名古屋城築城400年プレイベント「堀川エコロボットコンテスト2009」レポート

~技術とアイデアで、堀川を清流に!


「堀川エコロボットコンテスト2009」。エコな城 ミニマム名古屋城(Love Chemical 愛知工業高校 化学工業科)

 8月23日(日)、名古屋市熱田区の白鳥公園で「堀川エコロボットコンテスト2009」が開催された。主催は名古屋工業大学、名古屋堀川ライオンズクラブ。

名古屋の中心を流れる堀川でものづくりを楽しむ

 堀川エコロボットコンテストは、「清流の再生を夢の技術で」をキャッチフレーズとし、小学生~大学生、および企業と一般市民が製作した堀川の環境改善ロボットを披露する場だ。2005年から毎年開催され、今年で第5回目を迎えた。当日は、さわやかな晴天に恵まれ県内外から45台のロボットが出場した。また事前のエコロボ工作教室に参加した幼稚園・小学生26名が製作した水質浄化ロボットも展示、たくさんのロボットを連結して水を浄化していた。

 コンテストの舞台となった堀川は、名古屋市の中心街を流れている。今からおよそ400年前の1610年に、名古屋城築城のために開削された人工川だ。開削以来、物流の要として、または憩いの場として、人々の暮らしを支えてきた。そんな堀川は地域の人達から「名古屋の母なる川」と呼ばれているそうだ。

 しかし今の堀川には、暑い夏の昼下がりにも水遊びする人の姿はない。名古屋が産業都市として発展する過程で、堀川の水質は極端に汚濁したのだ。昭和の高度成長期には、工場排水や生活排水の流入でヘドロが溜まり、悪臭が漂う川として地位住民にも嫌われる存在になってしまったそうだ。1985年に国が「マイタウン・マイリバー計画」の第1号に堀川を取り上げ、これがきっかけで堀川再生への事業が本格化した。ヘドロの浚渫や護岸の改修などが積極的に行なわれ、水質改善や周辺の環境整備などにかなりの進展がみられるようになった。今の堀川は、1960年代の汚濁ピーク時と比較すると格段に水質が改善されてきた。とはいうものの、清流と呼ぶにはほど遠い状態だ。

 人工的に開削された堀川には、独自の水源がなく高低差も少ない。水の流れは潮の満ち引きに応じて行き来するだけで、本来、川が持っている筈の浄化作用が失われている。それに加え、市内の下水道設備により大量の降雨時には下水道から汚水が堀川に流出する問題もある。堀川の水質汚濁の問題は、人々の生活の発展に伴った複数の原因がからみ合っている。

 こうした状況を打破するためには、まず多くの市民が堀川に関心を持つことが重要であると考え、一般市民が魅力を感じるようなイベントを堀川で開催しよう企画されたのが掘川エコロボットコンテストだ。ロボットというキャッチなキーワードを使い、産官学民の連携により小学生から大人までが楽しめる参加型イベントにしたのが特徴だ。

 そのため、堀川エコロボコンテストにおけるロボットの定義は幅広い。動力やセンサーを搭載していないアートや装置であっても、参加OKだ。今年もユニークなアイデアのロボットがたくさん登場した。写真と動画で紹介しよう。

大会実行委員長 藤本 英雄氏(名古屋工業大学大学院教授 ものづくりテクノセンター長)マスコットキャラクターのホリゴン川岸や橋の上で多くの見物人がコンテストを楽しんでいた

課題部門 ゴミ回収ロボットと水質浄化ロボット

 今年の課題部門として、ゴミ回収と水質浄化の2部門が行なわれた。

 ゴミ回収部門では、海洋楽研究所の林所長が製作した、ジンメイザメロボット「サイクロン号」、マンタロボット「サイクロン2号」、アオウミガメロボット「うらしまたろう2号」が注目を集めていた。このロボット達は、尾やヒレに車のリアワイパーを使い、本物の魚や亀のように泳ぎ回る。しかも、体長4.2mもあるジンベイザメには大人が3名搭乗可能だという。どのロボットも大きな口を開けて、お腹の中にあるネットにゴミを溜めながら悠々と泳いでいた。

