「ETロボコンは組込エンジニア育成の特効薬となれのるか?」

~ET West 2009 パネルディスカッション&ET ロボコン WEST杯 レポート


ET West 2009 パネルディスカッション

 2009年6月4日~5日の2日間、インテックス大阪において「Embedded Technology West 2009」が開催された。主催は、社団法人 組込みシステム技術協会(JASA)。同展示会では数多くのカンファレンスやワークショップが行なわれた。本稿ではET ロボコンの出場経験者と実行委員が登壇したパネルディスカッションと、ショートトラック競技のレポートをお届けする。

 ETロボコンは、組込みソフトウェア開発に従事する技術者や工学系の学生を対象としたロボットコンテストだ。ETロボコンの特徴は、同一のハードウェアを使用し、システム開発における分析・設計モデルによるソフトウェアの設計コンペティションを主眼とする点にある。2002年にUMLロボットコンテストとして始まり、2005年からETロボコンと名称を変更した。

 ETロボコンは、競技会を通じ一連の開発工程を実務レベルに近い形態で体験できる点が評価され、毎年約1.7倍のペースで参加者が増えている。今年は過去最高の356チームのエントリーがあり、地区大会を全国7カ所で実施する。各地区大会の優秀チームが、11月に開催されるチャンピオンシップ大会へ出場する。

 4日に開催されたパネルディスカッションは、初級エンジニアにとって、ETロボコンが開発現場のスキルアップに貢献できているのかをテーマに、企業が若手技術者育成にどのように取り組むべきかも視野に入れて語った。

 5日は、ETロボコンブースに敷設した昨年度の大会コースで、走行タイムを競うショートトラック競技を開催した。今年度から新たに追加されたLEGO Mindstorms NXTが初めて競技会に出場し、来場者の注目を集めた。

従来使われてきた車輪型のLEGO Mindstorms RCX今年度から追加されたLEGO Mindstorms NXTの二輪倒立振子走行体会場で熱心に最終調整をする参加者
2008年度コースで競技を実施多くの来場者がETロボコンブースで競技を観戦していたETロボコン協賛各社

ETロボコンは組込エンジニア育成の特効薬となれるのか?

 ディスカッションのパネリストには、選手として出場し大会で優秀な成績を残している人や、チームを引率する立場にある人が参加した。モデレータは、ETロボコン関西地区実行委員の松尾圭浩氏(株式会社富士通ラーニングメディア 西日本ソリューション部)が務めた。

 最初にモデレータの松尾氏が来場者に、ETロボコンの知名度についてアンケートを取った。ETロボコン経験者は2~3名。ETロボコンを知っている人は聴衆の6割名ほどだった。松尾氏がETロボコンの概要と開催趣旨の説明をした後、パネリストの自己紹介からディスカッションが始まった。今回のパネリストは、企業や学校から選手を送り出す立場として西川氏と江口氏、参加側としての意見を述べてもらう川上氏と大倉氏という役割分担になっている。

松尾圭浩氏(株式会社富士通ラーニングメディア 西日本ソリューション部 ETロボコン関西地区実行委員)Embedded Techology Software Design Robot Contest。同一走行体で、プログラム設計とタイムを競う参加者が増え、地区大会も開催され全国で競技会を実施している

 NECソフトウェアに勤務している西川幸延氏は、「2003年までは社内で仕事に従事する典型的な技術者だった」そうだ。2004年に、社内外の調整、活動方針指導などプロデューサー役を務めチーム「ムンムン」を率いて初出場。チーム「ムンムン」は、2005年、2006年と上位の記録を残したため、西川氏は委員会から参加者ではなく、実行委員へと勧誘されたそうだ。会社チームは継続して参加しているが、西川氏自身は2005~2008年は実行委員会の技術委員を担い、今年度からETロボコン2009の実行委員会 本部技術委員長となった。ETロボコンをテーマにした書籍「ETSS標準ガイドブック」(日経BP社)の一部を執筆している。

西川幸延氏(北陸日本電気ソフトウェア株式会社 ソフトウェア開発本部ファクトリ シニアマネージャー)チーム「ムンムン」の戦歴「ETロボコンで、人生が変わった」という西川氏の活動履歴

 江口良一氏は、学校法人コンピュータ総合学園神戸電子専門学校に勤務し、Webアプリケーション開発や、組込みソフトウェア開発実習を担当している。2008年に学生2チームを引率して、ETロボコンに初参加。両チームとも関西地区予選を優秀な成績で勝ち上がった。ソフト分野3年生チームの「ひよっこえんじにあーず」は、チャンピオンシップ大会で総合5位、特別賞受賞という成績を残した。

