「第16回ROBO-ONE in 富山」レポート【決勝編+宇宙大会選抜競技編】
2009年9月26日~27日、富山市・富山産業展示館(テクノホール)にて開催された、第16回ROBO-ONE in 富山の決勝トーナメント、及び宇宙大会選抜競技の結果をお伝えする。
●手足の長さそのものを規制する方向に
今大会で大きく変更されたルールは、予選でも明らかになっている「リングの拡大」のほか、「足の裏のサイズ規制」と「胴体から離れて動く部分の長さ規制」である。
足の裏のサイズ規制は何度か改訂されているが、いったん第14回でゆるめられた「5kg超」のロボットに対する規制が、「7kg以下」「10kg以下」「10kg超」と細分化され、大幅に重い機体の足はゆるめられる前の厳しい基準のクリアが要求されるようになった(画像参照)。
もう一つの「胴体から離れて動く部分の長さ規制」は初めて取り入れられたルールである。従来は格闘で有利に働くリーチ(腕の長さ)や安定性(足の裏のサイズ)が、体重を基準にした「足の長さの○%」という規定になっていた。そのため、足を最大限長く作ったうえで、体重をリミットいっぱいに収める設計のロボットが増えてきていた。“格闘競技”としては胸を張って正常進化と言えるのだが、「試合の勝ち負けよりも技術的なすばらしさやエンターテインメント性を重視する」という前文を掲げるROBO-ONEとしては、あまり歓迎できない事態だったのだろう。
規制値は機体重量によって変化し、軽量級選抜競技にも出場できる3kg以下は最大30cm、10kgを超える機体でも50cmまでしか許されなくなった。「脚を除いた、胴体から離れて動く部分」ということで、腕や尻尾、頭などが含まれる。
競技ルールの方は第14回からそれほど大きく変更されることはなかったが、軽量級選抜大会(第15回)で採用された新ルールから、「自機を中心として一度に90度以上にわたる範囲攻撃の禁止」が引き継がれた。一方、「打撃のみ」「投げ技のみ」といった“縛り”のルールは、今回設定されなかった。
【お詫びと訂正】初出時、今回のルール変更において、脚部の長さも含まれると表記しておりましたが、誤りでした。お詫びとともに訂正させていただきます。
第14回の足裏規定(左)と今回の足裏規定(右)。ROBO-ONE公式ルールより抜粋 | リングが大型化したことで、1kg前後の小型機にとっては非常に広いフィールドのようなリングになった |
●“なんでも来い”の無差別級だからこそのバトル
今大会は“無差別級”ということで、重さもサイズも全く違う二足歩行ロボット同士が同じリングで戦うことになった。
大柄なロボットはリーチが長いが、急な方向転換のような素早い動きはできない。一方、小さなロボットはパワーとリーチでは劣るものの、スピードを活かせば広くなったリングで上手く立ち回り、懐に飛び込むチャンスをうかがうことが可能なはずだ。筆者としては、そこで大型機をひっくり返すことができるロボットがいるかどうか……と楽しみにしつつ、見ることにした。
絵に描いたような対決が実現したのは、2回戦で見られた予選3位「ハンマーヘッド(大阪産業大学歩行ロボットプロジェクト)」対同15位「ビグ・グランデ(ロボットフォース)」の対決である。
「ビグ・グランデ」は腕がないため、膝に着けた攻撃用のガードで相手ロボットを蹴り飛ばす作戦を取り、1回戦の「MgAloT(JUN)」戦を勝ち抜いている。「ハンマーヘッド」はそんな「ビグ・グランデ」の間合いを見きると、一気に足下に飛び込み、あっという間に倒してしまったのだ。「ビグ・グランデ」のは足裏の規制が厳しくなったことで、元々動きの安定性に不安があったうえ、起き上がりもできないと言うことで、そのままKO。“義経と弁慶”のような試合になった。
一方、小兵で精一杯戦ったものの、無念の涙を呑んだのが「エクセリオン(はっし~)」だ。ROBO-ONE GPにも参戦する実績組「Aerobattler MON☆(なぐ)」に対し、絶えず周囲を移動しながら隙を伺い、間合いを計る。「Aerobattler MON☆」のほうも素早い相手に対して先読みでパンチを出して対応し、決定打を喰らわないように立ち回る。結局3分間動き続けた両者ノーダウンで延長戦に突入。ここでも両者は積極的に戦うが、最後は起き上がった隙を「Aerobattler MON☆」が見逃さず、突き倒して決勝のダウンを奪った。
