かわロボろぼも政権交代!? ロッドアームのマシンが台頭した決勝トーナメント
~「第16回かわさきロボット競技大会」レポート
●249チームから選ばれた48チームが熱いバトルを繰り広げた!
8月21日から23日までの3日間、神奈川県・川崎市産業振興会館において「第16回かわさきロボット競技大会」(以下、かわロボ)が開催された【写真1】。主催は財団法人川崎市産業振興財団、共催は川崎市。本レポートでは、23日に催されたバトルロボットおよび、かわロボJr.競技大会の決勝トーナメントの模様などを中心に報告する。
16回を迎えた本競技会は、異種格闘技戦の登竜門として知られ、毎年多数の参加者が自慢の腕を競い合っている。高校生以上が参加するバトルロボット競技では、予選249チーム(キャプテン、ドライバー、エレキ、メカニック担当の4人で編成)が、脚・腕構造を持つラジコン型ロボットを製作。今回、その中から勝ち上がってきた48チームが決勝トーナメントに進出した【写真2】。
【写真1】川崎市産業振興会館で開催された「第16回かわさきロボット競技大会」。ロボット異種格闘技戦の登竜門として知られている大会だ | 【写真2】予選249チームの中から48チームが決勝トーナメントに進出。写真は立命館大学ロボット技術研究会の「惺AL」。回転シールドとロッドを備えた機体で相手を攻撃。敢闘賞を受賞 |
一方のロボットが相手のロボットを倒すか、リングの場外に相手機体を押し出し、2本先取したほうが勝者となるシンプルなルールだが、今年から機体が持ち上げられ地面から離れた時点で1本先取となるルールも加わった。またリング内に設けられた丘陵や溝付き正方形などの障害物は昨年と同様だが、1試合の制限時間が3分間から2分間に短縮された。ブロックに分け、各ブロックで勝ち抜いた代表3チームが総当り戦で順位を競う2段階選抜の優勝決定方式や、技術賞2部門(実機・企画)も昨年から引き継がれた形だ。
ロボット本体のサイズは、W250×D350×H700mm(幅×奥行き×高さ)、重量3,500g以内で、移動用の脚構造と、相手を攻撃する腕構造を備えている【写真3】。脚と腕構造は創意工夫を凝らしたものが多く、毎年ユニークなロボットが登場している。駆動をつかさどるモータについては、使用モータ数に制限はないが、脚・腕構造ともに380モータ(マブチモータ製またはタミヤ製と同スペック相当)を使う。ただし腕構造はモータ以外にも空気圧、油圧などのアクチュエータやRCサーボモータの使用も可能だ。送受信機については、双葉電子工業の「ATTACK 4VWD」および「ATTACK 4GWD」(いずれもAM4ch.27MHz帯)を使う決まりだ。
攻撃面からロボットの構造を分類すると、高速回転アームで相手を勢い良く弾き飛ばすタイプ【写真4】【写真5】のほか、相手の機体をアームで素早くリフティングしてすくい投げるタイプ【写真6】【写真7】や、長いスティック状アームで突き出すタイプ【写真8】【写真9】などが主流。さらに、これらのメリットを生かした併用タイプなどもあった。特に今年はスティック状アーム(ロッドアーム)を持ったロボットの活躍が目立っていた。また脚回りの機構は、上下振動がほとんどない軌道を生成する「ヘッケンリンク機構」(特殊4節リンク機構)を採用する機体が多かった。いずれにしても決勝トーナメントまで進んだロボットは強豪ぞろい。迫力あるバトルが繰り広げられるため、観戦するほうも一瞬たりとも目が離せない状況だ。
●高専、大学、社会人による個性的なロボットの競演
ここからはブロック代表決定戦まで(第1回戦から第3回戦)の対戦で登場したロボットや、印象に残った試合について簡単に紹介しよう。
学生チームの中でエントリー数が多かった学校は、芝浦工業大学、東京電機大学、神奈川工科大学の3校だ。予選を勝ち抜いて決勝トーナメントにのぞんだマシンの数は、芝工と電機大が各7台、神工大が6台。いずれもユニークな機体で参戦した【写真10】【動画1】【動画2】【写真11】【動画3】【写真12】【写真13】【写真14】【写真15】【写真16】【写真17】【写真18】【写真19】【写真20】【写真21】【動画4】。このほか関東地区では東京工科大【写真22】と東京都市大(旧武蔵工大)【写真23】が1台ずつエントリー。
