栃木県塩原温泉で「第48回日本SF大会」開催

~HRP-4Cの開発者が参加した企画も実施


 7月4日、5日の2日間、栃木県那須郡塩原町にあるホテルニュー塩原において、第48回日本SF大会「T-con2009」が開催された。

 日本SF大会は、SF作家とファンの交流を主な目的として、1962年に東京で第1回が開催された歴史のあるイベントだ。

 名前の通り、SFについての大会だが、人によってSFの解釈が異なるため、今では幅広いジャンルの人間が参加する「SF関係者のお祭り」となっている。

 今回は塩原温泉のホテルニュー塩原に泊り込みで行なう「合宿型」の大会となっており、ホテルのいくつかの部屋を借り切り、そこで数多くの「分科会」が時間を区切って行なわれた。

 分科会は「SFに関連した企画」となるが、企画を立てて実行委員会が認めれば基本的に何をやってもよい(今回はダンスを踊る企画もあった)。

 今回のSF大会ではその分科会の中に「人型ロボットの現在と未来」という企画があり、女性型ヒューマノイド「HRP-4C」の開発者である産総研の梶田秀司氏が参加した。実は筆者はこの企画の司会を任されていて、その様子を中心にしてレポートする。

会場となったホテルニュー塩原。川のほとりにある塩原温泉街から見たホテルニュー塩原SF大会ウェルカムパーティーの様子

日本SF大会とロボットの関係

 日本SF大会は参加者の投票によって決まる星雲賞という賞を実施しており、SF大会前年に発表された内外のSF小説およびメディア作品に星雲賞を授与している。その星雲賞がジャンルを広げ、1998年にはホンダのヒューマノイドロボット「P-2」、2000年にはソニーの「AIBO」が星雲賞ノンフィクション賞を受賞。2003年にはノンフィクション賞から独立した自由部門賞を「HRP-2Promet」が受賞している(ちなみに去年の星雲賞自由部門賞は歌唱ソフト「初音ミク」が受賞。今年は該当作なし)。

 こうして見ると、SF大会は現実のロボットと深く関わってきたように思えるが、ロボット開発の歴史が浅いこともあってか、SF大会でフィクションのロボットについて熱く語られることはあっても、現実のロボットとはさほど深く関係してこなかった。

 実はSF大会が実際に動くロボットと深く関わってくるようになったのは、去年岸和田市で開催された第47回日本SF大会「DAICON7」からである。

 DAICO7では、ロボットフォース、日本遠隔制御、京商、HPI、大日本技研、九州ロボット練習会などの協力を得てロボットイベントを開催。これがSF大会と現実のロボットが深く関わった第一歩となった。

会場で見かけたロボットたち

 今回のSF大会はホテルでの合宿型ということもあってか、ロボットイベントは行なわれなかった。それでも会場でロボットを見かけたので紹介しよう。

 まずは都築由浩氏の製作した「タミやん」。名前の通り、タミヤの工作セットだけを使って作られた二足歩行ロボットだ(ちゃんと体重移動して歩行する)。

 都築由浩氏は去年のSF大会で、ロボット関連企画の責任者を務めた人物だ。ROBO-ONEに出るようなバトル系のロボットではなく、安い費用で簡単に作れるロボットを目指してタミやんを作ったとのこと。タミやんの作り方を説明したコピー本も出しており、ロボットを製作する楽しみを広く知ってほしいようだった。

ディーラーズルームの都築由浩氏ブースにいたタミやん踊るタミやん【動画】歩くタミやん
【動画】踊るタミやん【動画】踊るタミやんその2

 会場で注目されていたのは、日本遠隔制御の澤和孝氏が試験的に製作して持ち込んだ6脚ロボット。その形状から会場では「タコ」(「タコボーイ」とか「タコルカ」とも)と呼ばれて(正式名称はまだないらしい)親しまれていた(正確には足が8本ではないのでタコではないが)。

 さすがに6脚だけあって安定性はよく、細かい芸を見せてはSF大会参加者を喜ばせていた。

 これを実際に製品にするかどうかは「まだ思案中」とのことで、会場の参加者からは「クリプトン社の許可をもらって、タコルカの外装を被せて売り出したらどうか」という意見まで飛び出していた。