江口良一氏(学校法人コンピュータ総合学園 神戸電子専門学校 教育局 教育第1部 ソフト分野)神戸電子専門学校の概要2008年に初出場でチャンピオンシップ大会上位入賞

 川上敏弘氏はチーム「くろしお」で、2007年に初参加した。自主的なスキル向上活動の施策として、ETロボコンによる若手技術者教育を計画し、企業チームでのエントリーだった。初年度の成績は振るわなかったものの、2008年度は関西大会で総合10位。本年は20名で4チームを編成し、新走行体のNXTでさらなる上位を目指すという。

 過去2年間の参加で、UMLに関して知識が増えたこと、参加者同士の交流が生まれたことをメリットにあげた。また、参加者が自らのスケジュール管理する姿勢に乏しいことに気づいたなど、自主的に学び取り組む気風が育っていると述べた。

川上敏弘氏(チーム「くろしお」)チーム「くろしお」の経歴
ETロボコン参加のメリット経験から得られた改善点と反省点

 大倉裕嗣氏は、鳥取でリコープリンタに搭載するコントローラーやパッケージを主に開発している。2006年に「なんだいや(仮)」のチームリーダーとして初参加。2007年にエクセレントモデル、2008年にはシルバーモデルを受賞した実績を持つ。本年度は、オブザーバーとして若手を見守る立場になったという。

大倉裕嗣氏(リコーソフトウエア株式会社 プロダクト事業部 鳥取開発センター 開発4グループ)大倉氏のプロフィールチーム「なんだいや(仮)」の戦歴

 自己紹介を終えた後、モデレータの松尾氏は、各自がETロボコンに係わることになったきっかけを尋ねた。

 西川氏は、以前からUMLロボコンを知っていて興味があったそうだ。地元の大学学長から学生に課題を与えて欲しいという依頼があり、情報系学生にぴったりのコンテストであると紹介して、採用されたという。学生への指導を要望されたので、まず自分が経験しようと参加を始めたのがきっかけとなった。その後、会社の広報活動という位置づけで続けているそうだ。

 江口氏の場合は、少子化の影響で生徒募集が難しいという背景があったという。エンジニアのように卒業後の需要が高いところは学生の人気がなく、生徒が集まらないそうだ。そこで学生募集の方法を再検討し、昨年はもの作りに結びついた体験学習イベントを企画した。その時、ロボット本体を作らずにすむETロボコンを採用したのがきっかけだという。「学生募集という不純な動機で始めたが、参加したチームメンバーはいい結果を出してくれた」と述べた。

少子化の中で、新しい学生募集のキーワードとしてロボットに着目ロボットを教材にした体験学習の提案

 川上氏は、ソフトウェア企業として若手エンジニア教育の必要に迫られたのがきっかけになったという。若手の教育と学ぶ自主性を引き出すためにどうしたらいいのか? と考えてきた時にUMLを学べるETロボコンを紹介されたそうだ。

 大倉氏はチーム「なんだいや(仮)」発足について、2005年度に個人参加した先輩社員が、翌年から会社の援助を受けて企業参加したと説明した。ETロボコンには教育目的として十分な魅力があり、企業PR面では、雑誌「組込プレスVol.9」の表紙を飾るメリットがあったと述べた。

 次に松尾氏は、UMLで毎年上位の成績をとっている大倉氏に、「関西では敵がいませんか?」と笑いながら尋ねた。

 それに対して、「そういうわけではないが、1位を取ったことで追われる側になったというか、もっといいものを作りたいという大きな目標ができてモチベーションになっている」と大倉氏は述べた。上位を取ると、審査する側の視点も厳しくなるので、次の年は別野視点からモデルを構築するなど、新しいチャレンジのきっかけになっているそうだ。個人的には、UMLを書けるようになったことと、全国のエンジニアの方々と相対評価できる場で、自分たちの力を比較し自信を得たことが大きな成果だという。また、社内でも普段一緒に仕事してないメンバーと、ノウハウや知識を交流吸収できるようになったそうだ。

 松尾氏は、「審査に対するアピールも頑張っているということですね」と言い、会場にいる去年の関西地区審査委員長である岩橋正実氏(三菱電機メカトロニクスソフトウエア株式会社)になんだいや(仮)のUMLについての感想を求めた。

 岩橋氏は、「むちゃふりされました」と苦笑しつつ、「多数のモデルを見ているため、具体的になんだいやさんのどこがよかったまでは覚えていない」と前置きした上で、「毎年、全体のレベルが上がっているのは事実」と述べた。カテゴリーで整理するなど、工程毎にグルーピングがうまくなっていて、見せ方を工夫していると全体的な傾向を述べた。

岩橋正実氏(三菱電機メカトロニクスソフトウエア株式会社)