一方、関西地区ではOBを含めて立命館大学が4台【動画5】【写真24】【写真25】【写真26】が進出。大阪工業大学も2台ほど進出した【写真27】。また高校からも東京都立産業技術高専【動画6】や、長岡高専【写真28】、サレジオ工業高専OB【写真29】、川崎総合科学高等学校【動画7】などの顔ぶれも揃った。
もちろん一般社会人も数多く登場している。ほとんどが常連の方々で、これまでに上位入賞を果たしてきた。たとえば、魁!やまだーん塾の「やまだーんOO」【写真30】【動画8】や、セントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」【写真31】、Tマルチエンジニアリングの「カンタンク6」【動画9】、あぁ真夜中の機動技術研究部の「昼下がりの団地妻」【写真32】【動画10】など、おなじみとなった強豪のバトルは大変見ごたえがあり、長年のノウハウとテクニックを感じさるものだった。
そのほか「K314-七式ADV」【写真33】、滝澤鉄工所の「09式飛燕」【写真34】、双葉電子工業の「クシザシタロウXIII」【写真35】、大同信号の「NLT」【写真36】、KHK歯車工房の「駆逐戦機Jブレイカー」【写真37】の戦いも面白かった。
●新旧交代! 白熱の試合が繰り広げられたブロック代表決定戦&決勝戦
さて、ここからは熾烈を極めたブロック代表戦の模様をお伝えする。ブロック1の代表決定戦は、大阪工業大学機械工学研究部の「迦楼羅」と立命館大学ロボット技術研究会OBの「FUN」による戦い【写真38】となった。迦楼羅はカニのような大きなハサミをもつ2つのアーム(合計4アーム)で攻撃する機構。一方、FUNは一角獣のようなロッドを持った安定性のあるロボットだ。ただしロッドのリーチ長は他のロボットよりも短めのミドルレンジだった。この試合では迦楼羅がFUNを破り、決勝戦に駒を進めた【動画11】。
ブロック2の代表決定戦は、神奈川工科大学ロボット工学研究部の「鉄心琴」と、魁!やまだーん塾の「やまだーんOO」による注目の戦い【写真39】。鉄心琴は前評判もよく、順当に勝ち進んできた。ポリカーボネイトのブロックを張り合わせてつくったロッドアームが特徴のマシンだ。対するやまだーんは、毎年必ず上位に食い込んでくる強豪マシンだ。左右のアームを独立して動かせる駆動機構になっており、難地形の走破性も優れている。接近戦で泥試合になるようなケースでも勝利の切符を手にしてきたが、今回の相手は少々勝手が違ったようだ。やまだーんOOは、鉄心琴の長くて柔軟なロッドアームによって機体をひっくり返され、惜しくもブロック代表戦で敗退した【動画12】。新旧マシンの勢力を塗り替える象徴的な試合だった。
ブロック3の代表決定戦は、Team K314の「K314-12式」とセントラル技研工業の「闘神皇STRIKE」【写真40】による社会人同士のバトル。いずれも折り畳み式のロッドアームを備えているマシンで、機体の攻撃が似ていることもあり、実力は五分五分だ。第1試合はK314-12式、第2試合は闘神皇STRIKEが取り、3試合目は同体で取り直し、最終的に二勝一敗一分けの末、K314-12式が決勝に駒を進めた【動画13】。残念だった点は1試合目に闘神皇STRIKEの調子が悪く、スタートダッシュにまごついているうちに負けてしまったこと。もし1試合目で勝っていれば、運命の女神は闘神皇STRIKEにほほ笑んだかもしれない。
そして、いよいよ待ちに待った決勝順位決定戦がスタート。全249チームの中で選ばれた強豪3チーム、迦楼羅、鉄心琴、K314-12式による順位決定戦が始まった。会場の観客は、頂点を極めるロボットの試合を固唾を飲みながら見守った。強豪マシンを撃破してきた実力マシンだけあって、いずれも力量は伯仲しており、まさに3つどもえの戦いとなった。まず迦楼羅と鉄心琴の戦いは、リーチの長いロッドアームを備えた鉄心琴が有利に試合を進めて勝利を手にした【動画14】。迦楼羅とK314-12式の試合は、第1試合で取り直しをしたあと、K314-12が2連勝した【動画15】。力と力の激しいぶちかりあいとロッドアームによる豪快な投げが印象的だった。
