「月探査に関する懇談会」の第1回会合が開催

~二足歩行ロボットも焦点の1つに


 野田聖子宇宙開発担当大臣の私的諮問機関「月探査に関する懇談会」(座長:白井克彦早稲田大学総長)の第1回会合が、8月4日に開催された。有識者20名で構成されたもので、宇宙基本計画で定められた「有人を視野に入れたロボットによる月探査」について、1年程度をかけて検討していく。

「月探査に関する懇談会」の第1回会合野田聖子宇宙開発担当大臣も出席した

 今年6月2日に策定された宇宙基本計画では、月探査について、以下の2点が決められた。この基本方針をもとに、より具体的な検討を行なっていくのが同懇談会の役割である。

・第1段階(2020年頃)として科学探査拠点構築に向けた準備として、我が国の得意とするロボット技術をいかして、二足歩行ロボット等、高度なロボットによる無人探査の実現を目指す

・その次の段階としては、有人対応の科学探査拠点を活用し、人とロボットの連携による本格的な探査への発展を目指す

 懇談会の冒頭には、野田大臣より「国際貢献にも役立ち、将来、産業の起爆剤にもなるような、日本らしい月探査を議論していただきたい」との挨拶があった。

 構成メンバーについては、こちらに一覧が掲載されている。宇宙開発関係者のほか、産業界、大学などから有識者が集められた。今後、月探査の意義・目標やロードマップなどを検討し、第8回会合(来年4月末頃)で報告書(案)を提出。パブリックコメントのあと、第9回会合(同6月頃)で報告書を取りまとめる予定だ。

 今回は初の会合ということで、突っ込んだ議論は行なわれず、各委員が自己紹介とともに短く意見を述べるに留まった。一部を抜粋して以下に紹介したい。

 井上博允委員(東京大学名誉教授、日本学術振興会監事)は、「人型ロボットは難しいのではとの声もあるが、人型ロボットでは自己修復するシステムが考えられる。またユニバーサルデザインの観点で、共通の道具を使えるメリットもある。あながち無理な話ではない」と発言。井上委員は、愛知万博で実証実験が行なわれた「次世代ロボット実用化プロジェクト」のプロジェクトリーダー。

 折井武委員(日本宇宙フォーラム常務理事)は、「活動領域の拡大として月は意義がある。何年に人を送るんだという明確な目標を立てるべき」と発言。続いて「二足歩行ロボットは月探査の手法の1つとは思うが、SELENEシリーズのように、段階的(観測→着陸→サンプルリターン)にやる考え方もある」と指摘した。折井委員は、NECで科学衛星の開発に携わってきた。

 久保田弘敏委員(帝京大学大学院理工学研究科長)は、「有人活動のためには輸送系の確立が重要と考えている」と発言。久保田委員は、東京大学大学院で再使用型の宇宙輸送の研究をしていた。

 鈴木章夫委員(東京海上日動火災保険技術顧問)は、「(純国産の)H-IIロケットを開発するとき、日本にはすばらしい技術基盤があるとしみじみ思った。技術基盤は人そのもの。それを伝えていくには、いい仕事を若者に与えることが重要。技術基盤を強化するために、宇宙開発で何ができるか議論したい」と述べた。鈴木委員は、三菱重工業(MHI)でロケット等の開発に携わってきた。

 鶴田浩一郎委員(宇宙科学研究所名誉教授、宇宙科学振興会常務理事)は、「“世の中の受けがいいから”ではなくて、“こういうことをやれば本当に役に立つ”という目的設定が重要」と指摘。「いま何をやるべきか考えると、かぐやの全球観測の次は、着陸してもっと良く見る。そして持ち帰る。この3点セットで、きっちり進めるのが大事」と述べた。鶴田委員は宇宙研で、「あけぼの」「のぞみ」「かぐや」などのプロジェクトに関わった。

 葉山稔樹委員(トヨタ自動車技監)は、「日本らしい探査が重要」とした上で、「月探査にはお金がかかるが、産業界の知恵を結集して、いかに安くできるかが日本に期待されること。効率よく、安く実現できる方法を探っていきたい。当社のパートナーロボットも含めて検討させていただきたい」と述べた。葉山委員は、同社でロボット等の開発に携わっている。

 広瀬茂男委員(東京工業大学大学院理工学研究科教授)は、「マスコミ受けするロボットを作るのは簡単だが、実用的なものを作るのは本当に難しい。目的・制約条件・予算を考えて、ギリギリの接点で出てくる。思い込みではなく、合理的に最適な形態を決めていく必要がある」と発言。宇宙分野のロボット技術について、「NASAはすごいことを着実にやっているが、日本はそうでもない」と経験不足も指摘した。広瀬委員は、ヘビ型ロボット、地雷除去ロボット、探査ローバーの開発などで知られる。

 的川泰宣委員(宇宙航空研究開発機構技術参与、KU-MA会長)は、ロボット技術を活用すること自体には賛意を表したが、二足歩行ロボットということに関しては、「ほかのロボット技術と二足歩行と勝負して、どちらがうまくできるのか検討してからやるべき」と指摘。また「日本はさまざまな太陽系探査をやろうとしている。月探査もその中の1つ。月探査をやることで、ほかの惑星探査に無理がでないようにお願いしたい」とクギを刺すのも忘れなかった。

 毛利衛委員(日本科学未来館館長、元宇宙飛行士)は、「最終的に必要なのは国民の目標。日本国民に夢を与えられる“ビッグピクチャー”を考えていきたい」と述べたが、二足歩行ロボットに関する発言はなかった。

 山根一眞委員(ノンフィクション作家)は、「月探査が目的なのか、有人活動が目的なのか、ロボット技術を飛躍させたいのかが良く分からない。別々に議論するのもありではないか」と指摘。目的については、「もっとワクワクするものが欲しい。月に遊園地をつくるとか、月で万博をやるとか、ロボットだけ送り込んでオリンピックをやるとか、何かそういうものがあるときに大きく動くのではないか」と意見を述べた。

 二足歩行ロボットに注目が集まるのには、パブリックコメントで国民から反対意見が集中したにも関わらず、ほぼ当初案通りの形で残ったことが背景にある。

 批判を反映させなかったこと自体に関しては、筆者は問題があるとは思わない。多数決が常に正しい結論を出すとは限らないからだ。重要なのは、意見の質であって、量ではない。しかし、月面での二足歩行には、多くの技術的困難が予想される。決して不可能とは思わないが、予算もマンパワーも必要となる。それを乗り越えて実現させる、と言うのであれば、納得できる理由を説明する責任があるはずだ。

 基本的に、この懇談会は公開されるので、今後の議論にも注目していきたいが、山根委員からは、2002年の総合科学技術会議・宇宙開発利用専門調査会での経緯について、「委員の65%くらいは有人に賛成だったのに、出た方針はなぜか『向こう10年はやらない』だった」との指摘も出た。最終報告が決定されるプロセスの透明化も求められるだろう。


(大塚 実)

2009/8/6 19:19