かわロボろぼも政権交代!? ロッドアームのマシンが台頭した決勝トーナメント

~「第16回かわさきロボット競技大会」レポート


249チームから選ばれた48チームが熱いバトルを繰り広げた!

 8月21日から23日までの3日間、神奈川県・川崎市産業振興会館において「第16回かわさきロボット競技大会」(以下、かわロボ)が開催された【写真1】。主催は財団法人川崎市産業振興財団、共催は川崎市。本レポートでは、23日に催されたバトルロボットおよび、かわロボJr.競技大会の決勝トーナメントの模様などを中心に報告する。

 16回を迎えた本競技会は、異種格闘技戦の登竜門として知られ、毎年多数の参加者が自慢の腕を競い合っている。高校生以上が参加するバトルロボット競技では、予選249チーム(キャプテン、ドライバー、エレキ、メカニック担当の4人で編成)が、脚・腕構造を持つラジコン型ロボットを製作。今回、その中から勝ち上がってきた48チームが決勝トーナメントに進出した【写真2】。

【写真1】川崎市産業振興会館で開催された「第16回かわさきロボット競技大会」。ロボット異種格闘技戦の登竜門として知られている大会だ【写真2】予選249チームの中から48チームが決勝トーナメントに進出。写真は立命館大学ロボット技術研究会の「惺AL」。回転シールドとロッドを備えた機体で相手を攻撃。敢闘賞を受賞

 一方のロボットが相手のロボットを倒すか、リングの場外に相手機体を押し出し、2本先取したほうが勝者となるシンプルなルールだが、今年から機体が持ち上げられ地面から離れた時点で1本先取となるルールも加わった。またリング内に設けられた丘陵や溝付き正方形などの障害物は昨年と同様だが、1試合の制限時間が3分間から2分間に短縮された。ブロックに分け、各ブロックで勝ち抜いた代表3チームが総当り戦で順位を競う2段階選抜の優勝決定方式や、技術賞2部門(実機・企画)も昨年から引き継がれた形だ。

 ロボット本体のサイズは、W250×D350×H700mm(幅×奥行き×高さ)、重量3,500g以内で、移動用の脚構造と、相手を攻撃する腕構造を備えている【写真3】。脚と腕構造は創意工夫を凝らしたものが多く、毎年ユニークなロボットが登場している。駆動をつかさどるモータについては、使用モータ数に制限はないが、脚・腕構造ともに380モータ(マブチモータ製またはタミヤ製と同スペック相当)を使う。ただし腕構造はモータ以外にも空気圧、油圧などのアクチュエータやRCサーボモータの使用も可能だ。送受信機については、双葉電子工業の「ATTACK 4VWD」および「ATTACK 4GWD」(いずれもAM4ch.27MHz帯)を使う決まりだ。

 攻撃面からロボットの構造を分類すると、高速回転アームで相手を勢い良く弾き飛ばすタイプ【写真4】【写真5】のほか、相手の機体をアームで素早くリフティングしてすくい投げるタイプ【写真6】【写真7】や、長いスティック状アームで突き出すタイプ【写真8】【写真9】などが主流。さらに、これらのメリットを生かした併用タイプなどもあった。特に今年はスティック状アーム(ロッドアーム)を持ったロボットの活躍が目立っていた。また脚回りの機構は、上下振動がほとんどない軌道を生成する「ヘッケンリンク機構」(特殊4節リンク機構)を採用する機体が多かった。いずれにしても決勝トーナメントまで進んだロボットは強豪ぞろい。迫力あるバトルが繰り広げられるため、観戦するほうも一瞬たりとも目が離せない状況だ。