同じくディーラーズルームにいた、日本遠隔制御の6脚ロボット。会場では「タコ」と呼ばれていた窓際のタコウェルカムパーティー会場にもいたタコ
【動画】タコロボ歩行【動画】傾いても復元できる【動画】でも完全にひっくり返ると、お手上げだ(笑)
【動画】6脚なのでこんな場所も走破可能【動画】窓際で芸をするタコロボ

女性型ロボットの話となった「人型ロボットの現在と未来」

 梶田秀司氏も参加する「人型ロボットの現在と未来」は、ホテルニュー塩原の竹の間1で開催。

 参加者は梶田秀司氏の他に日本遠隔制御の澤和孝氏、作家の葛西伸哉氏と冨永浩史氏、それに筆者の計5人。実は作家の中里融司氏も参加予定だったのだが、中里氏が6月18日に亡くなったため、追悼の意味も込め中里氏の席を会場に用意して企画を実施した。

 タイトルは「人型ロボットの現在と未来」となっているが、これだと対象が広いので、女性型ロボットについて製作者側とフィクション側から話をしてもらい、女性型ロボットについての考察がテーマだった。

企画「人型ロボットの現状と未来」の会場会場に飾られていた日本遠隔制御のデモ用ロボットなぜかハロッポの姿も……

 最初に産総研の梶田秀司氏から女性型ヒューマノイド「HRP-4C」についての発表があった。

 まず産総研のヒューマノイドであるHRPシリーズについての概要を説明。そしてHRP-4Cを開発するきっかけとなったのは、星雲賞自由部門賞を受賞したHRP-2Prometによる「会津磐梯山踊り」が世間にウケたことだという。

 産総研は「産業技術」総合研究所というだけあって、最終的には日本の産業に寄与することが求められる。そのためHRPシリーズもどう社会に役立つのか示す必要があった。

 HRP-2Prometの「会津磐梯山踊り」が世間にウケたため、まずエンターテインメント方面での実用化を目指すことになった。それでファッションショーに出演できるようなヒューマノイドロボットの開発を目指したのである(ファッションショーを目指した理由は「格好よさそうだった」からとのこと)。その結果として開発されたのがHRP-4Cだ。

 ファッションショーに出演するためには、当然ながら人間の服を着ることができなくてはならない。HRP-4Cは平均的な日本女性の体型に近いロボットとして開発された。

 梶田氏は動画を交えてHRP-4Cを紹介。大げさな表情をするHRP-4Cの姿に会場からは笑いも起こっていた。

 そして最後に、桂由美のファッションショーでHRP-4Cがウェディングドレスを着る「HRP-4C嫁化計画」が発表され、会場をどよめかせていた(会場からは「まさか産総研が『俺の嫁計画』を発動するとは」という声も上がっていた)。

まず最初に梶田秀司氏からHRP-4Cについての解説があったHRPについての説明各所で研究されているHRP-2
HRP-4C開発のきっかけとなった会津磐梯山踊りHRP-4C開発のねらい動画によるHRP-4Cの動作の紹介
【動画】びっくりするHRP-4C【動画】不快な表情をするHRP-4C【動画】HRP-4Cがファッションショーに出た時の様子
HRP-4Cの動きに注目する参加パネラー会場をどよめかせたHRP-4C嫁化計画
作家の葛西伸哉氏(奥)と冨永浩史氏(手前)

 続いてフィクションサイドから作家の葛西伸哉氏と冨永浩史が女性型ロボットについての話をした。

 葛西伸哉氏は、アニメなどのフィクションの世界における女性型ロボットの要素を指摘。その要素としては、「胸」「女性らしい髪形的形状の頭部」、そして「細い足首」なのだと言う(その例としてマジンガーZとアフロダインAの足首の明確な太さの違いを上げていた)。

 そして女性型ロボットとして「細い足首」を実現しているHRP-4Cを高く評価していた。

 また葛西氏によると、最近のフィクションでは以前と違ってロボットが活躍するSF的作品が相対的に減ってきたと言う。しかし、SFではない作品でロボットについて取り上げる例が出てきており(たとえばホテルを舞台としたコミックで、案内ロボットを取り上げるなど)、現実のロボットを反映した面白い傾向ではないかと語っていた。

