ホンダ、新型パーソナルモビリティ「U3-X」発表
~前後左右斜めに自在移動可能な一輪車スタイル
本田技研工業株式会社、株式会社本田技術研究所基礎技術研究センターは9月24日、前後左右、斜め方向へ自在に移動でき、腰掛けて乗る一輪車タイプのパーソナルモビリティ技術を開発し、試作機「U3-X」を発表した。同社の二足歩行ロボット「ASIMO」の研究開発を通じて得たバランス制御技術と、新規に開発した独自の全方位駆動車輪機構(Honda Omni Traction Drive System、HOT Drive Systemとホンダは呼称)によって、身体を傾けて体重移動するだけで速度や方向の調整が可能。10月24日(土)から千葉県・幕張メッセで開催される「第41回東京モーターショー2009」(主催:社団法人日本自動車工業会)に出展される予定。
「U3-X」は全長31.5cm×全幅16cm×全高65cm。重量は10kg以下。バッテリはリチウムイオン電池を採用し、フル充電時で1時間もつという。最高時速は6km。一輪車モビリティを選んだ理由は、乗車時の足着き性が良く、目線の高さが歩行者と並ぶため、乗る人と周囲の人の両方に優しいからだという。車体には折りたたみ式のシートや乗車時のステップ、持ち運び時のハンドルなどを内蔵。モノコック構造を採用したボディカバーはフレーム機能を兼ねている。
U3-X。スタンドに立てた状態 | 側面 | 正面から。幅は16cm |
本体下部にはステップを内蔵 | 本体後方に電源スイッチとステイタスを表示するためのLED |
「HOT Drive System(全方位駆動車輪機構)」は、複数の小径車輪を一列につなぎ合わせて構成した大径車輪を前後左右や斜めに駆動できるホンダ独自の車輪機構。従来のオムニホイールと一番違う点は、オムニホイールが横方向には受動的にしか動けなかったのに対し「HOT Drive System」は前後左右斜め、いずれの方向にもアクティブに車輪を動かすことができるところ。2つのモーターを制御してドライブギアを使ってホイールを動かす。大径車輪を動かすことで前後移動、小径車輪を動かすことで左右移動する。そして、2つそれぞれの動きを組み合わせることで斜め移動が可能となっている。体重移動は傾斜センサーで検知し、車体姿勢の復元と移動を行なう。センサーの軸数やモーターのトルクなどは非公開。
本田技研工業株式会社取締役社長 伊東孝紳氏 |
本田技研工業株式会社取締役社長の伊東孝紳氏は「人と自然に共存できるモビリティを作ろうと技術者が挑戦してきた結果」と「U3-X」を紹介した。ホンダはこれまでさまざまなモビリティに挑戦してきているが、移動の最小単位である人の移動にも注目しており、その成果がASIMOや移動アシストだと捉えているという。今回の試作機は、人と近いサイズで新たなモビリティを実現したものであり、人が移動する楽しさ、喜びへの無限の広がりの第一歩となると紹介した。具体的な商品化は決まっていないが、この技術を広く応用し、新たなモビリティの可能性を追求していくとし、「人のモビリティへの欲求は尽きることがない。ホンダは他とは違ったやり方で商品として実現する努力を続けている。今回の技術も移動する原点に戻った。基礎技術分野でも、新価値を提案し続ける。ご期待いただきたい」と述べた。
株式会社本田技術研究所 研究員 小橋慎一郎氏 |
株式会社本田技術研究所研究員で開発責任者である小橋慎一郎氏は、今回の技術について「人が主役のモビリティ」だと考えていると述べた。人がどのくらいの速度でどの方向に移動したいのかをコンピュータで判断し、まったく初めての人でも、すぐに乗れることを目指して、違和感のない自然な操作性を実現したと述べた。日常の生活空間で使うために人にとって邪魔にならないサイズを目指し、人に納まるサイズとしたという。これによって、手をつないだり、荷物を持ったりすることもでき、また着座スタイルなのでいつでも地面に足を付くことができる。
ASIMOそのほかの技術開発を通して得た重心位置を推定してバランスを制御する技術がポイントの一つだと述べた。人は意図しなくてもバランスを制御して歩くことができる。それと同じような、「人と一体となる」ような制御技術を目指したという。なお不思議なスピーカのような形状は、人に馴染みやすい球形のデザインからだんだん発想していったものだとのこと。
搭乗者の意図を把握して制御を行なう | 全方向に移動可能 | 人ごみでもスムーズに移動可能 |
人の肩幅に収まるサイズを実現した | 手をつなぐこともできる | 使用イメージ |
株式会社本田技術研究所 取締役 新井康久氏 |
実用化への課題については、株式会社本田技術研究所 取締役の新井康久氏がこたえた。想定用途や場所については、たとえば大規模な催し物の会場や、社内デリバリーなどを想定しているが、「これから皆さんと一緒に考えていきたい」と述べた。まだ特定の使い方を限定して考えているわけではなさそうだ。特に自由な発想を持ち、実際に将来ユーザーとなる子供たちの発想にも期待したいという。本体の大きさ重さについてもこれからの検討課題だという。また法的な問題については、現在の試作機は歩行者と同じくらいの速度なのであまり問題がないと考えているがまだ検討課題であると捉えていると述べた。「HOT Drive System」については、2輪や4輪に直接応用できるものではないが、ホイールやメカに関しては応用できる部分もあるだろうとのことだった。
会見では試乗も行なわれた。使用にあたってはまず本体後方にある電源を入れる。すると本体だけで自立するので、可倒式の座面をカチッと音がするまで左右に広げる。その上体で、座面を持ち上げたりせずに、そっと座る。ちょうどキャスター付きの椅子のような感じでお尻の位置を馴染ませたら、あとは重心移動で前後左右、斜めに移動できる。方向転換はやはりキャスター付きの椅子で床上を動くように足先で“ちょん”と床を押すことで行なう。降りるときには椅子から立つのと同じ感覚だ。なおバックすることも可能だが、後方移動に関しては速度制限をかけているとのことだった。
会場で用意されていた「U3-X」はすべて同サイズだったので、身長・足の長さによって着席した状態で最初から足が地面に着いている人、着かない人がおり、それによって乗りやすさは多少の違いがあったようだが、一度乗ってしまえば前後左右への移動は比較的簡単。体をちょっと傾ければ動く。個人的な感想だが、斜め移動もできるのにターンだけは足を使わなければならない点が逆に違和感があった。あまりスピードも出ないし目線も普段とそれほど変化しない一方で、体だけが移動していくので、不思議な感覚である。会場では特に体重制限はなく、これまでに体重100kgまでの人が試したことがあるとのことだった。
なお、モーターショーでどのような形で出展されるかは未定とのことだ。
記念撮影 | 記者たちによる試乗の様子 | シートを広げるときの感覚もなかなか心地よい |
【動画】多くの記者たちが初めての乗り心地を味わった | 【動画】ガイダンスの様子 |
2009/9/24 19:43