【写真3】ロボットは、移動用の脚構造と、相手を攻撃する腕構造を装備。写真は東京電機大学自動制御研究部の「愚零賭覇死喪斗轟」。角のようなロッドを持つ。敢闘賞を受賞【写真4】高速回転アームを備えたロボットその1。みわっちFARMの「小悪魔神楽」は、モータを4つ連装し、大型刃4枚を同時に高速回転させて相手を攻撃。脚はヘッケンリンク式の薄型クランク4点駆動構造を採用。スポンサーの「さいかや賞」を受賞【写真5】高速回転アームを備えたロボットその2。昨年優勝したKHK歯車工房の「燐 Centurion」。アームの面部分に重りが付いており、慣性力で相手を強力に弾く面制圧方式だ。回転シールドアームには「結婚おめでとう」の寄せ書きが! 今回は洗練されたボディが評価され、デザイン賞を受賞
【写真6】アームで素早く機体をリフティングするタイプその1。東京都立産業技術高専の「Penetrator」は、ミッドレンジのシールドアームで機体をすくい上げる方式。「川崎マリーンロータリークラブ賞」を受賞【写真7】アームで素早く機体をリフティングするタイプその2。Tマルチエンジニアリングの「空音」は機動性に富み、リフティングアームと2枚の垂直尾翼を持つ。デザイン賞を受賞【写真8】スティック状アーム(ロッドアーム)を持つタイプその1。今年の大会で特に多く見られた。写真は神奈川工科大の「カラサワ」。長いリーチを生かした攻撃が特徴。敢闘賞を受賞
【写真9】スティック状アーム(ロッドアーム)を持つタイプその2。同じく神奈川工科大の「鉄心琴」。この機体はしなやかな独特のロッドアームをもち、前評判も高かった

高専、大学、社会人による個性的なロボットの競演

 ここからはブロック代表決定戦まで(第1回戦から第3回戦)の対戦で登場したロボットや、印象に残った試合について簡単に紹介しよう。

 学生チームの中でエントリー数が多かった学校は、芝浦工業大学、東京電機大学、神奈川工科大学の3校だ。予選を勝ち抜いて決勝トーナメントにのぞんだマシンの数は、芝工と電機大が各7台、神工大が6台。いずれもユニークな機体で参戦した【写真10】【動画1】【動画2】【写真11】【動画3】【写真12】【写真13】【写真14】【写真15】【写真16】【写真17】【写真18】【写真19】【写真20】【写真21】【動画4】。このほか関東地区では東京工科大【写真22】と東京都市大(旧武蔵工大)【写真23】が1台ずつエントリー。

【写真10】芝浦工業大学SRDCの「ユイチイタン」。チタンを材料とした強力なシールドアームが特徴で、鉄壁なディフェンスが特徴。スポンサーの「オリジナルマインド賞」を受賞【動画1】「ゼネラルエンジニアリング賞」を受賞した芝浦工業大学SRDCの「BELIAL」。アームはスライダーリンクを応用。クラスターは協育歯車を使って連装した。対戦相手は同じく芝工のロボット遊交部からくりの「FINAL PANTHER」。マイコンを搭載し、操作性を向上。こちらは敢闘賞を受賞【動画2】「夢現工房賞」を受賞した芝浦工業大学SRDCの「高天原」。高速回転するブレードアームで相手を吹き飛ばす(動画左)。対戦相手はセントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」。折り畳み式の長いロッドアームで攻撃
【写真11】芝浦工業大学ロボット遊交部からくりの「U-5」。長さの異なる2本の横回転アームを装備し、相手を横からひねり倒す。努力賞を受賞【動画3】芝浦工業大学ロボット遊交部からくりの「U-1」は、長いリーチのロッドが大きな特徴で、相手の機体を寄せ付けずにひっくり返す。「川崎南法人会青年部賞」を受賞。対戦相手は東京都立産業技術高専の「Penetrator」【写真12】芝浦工業大学SRDCの「村正」。高速回転シールドで相手をフィールドから追い出す。低重心で安定した構造だ。強い脚回りで機動性にも優れる。敢闘賞を受賞
【写真13】東京電機大学自動制御研究部の「東方壱号」。両サイドに回転アームを装備した大型マシンで、相手を勢いよく弾く構造。「協育賞」を受賞した【写真14】東京電機大学自動制御研究部の「遺憾の意」。鋭利な2対の高速回転アームを装備して相手を弾く。敢闘賞を受賞した【写真15】東京電機大学自動制御研究部の「鬼哭斬破刀・真打」。足回りを「ヘッケンリンク機構」とし、ハサミのような4本のスライダ・クランクアームで相手を投げ飛ばす。敢闘賞を受賞
【写真16】同じく東京電機大学自動制御研究部の「吉光」。2対の回転アーム部をサポートする車輪を装備している。こちらも敢闘賞を受賞【写真17】東京電機大学自動制御研究部の「ストレイムマイスター」。規定の高さを最大限に活かした大型設計だ。昨年は「TERAマイスター」という名前だった。敢闘賞を受賞【写真18】東京電機大学自動制御研究部の「ストレリチア・レギーネ」。流行のロングロッドアームを装備している。走破性が高い足回りも特徴のひとつ。敢闘賞を受賞
【写真19】神奈川工科大学ロボット工学研究部の「鍔騎」。角のようなアームで相手をリフティングする。分割小型化した機体は小回りが利き、丘を超える走破性をもつ。「オリエンタルモーター賞」を受賞【写真20】神奈川工科大学ロボット工学研究部の「ジュージー・L」。長い2対のロッドアームとスライダーリンク機構による脚まわりが特徴。「ホテルスカイコート川崎賞」を受賞【写真21】神奈川工科大学ロボット工学研究部の「ロストラック」。長く突き出した横回転アームが目を引く機体だった。敢闘賞を受賞
【動画4】神奈川工科大学ロボット工学研究部の「銀」。ロストラックと同様に長い横回転アームを装備。対戦相手の小悪魔との戦いは、よい勝負をしたがあえなく敗退。本体が軽いため、自ら回転してしまった模様だ。敢闘賞を受賞【写真22】東京工科大学の「ファントムブレイカー鳳牙」。高速回転する2対のアームと、旋回性能の高さが特徴。フレームのカラーもフィットしている。敢闘賞を受賞【写真23】東京都市大(旧武蔵工大)機親会の「DanStab+α」。昨年の機体より、アームと脚の機能を向上させたことで、+αの名前を加えたという。ファイティング賞を受賞