優勝を決めるK314-12式と鉄心琴の戦いは、本当に手に汗にぎる最高の試合となった。両者一歩も譲らず、どちらが勝ってもおかしくない試合運び。1試合目は同体で取り直し、2試合目は鉄心琴がK314-12式を一本背負いのような形で豪快に投げ飛ばして勝ち【動画16】、3試合と4試合にK314-12がロッドアームを巧みにさばきながら横投げを決め、栄えある優勝を手中におさめた【動画17】。
【写真41】表彰式の模様。優勝の喜びを語るTeam K-314、大西謙治さん。「この一年、かわロボのために集中してきた。初優勝だったが、やはここまで来るのは大変だった」と感想を述べた |
これまで本競技会は、経験と技術的なノウハウの積み重ねによって、常連チームが入賞を果たすことが多く、新規チームが参入してもなかなか上位に食い込めないのが実情だった。しかし今年は政権交代と同じように、かわロボも新旧勢力の交代の年であったようだ。過去に上位に入っていた常連チームが軒並み途中敗退するというハプニングが起きた。マシン自体も従来のような低重心の高速回転シールドタイプではなく、鉄心琴、K314-12式、闘神皇STRIKEのような長いロッドアームを装備したマシンが台頭した。最終的な試合結果は以下のとおりだ【写真41】。
【優勝】
・K314-12式(Team K-314)
【準優勝】
・鉄心琴(神奈川工科大学ロボット工学研究部)
【第3位】
・迦楼羅(大阪工業大学機械工学研究部)
【実行委員賞】
・FUN(立命館大学ロボット技術研究会OB)
・やまだーんOO(魁!やまだーん塾)
・闘神皇STRIKE(セントラル技研工業)
【ファイティング賞】
・ディーヴァ(川崎総合科学高等学校)
・DanStab+α(東京都市大学機親会)
【デザイン賞】
・燐 Centurion (KHK歯車工房)
・空音(Tマルチエンジニアリング)
【努力賞】
・U-5(芝浦工業大学ロボット遊交部からくり)
・FlatsⅣ(東京都立産業技術高等専門学校)
【ユニーク賞】
・カンタンク6(Tマルチエンジニアリング)
・鰄AERLEX(立命館大学ロボット技術研究会)
優勝チームには50万円、準優勝チームには20万円、第3位には10万円が賞金として贈られた。また技術賞には実機部門と企画部門が用意されていたが、残念ながら今回は実機部門の該当チームはなかった。このほかユニークなロボットに贈られる企業賞が20チームほど選出され、敢闘賞も20チームに贈られた。
●ユニークなロボットが登場する特別戦やJr.ロボット部門も注目!
さて当日はバトル本戦のほかにも、バトルロボット競技の特別戦や、Jr.ロボット部門(決勝戦)も同時に行なわれた。
特別戦は創意工夫を凝らしたユニークな機構を持つロボットが集結し、デモンストレーションを繰り広げるもの。4チーム2組でデモバトルを行なうが、実際には競技よりもいかにロボットがユニークなものかをアピールする場になっていた【動画18】【動画19】。
記者が最も面白いと感じたロボットは、技術賞・企画部門を受賞したWASA Okude Boysの「神風刃」【動画20】だ。このロボットは試合ではあまり動かなかったものの、バッテリを利用したフライホイールというユニークな発想が目を引いた。複数のバッテリ(電池)を直列に接続して円形のホイール【写真42】とし、これを高速回転させることで、フライホイール効果とジャイロ効果を発揮する。高速な回転ホイールに蓄えられたエネルギーをアーム側に伝えて、相手を一気に吹き飛ばせる仕組みは秀逸だ。
一方、トキコーポレーションの「Epsilon」【動画21】も面白かった。特殊な三角クランクを導入し、上下方向に振動がない機構になっている。脚は縦方向からも横方向からも動かせる点がユニーク。複数の腕で相手をすくい上げるアイデアも光っていた。一方、外観が印象的だったロボットは、長岡工専ロボティクス部の「杜鵑草」【写真43】だ。100円ショップで購入したステンレスボウルを利用し、相手を攻撃する機構が面白かった。
