ET×ロボット2009「ETサマーセミナー」レポート

~中高生向け組込セミナー


 2009年7月4日、5日に大阪電気通信大学四条畷キャンパスで、中・高校生を対象とした「ET×ロボット2009」が開催された。主催はET×ロボット実行委員会、共催は大阪電気通信大学。

 組込コンピュータ技術(ET:Embedded Technology)が、我々の日常生活にどのように使われているのか、セミナーやワークショップで中・高校生に体験してもらうイベント。ETを利用した製品やロボットを実際に見たり触れたりできるほか、市販キットのロボット工作教室や企業で開発したロボットの展示、大阪電気通信大学で研究開発しているロボットの紹介があった。本稿では、初日に実施された組込セミナーについてレポートする。

ET×ロボット2009「ETサマーセミナー」「ETサマーセミナー」講演風景

身近な生活を支える組込システム

 HAL大阪で組込システムの講師を勤める長濱美保氏は、前職の雇用能力開発機構で、組込教育立ち上げに携わり、6カ月間のカリキュラムを作成し実施・運用したそうだ。また、関西経済連合会のコアメンバーでもあり、ここでも組込教育について議論を交わしている。長濱氏は、「教育者の立場から、多くの方に組込をしってもらいたい」と組込の魅力を紹介した。

長濱美保氏(HAL大阪)雇用・能力開発機構にて組込教育カリキュラム作成メカ・ソフトウェア・ハードウェアが協調する組み込みの魅力

 組込システムは直接目にすることが少なく、普段意識されることがないが、我々の身の回りにあるあらゆる電化製品に搭載されている。そのことについて、長濱氏が面白いエピソードを紹介した。長濱氏が授業で「コンピュータが搭載されていない家電製品がありますか?」と質問した時のことだ。生徒からは、アイロン・電源タップ・蛍光灯という答えが出てきたが、これらにもコンピュータが搭載された商品がある。しかし「ミキサー」という意見に、長濱氏も判断を迷ったそうだ。

 その日の帰宅途中で大型電気店に寄り、展示されているミキサーの全取説をチェックしたところ、どうやらコンピュータは搭載されていないようす。確認のため、パナソニックの技術者に問い合わせたところ「ミキサーにはコンピュータが搭載されていません」という回答を得たという。長濱氏はもちろん、パナソニックの社員も「初めて知りました」というトリビアだ。

 それくらいコンピュータが搭載されていない電気製品というのは、珍しいという話だった。

IH炊飯器のシステムブロック図。組込技術が炊飯器を制御している。

 長濱氏は、組込システムが活用されている身近な例として車を挙げた。車には、ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)と呼ばれる小さなコンピュータが5~60個、高級車では100個以上搭載されている。エンジン、ブレーキはもちろん、パワーウィンドウ、ハンドルもコンピュータで制御されている。

 例えば、パワーウィンドウは挟んだ大根をさっくり切れる程の力があるという。かつては、子どもが首を挟み亡くなった事故が起きたこともある。そうした事故をなくすためコンピュータを搭載し、障害物を検知したら窓を閉めないような制御をしている。

 昔は、ブレーキも力をタイヤに伝えてロックするただのメカでしかなかった。教習所では理想的なブレーキングとして、力を分散させながら数回に分けペダルを踏み込むポンピングブレーキを指導される。しかしながら、目の前に猫や子どもが飛び出してきたような場合、焦って力一杯ブレーキを踏み込んでしまう人も多いだろう。いわゆるパニックブレーキだ。これを回避するためにも、コンピュータを使っている。

 このように安全な車社会を実現するために、コンピュータが重要な役割を果たしている。この時に重要となるのが、外からの情報を素早く捉えて処理する速度だ。組込の世界では1秒の1000分の1という時間単位でデータの処理を行なっているのだ。

車には50~60、高級車は100個以上のコンピュータが搭載されている。車載組込ソフトウェアの特徴

 長濱氏は、学生にも身近な携帯電話を例に出し、分解した携帯電話を示しながら話を続けた。組込システムは、メカ・ハード・ソフトの3分野が目的のために協調して、製品を作っている。

 何気なく使っている携帯電話だが、よくよく考えると不思議な動作をしていることに気づくだろう。メールする時、WEB検索する時、各種設定を行なう時、それぞれ違う作業をしているにもかかわらず、ボタンは共通だ。1つのボタンが、その時々の処理に応じて役割を変えている。こうした働きを“ソフトウェアキー”とよび、これも組込ソフトで実現しているわけだ。