 一方、関西地区ではOBを含めて立命館大学が4台【動画5】【写真24】【写真25】【写真26】が進出。大阪工業大学も2台ほど進出した【写真27】。また高校からも東京都立産業技術高専【動画6】や、長岡高専【写真28】、サレジオ工業高専OB【写真29】、川崎総合科学高等学校【動画7】などの顔ぶれも揃った。

【動画5】立命館大学ロボット技術研究会OBの「FUN」。一角獣のようなミッドレンジのアームを装備したシンプルなマシン。実行委員賞を受賞した。激しい戦いの途中に脚が一部取れるハプニングも。対戦相手は「クシザシタロウXIII」【写真24】立命館大学ロボット技術研究会の「鰄AERLEX」。この鰄は、独自メカニズムを備えており、過去3回ほど技術賞を取ったことがあるマシンだ。今年はユニーク賞を受賞【写真25】立命館大学ロボット技術研究会の「惺AL」。強力な回転シールドを装備したマシン。敢闘賞を受賞
【写真26】立命館大学ロボット技術研究会の「驪」。するどいロングアームを備えたシンプル構造で相手をひっくり返す。敢闘賞を受賞【写真27】大阪工業大学機械工学研究部の「EV」(写真右)。外観にもこだわりを見せるマシンだ。アームの位置が最下点にくると、あたかも動物のサイのようなフォルムになるように設計したという。「TMCシステム賞」を受賞【動画6】東京都立産業技術高専の「FlatsⅣ」(動画左側)。高トルクの2対の有限アームと、高速な脚まわり機構を採用したマシン。努力賞を受賞。対戦相手はTマルチエンジニアリングの「空音」だ
【写真28】長岡高専の「マドカStarLight」。力強い回転シールドアームを備えている典型的な対戦型ロボットだ。敢闘賞を受賞【写真29】サレジオ工業高専OBの「MUSASABI」。4本の鋭利な高速回転アームを備えている。昨年の大会で準優勝を果たした強豪だ。マシンを改良し、フレームの肉抜きをして軽量化を図ったという。敢闘賞を受賞【動画7】川崎総合科学高等学校の「ディーヴァ」(動画左)。ロングロッドアームを採用し、相手を寄せ付けない作戦だったが、相手が上手だったようだ。ファイティング賞を受賞。対戦相手は芝浦工業大学SRDCの「ユイチイタン」

