「H-IIBロケット試験機」打上げ成功!

~次は「HTV」のドッキングにも注目


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月11日、宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機を搭載したH-IIBロケット試験機(H-IIB・TF-1)を打上げた。ロケットは正常に飛行し、15分10秒後にHTV技術実証機を分離。所定の軌道への投入が確認されており、打上げは成功した。

打上げ写真ギャラリー

 打上げ時刻は定刻(午前2時01分46秒)通り。打上げ日も当初の予定通りで、新型ロケットながら、延期なしの打上げとなった。大きな不具合を出さなかった三菱重工業(MHI)の技術力は高く評価できるだろう。また機体は万全でも、天候が悪いと延期になってしまうのがロケットの打上げ。「延期なし」は運にもよるのだが、今後に向けて、幸先の良いスタートを切ったとは言えるだろう。

射点に立つH-IIBロケット試験機。今回は今までの第1射点ではなく、第2射点が使用されたプレスセンターがある竹崎展望台から見た位置関係。右はH-IIAの打上げで使用されてきた第1射点打上げを待つH-IIBロケット試験機。今回は、種子島では初の夜間打上げとなった

 今回は種子島では初となる夜間打上げであったため、見る側も勝手が違ったことだろう。見学者が最も苦労したのは撮影ではないだろうか。暗闇の中から突然強烈な光が出てくるので、露出が合わずに真っ白になりやすい。といっても、ロケットの撮影は一発勝負。失敗しても「撮り直し」ができないので、マニュアルは少し怖い。筆者は今回、買ったばかりの「DMC-FZ38」(パナソニック)を信頼し、オート(プログラムAE)モードで露出補正(-1)をかけただけで撮影してみた。

SRB-Aが4発なので、上昇速度は速かった20秒くらいで上空の雲に突入してしまった雲に入ってからも、しばらくは明るかった

 動画も以下に掲載する。左は「EX-FC100」(カシオ)によるワイド撮影、右は「iVIS FS10」(キヤノン)によるズーム→ワイドの撮影だ。いずれもオートによる撮影だが、FS10の露出あわせはさすがにビデオ専用機といったところだ。

【動画】打上げの動画(ワイド)【動画】打上げの動画(ズーム)

 ところで、JAXAのネット中継において、タービン音のような甲高い音がしていたことが話題になっているが、現地で取材していた我々からは、全く聞こえていなかった。射点付近の地上設備の音であることが考えられるが(今までの中継では聞こえなかった音なので、第2射点に特有の音なのかもしれない)、少なくともH-IIBロケットからの音ではなかったことは指摘しておきたい。

 その打上げ動画は、YouTubeのJAXAチャンネルで見ることができる。

記者会見レポート

JAXAの立川敬二理事長

 打上げからおよそ1時間半後の午前3時40分より、記者会見が開催された。

 打上げの成功を報告したJAXAの立川敬二理事長は、安堵の表情を見せながら「予定日に一発で成功できて、大変嬉しく思う。HTVの打上げは毎年1機ずつ、義務的行為としてやっていくことになっている。第1陣に続き、今後も成功を続けていきたい」とコメントした。

 発表された打上げシーケンスの速報値は以下の通り。搭載されたHTV技術実証機は、近地点200km、遠地点300kmの楕円軌道に無事投入された。

イベント:実測値(予測値)
リフトオフ:0分0秒(0分0秒)
SRB-A燃焼終了:1分50秒(1分49秒)
SRB-A第1ペア分離:2分5秒(2分4秒)
SRB-A第2ペア分離:2分8秒(2分7秒)
衛星フェアリング分離:3分42秒(3分37秒)
第1段主エンジン燃焼停止:5分47秒(5分44秒)
第1段・第2段分離:5分56秒(5分52秒)
第2段エンジン(SELI):6分3秒(5分59秒)
第2段エンジン燃焼停止(SECO):14分19秒(14分16秒)
HTV技術実証機分離:15分10秒(15分6秒)

 また今回の記者会見には、NASAからゲスティンマイヤー宇宙運用局長も出席。「国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングを心から楽しみにしている。ISSにとって、HTVが重要な役割を担っていくことは間違いない」と歓迎のコメントを寄せた。