体長4.2mのジンベイザメ「サイクロン号」(海洋楽研究所)。大人が3名乗れるというマンタロボット「サイクロン2号」は1人乗りで全長2m。サイクロンの名前は、ジンベイザメもマンタも「海の掃除屋」と呼ばれていることに由来しているそうだ【動画】アオウミガメ「うらしまたろう2号」には、女性が浦島太郎の仮装で乗り込んだ。左右のヒレに動力を搭載して、泳いでいる
間近でみると、本当に大きい。外皮は、スタイロフォームやネオプレンゴムなどで作られており、プニプニしている海洋楽研究所の魚ロボット達愛知県県知事賞を受賞した

 Cubo(岡山県立倉敷工業高校電子機械科 1年有志)は、第1回目から毎年参加している常連校だ。今年は、水上でゴミを回収しつつ浄化するロボットを製作した。浄化は、水質浄化材のパクチャーパウダーを散布し、微生物を活性化して川の浄化能力を高める方式。このパクチャーパウダーは、岡山県の環境・建設コンサルタント企業アールビーシーコンサルタント株式会社が開発した自然浄化方法だという。バクチャーパウダーを散布すると、微生物が発生して有機物を分解・摂取して栄養源にし、自らは魚の餌となり川の中に食物連鎖が出来上がる。連鎖が継続することにより生態系が活性化され、川が本来もつ分解浄化能力が高まるそうだ。

 堀川おそうじ戦隊助光レンジャー(名古屋市立助光中学校)は、網をつけた4色の筏にそれぞれ特徴をつけた。くじら型ブルーは、太陽電池パネルを動力に潮を吹き、汚水を抜気する。ワニ型グリーンは、内部にゴミ回収用の水車がありゴミを集める。海老フライ型のイエローは、名古屋城、堀川開削400年を記念しシャチホコのイメージになっている。

 魚型ロボットシロちゃん(Team TMU)は、尾ひれに用いた弾力板が波動運動を繰り返して、前進の推力を発生し魚のように泳ぐ。動力源はサーボモーターで、H8マイコンを搭載しラジコン用プロポで遠隔操縦可能。ゴミ回収用のネットを取り付けて、浮遊ゴミの回収を目指すという。「川の流れが速く、思うように動かすことができなかった。実験室の中でテストするのとは、勝手が違う」と自然環境の中でロボットを動かす難しさを語っていた。

【動画】Cubo(岡山県立倉敷工業高校 電子機械科 1年 有志 )。水上でゴミを回収しながら浄化もするCuboが回収したゴミ【動画】堀川おそうじ戦隊助光レンジャー(名古屋市立助光中学校)。4色の特徴あるロボットを戦隊に見立てた
【動画】魚型ロボットシロちゃん(Team TMU)。尾ひれの弾力板で魚のように泳ぐボトルころころ・キャップころころ(チーム三兄弟とその仲間たち)。会場で多数発生するペットボトルとキャップを分別回収する楽しい装置八熊小学校 ふれあい学級の生徒が、大きな箱に色とりどりの模様をつけて分別ゴミ箱を製作。作品を作ることで、ゴミ捨てのルールを学んだ

 水質浄化ロボット部門は、実際に浄化した水を透視度計にいれ、どのくらい浄化できたかも測定した。透視度とは試料の透き通りの度合いを示すもので、上から覗いた時に底に置いた標識板の二重線が明らかに見分けられるときの水層の高さを示す。

ヨコから見るとあまり違いが感じられない生物浄化装置 シジミでクリーン(堀川に魚を棲まわせ隊)の浄化水。1m下のマークが見えないカバチィー(グレート ヒポポタマス 竹田設計工業)の浄化水。水底のマークが見える

 カバチィー(グレート ヒポポタマス竹田設計工業)は、ボディ内に災害時にお風呂や貯水池の水を濾過し、生活用水を確保する市販の浄水器を内蔵している。浄水器のサイズが大きいため、ロボット本体も大きく重くなり運搬に苦労したそうだ。昨年のコンテストに女子社員が個人参加をしたのに触発され、今年は会社が予算を出して新入社員を中心に19名でチームを組んで出場したそうだ。会社のすぐ傍を堀川が流れているので、コンテストに参加し堀川が抱える問題をもっと身近に考えるきっかけにしたかったという。

