二足歩行ロボットサッカー大会「ロボサッカー2009」レポート

~4vs4で行なわれる本格的なロボットサッカー


 2009年12月5日、静岡県浜松市の浜松科学館にて、二足歩行ロボットによるサッカー大会「ロボサッカー2009」が開催された。関東からの遠征チームや地元メンバーを含めた全8チームが参加し、優勝を目指して熱い戦いが繰り広げられた。

サッカーらしさにこだわった大会

 二足歩行ロボットによるサッカー大会は、バトル大会に比べると歴史は浅いが、ここ数年人気を集め、近藤科学が主催する「KONDO CUP」やROBO-ONE委員会主催の「ROBO-ONE SOCCER」、ヒューマノイドカップ・サッカー大会を引き継ぐ形で九州ロボット練習会が主催している「YOKAロボまつり サッカー大会」など、各地で大会が行なわれるようになっている。中部地方においても、愛知県豊田市で行なわれた「とよたこうせんCUP」、愛知県安城市で行なわれた「ダイキカップ」が開催されている。

 今回開催されたロボサッカー2009は、こうしたロボットサッカー大会の一つではあるが、「サッカーらしさ」にこだわった機体レギュレーションとルールを特徴とする。ロボサッカー2009の主催はNPO法人「浜松ものづくり工房」であるが、大会自体の仕掛け人は、ダイキカップで審判委員長をつとめたかつ氏だ。かつ氏は、リアルサッカーの経験者であり、サッカー競技に対する理解と愛情が非常に深い。そうしたかつ氏には、KONDO CUPやROBO-ONE SOCCERなどのロボットサッカー大会の機体レギュレーションやルールについて、疑問があったという。例えば、KONDO CUPやROBO-ONE SOCCERの機体レギュレーションでは、足裏サイズの規定はあるものの、身長や重量については事実上無制限である。そのため、極端な話、手や足を広げるとゴールをすべてふさいでしまうようなロボットも参戦可能なのだ。KONDO CUPについては、2009年9月に行なわれた第17回KONDO CUPからは、ゴールキーパーの機体のみ、ゴールの左右半分以上をふさぐような姿勢や機体構成は禁じられたが、フィールドプレイヤーの機体についての制限はないため、機体のサイズが大きく異なり、大人と子供の試合のような場面が見られることも多い。ゴール手前での押し合いで、重量級ロボットに軽量級ロボットがボールごと押し込まれてしまれたり、1台のキーパーロボットに対して、複数のフィールドプレイヤーロボットがペナルティエリア内で密集した状態で押し込んでいくような場面もある。

 ロボットサッカーはロボットサッカーであり、リアルサッカーとは違うといえばそれまでだが、サッカーの名を冠している以上、あまりにもリアルサッカーとルールや試合展開が違うのはどうかと、以前からかつ氏は思っていたとのことだ。そこで、ロボットサッカー2009では、よりサッカーらしい試合展開が望めるような機体レギュレーションとルール作りに苦心したそうだ。

重量2kg未満、身長410mm以下という機体レギュレーション

 機体レギュレーションについては、まず重量を2kg未満とした。自作機では3kgを超える機体も増えてきているが、市販の二足歩行ロボットキットは、ほとんどが2kg未満であり、G-ROBOTS GR-001やJO-ZEROのように1kgを切る軽量ロボットキットもある。ロボット同士が殴り合うバトル競技ではないとはいえ、小さな軽量級ロボットと大型の重量級ロボットが一緒に戦うと、キック力や移動速度など、やはり重量級のほうが有利になる。ロボサッカー2009は、市販の二足歩行ロボットキットそのままでも十分に戦える大会を目指すという目的もあり、重量についてはやや厳しい制限がつけられた。さらに、サイズについても身長410mm以下、腕を左右に広げた時の最大長(肩なども含む)が530mm以下、脚(足裏から最も遠い脚のピッチ軸またはロール軸までの長さ)が100mm以上、250mm以下と、きちんと規定されている。さらに、身長の5%以上の高さを持つ頭部を備え、足裏が直径130mmの円内に入る必要がある。こうしたレギュレーションによって、市販の二足ロボットキットそのままで出たが、重量が3倍もある相手と戦う羽目になったという事態は防げる。その反面、2kg以上の自作機で本大会に参戦しようとした人は、機体の軽量化に苦労したようだ。