 もちろん一般社会人も数多く登場している。ほとんどが常連の方々で、これまでに上位入賞を果たしてきた。たとえば、魁!やまだーん塾の「やまだーんOO」【写真30】【動画8】や、セントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」【写真31】、Tマルチエンジニアリングの「カンタンク6」【動画9】、あぁ真夜中の機動技術研究部の「昼下がりの団地妻」【写真32】【動画10】など、おなじみとなった強豪のバトルは大変見ごたえがあり、長年のノウハウとテクニックを感じさるものだった。

 そのほか「K314-七式ADV」【写真33】、滝澤鉄工所の「09式飛燕」【写真34】、双葉電子工業の「クシザシタロウXIII」【写真35】、大同信号の「NLT」【写真36】、KHK歯車工房の「駆逐戦機Jブレイカー」【写真37】の戦いも面白かった。

【写真30】魁!やまだーん塾の「やまだーんOO」。左右を独立して動かせる回転式の4連装クランクアームが特徴。脚回りも丈夫で、難地形の走破性も優れている。実行委員賞を受賞【動画8】やまだーんOOと駆逐戦機Jブレイカーの白熱した戦い。両者のパワーが拮抗し、機体が絡みついて、取れなくなってしまった。かわロボでは、このような激しい戦いがよくある【写真31】セントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」。折り畳み式のロッドアームを備えているマシン。実行委員賞を受賞。
【動画9】Tマルチエンジニアリングの「カンタンク6」。昨年と同様にロッドアームが伸縮する機構を搭載しており、近距離から長距離まで幅広くカバーできる点が特徴。ユニーク賞を受賞【写真32】あぁ真夜中の機動技術研究部の「昼下がりの団地妻」。攻撃力の高いブレード型回転アームを備えたマニアックな機体だ。「日の出製作所賞」を受賞【動画10】昼下がりの団地妻(動画右)と「ファントムブレイカー鳳牙」(東京工科大学)の戦い。同じような機構を備えたマシンだが、団地妻が対戦相手のファントムを撃破
【写真33】「大西家具店賞」を受賞したTeam K-314の「K314-七式ADV」。踏み込みのスタートに力点を置いた設計だという。リフテイングアームを備える【写真34】滝澤鉄工所の「09式飛燕」は、従来のロングアームに加えて、防御用のサブアームを搭載することで攻撃の幅を広げた。「東芝賞」を受賞【写真35】双葉電子工業の「クシザシタロウXIII」。一角獣のような長いロングアームで相手をクシザシにして倒す。6脚の駆動系に独立したサスペンションを採用。「伊吹電子賞」を受賞
【写真36】大同信号の「NLT」(写真右)。展開式ロングアームで相手の転倒を狙う構造。本体の高さを抑えることで低重心にして安定性も狙う。敢闘賞を受賞【写真37】KHK歯車工房の「駆逐戦機Jブレイカー」。アームを長く繰り出し、連続攻撃を可能にするラック式の倍速機構を搭載。攻撃力の高いマシンだ。敢闘賞を受賞

新旧交代! 白熱の試合が繰り広げられたブロック代表決定戦&決勝戦

 さて、ここからは熾烈を極めたブロック代表戦の模様をお伝えする。ブロック1の代表決定戦は、大阪工業大学機械工学研究部の「迦楼羅」と立命館大学ロボット技術研究会OBの「FUN」による戦い【写真38】となった。迦楼羅はカニのような大きなハサミをもつ2つのアーム(合計4アーム)で攻撃する機構。一方、FUNは一角獣のようなロッドを持った安定性のあるロボットだ。ただしロッドのリーチ長は他のロボットよりも短めのミドルレンジだった。この試合では迦楼羅がFUNを破り、決勝戦に駒を進めた【動画11】。

 ブロック2の代表決定戦は、神奈川工科大学ロボット工学研究部の「鉄心琴」と、魁!やまだーん塾の「やまだーんOO」による注目の戦い【写真39】。鉄心琴は前評判もよく、順当に勝ち進んできた。ポリカーボネイトのブロックを張り合わせてつくったロッドアームが特徴のマシンだ。対するやまだーんは、毎年必ず上位に食い込んでくる強豪マシンだ。左右のアームを独立して動かせる駆動機構になっており、難地形の走破性も優れている。接近戦で泥試合になるようなケースでも勝利の切符を手にしてきたが、今回の相手は少々勝手が違ったようだ。やまだーんOOは、鉄心琴の長くて柔軟なロッドアームによって機体をひっくり返され、惜しくもブロック代表戦で敗退した【動画12】。新旧マシンの勢力を塗り替える象徴的な試合だった。

