ロボカップ2009グラーツ世界大会で「SSL Humanoid」のデモ競技が実施

~日本から4チームが出場


 6月29日~5日、オーストリアのグラーツでロボカップ世界大会2009が開催された。本稿では、世界大会で初めて実施された小型ロボットリーグ ヒューマノイド(SSL Humanoid)のデモ競技について、升谷保博氏(大阪電気通信大学)のインタビューを中心にレポートする。なお掲載した写真と動画はSSL Humanoid実行委員会からご提供いただいた。

小型ロボットリーグ ヒューマノイド(SSL Humanoid)のデモ競技会場のグラーツ市民ホール「Stadthalle Graz」ロボカップ2009グラーツ世界大会

 小型ロボットリーグには、11カ国から21チームが出場。日本からはKIKS(豊田工業高等専門学校)ODENS(大阪電気通信大学)Owaribito-CU(中部大学)RoboDragons(愛知県立大学)が参加した。

 昨年、小型ロボットリーグに参加する日本の有志が、小型ロボットリーグのサブリーグとしてヒト型ロボットによる「SSL Humanoid」を提案。ロボカップジャパンオープン2008とロボカップ2008蘇州世界大会で大阪電気通信大学が、概要をデモンストレーションした。今回は、4チームによるデモ競技の実施が認められた。各チームはジャパンオープンでもSSL Humanoidの競技を行ない、その後ロボットやプログラムを再調整して世界大会へ挑んだ。

 SSL Humanoidで使用するロボットは、市販の二足歩行ロボットキットがベースになっている。ODENSは、京商のMANOI AT01を採用し、下半身のサーボをパワーアップした以外はほとんどノーマルで出場した。ロボットの制御には、従来、小型ロボットリーグが培ってきたグローバルビジョンシステム等を流用し、ロボットの頭上にあるマーカーを識別して、外部PCからロボットに指令を送信して自律サッカーゲームを行なう。

 ジャパンオープンの時は、小型ロボットリーグのフィールド半面を使って競技を行なったが、世界大会では、車輪型の予選リーグに使ったフィールドの半面をヒューマノイド用に使った。海外遠征ということもあり、各チーム共、人材も機材も最小限で出場していたため、車輪型・ヒト型両方の試合スケジュールをこなすのにかなり苦労したそうだ。

小型ロボットリーグは、フィールド上空にカメラを設置して俯瞰映像を取得してロボットを制御するロボットと同じ高さのペットボトルにマーカーをつけて、グローバルカメラの認識状態をチェックグローバルカメラの映像はPCに転送され、PCからロボットに指令を送信する

 7月4日には、4チームの総当たり戦で6試合が行なわれた。午前中の試合は、グローバルカメラの設置が思うようにいかず、カメラ映像との連携が取れずにロボットが立ち往生したり、誤認識されたロボットがフィールド外へ歩き出したりするシーンもあったらしい。午後からはロボットも調子を取り戻し、相手ディフェンスの間を縫ってパスを出したり、ゴール前ではキーパーの反応を読んでシュートをする場面もあったという。「観客は必ずしも多くなかったが、他リーグのヒト型ロボットよりも動きがよくゲームとして成り立っているので、興味を持ってもらえたようだ」(成瀬正氏:愛知県立大)という。

 提供いただいた動画を見ても、ロボット同士が接触を回避しながらボールを奪ったり、パスを回してシュートをするなど面白いゲームをしている。何の知識も持たずに観戦していたら、ロボットが自律で状況判断しているとは思わないだろう。自律のためのカメラやボードを外部に依存しているため、ロボット本体が軽くなり起き上がりや歩行が速いのも、ゲームを面白くしている一因だ。

 新たなハードの採用で、興味深い技術チャレンジも生まれる。従来の車輪型ロボットは形状が変化しないため、3次元情報は重要視されなかった。ヒト型ロボットの場合は、両手を広げたディフェンスやパス待ちの姿勢、シュート体勢などで運動の種類を3次元映像で認識することも必要になってくる。またヒト型は、身体の形状でロボットがどの方向を向いているか判断できるため、車輪型では必須のマーカーも将来的には不要となるだろう。こうした3次元認識のために、現状の真上に設置したカメラだけではなく、斜め上空から複数のカメラでフィールドを観察し、それらの情報を統合するリアルタイム3次元情報処理の研究が必要となるという。

 今回出場したのは日本チームのみだが、市販キットを使うことでハード価格を抑えられる点や新たな技術チャレンジに海外チームも興味を示しているそうだ。今大会はデモ競技のため表彰状はないが、この実績を踏まえて提案書を正式に理事会に提出し認められれば小型ロボットリーグのサブリーグとなる。「来年のシンガポール大会からは、表彰状がもらえるようにしたい」と升谷氏はいう。参加チームが増え、面白い競技になることを期待したい。

 4チームが実施した競技結果は次の通り。5日はODENSとRoboDragonsが車輪型決勝トーナメントを勝ち進んだため、KIKSとOwaribito-CUがエキシビションを行なった。なお、RoboDragonsは車輪型で準優勝を果たした。

SSL Humanoidの試合結果【動画】RoboDragons vs. ODENS。ODENSが相手ロボットにボールを当てて壁パスでシュートを狙う【動画】RoboDragons vs. ODENS。キックインからゴール前の攻防。ロボット同士が接触しないように障害物回避のロジックが組み込まれているのが分かる
【動画】KIKS vs. Owaribito-CU。小柄な方がOwaribito-CU。ゴールエリアには味方ロボットが複数はいると反則を取られるため、ロボットはエリア外にいる【動画】KIKSがOwaribito-CUのディフェンスをかわしてパスを出し、シュートを決めたKIKSは、下半身を自作して歩行の安定性をアップした
競技中、人はロボットとPCを見守るだけでゲームに関与できないSSL Humanoid参加チームのメンバたち升谷保博氏(大阪電気通信大学)


(三月兎)

2009/7/15 14:10