 携帯電話で音楽を聴くことができるのも、デジタルの音データをコンピュータによりアナログに変換しているおかげだ。メールを入力している最中に電話が着信し、通話を終えてからメールの続きに戻ることができるのも、組込ソフトの働きによる。

 また、互いがどこにいるかを知らない携帯電話同士で通話ができるのは、基地局があるからだ。携帯電話の基地局は2km圏内に1つくらいはあるという。携帯電話は、常に自分の存在場所を基地局に対して伝え、基地局は中継局に連絡をいれている。中継局が携帯電話の所在地をデーターベースとして持っているため、A氏がB氏に電話を掛けたい場合、すぐにB氏がどの基地局内にいるか分かる仕組みができている。そうでなければ、日本全国しらみつぶしにB氏を捜し回らなくてはならない。こうした仕組みも組込技術のたまものだ。

 「このように、組込ソフトのエンジニアは非常に重要なポジションを占めている」と長濱氏は強調した。

分解された携帯電話携帯電話は画面が変わっても、共通ボタンで操作できる。これが「ソフトウェアキー」メールを書いている途中に入った電話を受けて。メールの続きを書いて
携帯電話の基地局の働きハード・メカ・ソフトウェアの技術者の役割分担コンピュータと現実世界の結びつき

 長濱氏は、組込ソフトエンジニアが9万4,000人不足しているという経済産業省が2年前に発表したデータを紹介した。組込産業関連分野で重要な施策というグラフでは、組込ソフトウェア技術者の育成が上位に上がっている。特に関西ではその傾向が著しいという。

 「業務系ソフトと組込ソフトは何が違うのか?」という点について、業務系ソフトはパソコンというフレームワークの中でプログラムを組んでいる。OS、キーボード、モニタという枠組みが事前に決定している特徴を上げた。それに対して、組込系は、ハードウェアに搭載される各種センサー、モーター、基板など製品毎にハードウェアの環境が異なる。炊飯器に使われるマイコンと宇宙船のマイコンが違うように、プログラミング環境も大きく違ってくるわけだ。

 そうした事情があって、業務系プログラムの書籍はたくさん出版されているが、共通してマニュアル化できる部分が少ない組込系のCPUの本は非常に少ないという。とどのつまり、組込系は製品のマニュアルを手がかりにプログラムを組むしかなく、「大変だけれど、すごく面白い世界」と長濱氏はいう。

 とはいうものの、組込でも自動車関連や、カーナビのソフトのように応用分野固有の知識が必要とされるジャンルは、再利用ができる言語が使用されているそうだ。長濱氏が教育に携わってきたのは、ポートを実際に叩いてLEDを光らせたり、スイッチの情報を入手したり、モーターを回転させたりという“泥臭い”部分だという。

 組込システム開発の特徴は、リソースの制限が厳しい点にあるという。PCに搭載されているような高価なCPUは、コスト的にもサイズ的にも問題があり携帯電話には搭載できない。組込機器には、過剰な性能は必要がない。その代わりに必要なのは、「高信頼性」だという。WindowsなどのOSは、メーカーもユーザーも少々の不具合があっても、アップデートでパッチを当てればいいという暗黙の了解ができてしまっている。しかし、家電製品はもとより自動車などは人の命に関わる製品、不具合があれば大変なことになる。リコールに膨大な時間と費用が掛かる組込においては、信頼性を重要視しなくてはならないのだ。

 長濱氏は、仕事として厳しいレベルを求められる現実はあるけれど、自分が作ったものを買ってくれる人がいるというのはすごくやりがいがある。「目の前で購入シーンをみると、かなりぐっときます」と笑顔で語った。

 身近なところから、遠く見えないところにまで組込技術が私たちの生活を支えている。その魅力を感じ、興味を持って働いてほしい。そして技術者の方々が、日本を活性化して欲しいとまとめた。

2006年版 組込みソフトウェア産業実態調査より
組込み産業関連分野で重要なわが国の施策
事業部門の組込み関連全開発費の内訳業務系ソフトウェアと組み込みソフトの違い組み込みソフトウェアの知識技術体系
組み込みシステムとはプログラム制御技術応用分野の広がり

宇宙開発を支える組込コンピュータ技術

井上禎一郎氏(三菱電機株式会社 鎌倉製鉄所)