 ブロック3の代表決定戦は、Team K314の「K314-12式」とセントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」【写真40】による社会人同士のバトル。いずれも折り畳み式のロッドアームを備えているマシンで、機体の攻撃が似ていることもあり、実力は五分五分だ。第1試合はK314-12式、第2試合は闘神皇STRIKEが取り、3試合目は同体で取り直し、最終的に二勝一敗一分けの末、K314-12式が決勝に駒を進めた【動画13】。残念だった点は1試合目に闘神皇STRIKEの調子が悪く、スタートダッシュにまごついているうちに負けてしまったこと。もし1試合目で勝っていれば、運命の女神は闘神皇STRIKEにほほ笑んだかもしれない。

【写真38】ブロック1の代表決定戦。大阪工業大学機械工学研究部「迦楼羅」と立命館大学ロボット技術研究会OB「FUN」の戦い。勝負の前に両者の意気込みを聞いているところ【動画11】ブロック2の代表決定戦の模様。迦楼羅(動画右)のハサミのようなアームがFUNをとらえ、一瞬の隙に機体を横転させた【写真39】ブロック2の代表決定戦。神奈川工科大学ロボット工学研究部の「鉄心琴」と、魁!やまだーん塾の「やまだーんOO」による注目の戦い。やまだーんの山田塾長は試合前に大声で自らにカツを入れる。鉄心琴の真行寺さんも気合十分、優勝を狙う
【動画12】ブロック2の代表決定戦の模様。やまだーんOOが鉄心琴に豪快に投げられてしまった。鉄心琴のロッドアームは、あたかも自在に動く生き物のような感じだった【写真40】ブロック3の代表決定戦は、Team K314の「K314-12式」とセントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」の戦い。闘神皇STRIKEの東さんは折り畳みロッドアームの入念な準備を行なう【動画13】お互いに長いリーチを持ったアームでの戦いだった。テクニックとパワーで、K314-12式が闘神皇STRIKEをリフトアップした

 そして、いよいよ待ちに待った決勝順位決定戦がスタート。全249チームの中で選ばれた強豪3チーム、迦楼羅、鉄心琴、K314-12式による順位決定戦が始まった。会場の観客は、頂点を極めるロボットの試合を固唾を飲みながら見守った。強豪マシンを撃破してきた実力マシンだけあって、いずれも力量は伯仲しており、まさに3つどもえの戦いとなった。まず迦楼羅と鉄心琴の戦いは、リーチの長いロッドアームを備えた鉄心琴が有利に試合を進めて勝利を手にした【動画14】。迦楼羅とK314-12式の試合は、第1試合で取り直しをしたあと、K314-12が2連勝した【動画15】。力と力の激しいぶちかりあいとロッドアームによる豪快な投げが印象的だった。

 優勝を決めるK314-12式と鉄心琴の戦いは、本当に手に汗にぎる最高の試合となった。両者一歩も譲らず、どちらが勝ってもおかしくない試合運び。1試合目は同体で取り直し、2試合目は鉄心琴がK314-12式を一本背負いのような形で豪快に投げ飛ばして勝ち【動画16】、3試合と4試合にK314-12がロッドアームを巧みにさばきながら横投げを決め、栄えある優勝を手中におさめた【動画17】。

【動画14】決勝順位決定戦。迦楼羅と鉄心琴の戦い。鉄心琴は柔軟なロッドアームを利用して迦楼羅を倒した。やはりリーチの長いほうが有利だったようだ【動画15】決勝順位決定戦。迦楼羅とK314-12式の戦い。実力は伯仲。K314-12式がロングロッドを巧みに操って一本を決めた。マシン性能も大切だが、機体の操縦テクニックも見逃せないところだ
【動画16】決勝順位決定戦。K314-12式と鉄心琴の戦い、その1。一本背負いのような見事な投げを決めた鉄心琴。まさに胸のすく一本で、会場もどよめいた【動画17】決勝順位決定戦。K314-12式と鉄心琴の戦い、その2。巧みな操作テクニックによって、K314-12式のロングロッドを挿入して、鉄心琴の横倒しに成功
【写真41】表彰式の模様。優勝の喜びを語るTeam K-314、大西謙治さん。「この一年、かわロボのために集中してきた。初優勝だったが、やはここまで来るのは大変だった」と感想を述べた