1チーム4台での戦いが戦術を豊かに

 ルールについては、まず1チームを4台(予備を含めて最大5台)と定めたことが大きい。KONDO CUPやダイキカップ、YOKAろぼまつり サッカー大会では、1チーム3台(予備を含めて最大4台)で行なわれているが、1チーム3台といっても、1台はキーパーになるので(もちろん、キーパーがゴールマウスを守らずにフィールドに出てきてもかまわないが、リスクが大きい)、残り2台では味方にパスを出すといっても、パスコースが非常に限定されてしまうため、サッカーの醍醐味である華麗なパス回しやフォーメーションプレイなどを行なうのは困難だ。これが4vs4になると、フィールドプレイヤーが3台になり、ぐっとサッカーらしくなる。第2回と第3回のROBO-ONE SOCCERも4vs4で行なわれたのだが、プレイヤーが増えてサッカーらしくなったという点では、参加者からの評価は高かった。チームの台数が増えると、メンバーの確保が大変になるのだが、やはり3vs3よりも4vs4のほうがプレイしていても、よりサッカーらしくなるので楽しい。

 また、タッチラインをボールが割ったときの再開方法は、キックインのみとされている。KONDO CUPやROBO-ONE SOCCERなどではキックインとスローインを選べるのだが、スローインはサーボモーターが非力な市販ロボットキットではなかなか難しいため、キックインのみに限定したようだ。ちなみに、1チーム5名で行なわれるフットサルも、スローインはなく、アウトオブプレイからの再開はキックインのみなので、オフサイドがないことも含めて、フットサルに近いルールともいえるだろう。

 また、とよたこうせんCUP、ダイキカップでも採用されたルールであるが、リアルサッカーやKONDO CUPなどとは大きく異なるルールとして、マルチプルディフェンスとマルチプルオフェンスというルールがある。これは、ゴール近くのペナルティエリア内には、攻撃側、守備側ともに複数のロボットがいてはいけないというルールだ。要するに、攻撃側、守備側ともに、ペナルティエリア内にはそれぞれ1台ずつしかロボットが入れないということだ。通常、守備側はゴールキーパーがペナルティエリア内にいるため、キーパー以外の守備側のロボットはペナルティエリア内には入れない。また、攻撃側も、2台目のロボットがペナルティエリア内に入った時点で反則となる。ルールとしては、それほど難しいわけではないが、試合がゴール前で白熱してくると、複数のロボットがペナルティエリア内に入りかける場面が何度かあり、審判から注意を受けていた(指示に従わず、複数いる状態が続く場合、そのすべてのロボットにイエローカードが与えられ、相手にペナルティキックが与えられる)。このルールによって、キーパー1台に対して複数のロボットで押し込んで行なくような展開や、逆にゴールラインに守備側のロボットが3台並んで、ゴールをふさいでしまうという展開を防げる。もちろん、マルチプルディフェンス/オフェンスというルールはリアルサッカーにはないが、このルールがあることによって、逆にサッカーらしさが増しているのが面白い(もともと自律で行なうロボカップで規定されたルールだが)。

 大会会場は、浜松科学館のホールで、整備スペースや観戦スペースも十分に確保されていた。フィールド(ピッチ)のサイズは3m×4.5mで、ゴールの幅は1.014mである。フィールドの材質はパンチカーペットで、ボールはジュニア用硬式テニスボールを利用した。KONDO CUPやROBO-ONE SOCCERで使われているぬいぐるみボールに比べて、軽くて転がり摩擦も少ないため、遠くまで転がることが特徴だ。また、ぬいぐるみボールに比べて真球度が高いので、より正確なキックが可能で、途中で方向を変えてしまうといったことが少ない。

大会会場の様子。かなり大きなホールであり、スペースには余裕があったフィールドの材質はパンチカーペットで、ボールはジュニア用硬式テニスボールを利用。ボールがオレンジ色なので見やすい。4vs4なのでよりサッカーらしい

