第30回 全日本マイクロマウス大会【マイクロマウス(ハーフサイズ)競技編】

~海外からの参加者も含め33台がエントリー。決勝は28×32区画の巨大迷路


 11月22日~23日、茨城県つくば市のつくばカピオにおいて、第30回全日本マイクロマウス大会が開催された。既にマイクロマウスクラシック競技については、本誌にレポートをした。本稿では、今年から正式競技となったマイクロマウス(ハーフサイズ)競技についてレポートする。

 昨年のプレ大会は、出場者は国内からだけだったが、今年は海外勢を含め33台のエントリーがあった。実際に出場したのは22台で、ゴールに到達したのは9台だった。決勝の巨大迷路を走破して優勝したのは、名古屋工業大学の加藤雄資氏が製作したBeeだった。

マイクロマウス(ハーフサイズ)競技 決勝風景優勝したBee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)加藤雄資氏のシミュレーション画面に海外参加者も注目していた

マイクロマウス(ハーフサイズ)競技とは

 マイクロマウス競技では、小型の自立知能型ロボットが未知の迷路を探索し、スタートからゴールまでの走行タイムを競う。昨年まで、「マイクロマウス」と呼ばれるロボットの規格は、18cm角の通路を走行できる1辺25cm以下のロボットと定められていた。この規格は、30年前、第1回全日本マイクロマウス大会が発足した時に規定されたものだ。しかしこの数年、急激な技術の進化により、マイクロマウスは手のひらに乗るほど小型軽量化が進んだ。

 そうした技術の進化を背景に、マイクロマウス委員会が第28回大会(2007年)の閉会式で、「現在の技術で挑戦するマイクロマウス」として従来のマイクロマウスのサイズを1/2にスケールダウンする計画を発表した。

 当初は、今年開催される第30回全日本マイクロマウス大会から、エキスパートクラスをハーフサイズマウスに移行することが検討された。しかし、参加者の間から「今のサイズだからチャレンジできる課題もある」という意見が寄せられたため、従来のサイズを“マイクロマウスクラシック”とし継続することとなった。そして今年からは、マイクロマウス競技は、ハーフサイズマウスが出場するクラスを指す。当面は、混乱を避けるためマイクロマウス(ハーフサイズ)と表記する。

 マイクロマウスクラシック競技との相違は、前述の通り全てのサイズが1/2にスケールダウンしている点だ。

 迷路は厚さ6mm、高さ25mmの壁で区切られた1区画90mmのサイズだ。その中を走るマイクロマウスは、縦横125mm以内と定められている。寸法が1/2になれば、迷路の面積は従来の1/4、マイクロマウスの体積は1/8となる。数字だけではピンとこないが、実際に目で見ると電子部品がぎっしりつまったマイクロマウスの精密さに驚く。

 もうひとつルール上の相違点がある。クラシック競技ではゴール地点がセンターの4区画と定められているが、ハーフサイズにおいては迷路毎にゴール地点は異なる。ゴールのセンサー位置は、事前に公式サイトで発表される。また予選は16×16区画だが、決勝戦は32×32区画以下の任意サイズとなる。

予選は16×16区画の迷路で行なう。左上ブロックの赤い壁の部分がゴール決勝の28×32区画迷路

海外からも初の参加者。予選は9台がゴール

 予選の1位は、加藤雄資氏(名古屋工業大学)のBeeで記録は5秒117だった。2位のXite:Mini(Neil Koh Kai Wen氏/Institute of Technical Education)に1秒以上差をつけていた。

 Beeは、1カ月前に開催された中部大会では、前日に機体が完成したばかりで5回ともリタイヤしていた。加藤氏はプログラムの作り込みをして、全日本大会に挑んだそうだ。加藤氏は、「渦巻きと階段は、Beeの探索と相性が悪い。細かいターンと直線の連続は苦手だが、長い直線や長い斜めは得意」という。その言葉どおり、斜め走行もキレイに決めていた。