「ビグ・グランデ」対「ハンマーヘッド」 | 「Aerobattler MON☆」対「エクセリオン」 |
地元の富山からは2機が出場。両機ともに決勝トーナメントのリングには上がったものの、勝利を収めることはできなかった。2006年に行なわれた「富山ロボットフェスティバル」でデモステージを行なったROBO-ONEに影響されたというコメントもあり、裾野を広げていこうとするROBO-ONEの努力が形になって見えたといえるだろう。
地元TV局のカメラも追っかけていた「エール(なんちゃ)」は、東京・秋葉原のロボットショップ、アールティで販売されている着ぐるみ用人型ロボット「RIC」をベースにしたもので、富山県の鳥・ライチョウをモチーフにした外装を持っていた。
もう1機の「MgAloT(JUN)」は、富山県が誇る産業でもある合金加工から、大部分のフレームをマグネシウムで制作した機体だ。ベースは週刊ROBOZAKのロボットRZ-1(≒ROBONOVA)で、サーボも強化していたようだが、今回は相手があまりも大きすぎた。
「エール」対「Neutrino-MEGA(飛騨神岡高校)」 | 「ビグ・グランデ」対「MgAloT」 |
注目の対決、ということで言えば、「Wegweiser II(内村紘士)」対「automo 06(Wakka)(holypong)」は、ROBO-ONE本大会でありながら、先日開催されたS.H.R.Bのような、ガンダム同士の対戦となった。安定度に優る「automo 06(Wakka)」が勝利を収めたが、お互いに勝利最優先ではなく、こだわり最優先で制作されたロボット同士の戦いは、見ていて笑顔になってしまった。ダウンして頭が外れてしまったまま動いている「Wegweiser II」に対して「怖い、怖い」と言っている観客のお子さんの声が入っているが、この対決がガンダム同士だと気づいていた観客の一部は、きっと「左腕も外れれば完璧」と思っていたに違いない。そんな楽しみ方があるのもまた、ROBO-ONE(か?)。
「gundam mk-2 ver.mako(まこ)」対「JO-ZERO type UF(まりもと)」は、無差別級でありながら、両機ともに1kg以下という、神の配剤としか考えられない対戦。リングも果てしない広さに感じられるが、小型機ならではのきびきびした動きの戦いとなった。試合はしっかりと投げ技が仕込まれていた「JO-ZERO type UF」の勝利に終わった。
また、決勝に進んだ注目のロボット「雛(夢邪鬼)」だったが、当日に機体故障が発生。急遽予選でコンビを組んでいた予備機に設定を移したものの、ハンドクラフトの機体ゆえの個体差か、安定して動くことができず、棄権することになった。
「Wegweiser II」対「automo 06(Wakka)」 | 「gundam mk-2 ver.mako(まこ)」対「JO-ZERO type UF(まりもと)」 | 朝一番、取材で訪れた選手控え室で目に飛び込んできたのは、一心不乱に修理する「雛」。戦う姿を見たかったような、かわいそうなような…… |
今大会の決勝トーナメントは学生チームが多く、さまざまなレベルの戦いが繰り広げられた。積極的に自分たちで大会を主催しているような学校の機体はさすがによく動いていたが、優勝賞金がかかっている大会の決勝トーナメントとしては、残念としかいえないレベルの動きしかできない機体がいたことも事実だ。お金をかけずともモーションをしっかり作り込むことはできるはずだし、学生チームだからこそ、そこに時間をかけることもできるはず。ROBO-ONE本大会のリングで何かを吸収して、次回大会でガツンとレベルアップした姿を見てみたい。
「ビッグバーン(大阪産業大学歩行ロボットプロジェクト)」対「建御雷神(大同工業大学 ロボット研究部)」 | 「ローリングピラニ(法政大学電機研究会)」対「ハンマーヘッド」 | 「竜鬼II」対「ぼくらのげんかいORZ(日本工業大学S.R.F)」 |
●さらにバトルをどっさりと
●決勝&3位決定戦