リーグ戦と決勝トーナメント、順位決定戦が行なわれた

 ロボサッカー2009には、地元チームの「RFC愛知」や「大同窓際族」「Chukyo RoboStars」「owaribito-CU」「TABA-KICKS」と、関東から参戦した「RFCバンブーブリッジ」「スピード☆スターズ」、個人エントリーチーム「チームリベロ」の合計8チームが参加した。

 大会では、まず全8チームを4チームずつ2つのリーグに分けて、総当たりのリーグ戦が行なわれた。各予選リーグの上位2チームが決勝トーナメントに進み、下位2チームも、同じ順位同士で対戦し、最終的に1位から8位までの順位が決定することになった。最初からトーナメントでは負けたらそこで終わりだが、この方式なら最低でも4試合(決勝トーナメントに進めば5試合)はできることになるので、参加者にとってはありがたい。

 試合時間については、予選リーグと準決勝、順位決定戦は前後半なしの5分1本勝負で行なわれ、決勝戦と3位決定戦のみ、前後半5分ずつの合計10分で行なわれた。なお、決勝トーナメントにおいて、5分間で決着がつかない場合は、Vゴール方式による3分間の延長戦が行なわれ、延長戦で決着がつかない場合、試合終了の笛が鳴った時点でボールが自陣にあるチームが敗者となる(決勝戦は除く)。

 予選Aリーグの順位は、1位がRFCバンブーブリッジ(3勝)、2位がチームリベロ(1勝1敗1分)、3位が大同窓際族(1勝1敗1分)、4位がChukyo Robostars(3敗)であり、予選Bリーグの順位は、1位がスピード☆スターズ(3勝)、2位がRFC愛知(2勝1分)、3位がowaribito-CU(1勝2敗)、4位がTABA-KICKS(3敗)となった。

【動画】予選AリーグのRFCバンブーブリッジ(手前側)vsチームリベロ(奥側)の試合の様子インターネットでのストリーミング中継も行なわれていたが、回線速度が遅く、動画は切れ切れだったようだ

PK戦までもつれ込んだ決勝戦

 決勝トーナメントは、まず、準決勝第一試合としてRFCバンブーブリッジvsRFC愛知の試合が行なわれ、1-0でRFCバンブーブリッジが勝利。準決勝第二試合はスピード☆スターズvsチームリベロで、1-0でスピード☆スターズが勝利した。

 決勝戦は関東勢同士の対決となり、ロボットの地力で勝るスピード☆スターズが終始押し気味に展開するも、RFCバンブーブリッジも必死で守り(ゴールごと押し込まれた幻のゴールもあったが)、前後半を0-0で終え、3分間の延長が開始。延長でもゴールは決まらず、またも0-0で終了。勝負の行方はついにPK戦までもつれ込むことになった。

【動画】RFCバンブーブリッジvsRFC愛知による準決勝第一試合の様子【動画】RFCバンブーブリッジvsスピード☆スターズによる決勝戦前半の様子
【動画】RFCバンブーブリッジvsスピード☆スターズによる決勝戦後半の様子【動画】RFCバンブーブリッジvsスピード☆スターズによる決勝戦延長の様子

 PK戦のキッカーは、ゴールキーパー以外の3台であり、スピード☆スターズが先攻、RFCバンブーブリッジが後攻となった。まず、スピード☆スターズの1台目のストライカーが、浮き球を蹴り、ワンバウンドしてキーパーが広げた脚の上を越えるという見事なシュートで先制。RFCバンブーブリッジの1台目のfighting-γのシュートは、ゴールキーパーの脚に当たりながらもギリギリでゴールに入り、イーブンに戻す。スピード☆スターズの2台目のサアガのシュートはキーパーによって防がれ、続く、RFCバンブーブリッジの2台目のKHR-3HVのシュートもセーブされてしまう。スピード☆スターズ3台目の「アームドール」のシュートも入らない。RFCバンブーブリッジ3台目の宗0郎のシュートは、キーパーが全く反応できなかったのだが、惜しくもゴールポストをたたいて外れてしまう。3台ずつ終えて、結果は1-1。まだ決着は付かない。そしてPK戦は2巡目のサドンデスに突入。スピード☆スターズのストライカーのシュートは見事にキーパーがセーブ、fighting-γのシュートは狙いすぎて、ゴール左横に大きくそれてしまう。緊張が極限に達する5台目、スピード☆スターズのサアガは、笛が鳴ってからもしばらく動かず、キーパーの反応をずらすべく、タイミングをはかってシュート。これがなんと、キーパーが広げていく脚の間をすり抜けるという魔法のようなシュートになる(参加者に後でハイスピード撮影した動画を見せてもらったが、本当に絶妙のタイミングであり、シュートがあと0.1秒早かったり遅かったりしたらキーパーに防がれていた)。後がなくなったRFCバンブーブリッジvだが、KHR-3HVが外してしまい、ついに熱戦に終止符が打たれた。栄えあるロボサッカー2009の優勝はスピード☆スターズ、準優勝はRFCバンブーブリッジで、3位決定戦の勝者はRFC愛知となった。

