと考えたそうだ。実際のレスキュー現場でも、隊員の方々は要救助者に声を掛けながら救助活動にあたっている。DRPは、レスキュー隊員の方にどのような声掛けをすれば不安を和らげることができるかアドバイスを受けて、音声パターンを選定したという。また、ロボットは要救助者の音声を録音もできる。

おかQ(岡山大学ロボット研究会)。3台の子機を搭載した「トラクロス」。子機は、ガレキ除去、救助補助、親機までの搬送をそれぞれ担う【動画】救助を待つダミヤンに声を掛けて、不安を和らげる配慮をするDRP(同志社大学レスキューロボットプロジェクト)の3号機「ハガッツオ」Fukaken(大阪府立工業高等専門学校福祉科学研究会)の1号機「Hilfe」は、エレベータ機構を搭載。スロープを昇らずに完全自律型の2号機「Aiuto」を1階から2階へ送り出すというコンセプト

 レスキューHOT君(近畿大学産業理工学部)はロボット全機に光センサー、音センサー、カメラが集約された個体識別ユニットを搭載。どれかが不調でも個体識別可能な対策をとった。1号機「スウィーパ」は、スカート機構でガレキ除去や、ダミヤンの救出を行なうコンセプト。ロボット達は安定した動きで活躍していた。

【動画】1号機「スウィーパ」の救助活動。独特なスカート機構でガレキ除去や、ダミヤンの救出を行なう【動画】やさしさのNICK(近畿大学ロボット研究会) 2号機「ツヴァイ」のアームは、先端がガレキ除去とダミヤン救助用に別れている【動画】六甲おろし(神戸大学)の1号機「ナナホシ」はオムニホイールで自在に移動できる。フォークリフトのアームでダミヤン上にあるガレキを除去
【動画】レスコン工房(名古屋工業大学ロボコン工房)は2号機「鏡」と3号機「巡」が協調して救助活動を完遂【動画】DRP(同志社大学レスキューロボットプロジェクト)。2号機「シイラ」が路上のガレキを除去し、3号機「ハガッツオ」搬送をサポート

ファーストミッションの印象

 どのチームも、レスキュー方針という観点から問題点を見つけだし、テーマを考えてロボット製作をしている点に好感をもった。ミッションのポイントには影響しない音声でダミヤンを励ましたり、ダミヤンを発見した時に、治療の優先度を示すタグを投下し後続のレスキュー隊員に知らせる機能を搭載するなど、現実のレスキュー活動を研究した上でロボットを製作しているチームもあった。

 このファーストミッションの結果、獲得ポイント上位4チームが2日目のファイナルミッションへの出場権を得た。また5位から10位のチームはセカンドミッションに出場し、上位2位がファイナルミッションに進出できる。

ファーストミッションの成績

 ファーストミッションでは、3体のダミヤンを全救助できたのが4チームあった。その半面、4チームがポイントを上げられなかった。これは、前回まであったダミヤンの元へロボットが到着すれば与えられる「現着」ポイントが、今回から廃止されたことも要因になっている。そのかわりに、ダミヤンの識別に成功すれば10ポイントが与えられるようになった。実は、ダミヤン識別に関しては救助前に審判に識別結果を提出してもポイントになる。各ロボットにはカメラが搭載されているのだから、胸のマーカーの映像を目視確認すればOKなのだ。これを救助・搬送と1セットととして捉えていたチームがあったために、ポイント0になった側面もある。

 もうひとつの要因は、従来7月に行なっていた予選競技会が、中間審査会となりプレゼンテーションでロボットの完成状況やロボットのコンセプトを報告する形式となったことも上げられる。プレゼンテーションの中で、ロボットの動画を紹介することが義務づけられているため、各チームとも7月上旬には全ロボットが稼動できる状況になっていたハズだ。にも関わらず、ファーストミッションでロボットが期待通りに動かないチームもあった。

 トラブルの原因として多かったのは、バッテリ切れだった。レスコンに使用されているマイコンボード(通称:レスコンボード)は、常に映像の送受信を行なっているため消費電力が大きい。早い時点でロボットが完成し、何度も救助練習を繰り返しているチームは、この問題点に気づき基板用バッテリは駆動用とは別にするなど対策をとっていた。しかし直前にロボットが完成した場合、問題点を抱えたまま競技に挑むことになり当日にトラブルが露見する。

 どんなロボット競技会でも、トラブルが発生してロボットが動かなかったり、当日に完成が間に合わなかったりという事態は珍しくない。レスコンのように複数台のロボットを製作して、確実に動かしミッションを遂行するのは、ハードルが高いことはよく分かる。しかし、それを分かった上で「昨日までは、動いていたんですけど……」という台詞は聞きたくないなと、厳しいことを承知で言わせてもらいたい。レスコンのフィソロフィーに【原則:レスコンの背後には、常に現実のレスキュー活動が控えています】と明記されている以上、助けを求めているダミヤンを前にして、「それはないよ」と思ってしまうのだ。

 解説者からも「技術やアイデア以上に、開発のスケジューリング能力が競技結果に反映する」という厳しいコメントがあった。長い時間をかけて開発したロボットだからこそ、大勢の観客の前で存分に性能を発揮してほしいと願う。

 後編では、ファーストミッションとセカンドミッションで優秀な活躍をしたチーム同士が力を合わせて救助活動を行うファイナルミッションのようすをレポートする。



(三月兎)

2009/8/25 16:40