マイクロソフト、「Imagine Cup 2009」出場3チームの壮行会を開催

~優勝を目指し、日本代表いざ発進!


 7月1日、東京・新宿のマイクロソフト本社において、「Imagine Cup 2009」の日本チーム出場を記念して、壮行会が開催された。

 Imagine Cupは、マイクロソフトが国際的なIT人材育成を目指す活動の一環として毎年主催しているもので、2003年からスタートし、今年で第7回を迎えるIT技術コンテストだ。毎年、世界の若いプログラマーや数学者、技術者、デザイナー、クリエイター、芸術家やそのタマゴ達が集い、2008年度のフランス大会では100カ国以上、約20万名が参加。本年は7月3日~8日の6日間、エジプトのカイロにおいて開催される。

世界を相手に活躍できる開発者を発掘し、早期支援!

 壮行会に先立ち、マイクロソフト関係者や大会関係者より、大会概要の説明が行なわれた。マイクロソフトの加治佐俊一氏(業務執行役員 最高技術責任者)【写真1】は、1980年代初頭のパソコン黎明期を回想しながら、「若い時代の刺激は大きな影響を与える。この大会への出場によって、大きな力が得られると思う。ITを利用して、世界に貢献するきっかけをつかみ、優勝も勝ち取ってきて欲しい」と激励した。

 次にマイクロソフト 伊藤信博氏(アカデミックテクノロジー推進部 部長)【写真2】により、同社の学生支援の取り組みについて説明がなされた。伊藤氏は、日本の教育現場では理数系離れが深刻化していることをデータによって指摘。その一方で、国際化の波は進行を続け、企業に求められる人材も変化してきた。「このような環境でイノベーションの創出や、IT業界の健全な発展を目指すために、優秀な人材を創出し、積極的に人材を育成していくことが必要」と説いた。

【写真1】マイクロソフトの加治佐俊一氏(業務執行役員 最高技術責任者)の挨拶【写真2】マイクロソフト アカデミックテクノロジー推進部 部長 伊藤信博氏。同社の学生支援の取り組みや本大会のみどころについて説明
【写真3】3つの柱を掲げ、具体的な4つの強化プログラムを実施することで、早期の人材育成を支援

 そこでマイクロソフトでは、早期の人材育成活動に対し、このような積極的な支援を行なっているというわけだ。具体的に、同社では「競争力のある人材育成」「研究支援と社会貢献」「先進教育の提示と展開」という3つの柱を掲げ、「国際力」「想像力」「実践力」「専門力」という「4つの力」を強化するプログラムを実施している【写真3】。

 たとえば強化プログラムには、今回の「Imagine Cup」のほか、ロボットの組み立てから、プログラム、競技会、成果発表までのプロジェクトを体験し、想像力を強化する「体験型プログラミング学習」や、全国の高等専門学校を訪問してIT技術を紹介することで専門力を強化する「全国高専 IT キャラバン」、マイクロソフトの開発環境を提供し、ITに対する実践力を強化する「Microsoft DreamSpark」がある。今後はIT業界への就職支援や、学生ベンチャーの支援も積極的に推進していく方向だ。

 伊藤氏は、本大会の見どころについても説明した。本大会は過去最大の規模になり、175カ国30万人の中から選抜された124カ国444名の学生が参加する予定。国内の作品出展数も600以上になり、チャレンジする人が増えたため、過去最高の3部門が世界大会に出場することになったそうだ。組み込み開発部門では、高専チームが初めて出場することになった。

 大会のテーマは「テクノロジーを活用して世界の社会問題を解決する」というものだが、これは国連ミレニアムに対応した8つの開発目標から選択できるという。このほかにも、政府のパートナーシップも強化され、エジプトの「スザンヌ・ムバラク大統領夫人賞」も設置されたことなどがアナウンスされた。

【写真4】東京大学 特認教授の中山浩太郎氏。Imagine CupのOBだが、今回は審査員も務めることになっている

 次に、中山浩太郎氏(東京大学 特認教授)【写真4】が登場し、「勝ち負けにだけにこだわらずに、世界大会で培った経験を実社会で活用して欲しい」と、Imagine Cup出場の意義について述べた。同氏は過去の大会でソフトウェアデザイン部門の日本代表として3年間ほど活躍した人物で、今回のImagine Cupでは審査員を務めることになっている。