 予選で非常に惜しかったのが、Ning4(Ng Beng Kiat氏/Ngee Ann Polytechnic)だった。Ning4は、滑らかな走りでゴール近くまでいったのに、Uターンして全面探索後にスタートまで戻ってしまった。時間いっぱい探索走行を繰り返したが、どうしてもゴールを迂回してしまう。結局、ゴールにたどり着かないまま持ち時間を終了してしまった。Kiat氏は、競技終了後にゴール横の壁を外して走行テストをしていたが、やはりゴールできない。原因が分からないようで、しきりに頭を捻っていた。Ning4は、スムースな走りをしていただけに、第2走行をみられなかったのが残念だ。

 もう1台、ゴールには到達できなかったが、参加者の注目を集めたマウスがある。6輪の「さはらまうす」だ。製作は菅原昌弥氏がソフト、佐藤陽介氏がハードを担当。かつて6輪マウスで一世を風靡した井谷優氏(日本システムデザイン株式会社)や中島史敬氏が「ハーフサイズで6輪マウスは無理」と言ったため、技術チャレンジとして製作したという。両氏の6輪マウスを参考にした、オリジナル設計だ。佐藤氏は「スピードよりも、難しい技術に敢えてチャレンジしたかった」と、製作の動機を語った。モーター、エンコーダーなど既製品を使用するパーツで寸法が決定するので、限られたスペースに、いかに必要な部品を配置するか苦心したという。設計の段階で、10回近く検討を繰り返したそうだ。

 予選上位のマイクロマウスの走りと、興味深いチャレンジをしたマイクロマウスを動画で紹介する。

【動画】予選1位のBee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)の探索走行【動画】Beeの3回目の走行。6秒01でトップにたった【動画】Beeの5回目の走行。自己記録を更新し、5秒117を出した
【動画】Excel:Mini-1(Khiew Tzong Yong氏/Institute of Technical Education)5回目の走行。記録は、6:729で3位【動画】Xite:Mini(Neil Koh Kai Wen氏/Institute of Technical Education)5回目の走行。記録は6秒375で2位【動画】Ning4(Ng Beng Kiat氏/Ngee Ann Polytechnic)。ゴール直前でUターンしてスタート地点に戻ってしまった
6輪のさはらまうす09Y(佐藤陽介氏/Team Sahara)手に持つと、各電子部品がいかに細かいかよく判る【動画】メリハリのある走りをするblack-eye(宇都宮正和氏/個人)。9秒776で4位
【動画】ロング11号機(小峰 直樹氏/個人)は、探索走行後にオートスタートで第2走行を行った。記録は 10秒414【動画】mm-nanoは、スラローム走行を封じてゴール。記録は21秒497予選迷路。赤が61歩34折、青は63歩30折

決勝は、初登場の長方形迷路

 予選でゴールに到達した9台と東北地区大会でシード権を獲得しているChoi(竹本裕太氏/東京理科大学Mice)が、翌日の決勝に出場した。

 今回の決勝は、28×32区画の長方形だった。これだけ大きなサイズの迷路は、自宅はもちろん学校でも設置は難しい。昨年のプレ大会で決勝に出場した4台のマイクロマウス以外は、未体験の広さだ。持ち時間15分の中で、この広い迷路をいかに効率よく探索するかがポイントとなる。

 Beeの加藤氏は、最短経路が見つかるまで全面探索を続ける方針だった。Beeは、16×16迷路を2分で全面探索を終了するので、32×32は4倍の8分あれば終了するという計算だ。

 black-eye(宇都宮正和氏)も全面探索を採用。大きな迷路に対応するため、演算スピードをアップしたという。バッテリ保護のため、スタートから5分後には探索が終了していなくても、スタート地点に戻る。32×32を走ったことはないため、シミュレーターでプログラムをチェックしているそうだ。

 ロング11号機(小峰直樹氏)は、探索走行でゴールした後は一旦、探索しつつスタート地点に戻る。現時点での最短距離で第2走行した後に、前回とは違うルートを探索しスタート地点に戻る重ね探索を採用。3~4回繰り返すと全面の探索を完了し、最短経路を走行するという。

 昨年のプレ大会で優勝したmm-nano(井谷優氏/日本システムデザイン(株))は、「全面探索しなくても最短を見つけることはできる」という。ゴール地点は事前に分かっているため、常にゴールに向かって走っていけば、探索不要な区域が判断できるらしい。mm-nanoは、最短を見つけるとスタート地点まで戻ってくるそうだ。