 これまで本競技会は、経験と技術的なノウハウの積み重ねによって、常連チームが入賞を果たすことが多く、新規チームが参入してもなかなか上位に食い込めないのが実情だった。しかし今年は政権交代と同じように、かわロボも新旧勢力の交代の年であったようだ。過去に上位に入っていた常連チームが軒並み途中敗退するというハプニングが起きた。マシン自体も従来のような低重心の高速回転シールドタイプではなく、鉄心琴、K314-12式、闘神皇STRIKEのような長いロッドアームを装備したマシンが台頭した。最終的な試合結果は以下のとおりだ【写真41】。

【優勝】
・K314-12式(Team K-314)

【準優勝】
・鉄心琴(神奈川工科大学ロボット工学研究部)

【第3位】
・迦楼羅(大阪工業大学機械工学研究部)

【実行委員賞】
・FUN(立命館大学ロボット技術研究会OB)
・やまだーんOO(魁!やまだーん塾)
・闘神皇STRIKE(セントラル技研工業)

【ファイティング賞】
・ディーヴァ(川崎総合科学高等学校)
・DanStab+α(東京都市大学機親会)

【デザイン賞】
・燐 Centurion (KHK歯車工房)
・空音(Tマルチエンジニアリング)

【努力賞】
・U-5(芝浦工業大学ロボット遊交部からくり)
・FlatsⅣ(東京都立産業技術高等専門学校)

【ユニーク賞】
・カンタンク6(Tマルチエンジニアリング)
・鰄AERLEX(立命館大学ロボット技術研究会)

 優勝チームには50万円、準優勝チームには20万円、第3位には10万円が賞金として贈られた。また技術賞には実機部門と企画部門が用意されていたが、残念ながら今回は実機部門の該当チームはなかった。このほかユニークなロボットに贈られる企業賞が20チームほど選出され、敢闘賞も20チームに贈られた。

ユニークなロボットが登場する特別戦やJr.ロボット部門も注目!

 さて当日はバトル本戦のほかにも、バトルロボット競技の特別戦や、Jr.ロボット部門(決勝戦)も同時に行なわれた。

 特別戦は創意工夫を凝らしたユニークな機構を持つロボットが集結し、デモンストレーションを繰り広げるもの。4チーム2組でデモバトルを行なうが、実際には競技よりもいかにロボットがユニークなものかをアピールする場になっていた【動画18】【動画19】。

 記者が最も面白いと感じたロボットは、技術賞・企画部門を受賞したWASA Okude Boysの「神風刃」【動画20】だ。このロボットは試合ではあまり動かなかったものの、バッテリを利用したフライホイールというユニークな発想が目を引いた。複数のバッテリ(電池)を直列に接続して円形のホイール【写真42】とし、これを高速回転させることで、フライホイール効果とジャイロ効果を発揮する。高速な回転ホイールに蓄えられたエネルギーをアーム側に伝えて、相手を一気に吹き飛ばせる仕組みは秀逸だ。

 一方、トキコーポレーションの「Epsilon」【動画21】も面白かった。特殊な三角クランクを導入し、上下方向に振動がない機構になっている。脚は縦方向からも横方向からも動かせる点がユニーク。複数の腕で相手をすくい上げるアイデアも光っていた。一方、外観が印象的だったロボットは、長岡工専ロボティクス部の「杜鵑草」【写真43】だ。100円ショップで購入したステンレスボウルを利用し、相手を攻撃する機構が面白かった。