カバチィー。内部に搭載した浄水器で浄化しながら泳ぐ。ラジコンで操縦も可能大きいため運搬や水に浮かべるのに苦労したそうだカバチィー製作メンバー

 毎年参加している株式会社テクノ中部は、装いも新たなシジミでクリーン(堀川に魚を棲まわせ隊)で参加した。今年は、ポンプで汲み上げた水を、竹製の樋を伝わらせて水槽に流している。樋の中には生きたシジミがいて、流れてくる水を浄化する。シジミで浄化した水と汲み上げただけの水を濁度計で計測すると、35ppmが20ppm以下になっていることがわかった。

 嫌われ者の恩返しー「生物に優しい?cut10」(チームひょっとこ隊)は、タバコの吸い殻や牡蠣の殻など、捨て場所に困る廃棄物を水質浄化に役立てようというアイデアだ。水道設備が普及していなかった頃の井戸水ろ過の方法に着目したそうだ。

 川の水を汲み上げた水槽の中には、牡蠣の殻が沈められている。牡蠣の殻はヒダが多く、微生物が蕃殖しやすい。この微生物の力で水中の有機物を分解する。下に置かれたろ過装置は3段になっており、1段目は、シュロの樹皮とタバコのフィルターでアンモニアや浮遊物質を除去。2段目は、活性炭、木炭、竹炭で濾過して微生物の働きで汚水の活性化と悪臭を除去。3段目は、ペットショップで販売している水槽用の5色細石で、生物の排出するアンモニアを除去、最後に小石と川砂でもう一度ろ過している。

 SE-1 ASD-New2(愛知産業大学工業高等学校 自然科学部)は、太陽電池でモーターを回し水中に空気を送り込んで抜気する装置を作成した。テストしたところ30分間稼動した時が一番水が澄んでいて、2時間経過すると逆に濁ってしまったそうだ。理由は分からないので、これから調べたいという。

シジミでクリーン(堀川に魚を棲まわせ隊)。中部経済連合会会長賞を受賞した濁度計で効果を実証。嫌われ者の恩返しー「生物に優しい?cut10」(チームひょっとこ隊)
SE-1 ASD-New2(愛知産業大学工業高等学校 自然科学部)。太陽発電でモーターをうごかし抜気して水質を浄化左手に持っている30分浄化した水の方が、見た目にも澄んでいるのが判るRaging Whale(Love Chemical 名古屋市立工業高校 環境技術科)。炭で水質浄化するクジラ型ロボット

 一般部門は、大学研究室のロボットも多かった。

 大同大学工学部都市環境デザイン学科大東研究室は、堀川の水質浄化について研究を行なっている。川底に体積したヘドロが水質悪化や悪臭の原因であると考え、ヘドロの回収ロボット「ウォーターエコ4号」を製作したそうだ。船上の水槽にヘドロ混じりの水を簡易汚泥ポンプで吸い上げ、ヘドロを沈殿させるため凝集剤を投入する。上澄みの水にはスーパーバブル装置で、溶存酸素を増やしてから堀川に戻す仕組みになっている。

 ポニョポン丸(大同大R&M)は、大同大学ロボティクス科の西堀研究室と機械工学科の野田研究室がチームを組んで、ロボットを製作した。2機のボイラーを搭載したポンポン船で、水蒸気の膨張力を推進力とした。昔ながらにポンポンと楽しげな音を鳴らしながら水上を走る。遠隔操縦の舵で自在に方向を変えることが可能。子どもに人気のキャラクタを船首像とし、音楽を奏でながら水上を自在に動き回る癒し系ロボット船だ。

 Hugo Eckener I(名古屋工業大学 藤本研究室)は空中から河川を監視する飛行船型ロボットだった。ビニール袋にヘリウムガスを詰めて浮遊させ、推進力は模型の小型ヘリコプター2機をつかっている。遠隔操縦で、水面まで下げた採取瓶で川の水を採取して汚染チェックを行なう。当初はカメラを搭載する予定だったが、重量オーバーで断念したそうだ。