 昨年のプレ大会では、迷路のサイズは32×32の正方形。ゴールは、迷路の中央にあった。今回のように長方形の迷路の中、任意のゴールに向かって走るのは、全てのマウスにとって初めてのチャレンジだ。委員会としては、この2点が今年の課題だったのかもしれない。

 しかし参加者にとっては、これらは大きな問題にはならなかったようだ。口々に「決勝コースはカンタンだった」と出場者は口を揃えていた。実際、マイクロマウスが走行した最短経路は47歩18折と距離も短く、予選の方が難しかったという声が多かった。新しい技術チャレンジを始める時、参加者も大変だが、出題者側も課題の難易度設定に苦労しているようすが伺える。

 優勝したのは前述のとおりBee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)だ。探索走行は32秒152でゴールし、全面を探索して2分程度でスタート地点へ戻ってきた。2回目の走行は確実な速度で走り6秒904でゴール。そして3回目以降はスピードを上げてきた。予選1位のBeeが決勝で最終出場者となるため、3回目の走行で4秒469でゴールした時点で、優勝は確定した。その後は、自己記録を更新。最終走行の前には「4秒を切ります」と宣言して最高速で挑んだ。記録は4秒079と宣言にわずかに届かなかったが、他を寄せ付けぬスピードと安定性を見せた。

 マイクロマウス競技はスピードとともに賢さも評価される。探索走行でゴールに一番歩数が少なかったマイクロマウスに探索賞が贈られる。今回は、Choi(竹本裕太氏/東京理科大学Mice)が87歩で探索賞を受賞した。

 また、自律賞は5回の走行を全てオートスタートで成功したblack-eye(宇都宮正和氏)が受賞した。通常、マイクロマウス競技は、マウスがスタート地点に戻ってくると、タイヤの掃除をしたり、センサーのチェックをしたり、速度調整をしたりと次の走行準備をする。そうして優勝したBeeのように、走る毎に速度を上げて記録を短縮するのが普通だ。宇都宮氏は最初から自律賞を狙い、2回目以降の走行を徐々に速度を落として確実に走ることを目指したそうだ。自分の目標をきっちりと定めて、それを完遂するマウスを仕上げてくるという姿勢は、審査員だけではなく参加者からも評価されていた。

 上位マウスや受賞マウスの走りを動画で紹介する。

【動画】Bee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)の探索走行【動画】Bee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)【動画】Bee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)
【動画】2位のExcel:Mini-1(Khiew Tzong Yong氏/Institute of Technical Education)。5回目の走行で4秒923【動画】探索賞のChoi(竹本裕太氏/東京理科大学 Mice)【動画】自律賞のblack-eye(宇都宮 正和氏/個人)
【動画】4位のロング11号機(小峰 直樹氏/個人)。4回目の走行で記録は6秒530【動画】mm-nano(井谷優氏/日本システムデザイン(株))は、7秒146で5位だった決勝迷路。47歩18折

 プレ大会では斜め走行するマイクロマウスはいなかったが、今年の第1回目の大会で、既にスラローム走行や斜め走行ができなければ優勝できないレベルになっている。次回、迷路が複雑になれば、探索ロジックなどマウスの賢さがより重要になるだろう。今後、マイクロマウスがどのように進化していくのか、興味は尽きない。

【第30回 全日本マイクロマウス大会 マイクロマウス(ハーフサイズ)競技受賞者】
順位ロボット名参加者名記録
優勝
ニューテクノロジー賞
Bee(加藤雄資氏/名古屋工業大学)00:04:079
2位Excel:Mini-1(Khiew Tzong Yong氏/Institute of Technical Education)00:04:923
3位Xite:Mini(Neil Koh Kai Wen氏/Institute of Technical Education)00:05:157
4位
特別賞
ロング11号機(小峰 直樹氏/個人)00:06:530
5位mm-nano(井谷優氏/日本システムデザイン(株))00:07:146
6位
自律賞、バンダイナムコ賞
black-eye(宇都宮 正和氏/個人)00:07:449
7位
探索賞(87歩)
Choi(竹本裕太氏/東京理科大学 Mice)00:08:232
8位氷雪(米田 圭佑氏/早稲田大学マイクロマウスクラブ)00:11:558


(三月兎)

2009/12/7 15:53