15mの「鉄人28号」モニュメントが神戸市・長田区に完成
~構想3年、震災復興・地域活性化のシンボルとして長田を見守る「守護神」に
28号に合わせて28人によるテープカット |
兵庫県神戸市・長田区にある若松公園(神戸市長田区若松町6丁目)で10月4日、高さ15.6mの「鉄人28号」モニュメント像の完成セレモニーが行なわれた。「鉄人28号」は1956年から雑誌「少年」に連載された漫画で、これまでに何度もラジオ、実写、アニメ化された人気作品。「鉄人」モニュメント像はアニメーション版の設定に合わせて作られた1/1スケール像で、足を伸ばして直立させたときの全長が18mになるように製作された。中は鉄骨、外は耐候性鋼板製。重量はおよそ50トン。両足の下、深さ6mに埋められたおよそ150tの基礎で支えられている。
製作したのは長田区の商店主らによる特定非営利活動法人「KOBE鉄人PROJECT」(正岡健二理事長)。「鉄人28号」の原作者で神戸市須磨区出身の漫画家である故・横山光輝氏にちなんで、阪神大震災後の復興・商店街活性化のシンボルとして製作した。総工費は1億3,500万円。神戸市から補助金4,500万円が拠出され、残りは個人や企業からの寄付・協賛金でまかなった。
7月末に起工式が行なわれ、その後、プロジェクトの協賛企業でもある大阪府岸和田市の金属加工会社・北海製作所で作られた部品が現地に搬入、組み立て・塗装が行なわれてきた。紺色ボディの「鉄人」像は、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた商店街方向(南側)を向いている。両足を踏ん張り、右手を突き出した力強いポーズだ。「鉄人」像は一時的なものではなく、若松公園内に恒久設置される。今後、11月末までかけて鉄人像の足元まで公園整備が行なわれる予定だ。
鉄人28号モニュメント | 右腕を突き出したポーズ | 右サイドから。足元はこれから整備される |
ほぼ真下近くから | 若松公園に恒久設置される | 長田の町を見つめる顔 |
目は塗装 | 右足 | 左足 |
背面のジェット | 右こぶし | 突き上げる右腕を右サイドから |
左腕を引き、右腕をぬっと突き出した勇姿 | 左サイドから | 公園脇から背面 |
原型を製作した速水仁司氏 |
「鉄人28号」モニュメントの原型を製作したのはアニメのロボットや怪獣などのフィギュア作品で著名な速水仁司氏。速水氏のデザインを可能な限り生かす形で各パーツは製造された。セレモニーに立ち会った速水氏は完成した鉄人像を見上げ、「感無量です」と語った。最初、速水氏はじめ他のコンペ参加者たちもみな両腕を上にあげた「ガオー」のポーズで案を出したそうだが、もっと躍動感あるポーズにしてくれという依頼があり、右腕を突き出したポーズとなったのだそうだ。
●セレモニー
セレモニー当日は秋晴れ。強い日差しのもと気温も急上昇。青空に「鉄人」が拳を突き上げる前で、阪神大震災以来、縁があるという「琉鼓会」によるエイサーのあと、NPO法人「KOBE鉄人PROJECT」正岡健二理事長、神戸市長の矢田立郎氏、兵庫県知事の井戸敏三氏がそれぞれ挨拶、祝辞を述べた。鉄人28号の著作権者である光プロダクションからの祝辞が述べられて来賓が紹介されたあと、神戸市演奏協会による合唱、そして敷島博士の声優をつとめた矢田稔氏(78歳)による発声でテープカットとなった。
正岡理事長は長田を故・横山光輝氏が青春時代をすごした場所と紹介。モニュメントを作ることがゴールではなく、街へやってきた人をいかに回遊させるかが大事だと強調。「中心市街地活性化計画」に採択されたことを述べ、「長田の街を安定的に反映させ、子供たちや地域産業を支える人に夢を与えたい。長田の再生が神戸の街を飛躍させる起爆剤になるように、知恵を財産にしていきたい」と語った。
矢田立郎・神戸市長は、「鉄人」のみならず「三国志」関連の長田の地域活性化の取り組みを取り上げ、街の発展を祈ると語り、兵庫県知事の井戸敏三氏は「長田の街の新たな守護神の一つになってほしい」と述べた。
●長田の街
セレモニー終了後は多くの人がそばまで行って鉄人を見上げたり記念撮影したりしていた |
今後、「鉄人28号」モニュメントを見に行く人のために簡単にガイドする。「新長田」駅へは、JR三宮駅からおよそ9分程度、大阪駅からは30分程度だ。モニュメントの立つ「若松公園」は新長田の南側に位置する。駅の南側に出てすぐ右に曲がり、線路沿いを歩くとほどなく鉄人像が見えてくる。その先が長田の商店街だ。駅から程近いし、セレモニー当日は、案内板を持っていた人もおり、またあちこちに案内ポスターが貼られていたのでまず迷うことはなかった。また警備の警察官も多数立っていたので、彼らに聞くのもいいだろう。いつごろまで警察が警備を続けるかは人出を見ながら決めていくとのことだった。