【動画】ヘドロ水浄化ロボットのウォーターエコ4号(大同大学 CEED-DAITO)【動画】音楽を演奏し、水上を自在に動き回る癒し系ロボット舟のポニョポン丸(大同大R&M)【動画】Hugo Eckener I(名古屋工業大学 藤本研究室)。ビニール袋からヘリウムが抜けて期待した浮力が得られず苦労したそうだ

 一方、中高生の参加者達は、人力で水上を走り回ったり、納涼船から幽霊がでて肝を冷やさせ暑さをやわらげるなど奇抜なアイデアを披露していた。

 ボク達のPET! 金シャチ君(Love Chemical 愛知工業高校 化学工業科)は、ペットボトルで作ったイカダを自転車を改造した動力でうごかしている。後輪の水車は、羽根の長さが1枚30cm程度で、これで本当に進むのだろうか? と思ったが、水面をすいすいと移動していた。しかし、実際は潮の流れに引かれているだけで、上流に戻ろうとしたら引き潮と風でどんどん下流に流されてしまい、最後は舟で引っ張ってもらって帰還した。

 白鳥の湖号(豊正)は、白鳥の湖の曲を流しながら、水面を優雅に泳ぐ(ハズだった)ロボット。ろ過装置には布、紙、活性炭を使いボディ内で水を浄化する。開催地の白鳥公園にちなんで白鳥をモチーフにしたという。

ボク達のPET! 金シャチ君(Love Chemical 愛知工業高校 化学工業科)。500mlペットボトルで作った筏【動画】水車を漕ぎ、移動しながら水中に空気を送り込んで溶存酸素を高める【動画】白鳥の湖号(豊正)。舟から川に降ろすのに苦労していた
【動画】ECOわい船(Love Chemical 名南工業化学工業科)。外輪パドルの抜気効果で水質浄化をする。審査員席の前では幽霊が……【動画】なか良し4人組(名城高校 メカトロ部 チーム壱)。4つのパネルのそこについたエアパックに空気を送り、水上を走る。各パネルの羽根を個別に動かすことで、自由に移動できるエコロボット教室で子ども達が製作した浄化装置。友達のとつなげてどんどん水がキレイになる
D2S108 (Love Chemical 愛知県立岡崎工業高校 化学工業科)ペットボトルの濾過器と浄水効果があるといわれる水草をつかったロボット巨船(WRD)は、砂と石でろ過しながら水上を自走するクジラのくーちゃん(LOVE CHEMICAL 碧南工業高校 環境工学科)。女子4名のチームで製作。モーター取付に苦労したそうだ

堀川を清流にして、魚たちを呼び戻そう!!

海洋楽研究所の林正道所長

 コンテストが終了し審査結果の集計をする間、海洋楽研究所の林正道所長が、ペットボトルや食品トレー、レインコートなどの廃材を使って作ったという海洋ロボットを紹介した。アカウミガメとアオウミガメの泳ぎ方の違い、鮫から攻撃された時の避け方、ジンベイザメの肌の模様の秘密など、魚たちの生態を軽妙なトークで解説して子ども達を夢中にさせていた。

 林氏は、子どもの頃に堀川上流でオオサンショウウオを捕まえたエピソードなどを披露し「このロボットはかわいいけど、本物は100倍かわいいぞ。川や海がキレイになれば、昔みたいに魚たちと一緒に水の中で遊べるんだぞ」と語りかけた。

【動画】オオサンショウウオ。昔は、堀川の上流にも住んでいたという【動画】アカウミガメの泳ぎ方の紹介【動画】アオウミガメはサメが近づくとポーズを作って逃げるそうだ
【動画】ホオジロザメのメス。鮫は鼻先で電気を感じ取るため、そこに人間の手が触ると感電して鮫の動きが止まるそうだ【動画】ジンベイザメの肌の模様は、海の中では保護色になっているそうだ

 来年は、いよいよ名古屋城築城400年の記念すべき年となる。次回の堀川エコロボコンテストは、名古屋開府400年協賛事業として累計400台参加を目指している。多く人が、名古屋の母なる川・堀川に関心を持ち、ユニークなアイデアで堀川の浄化取り組むことに期待したい。



(三月兎)

2009/8/31 18:52