「イノベーションジャパン2009 - 大学見本市」開催中

~食事支援ロボットから地中掘削ロボットまで


会場の様子

 「イノベーションジャパン2009 - 大学見本市」が9月16日~18日の日程で、東京有楽町にある国際フォーラムにて開催中だ。主催は独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。今年で6回目を迎える産学連携イベントで、393の国内外の大学研究室による研究が、各ブースで紹介されている。ブース一つ一つがあまり大きくないこともあり、会場は非常に熱気に包まれていた。ロボットに関連した研究のうち、一部をご紹介する。

 岐阜大学工学部 人間情報システム工学科 矢野賢一 准教授らは食事支援ロボット「MARo」を出展。今回初めて一般公開されたものだそうだ。食事支援ロボットとしてはセコム「マイスプーン」が有名だが、すべてロボットが運び、ジョイスティックで操作する「マイスプーン」とは違って、ある程度、腕は動くが自由に動かない人が使うことを想定している。パーキンソン病患者や本態性振戦、老人性振戦など腕が震える症状が見られる人が使うことを想定し、「手ぶれ抑制システム」を導入している点が大きな特徴で、制御を入れることで、スープやシチューのような液体・流動食であっても、こぼさずに口元まで運ぶことができるという。同研究室はこれまで数値流体力学を援用した最適化技術の開発を行なっており、鋳鉄やアルミの鋳造プロセスの最適化研究を行なって来た成果も活かされているそうで、液体の表面張力をギリギリ破らないような形でロボットアームの運動を制御するという。また、食器などにぶつからないようにアーム先端を制御する機能も持っている。

 現在、「MARo」の実用化を検討しており、共同で研究開発するパートナーとなる民間企業を募集しているとのことだ。たとえばエンドエフェクタ部分を交換することで、障害者の腕をサポート、仕事ができるようなものにすることを狙っているという。このほか、精密加工を行なう加工支援ロボットも研究開発中だ。なお同研究室で開発された、リハビリを目的とした上肢動作支援ロボットが現在、青山TEPIAに展示されている。

食事支援ロボット「MARo」液体をこぼさず運ぶことができる人間がハンドルを握って操作するタイプ
【動画】Wiiコントローラを使ったデモの様子。細かい振動は無視するが大きな動きに反応して動く【動画】スプーンでものをすくう様子

 長岡科学技術大学 専門職大学院 システム安全専攻 木村哲也 准教授らは、2008年度「ロボカップジャパンオープン レスキューロボットリーグ」で優勝しているロボット「NuTech-R」を「ながおか次世代ロボット産業化機構(Nexis-R)」と共同で研究用プラットフォームとして再設計した市販モデル「NP-01フェニックス」を出展。登坂可能斜度は45度。乗り越え可能最高段差は34cm。重量はバッテリーを含まず31kg。最高速度は0.17m/s。連続走行可能時間は30分。

 東京工芸大学ロボットビジョン研究室 鈴木秀和講師らは「単眼マルチビジョンシステム」を出展。全方位カメラの一種だが、ズームしたときに低解像度にならないようにパンチルトズームができるカメラでミラーを撮影することで「部分拡大撮影モード」を実現した。このカメラはロボカップ中型リーグ用のサッカーロボット(同大チーム「KOGEI-RV」)に搭載された。なお同ロボットチームは決勝トーナメントに進出、成績は4位だった。

レスキューロボット「NuTech-R」アカデミック特価81万円で市販モデル「NP-01フェニックス」を販売中「ながおか次世代ロボット産業化機構(Nexis-R)」で市販モデルを再設計した
単眼マルチビジョンシステム【動画】従来モデル(左)との比較。デジタルズームと光学ズームの違いは歴然

 筑波大学システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 川村洋平講師らは、株式会社ユニバンス、北海道電子機器株式会社などと共同研究している小型の地中掘削ロボット「DIGBOT」を出展。地盤調査を目的としたロボットで、従来のものよりも遥かにコンパクトで安くすむという。ドリルビットを土のなかで回転させると本体が回転してしまいかねないが、掘削部に二重反転機構を用いることで解決した。展示では二重反転ドリルと推進用のソレノイドを螺旋状に配置した「螺旋インパクト推進機構」を採用したプロトタイプと、スクリュー型の回転子を後方に配置して推進・排土するプロトタイプの2種類が出展されていた。今後の発展的用途としては、月面探査なども視野に入れているという。

地中掘削ロボット「DIGBOT」先端に二重反転機構を採用螺旋状に配置されたソレノイドによる振動で前進する
【動画】ソレノイドの動きスクリュー型の回転子を後方に配置したタイプ【動画】動きの様子

 中央大学理工学部 精密機械工学科 中村太郎 准教授らは人工筋肉を使った研究を出展している。よく見るマッキベン型人工筋肉ではなく、ゴムに線維をまきつけることで特定の軸方向を強化、それによって特定の方向にだけ収縮するようにした「軸方向繊維強化型人工筋肉」だ。これを使ってアームやハンドの開発を行なったり、また内側に人工筋肉を膨らませるようにすることで、腸のように蠕動運動で内部で液体を運搬できる機構を開発中だという。なお中村太郎准教授には以前本誌で取材をしている。あわせてお読みいただきたい。