なお、海岸線「新長田駅」壁面には横13m(原寸大)の鉄人像が描かれている。またラッピングされた「鉄人28号列車」「三国志列車」が1両ずつあるそうで、運が良ければそれにも乗ることができる。また、鉄人像の東側に向かう道には、鉄人の頭部をあしらった街灯がある。もちろん夜間は点灯する。昼間はあまり目だたないが目の部分も光るので、夕方以降はなかなかの存在感だそうだ。
新長田の駅構内から案内板を持った人が立っていた | 駅の南側を2分ほど案内板にそって歩くと鉄人像が立つ若松公園 | 鉄人28号像建立記念セールが行なわれていた |
駅前では「琉球祭」 | 愛知工業大学の「鉄人プロジェクト」も「琉球祭」に参加 | ロボット操縦体験などを行なって大人気 |
鉄人ヘッドの街灯。夜は目立つそうだ |
海岸線「新長田」駅の壁面には原寸大「鉄人」像 |
鉄人列車・車内のシールの一部(撮影:三月兎) |
鉄人像を見つめながら「モニュメントを作ることが目的達成ではない」と語る正岡健二「KOBE鉄人PROJECT」理事長 |
正岡健二「KOBE鉄人PROJECT」理事長は、どんな人に見てもらいたいかという質問に対して、老若男女、そして「できるだけ広域から長田に来てもらいたい」」と語った。そして長田に来た方にいかに回遊してもらうかを考えるために、「鉄人」だけではなく他の横山光輝作品「三国志」の街づくりも同時に進めていることを説明。長田を「『鉄人』と『三国志』の街、メッカにしていきたいと述べた。また、阪神大震災で亡くなった方々の熱い思いを背負っており、街をもっと力強いものにしていきたいという意識があり、「『鉄人』モニュメントの力強い躍動感のあるポーズは、長田を象徴している」と思いを語った。
以下は記者の雑感である。セレモニー終了後、長田の商店街を歩いてみた。長田は「そばめし」や「お好み焼き」など粉物のお店が非常に多い。また、牛すじなども有名だ。我々も昼食としてお好み焼きを頂いた。お店は人気らしく、かなり混んでいた。
いっぽう、さらに南に進んでいくと、だんだん人通りは少なくなった。長田の商店街は「鉄人」の立つ若松公園からだと「新長田1番街商店街」「大将筋商店街」「六間道商店街」「本町筋商店街」と続く。一通り歩いてみたが、かなり長く感じる商店街だ。商店街のお店の看板の脇には「三国志」のキャラクター像が掲げられており、三国志の石像も建てられている。「三国志」スタンプラリーは毎週日曜日に開催されており、その受付とゴールは鉄人モニュメントとされている。大正筋商店街には、1995年1月17日午前5時46分に起きた阪神大震災のことを振り返るコーナー「震災ミュージアム」も設置されている。また、ところどころに鉄人28号ラッピングが施された自動販売機も設置されている。この自動販売機の収益の一部は鉄人の維持費に使われるという。
さらに進むと「KOBE鉄人PROJECT」パネル展というコーナーがあったが、残念ながら鉄人関連展示は等身大の鉄人像と自動販売機だけで、あとは「三国志」のパネルだった。
訪れた多くの子供たちが「大きい~」と口々に叫んでいた |
地域の商店街から以前に比べて活気が失われたのは、震災に見舞われた神戸市・長田だけのことではない。いまや全国の地方都市、いや東京都内の商店街にもシャッターが降りた店が並んでいる商店街は少なくない。そのぶん人は郊外の大型ショッピングモールに流れている。「KOBE鉄人PROJECT」の理事長が語るように、今後、どのように人を集客し続け、なおかつ商店街へと誘導していくかがもっとも重要かつ困難なミッションとなるだろう。鉄人モニュメントは商店街の入り口に立っている。商店街の途中に立っているわけではないので、入り口だけ見て帰ってしまう人もいるかもしれない。彼らに、商店街まで足を運んでもらわなければならないのである。
「鉄人」モニュメントはあくまで像であり、当然のことながら動かない。だがお台場の「ガンダム」像が400万人以上を集客したように、キャラクターとしてのロボットやロボット作品、ロボット文化が元気や活力を結集させるシンボルとなり、地域活性化に貢献できるのであれば、それはそれで興味深いことだ。そういう面でも今後に注目していきたい。
鉄人を見に集まった多くの人たちをどのように商店街に導くのかが本当の課題 | ||
いくつかの商店では鉄人セールを行なっていた | ||
鉄人完成記念キャンペーンも | ||
「KOBE鉄人サブレ」。青海苔パウダーで鉄分を配合したサブレ(製造:神戸菊水總本店) | 価格は10枚入りで税込み630円。箱はアンテナを組み立てるとリモコン操縦機箱になる | キーホルダーは人気のため売り切れ |
(c)光プロ/KOBE鉄人PROJECT2009
2009/10/5 17:42