 三菱電機の鎌倉製鉄所で人工衛星の開発に携わっている井上禎一郎氏は、自身の経験を踏まえて組込と人工衛星について紹介した。

 組込システムというのは、「特定の機能を実現するために、家電製品や機械などに組み込まれるコンピュータシステム」ということで、ハードとソフトが協調して動くパソコン以外のものをイメージして欲しいと井上氏はいう。三菱電機の製品「霧ヶ峰」や炊飯器、冷蔵庫、エレベータ……、電機メーカーが作っているものは全て組込製品といってもいいそうだ。「ただミキサーは違うということを、私も先ほど知りました」と笑った。

 井上氏は「家電製品から自動車、人工衛星にも組込システムは搭載されているが、ソフトの力を使ってうまくハードウェアを制御しているという点でやることは基本的に同じ」という。

 例えば、冷蔵庫は庫内の温度が高くなったことをセンサーが感知すると、CPUからコンプレッサーで冷媒を圧縮する量を増やし、温度を下げている。衛星も同じようなことが言えるという。ロケットから分離し軌道に投入された衛星は、かなりなスピードで回転しているそうだ。太陽の位置などをセンシングして、自分の回転状況を把握し、CPU制御で衛星の推進装置を回転とは逆方向に噴出して制止させる。衛星を打ち上げて観察を始めるまでには、2~3カ月を回転を止めるなどの初期設定に費やすという。

 このように状況をセンサーなどで把握し、作り込んだソフトウェアでハードを制御する、という意味で冷蔵庫も衛星も同じというわけだ。

電機メーカーが作っているのは、全部“組込み製品”組込みシステムは、ソフトの力を使ってハードウェアを制御する。
平成16年 日本における組込システム開発のデータ

 井上氏は、今後、就職を考える高校生・大学生に組込エンジニアの現状を伝えたいと、組込技術者を取り巻く現状について、データを紹介した。平成16年には全産業従事者数が5,200万人で、組み込みシステム関連企業員数は471万人。国内総生産501兆円のうちの62兆円が組み込みシステム産業で約12%になる。組込技術者不足が言われているが、グラフによれば、年々、従事する人が増えている。しかしながら、産業自体が伸びているため、人材の増加が不足に追いついていない状況にあることが分かる。

 AV機器や家電製品、コンピュータ周辺機器など、さまざまな組込製品が日本で開発されていることも分かる。また、一番大きい割合を占めるのが、工業制御/FA機器などの産業機器で15.9%にあがる。家電は3.3%程度しかなく、組込製品がいかに多くの部門で利用されているかがグラフから見て取れる。

 組込システムエンジニアにアンケートを採ると、月平均40時間以上残業する人が半分以上いて、大変な産業であることが伺える。けれど、次の項目を見ると、多くの方が「自分の夢を実現したい」とか、「興味を持ってモノ作りをしたい」という意欲があって業界に入ってきていることが分かる。

 「労働条件や収入に不満があっても、それでもガンバってやっているのが組込産業技術者の現状といえる」と、井上氏は述べた。

 現在の組込システム産業の動向を見ると、携帯電話や自動車に顕著なように、組込システムの高機能化・高性能化が著しい。携帯電話を例にすると、10年前とは比較にならないほど機能が増え発展している。ソフトウエア規模でいえば、自動車で700万行、携帯電話は多い機種で1,000万行のプログラムを必要としているそうだ。とても1人で管理できるレベルではない。

 また、製品の安全性や品質が厳しく問われる状況になってきた。PL法などで電化製品の説明をきちんと明示しなくてはならないとか、製品の不備によって事故が起きた場合、会社の信頼を失う事態になりかねない。ということで、品質を重視して開発を行なっている。

国内総生産に占めるソフトウェア産業(国民経済計算年報2007より)青は組込ソフトウェア技術者数 黄色が不足者数組込み製品開発の割合。工業機器が多数を占めている
組込システムエンジニアの労働状況。40時間以上残業する人が多いやり甲斐を感じて仕事に従事している労働時間や収入に不満があっても、仕事は面白くやり甲斐がある
組込みシステム産業の動向。組込みシステムの複雑化、大規模化が進んでいる

 特に携帯電話などは季節毎に新モデルが発表されるという具合に、製品のライフサイクル、つまり開発スパンが非常に短縮される傾向にある。開発期間が短くなり開発規模が増加するという、技術者には厳しい状況になっているそうだ。