 H-IIBロケットの目的は、従来のH-IIAロケットでは重すぎて打上げることができなかったHTVに対応することが1つ。そしてもう1つは、民間側の需要として、6t超の大型静止衛星の打上げや、3~4tクラスの中型静止衛星の2機同時打上げを実現することにある。2機同時に搭載できれば、1機あたりの打上げコストは安くなり、国際競争力は向上する。

 三菱重工業(MHI)の大宮英明社長は、「JAXAの開発経験と我々の製造経験をうまく融合できたことが成功の要因だと思う。今まで大きな衛星を打上げることができなかったが、今後はほとんどの需要に応えられるようになる。(MHIへの)移管時期は今後決めていくことになるが、そうなった暁には強力な武器になる」と述べた。

 HTVには1気圧に保たれた与圧区画があり、有人に準じた安全対策(機器の冗長化など)も施されていることから、将来の有人輸送機への発展を期待する声もある。この点について、宇宙開発戦略本部の豊田正和事務局長からは、「有人の月探査ということになると、当然のことながら輸送機も含めた話になる。有人を前提とした輸送機も視野に入れながら、まずはロボットの月探査から始める、ということだと思う」と、少し踏み込んだ発言があった。

記者会見第1部の出席者。一番左がMHIの大宮社長、右端が宇宙開発戦略本部の豊田事務局長こちらは第2部。H-IIBロケットの中村富久プロジェクトマネージャ(後列左)は最初から最後まで満面の笑みだった

今後はHTVにも注目

 H-IIBロケット試験機の打上げが成功したことで、今後はHTVに注目が集まる。HTVの軌道上での運用も今回が初めて。予定通りISSにランデブーし、ドッキングできるのか。“技術実証機”ながら、“本番”の積み荷を搭載しているため、失敗すればISS計画への影響も出てしまう、非常にシビアなミッションだ。

 これから、FD8(飛行8日目)にISSとのドッキング、FD9に与圧部への入室、FD35に分離、FD36~37に軌道離脱・再突入といったイベントが予定されている。各FDの作業内容についてはプレスキットに詳しいので、興味があればそちらを参照するといいだろう。

 なお、下記のイベントについては、ネット中継も予定されている。時間が少し早いが、ぜひご覧いただきたい。

・HTVのキャプチャ
9月18日(金)4:00~(放送時間約70分)

・ISSへの結合
9月18日(金)7:00~(放送時間約60分)

機体移動を動画で

 ところで、種子島宇宙センターでは、あのように巨大なロケットをどのように移動しているのか、ご存じだろうか。余談ではあるが、最後に動画で紹介したい。

 ロケットは、大型ロケット組立棟(VAB)で組み立てられた後に、射点に移動する。H-IIの時代には、VABも射点も1つずつしかなかったので、レールの上を真っ直ぐ移動していく方式で良かったのだが、H-IIA/Bでは2対2の組み合わせになるので、この方式は使えない。そこで、新たに開発されたのが、路面の磁気マーカーを利用した自動制御方式だ。

 VABと射点の位置関係については、Googleマップのこのあたりを見てもらうのが分かりやすいだろう。左上がVABで、右下が射点になる。VABは内部で2機のロケットを整備可能。射点も2カ所が用意されている。

 今回のH-IIBロケット試験機は、VABの奥側(VAB2)に入っていたので、建物から出るとまず右に車線(?)変更。中間点くらいでは、第2射点(LP2)に向かうために、右に進路を変更。射点の手前では、今度は左に舵を切る。第2射点が使用されるのは今回の打上げが初めてなので、H-IIBロケット試験機は、これまでで最もややこしいルートを通ったことになる。

【動画】1回目のターン。VABを出てすぐ、右側に曲がる【動画】2回目のターン。LP2に向かうため、途中で右へ【動画】3回目のターン。左に曲がってから射点へ進入

 ちなみに、ロケットは移動発射台(ML)に乗った状態で搬送されるが、実際に移動機構を持っているのは、移動発射台の下に置かれるML運搬台車と呼ばれるものだ。このML運搬台車は、左右2台セットで使用。ACサーボモーター駆動のタイヤは各車輪が独立して操舵可能になっており、その場旋回や、斜め移動なども可能になっているそうだ。

右下に少し見える緑色の車体がML運搬台車。反対側にも1台入っており、両側から重量を支えるこの写真では、VABは右手方向に隠れている。出てすぐ右に曲がることは、車線を見ればわかる


(大塚 実)

2009/9/16 18:37