Imagine Cup 2009から新たに3つの部門が設置

 「Imagine Cup」に出場する学生は、前述のように国連ミレニアムの開発目標に対応したテーマを選択し、その課題をITで解決するソリューションを考える。具体的なテーマは以下のとおりだ。

・極度の貧困と飢餓の撲滅
・普遍的な初等教育の達成
・ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上
・幼児死亡率の引き下げ
・妊産婦の健康状態の改善
・HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
・環境の持続可能性の確保
・開発のためのグローバル・パートナーシップの構築

 Imagine Cup 2009の競技は合計9部門が用意されている。「組み込み開発部門」「ソフトウェアデザイン部門」「ゲーム開発部門」「ITチャレンジ部門」「ショートフィルム部門」「写真部門」のほか、本年より「マッシュアップ部門」「ロボット(アルゴリズム)部門」「デザイン部門」というカテゴリーも新設された。新設部門について簡単に触れておこう。

 マッシュアップ部門は、利便性のあるWeb 2.0アプリケーションを作成することを目的としている。ノンコーディングでWebサービスのマッシュアップを可能にする無償開発環境「Microsoft PopFly」を使用し、ネット上で利用できるサードパーティのデータやサービスをマッシュアップしながら、ユニークなツールを作成する。

 ロボット(アルゴリズム)部門は、主として周囲環境を解釈して相互作用する高度なアルゴリズムがターゲットとなる。クイズ、コードの課題、アルゴリズムのパズルを解いていく「数学の障害物競走」のようなイメージだ。このイベントはネット上で実施され、ラウンドが進むにつれ、問題の難易度が上がる。デザイン部門については、マシンと人間の対話を簡単にするデザイン・ソリューションの作成を目的としているという。

Imagine Cup 2009で世界一を目指し、日本代表、いざ出陣!

 発表会では、「ソフトウェアデザイン部門」「組み込み開発部門」「写真部門」の日本代表3チームが出席し、本番同様に英語でのプレゼンテーションを実施。以下、世界大会に出場する日本代表3チームを紹介しよう。

【ソフトウェアデザイン部門】
 ソフトウェアデザイン部門は、マイクロソフトの開発ツールやテクノロジーを使用し、実用的なソフトウェアやサービスアプリケーションを作成するというもの。PCだけでなくモバイルデバイスを活用することも考慮に入れることが重要だという。

 日本代表として2年連続出場を果たした同志社大学のNIS Lab++チーム(中島申詞さん、前山晋哉さん、 加藤宏樹さん、門脇恒平さん)【写真5】は、「普遍的な初等教育の達成」というテーマで、教科書活用のためのプラットフォームを提案した【写真6】【動画1】。現在、世界中で約7,000万人もの子どもが教科書不足などの理由により初等教育を終えられないという事実がある。この問題を解決するために、インターネット上で無償公開されているさまざまな教科書コンテンツを収集・翻訳し、電子データとして配布するトータルプラットフォームとして「PolyBooks」を考えたそうだ。

【写真5】同志社大学のNIS Lab++チーム(写真左側)と学びing株式会社の斉藤常治氏(写真右)【写真6】「PolyBooks」は、ネット上の教科書コンテンツなどをPolyBooks上にドラッグ&ドロップで取り込む。収集したコンテンツを翻訳し、電子データとして配布する【動画1】PolyBooksのデモンストレーション。教科書コンテンツとして小学生向けの算数を利用して実演。カメラとジェスチャー機能で画面の操作も可能だ

 PolyBooksを利用する場合には、ネット環境が整備されている必要がある。しかし、実際にはネット環境がない地域も想定される。その場合はバイクなどに小型デバイスを取り付け、無線LANで教科書コンテンツを配達する。また利用端末として100ドルPCを採用すれば、途上国でも採算が取れるという。