 そのためさまざまな方法で開発期間の短縮をしたり、品質チェックをある程度機械化したりしているという。またモデルベース開発という手法を取り入れ、従来は自然言語で記述していた仕様書・設計書をより分かりやすくし、海外のソフトハウスに委託開発できるようUMLで記述する傾向になりつつあるそうだ。

人工衛星にもリアルタイムOSが搭載されているモデルベース開発もUMLなどで世界レベルで規格統一されている開発プロセスの改善と評価を改善する取組み

 井上氏は、三菱電機のサイトを見ながら人工衛星の話を始めた。人工衛星にも高度400kmくらいにある周回衛星や国際宇宙ステーション、3万6,000kmの静止衛星があることを説明。人工衛星には、通信・放送衛星、気象衛星、科学衛星などいろいろな種類があるという。同社では、同じような機器をベースとし、組み替えることでいろいろな衛星を作っているそうだ。

 「衛星ができるまでには、5~10年掛かることが普通だ」と井上氏はいう。井上氏が子どもの頃に設計された国際宇宙ステーションが、今飛び上がっているわけだ。衛星開発では、まずどのような作業をする衛星なのか計画を立て、その衛星を設計する。最初はエンジニアリングモデルと呼ばれるものや、熱・構造モデル、システム電気モデルのように各機能だけのモデルを作る。こうした試作機で試験をし、実際に動くかどうかを確認してから、製造を行なう。製造をしたら、再び試験。ロケット打ち上げ時には、大きな振動や音、衝撃が掛かるため、振動試験や音響試験、衝撃試験を行なうそうだ。また、熱真空試験といい、大きな筒の中に衛星を入れ宇宙空間のような真空状態を作って、数週間~数カ月間様子をみる試験もある。こうして鎌倉で開発した衛星を筑波に持っていって試験をし、種子島からH-IIAロケットで打ち上げる。

 このように人工衛星は簡単にできるわけではなく、過酷な状況で使うために非常に過酷な試験を繰り返しているという。

 衛星にももちろん組込システムが使われている。主に通信や放送用の衛星に使用される静止衛星は、地球の自転速度と同じ周期で公転している。3万6,000km上空で地球と同じように回っているため、1点に静止しているように見えるわけだ。静止衛星の軌道では、太陽輻射圧と呼ばれる光の圧力があり、これにより衛星の姿勢や起動が変わってくるため、修正して姿勢を安定させたり、軌道が落ちてくるのを上げたりする制御をしている。

 静止衛星より低い軌道で地球を回る周回衛星については、高度400kmの国際宇宙ステーションを例にすると地球を90分で1周している。90分間に朝と昼と夜がある状態だ。周回衛星は地球に近く観測が行ないやすいため、観測衛星などに使われている。こちらは高速で移動するため、通信可能な時間を確保するのが難しく、10分程度しか通信できないこともあるそうだ。日本では沖縄と千葉にアンテナがあり、他の国のアンテナも利用させてもらったりして、衛星と通信できる環境を広げていっている。

 また外乱が大きく、空圧や地磁気、重力の影響、多少ある空気の抵抗も受けるため、姿勢と軌道がブレてしまうそうだ。その修正に推進剤を用いるが、宇宙へ持って行ける推進剤の量は限られているため、その制限により寿命が3~5年となってしまうという。静止衛星が10年くらいの寿命があることを考えると、はるかに短い。

 こうした姿勢制御は、太陽センサー、地球センサー、遠くの星の位置を追跡するスタートラッカーなどのセンサーを使って自分の姿勢を判断、目標となる姿勢との誤差を算出して、制御則に応じて誤差を減らすための計算をする。計算結果の指令値を、回転するホイールやスラスタに与えて回転力、推進、推力によって制御トルクを生み出す。空気抵抗や太陽の光圧力などの外乱トルクと制御トルクにより、衛星は回転したり軌道が変わったりする。その変化をセンサーで再び検知し、再計算し……と、処理を繰り返して衛星は安定して観測や通信を行なう仕組みになっているそうだ。

 他にもバッテリや太陽エネルギーを電力に変換する太陽電池パドルなどのさまざまな機能を衛星は搭載している。つまり、「人工衛星は、非常に大きな組込システム」だと井上氏はいう。

 通常の組込システムと違う点として、トラブルがあった時に修理に行けない点をあげた。これに対して、冗長系として、同じ機能を持つものを2つ搭載し、1個が壊れてももう1つで処理をするようになっているそうだ。他にも、同じ処理を3つのシステムで行ない、結果が異なった場合は多数決で正しい答えを決める三重多数方式というものもある。