【動画18】特別戦バトルその1。長岡高専ロボティクス部の「マドカ聖天八極式」と東京農工大学ロボット研究会R.U.Rの「MineSweeper」の戦い。マドカ聖天八極式がパワーで押し出す【動画19】特別戦バトルその2。合計5台が入り乱れての混戦模様。どれもひと癖もふた癖もあるユニークなロボットだった【動画20】技術賞・企画部門を受賞したWASA Okude Boysの「神風刃」。回転ホイールは電池で構成されている。ホイールに重量があるので、回転エネルギーを蓄えた後、タイミングを見計らって、一挙にアーム側にエネルギーを放出する
【写真42】神風刃のユニークなバッテリ。複数のバッテリ(電池)を直列に接続して円形にしてホイールとする。モータのブラシのような接点によって、回転するホイールバッテリから電源を取る仕組みが面白い【動画21】トキコーポレーションの「Epsilon」。駆動する脚部が、縦方向からでも、横方向からも動かせる点がユニーク。上下の振動もなく、安定した駆動が可能だ【写真43】長岡工専ロボティクス部の「杜鵑草」。ステンレスボウルがくるくると回転して、相手を弾き返す構造だ

 岡山理科大学科学愛好会の「沐日蘿特瓦拉」【写真44】は、前後に攻撃機能を装備している点が大きな特徴。フロント部にはスライド式シールドアーム、バック部には回転式アームを備えている。一方、東京農工大学ロボット研究会R.U.Rの「MineSweeper」【写真45】や、長岡高専ロボティクス部の「マドカ聖天八極式」【写真46】も2重の攻撃・防御という意味での工夫を凝らした機体だ。MineSweeperは、2つのメイン・サブアームを利用して、攻撃と防御が可能だ。マドカ聖天八極式もシールドアームと長いロッドアームを備え、攻撃・防御の両面をカバーしていた。

 ロボマルライトの「ロボバナナ」【写真47】と、立命館大学ロボティクス研究会の「狛」【写真48】は、他のロボットと比べて小ぶりだが、そのぶん小回りが利き、相手の下に潜りこめるメリットがある。「狛」は4つのバッテリとモータを搭載し、2つのアームでパワフルに相手を持ち上げられる機構を採用していた。

 Jr.ロボット競技部門は、川崎市の小・中学生が対象になっている。事前に実施されたロボットづくり体験学習教室で、講師の指導のもとに指定ロボットキットを製作し、その発表の場として競技を行なうというもの(教室参加者以外からの一般公募もあり)【写真49】。Jr.ロボットの本体は、本戦と同様に脚・腕を持つ構造で、一辺190cmの正方形リング上でバトルを繰り広げた。

 今回の順位決勝戦では「チームせとJr.」【写真50】、「T-ROBOT」【写真51】、「鹿島田ファイターズ」【写真52】の3台のマシンが優勝を競い合った。Jr.ロボット競技部門で他のロボットを倒して見事に優勝をおさめたのは、チームせとJr.だった。製作者の瀬戸武くんは「昨年参加したときは4位だったが、今年は優勝できてとてもうれしい」と喜びの声を上げた。

【写真44】岡山理科大学、科学愛好会の「沐日蘿特瓦拉」。前からも後ろからも攻撃できるアイデアが面白い。フロントにスライド式シールドアーム、バックに回転式シールドアームを備えている【写真45】東京農工大学ロボット研究会R.U.Rの「MineSweeper」。合計3つのアームがあり、両サイドのメインアーム2つが長く、中央のサブアームが短くなっている【写真46】長岡高専ロボティクス部の「マドカ聖天八極式」。シールドアームと長いロッドアームを備え、両者のメリットを併用している
【写真47】ロボマルライトの「ロボバナナ」。他のロボットと比べて小ぶりだが、そのぶん小回りが利き、安定感もあった【写真48】立命館大学ロボティクス研究会の「狛」。外観どおりの名前だが、4つのバッテリとモータによって、パワフルに相手を持ち上げることが可能だ【写真49】小・中学生が対象のJr.ロボット競技部門では順位決定戦が行なわれた。体験学習教室で製作したロボットの発表の場としての競技。写真は「チームせとJr.」と「T-ROBOT」の戦い
【写真50】川崎市立東住吉小学校、瀬戸武くんが製作した「チームせとJr.」。シャベルのようなアームで相手をすくいあげる。昨年の4位から優勝に大躍進【写真51】川崎市立大谷戸小学校、小野友幹くんの「T-ROBOT」。ボックスのような大きな機体が印象的だった【写真52】川崎市立日吉小学校、福岡祐季くんの「鹿島田ファイターズ」。チームせとJr.と同じような構造で、フロント部のリフトによって相手をすくいあげる