【写真7】デモで利用した無線インターフェイス。無線センサーネットワークデバイス「Sun SPOT」を利用

 教科書の編集者は、ネット上のコンテンツなどをPolyBooks上にドラッグ&ドロップして取り込む。さらに教科や学年などの属性を加えて配置。各国の言語に対応するには「言語グリッド」と呼ばれるWebサービスを用いることで、多数の言語間で相互に翻訳できるという。PolyBooks上の教科書コンテンツは、任意の場所にコメントを付けられるので、コメントをフィードバックすれば、教科書をカスタマイズしたり、改訂版の更新も可能だ。また音声機能もあり、コメントを音声認識で取り込めたり、音声での読み上げにも対応する。さらにWebカメラの利用も可能だ。ヒューマンインターフェイスとして、サンマイクロシステムズの無線センサーネットワークデバイス「Sun SPOT」などを利用して、ジェスチャーで画面を操作できるようにした点も秀逸だ【写真7】。

【組み込み開発部門】
 組み込み開発部門は、マイクロソフトの組み込み用OS「Windows Embedded CE 6.0 R2」や、事前提供の組み込みプラットフォームを使用し、独創的なハードウェア/ソフトウェアのソリューションを開発するもの。

 日本代表の国立東京工業高等専門学校CLFSチーム(佐藤晶則さん、長田学さん、宮内龍之介さん、有賀雄基さん)【写真8】は、「幼児死亡率の引き下げ」をテーマに、「The Electronic Maternal and Child Health Handbook」という作品を発表した【動画2】。発展途上国では乳幼児の死亡率が大変高い。そこで日本の母子手帳をヒントに、乳幼児の死亡率の引き下げを目的とするヘルスデバイスを開発したという。体温、血圧、体重、スケールという4つの測定器【写真10】【写真11】と、ヘルスモニターデバイス【写真12】などを活用し、乳幼児の健康管理をしていくことを提案。プラットフォームはファンレスの小型PC「eBOX-4300BSP」を利用しており、OSにWindows Embedded CE 6.0を搭載し、各種測定器に接続できる【写真9】。そのほかに周辺機器としてタッチパネル(ヘルスモニター)、カメラ、オーディオ類、CFインターフェイスなどを装備できる。

 この作品を製作するにあたって特に苦労した点は、組み込み用OSなのでAPIの機能が限定されていること。その制約のなかで、いかに実現したい機能を開発していくかが課題だったという。

【写真8】日本代表の国立東京工業高等専門学校CLFSチーム。組み込み開発部門で高専の世界大会出場は初の快挙【動画2】幼児死亡率の引き下げを目的とするヘルスデバイス「The Electronic Maternal and Child Health Handbook」。動画は血圧計で血圧を測り、ヘルスモニターに表示したり、カメラで赤ん坊の状況を確認しているところ【写真10】体温、血圧、体重、スケールという4つの測定器で赤ん坊の健康をモニタリングする
【写真11】自作したスケール。糸巻きにポテンショメータを接続し、回転数を計測して長さを測る仕組み【写真12】ヘルスモニター、専用プラットフォーム(写真左)や、途上国でも利用できるように太陽電池パネルや手動発電機(写真右)も用意【写真9】プラットフォームはファンレスの小型PC「eBOX-4300BSP」を利用。OSにWindows Embedded CE 6.0を搭載し、アプリケーションは.NET Compact Framework3.5上で動く。 各種測定器のほか、タッチパネル(ヘルスモニター)、カメラ、オーディオ類、CFインターフェイスなどを接続

【写真部門】
 写真部門は、写真で制作したフォトエッセイを通じて、社会問題について探るストーリーを伝えるというもの。武蔵野美術大学の寺田志織さん【写真13】は、「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」をテーマに「remainder」という作品を発表した。女性の社会進出を軸に、男女の格差をビジュアルで表現したもので、さまざまな事象を引き算で見せる作品だ。たとえば、写真A(男の事象)-写真B(女の事象)=写真C(性差による事象)という形式で、表現していた【写真14】。

【写真13】写真部門に出場する武蔵野美術大学の寺田志織さん(写真右)【写真14】「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」をテーマにした「remainder」。男女の格差をビジュアルで表現したもので、さまざまな事象を引き算で見せる

 今年の大会は、ソフトウェアデザイン部門に2年連続で出場する同志社大学チームに加え、組み込み開発部門と写真部門に初めて日本代表チームが出場する。過去最多の出場になるため、ぜひ頑張って優勝を狙っていただきたい。


(井上猛雄)

2009/7/2 19:35