 また宇宙飛行士が放射線の影響を受けるように、人工衛星も影響を受けているという。組込システムの例では、メモリが勝手に反転し、1と0がいきなりひっくり返ってしまうそうだ。従って、ソフトウェアが正常に動いていても、回路が反転して全く違う処理でシステムが落ちるなどのトラブルがある。その対策として、耐放射線用の部品を利用したり、発生しても復旧できるような仕組みを作ったりしているという。

 耐放射線用の部品は高価なため、開発中もミスをすると数百万円を無駄にすることがあるので、「ビビリながら作業を行なうことがある」と語った。

人工衛星ってなに?静止衛星の特徴周回衛星の特徴
三菱電機の人工衛星開発史。国内外の衛星開発に携わっている。今年9月に打ち上げるHTV。国債宇宙ステーションまで無人で自動接近飛行する地球温暖化の原因である温室効果ガスの濃度分布を観測する「いぶき」
人工衛星に搭載されている機器。紺色の文字は人間に置き換えた比喩人工衛星における組込みソフトウェア人工衛星の組込システムの特徴

 最後に井上氏から、組込技術者として若い学生達にメッセージがあった。

 井上氏が技術者になってよかったと思うのは、「やはりモノができた時の喜びが大きいことだ」という。衛星の打ち上げを運用管制室でドキドキしながら、自分が作ったソースコードで考えたように動いているのを見守っている時が一番嬉しいという。

 車を作る人も、電化製品を作る人も、自分が作ったものが人に使われたり、お店で売られたりしていると同じように嬉しいだろう。

 また、新しい製品開発に携われば、世界にまだないモノを作り出す創造性がある。世界トップレベルのことをやったり、話題になるようなものを作ることもできる。創造力を活かした仕事ができるという点で、非常に面白みがある仕事だと井上氏はいう。

 半面、苦労という点では品質へのプレッシャーが大きいという。自分のミスが製品に大きなダメージを与えるかもしれないというプレッシャーだ。特に人工衛星は修正が利かないため、もし“=”とすべきところを“!=”(ノットイコール)にしただけで、衛星が反転し数百億がパァになることもありうる。自分の仕事が、会社の信頼や利益に直結するという、責任感が必要なやり甲斐のある仕事だがプレッシャーも大きいわけだ。

 自動車では、一番大きなもので120万台リコールで損失が150億という例があるそうだ。それだけ組込技術者は重要な仕事を担っていると言える。

 また、日本製品は海外で本当によく使われている。日本の組込システムは世界トップレベルであり、海外旅行に行けば日本の車がたくさん走っていたり、家電製品も日本製がほとんどだったりする。自分の携わった製品が国内外で使用されているというのは、大きな喜びであると井上氏はいう。

 仕事をする上で、お手本はあるし先輩も教えてくれる。しかし、先輩も全てを熟知しているわけではない。新しい機能を搭載するためには、自分でそれを作り出さなくてはならない。難しくても、誰も経験がなくても、時間がなくても、作らなくては仕事にならない。辛くても徹夜をしても、仕事を仕上げるという厳しさも技術者には必要であると述べた。

 最後に、「若い方達には、自分が実現したい夢を見つけて欲しい」と井上氏は言った。井上氏は、幼稚園の時に宇宙に憧れをもったところから始まって、大学で航空宇宙を学び、今の仕事に就いたそうだ。航空宇宙産業は狭き門なので、苦労はあったけれども、夢があったからこそ頑張ることができたという。

 「夢はカンタンには見つからないけれど、いろんなことに挑戦し、自分が人生をかけて本当にやりたいことを考えれば、自ずから答えは出てくると思う。夢が見つかれば、自分の50年史を考えてほしい」「今後の人生50年間で、何歳の時には何をやりたい、どうなっていたいのかを、仕事だけではなく結婚や子どもの誕生も含めて決めていく。目標を具体的にすることで、一つ一つ達成しステップアップして夢に向かって進んでほしい」「夢が見つかれば、それが生きる原動力となる。“勉強が大変だな”とか、“卒論や修論が大変だ”と思った時には、自分の夢を見つめ直し何のために頑張っているのかが分かればやりきる力が生まれる。皆さんもぜひ早く夢を見つけていただきたい」などと語り、講演を締めくくった。

組込みシステム技術者のおもしろみ喜びいぶき運用管制室の画像
組込システム技術者の苦労技術者として伝えたいこと


(三月兎)

2009/7/22 17:47