 余談として葛西氏は、1970年代のリカちゃんシリーズの中にお手伝いヒューマノイドロボットキャラがいたらしいとの情報を披露。マニアックなネタで一時代のロボット人気の一端を示していた。

 冨永浩史氏はフィクション作品における人型ロボット観についての論を展開した。過去の欧米のSF小説などでは、人型ロボットは人間でないことにコンプレックスを持ち、人間になろうと努力する、人間よりも劣る存在だと考えられていた。

 しかし、日本では鉄腕アトムやキカイダーのように、人間とは異なる存在であるが、必ずしも人間よりも劣った存在であるとはみなしていない。むしろ中里融司氏の作品に出てくる人型ロボットのように、場合によっては人間よりも優れた存在だとして描いている例もある。

 人型ロボットを人間を真似た不完全な存在として考えるよりは、ロボットはロボットとしての価値を見出すべきで、HRP-4Cについても完全に人間の代理を目指すよりは、ロボットとしての部分を残した上で、どう使用していくか考えるべきと語っていた。

筆者は九州のロボットについて紹介。写真は2008年6月に小倉南警察署で実施されたテムザック4による1日警察署長イベント

 フィクションサイドからの話が終わった後は、筆者が九州のロボットを写真を使って紹介。また次の澤氏の話につなげるため、ホビーロボット界で女性ロボットが出てくるようになったきっかけは、2005年3月に日本科学未来館で開催された第7回ROBO-ONEからではないかと指摘した(この回のROBO-ONEには、アリキオン、キューティーバニー(りりあ)、たぬたぬGが参加している)。

 最後に日本遠隔制御の澤和孝氏から関西のホビー用二足歩行ロボットについての話があった。

 関西では女性型のホビー用二足歩行ロボットが、他の地域に比べてダントツに多い。その理由を澤氏は「ロボゴングなどを主催するロボットフォースの岩気裕司代表が、ロボットのビジュアルにこだわる人物だったこと」と「大阪に本社を置くVstone社が外装付きの二足歩行ロボットを発売している」ことが大きいと指摘。

 続いて関西を中心とした女性型ロボットを写真で紹介。特にmujaki氏の雛はYouTubeで世界的に評判になっているだけに、会場でも動画を流して紹介した。

 澤氏は関西だけでなく、他の地域の女性型ロボットについても紹介したが、特に中部のアリスに関しては、身長の割りに足が小さいことに梶田氏が非常に興味を持ったようだった。もしかすると、HRP-4Cとアリスが競演することがあるのかもしれない。

関西の女性型ホビーロボットについて解説する澤和孝氏(奥は梶田秀司氏)数えなおしたら関西は16機だったとのこと関西で女性型ロボットの多い理由について説明する澤和孝氏
関西で女性型ロボットの多い理由その2関西の女性ロボットとしていきなり紹介されたYOMEプッシュ。葛西氏からは「胸を強調するのは女性型ロボットして正しい」との突っ込みも女性型ホビーロボットの製作者としてとしてよく知られている、ほり氏の新型たぬたぬさん。体操座りができることが最大の特徴
今、ネットで話題となっているmujaki氏の雛世界中で話題となった雛の動画も流された関西だけでなく関東の女性型ロボットも紹介された
細い足で梶田秀司氏が衝撃を受けていた、仙人氏のアリス

 進行次第ではトークも予定していたが、発表だけでほぼ時間を使ってしまったためにここで企画は終了となった。その後、臨時にロボット操縦体験タイムとなったため、タコロボとタミやんが大いに活躍していた。

企画終了後、タコロボで遊ぶ翻訳家の大森望氏。この衣装は星雲賞受賞(海外短編小説部門受賞作品「商人と錬金術師の門」の翻訳を担当)を記念した特別衣装なのだとか企画終了後、なぜか対決していたタミやんとタコロボ

 今回のSF大会の企画では、異なるジャンルの人間が「女性型ロボット」という同じテーマで話をした。異なるジャンルだっただけにそれぞれ普段とは違う刺激を与えられたのではないだろうか。



(大林憲司)

2009/7/10 18:34