中央大学研究室の人工筋肉の仕組み。一番下のゴムホースに黒い線維を巻き付けて、人工筋肉にする。一番上は断面を示したものハンドなどを開発中。いまのところ500mlペットボトルを持つことができるくらいの把持力がある腸の動きに着目して開発した蠕動ポンプ
【動画】蠕動ポンプの動き【動画】軸方向繊維強化型人工筋肉の動き

 首都大学東京 人間健康学研究科 理学療法学域 新田收教授らは、動作に感応し起立を助ける「インテリジェント型手すり」と、歩行支援機能を持った電動車椅子「日常支援型知的電動車椅子ロボット」を出展していた。インテリジェント型手すりは、ユーザーの動作速度や負荷に反応して前上方に動くことで、立ち上がりを助ける。パーキンソン病患者が使うことを想定しており、対象者は日常一人で立ち上がることができないが、立ち上がってしまえば歩行ができるような人を想定している。筋力はあるがタイミングの調節ができなかったり、重心が後方に残って素早い動作ができないといった特徴がある人に有効だという。歩行支援のほうは電動車椅子のオプションとすることをねらっている。

 「日常支援型知的電動車椅子ロボット」に関しては、東京都による「ロボットが支える未来の高齢者生活」シンポジウムの折にも紹介しているのでそちらの記事もあわせて見てほしい。

歩行支援機能を持った電動車椅子「日常支援型知的電動車椅子ロボット」【動画】電動車椅子のグリップを握って前進し始めると、車椅子の動きで足運びがアシストされる。押しているのは首都大学東京 産学公連携センター コーディネーター 柏原繁郎氏グリップの力センサー。ぐっと握られた力を検知してアシスト開始する
インテリジェント型手すり。引き起こすことで、立ち上がりのための体重移動を助ける機器使用イメージ【動画】インテリジェント型手すりの動き

 長崎大学工学部 機械システム工学科 諸麦俊司氏らは、ロボット技術を使った医療健康器具の一例として、生活支援を用途とした電動把持装具「ソフトパワーグローブ」を出展。柔らかな手袋にアクチュエータをつけて動くようにしたもので、電動車椅子に乗った頸椎損傷患者が使うことを想定している。現在、機器全体の小型化を進めているという。記者も試させてもらったが、筋電よりも簡便なシステムなので、確実に動くという安心感があった。

ソフトパワーグローブアナログで変化量が取れるスイッチを身体のどこかに装着して操作する駆動機構。こちらで内部の紐を引っ張ることで動かす。現在小型化を進めているという
【動画】実際の動き解説パネル

 創価大学工学部情報システム工学科 西山道子助教らは、光ファイバーを用いたウェアラブルなモーショントラッカーなどを出展。光ファイバーの屈曲を検知して関節位置を推定する。カメラなどを使ったものに比べると、大掛かりなインフラを必要としないのが利点。屈曲情報を関節や姿勢の曲げに変換するところが苦労のポイントだという。

創価大学による光ファイバーによる無拘束・無意識生体情報計測システムわずかな変化を捉えることができるので脈拍も捉えられる

 筑波大学システム情報工学研究科知能機能システム専攻 星野聖教授らは、昨年同様、手指動作をカメラで認識させて3次元手指形状推定を実行、手の動きをロボットハンドに再現させる研究を出展していた。手首の回転などにも対応できるようになったという。

筑波大学システム情報工学研究科知能機能システム専攻による人間の手の動きを認識してロボットハンドをコントロールする研究解説パネル【動画】実際のデモの様子

 岡山県立大学 情報工学部 情報システム工学科 渡辺富夫教授らは、人を引き込む身体的コミュニケーション技術として、商品化もされている「花っぱ」や「ペコッぱ」を出展した。うなずき動作でお馴染みだが、最近は椅子そのものを動かすことで、人を強制的にうなずかせることに対する心理的影響を調べているとのこと。面白い結果が出ているという。

岡山県立大学の人を引き込む身体的コミュニケーション技術【動画】喋るタイミングにあわせてうなずいてくれる

 東洋大学は、「共生ロボット研究センター」の解説をパネルで行なっていた。人間が身につける生体情報モニターや、音声から感情を検出してフィードバックする感情検出システム、人追従ロボットなどを組み合わせた住環境システムの研究を行なっているという。

 立命館大学総合理工学院 理工学部ロボティクス学科 永井清教授らは、柔らかいロボットを実現するために外力を逃がすことができる「冗長駆動関節」機構に、「クロスリンク構造」を組み合わせることで減速比を設定可能にする可変粘弾性機構の提案をパネルで行なっていた。リハビリロボットや医療福祉ロボット、産業機械などへの応用を考えているという。

東洋大学「共生ロボット研究センター」の解説立命館大学「冗長駆動関節」の解説パネル
冗長駆動関節の基本構造クロスリンク構造

 主催であるNEDO技術開発機構のブースでは下肢麻痺者用の歩行補助ロボット「WPAL(Wearable Power Assist Locomotor)」(アスカ株式会社、藤田保険衛生大学医学部リハビリテーション医学講座)などが出展されていた。NEDOの「人間支援型ロボット実用化基盤技術開発プロジェクト」で開発されたロボットの1つだ。

 この他にも会場ではビジョンやスマートマテリアルのほか、ロボットに関係がある研究が出展されている。記者は毎年この展示会に取材に訪れているのだが、年々ロボット関連研究の展示も増えている。時間のある方は是非のぞいてみて欲しい。

NEDO技術開発機構ブース「大学食の祭典」試食・試飲コーナーは大人気で行列ができていた


(森山和道)

2009/9/17 17:08