ユニークなロボットキットや便利な加工ツールなども出展

 競技会場の一画では、ロボット加工技術ミニ見本市も開催されていた。加工技術やロボットの要素技術に関連するノウハウを持つ数社の企業が自社製品を展示。一番目に付いたのは、杉浦機械設計事務所のロボットキットだ【写真53】。開発した2足歩行ロボット「ダイナマイザー」はROBO-ONE GPに選ばれて活躍しているが、今回の大会展示では同社のロボット開発プラットフォーム「ROBOLIFE」を中心に、C言語を用いたロボット制御開発学習ソフト「CODEWIZARD」のソフトウェアによる制御関連製品を出展【写真54】。香港ですでに発売を開始している2足歩行ロボット「TINYWAVE」【動画22】や、可愛いペットロボットの「番犬」【動画23】、ROBOLIFEオプションの大容量DCモータドライバーを用いた「誰でも出来ちゃうレスキュー」【動画24】などのキットがユニークだった。

【写真53】ROBO-ONE GPで有名な杉浦機械設計事務所のブース。2足歩行ロボットや2輪倒立振子、ペットロボットなどのデモや、各種ロボットキットの展示を行なっていた【写真54】ロボット開発プラットフォーム「ROBOLIFE」。サーボモータ、ドライバー、コントロール基板、センサー類、7セグメントLEDなど、ロボット製作に必要な基本部品が揃っている【動画22】香港ですでに発売をスタートした二足歩行ロボット「TINYWAVE」。杉浦氏と韓国の友人とのコラボで開発したもの
【動画23】かわいらしいペットロボットの「番犬」。ゲームコントローラーの信号を無線化してロボットをコントロール。音声認識も可能だ【動画24】同社のロボットキットを利用して製作したレスキューロボット「誰でも出来ちゃうレスキュー」。クローラー駆動で走破性に優れ、カメラによりPC上から周囲状況を視認できる

 機械加工技術では、オリジナルマインドが低価格なホビー用CNCフライス盤の組み立てキットのデモを実施していた【写真55】。従来のように手加工では難しい複雑形状の切削をサポートしてくれるもので、組み立てキットになっているため、自分でCNCマシンを製作する楽しみもある。

 9月に発売する予定の「mini-CNC BlackIIシリーズ」は価格9万9,800円からという安さが売りだ【写真56】。マシンは2タイプあり、「1510」は可動ストローク154.2(X軸)×105.4(Y軸)×50(Z軸)mmで、加工材料の高さは42mmまで。可動ストロークが205.4mm(Y軸)の「1520」も用意している。このほかフレームなどを簡単に曲げられるベンディングマシンも展示していた【写真57】。これらのツールは学校やロボット系のサークルに1台あると便利だろう。

 ロボット要素技術では、沖電線が高屈曲ロボットケーブル【写真58】を紹介していた。これはロボットの摺動、首振り、捻りなど、あらゆる動きに対して対応できるFA専用ケーブルだ。独自の絶縁材料によって、2,000万回以上の優れた屈曲性能を発揮するという。またサーボモータや二足歩行ロボットで有名な双葉電子工業は、本大会で使用するプロポ【写真59】を展示していた。

【写真55】オリジナルマインドのブース。ロボットのメカ製作に便利なホビー用CNCフライス盤のデモを実施していた。写真は「mini-CNC HAKU2030」。加工範囲は203.5×305×68.8mmで、小物加工に役立つ【写真56】このCNCフライス盤は組み立てキットになっているため、製作する楽しみもある。写真右は、9月に発売する「mini-CNC Black IIシリーズ」。Y軸の可動ストロークによって2タイプがある【写真57】ベンディングマシンも展示。ロボットのフレームなどを曲げる際に便利なマシンだ
【写真58】沖電線のブースでは、独自に開発した高機能・低コストのロボット用ケーブル「ORPケーブル・シリーズ」のデモが行なわれた。ケーブルは10m単位で販売するという【写真59】双葉電子工業のブース。本大会で使用するプロポ「ATTACK 4GWD」を展示


(井上猛雄)

2009/10/14 10:00