3位決定戦は、ともに準決勝で大型機に敗れた「ザウラー」対「ハンマーヘッド」の顔合わせとなった。非常に良く動く機体同士で、どちらも“掴む”グリッパーを装備しているという、似通ったイメージのロボット同士でもある。
序盤、互いに広いリングを十二分に活かし、めまぐるしくポジション取りを替えながら間合いを確かめていたが、突然「ハンマーヘッド」がタイムを申請。バッテリ付近を確かめただけですぐに復帰したが、これによって1ダウンのビハインドになってしまう。
このビハインドを取り返そうと必死で攻め込んでくる「ハンマーヘッド」に対し、逆に労せずしてリードを得た「ザウラー」は、間合いを保ちつつ、消極的に取られないように手数も出していくクレバーな試合運びを見せる。試合終了のブザーとほぼ同時に、ついに「ハンマーヘッド」が「ザウラー」を捕らえたと見えたが、レフリーの判定は“ノーダウン”。「ザウラー」が3位に輝いた。互いに必死の攻防が繰り広げられたこの3位決定戦は、この大会の筆者個人的ベストバウトでもあった。
決勝はディフェンディングチャンピオンである「OmniZero.9」に、ROBO-ONE GPで活躍中の「Aerobattler MON☆」が挑戦する、という形になった。
ROBO-ONEの参加ロボットの中では大型機に分類される「Aerobattler MON☆」だが、「OmniZero.9」が相手では腰までの高さにしかならない。試合開始直後に正面からパンチを食らって1ダウンを喫すると、じわじわとリング際に追い込まれ、しゃがんだ状態から立ち上がったところを跳ね飛ばされてリングアウト→2ダウン。パンチを食らった瞬間にしゃがむことで耐える(パンチの勢いが強いので、マンガみたいにロボットが滑っていく)が、結局しゃがんでいると動けないので間合いを詰められてしまい、立ち上がったところを狙われて3ダウン。なすすべもなく敗れ、「OmniZero.9」が頂点に立った。
予選から決勝まで、まさに圧倒的なパフォーマンスを見せた「OmniZero.9」。前田氏は今大会から初めて設けられた「予選1位の賞金」50万円と「優勝賞金」50万円の両方を獲得。総額100万円を手に入れることになった。しかし、「もうやりつくしたとか、もうやることないとか、そういった風には思ってないですね」と、前田氏は笑う。
次回の軽量級選抜大会は2010年3月に川崎での開催が予定されているが、こちらには機体の準備が整って、決勝出場権のかかった大会に間に合えば、ぜひ出場したいということだ。ひとつ置いて来年の秋に開催されるはずの“無差別級”は、体重制限がもう少し軽量に変更されることが示唆されていたが、「これをシェイプアップして10kgにするのは無理ですから、また別の機体を作ると思います」という。“常に何か新しいことを”と考える前田氏の、次の「Omni」はどんな機体になるのだろうか。そして、この前田氏にストップをかけるチームは現れるのだろうか。次の“無差別級”大会で、再び予想をはるかに超える「何か」を持ったロボットを見られることを期待したい。
3位決定戦「ザウラー」対「ハンマーヘッド」 | 決勝戦「Aerobattler MON☆」対「OmniZero.9」 |
決勝戦終了後、トップ3を囲んで集合写真 | 優勝者に渡された、盾がわりの名物「巨大かまぼこ」。入賞者に渡されていた鯛の巨大かまぼこは既製品だが、こちらは特注 |
●宇宙大会選抜競技
1回着地に成功すると10万円、3回連続で成功すると将来的に予定されている宇宙大会への出場権が得られるという宇宙大会選抜競技。今回は「SwordDancer(未来ロボット工学研究室)」「田舎者 U号(龍準)」「ナガレブルー・コスモ(フラワー戦隊ナガレンジャー)」「OmniBall(前田武志)」の4機が参戦し、「OmniBall」が1回目と3回目で2回成功。惜しくも3回連続とはならなかったが、次回以降に期待を持たせる結果を見せてくれた。
初期のアナウンスでは2010年とされていたROBO-ONE宇宙大会だが、今回公式に西村委員長から「もう少し先に伸びます」というアナウンスが出て、しばし時間的猶予が生まれた。第16回ROBO-ONEを完全制覇した“Omni”が宇宙も制する日が来るのか。次回の宇宙大会選抜協議も見逃せないだろう。
2009/11/2 19:29