岡山理科大学科学愛好会の「沐日蘿特瓦拉」【写真44】は、前後に攻撃機能を装備している点が大きな特徴。フロント部にはスライド式シールドアーム、バック部には回転式アームを備えている。一方、東京農工大学ロボット研究会R.U.Rの「MineSweeper」【写真45】や、長岡高専ロボティクス部の「マドカ聖天八極式」【写真46】も2重の攻撃・防御という意味での工夫を凝らした機体だ。MineSweeperは、2つのメイン・サブアームを利用して、攻撃と防御が可能だ。マドカ聖天八極式もシールドアームと長いロッドアームを備え、攻撃・防御の両面をカバーしていた。
ロボマルライトの「ロボバナナ」【写真47】と、立命館大学ロボティクス研究会の「狛」【写真48】は、他のロボットと比べて小ぶりだが、そのぶん小回りが利き、相手の下に潜りこめるメリットがある。「狛」は4つのバッテリとモータを搭載し、2つのアームでパワフルに相手を持ち上げられる機構を採用していた。
Jr.ロボット競技部門は、川崎市の小・中学生が対象になっている。事前に実施されたロボットづくり体験学習教室で、講師の指導のもとに指定ロボットキットを製作し、その発表の場として競技を行なうというもの(教室参加者以外からの一般公募もあり)【写真49】。Jr.ロボットの本体は、本戦と同様に脚・腕を持つ構造で、一辺190cmの正方形リング上でバトルを繰り広げた。
今回の順位決勝戦では「チームせとJr.」【写真50】、「T-ROBOT」【写真51】、「鹿島田ファイターズ」【写真52】の3台のマシンが優勝を競い合った。Jr.ロボット競技部門で他のロボットを倒して見事に優勝をおさめたのは、チームせとJr.だった。製作者の瀬戸武くんは「昨年参加したときは4位だったが、今年は優勝できてとてもうれしい」と喜びの声を上げた。
●ユニークなロボットキットや便利な加工ツールなども出展
競技会場の一画では、ロボット加工技術ミニ見本市も開催されていた。加工技術やロボットの要素技術に関連するノウハウを持つ数社の企業が自社製品を展示。一番目に付いたのは、杉浦機械設計事務所のロボットキットだ【写真53】。開発した2足歩行ロボット「ダイナマイザー」はROBO-ONE GPに選ばれて活躍しているが、今回の大会展示では同社のロボット開発プラットフォーム「ROBOLIFE」を中心に、C言語を用いたロボット制御開発学習ソフト「CODEWIZARD」のソフトウェアによる制御関連製品を出展【写真54】。香港ですでに発売を開始している2足歩行ロボット「TINYWAVE」【動画22】や、可愛いペットロボットの「番犬」【動画23】、ROBOLIFEオプションの大容量DCモータドライバーを用いた「誰でも出来ちゃうレスキュー」【動画24】などのキットがユニークだった。
機械加工技術では、オリジナルマインドが低価格なホビー用CNCフライス盤の組み立てキットのデモを実施していた【写真55】。従来のように手加工では難しい複雑形状の切削をサポートしてくれるもので、組み立てキットになっているため、自分でCNCマシンを製作する楽しみもある。
9月に発売する予定の「mini-CNC BlackIIシリーズ」は価格9万9,800円からという安さが売りだ【写真56】。マシンは2タイプあり、「1510」は可動ストローク154.2(X軸)×105.4(Y軸)×50(Z軸)mmで、加工材料の高さは42mmまで。可動ストロークが205.4mm(Y軸)の「1520」も用意している。このほかフレームなどを簡単に曲げられるベンディングマシンも展示していた【写真57】。これらのツールは学校やロボット系のサークルに1台あると便利だろう。
ロボット要素技術では、沖電線が高屈曲ロボットケーブル【写真58】を紹介していた。これはロボットの摺動、首振り、捻りなど、あらゆる動きに対して対応できるFA専用ケーブルだ。独自の絶縁材料によって、2,000万回以上の優れた屈曲性能を発揮するという。またサーボモータや二足歩行ロボットで有名な双葉電子工業は、本大会で使用するプロポ【写真59】を展示していた。
2009/10/14 10:00