【動画】RFCバンブーブリッジ1台目のfighting-γのPK。キーパーの脚に当たるがなんとかゴールを決める【動画】RFCバンブーブリッジ3台目の宗0郎のPK。ゴールポストをたたいてしまう。あと1,2cm内側だったら入っていたと思う【動画】2巡目のスピード☆スターズのサアガのPK。じらしてタイミングを計り、見事なPKを決める。もう少しシュートのスピードが遅かったら、防がれていたはず。また早くても、脚を広げる途中の足裏に当たっていた可能性が高い
PK戦の最終結果。2-1でスピード☆スターズの勝利。リアルサッカーよりもPK成功率は遙かに低いが、これくらいのほうが面白い優勝したスピード☆スターズへのカップ授与の様子優勝したスピード☆スターズのメンバーとロボット
ロボサッカー2009の参加者とロボットの集合写真

ジュビロ磐田の特別協賛も

 表彰式の後、協賛企業提供の協賛品の抽選会が行なわれ、こちらも盛り上がった。また、ロボットサッカー大会としてはおそらく史上初だと思うが、Jリーグチーム「ジュビロ磐田」も特別協賛として名を連ねており、優勝チームにはジュビロ磐田からのグッズやサイン色紙などが贈られた。

 今回、RFCバンブーブリッジの助っ人としてメンバーに加わった48氏は、KHR-3HVベースの機体で参加していたのだが、同氏のKHR-3HVの新オプション「KHR-3HV開脚フレームセット」が搭載されていた。KHR-3HVの標準構成では、脚を左右に180度開脚できないため(KHR-2HVでは可能)、サッカーのキーパーが多用する脚を左右に広げるディフェンスができなかった。しかし、KHR-3HV開脚フレームセットを組み込めば、左右に180度以上の開脚が可能になるので、サッカーには非常に有効だ。両脚を広げるディフェンスも、リアルサッカーらしくないという批判もあるだろうが、現状のルールにおいては非常に有効である。フィールドプレイヤーでも使う場面が多いことは、試合の動画を見ればわかるだろう。KHR-3HV開脚フレームセットを組み込むと、追加の脚部旋回軸(ヨー軸)は利用できなくなるが、腰旋回軸(ヨー軸)の追加は可能だ。KHR-3HV開脚フレームセットは、価格6,930円で、12月22日に発売予定であり、KHR-3HVでサッカー大会に出たいと思っているのなら、必須のオプションとなるだろう。サッカー以外でも、モーション作成の幅が広がるのでお勧めだ。

協賛企業各社から提供された協賛品。当選確率はかなり高かったようだ48氏のKHR-3HVには、KHR-3HV開脚フレームセットが組み込まれていた。開脚フレームセットを組み込むと身長が約2cm低くなる
開脚フレームセットを組み込めば、キット標準では不可能な左右180度以上の開脚が可能になる開脚フレーム部分のアップ。腰ヨー軸の追加は可能だ

 ロボサッカー2009は、一般の観客があまり多くなかったのが残念だったが、大会の運営はスムーズであり、レギュレーションやルールがよく練られていたため、一方的な展開ではない白熱した戦いが繰り広げられ、参加者も観客もとても楽しんでいたようだ。次回開催はまだ未定とのことだが、ロボットサッカー大会の規範となるべく、今後も開催を続けていってもらいたい。


(石井英男)

2009/12/24 19:29