 続いて松尾氏は、送り手側から見て、ETロボコンで参加者の成長を感じる部分はあるか? と、西川氏と江口氏に質問した。

 西川氏は、チーム「ムンムン」がUMLのモデリングスキルをどのように向上したのか説明した。当初は、UMLもモデリングも知らなかったが、大会で他チームのUMLを見たりワークショックに参加したりして、分かりやすい書き方を学んだそうだ。競技部門では優勝したので、2年目は速く走れる理由をUMLで表現することを目標とし、その結果、モデルの方も最終10チームに入った。次の年には、オブジェクト指向の概念を勉強したり、上位のUMLを研究したり工夫を重ね、3年目に見事エクセレントモデルを受賞した。

 若年層の育成については、開発工程の上流から下流まで経験できる利点をあげた。会社の実務において若手はテスト工程を担当することが多く、設計や分析を担当する機会がない。例えば、去年初参加した若手エンジニアは、モデル作成よりも実際にロボットを動かす方に夢中になってしまったそうだ。その結果、成績は振るわなかったという。彼はこの失敗で、上流で設計しないとダメだという経験を得ることができた。ETロボコンで失敗したことを実務への教訓として活かしてくれれば、教育的効果が高いと思う、と西川氏は述べた。

 学生を引率する立場の江口氏は、社会では資格だけでなく実践的なスキルをもった人材が求められていると言い、ETロボコンは現役エンジニアと同じ土俵で、技術を競うことができる点がよかったと初参加の感想を述べた。

 昨年度は、学生の主体性を重視した運営を目標としていたというが、実際は、江口氏自身、知識・技術・経験がなかったため、学生達は分からないことは自分で調べて解決するしかなかったというのが本音だ、と笑った。

 江口氏の役割は、学生のモチベーションの維持・向上のサポートだったそうだ。具体的には、ブログを更新したり、本番コースを作ったり、消耗品の調達や練習時間の確保をしたり、他チームとの交流機会を設けたりと忙しかったようだ。学生達に納得いくまで練習させたところ、電池は約800本使用、モーターも10個以上壊し、土日祝日、夏休みも返上で取り組み、当然、江口氏も練習に同席したという。

 モデルは、チーム「なんだいや」のUMLを徹底分析し、ブレインストーミングでアイデアを出し合い、特性要因図を書き上げたり、開発がうまくいかなかった理由を検証し解決方法を考えるなどPDCAサイクルを活用して開発をした。中には、授業そっちのけで熱心にモデル作成に取り組んだ学生もいたそうだ。関西地区大会のモデルと2カ月後のチャンピオンシップ大会のモデルを並べると、内容が格段に充実していることが分かる。

 実装力に関しても、走行タイムや難所攻略の結果を関西大会とチャンピオンシップ大会直前で比較すると、大きく進化している。残念ながら、大会当日には思い通りの結果を出せずさまざまな面で経験不足を実感したという。完走タイムは、ひよっこえんじにあーずがアウトコースの点線走行を成功させて48秒、電子くんはインコースでツインループを成功して57秒だった。優勝チーム「ADoniS」のアウトコース42秒、インコース55秒と比べても遜色ないタイムを出したと、選手達の頑張りを評価した。

 江口氏から見て、「ETロボコンは学生にとって、楽しくやって、実際の力にもつながっている」と実感したという。

ETロボコンは実践的な教材として魅力がある本番コースを作成し開発環境をサポート合同練習やローカル大会で他チームと交流
ブレーンストーミングを繰りかえしUMLとプログラムを練りこむ2008年度関西地区大会に提出したモデル地区大会から2カ月間でバージョンアップしたモデル

 次に松尾氏は、年々モデルをよくするために、社内における技術伝承の仕組みについて大倉氏に質問した。

 大倉氏は「ロボコンにかける工数は限られているため、成果物が実際の提出物とコードだけになりがち」だという。それ以外の情報を残す努力はしているが、やはり難しいらしい。今年から参加するチームに関しては、改善策を考えたいと思っていると述べた。

 業務との兼ね合いはどのチームも抱えている問題のようだ。川上氏が「熱意のある参加者が自分で工夫して、時間を捻出して活動している」といい、西川氏も「業務優先でやっているので、余裕のある業務のメンバーは参加しやすいが、出荷間近な人は参加が厳しい」と現状を語った。

 それに対し大倉氏は、個人的な意見として、会社が教育という面で参加しているのであれば、2~3年目の若手には時間を捻出できるように改善があれば嬉しいと述べた。また、江口氏からは教育する立場として「地区での技術教育の充実をお願いしたい」という要望が出た。

 本部技術委員長の西川氏から、年々、技術教育の内容を改善していると説明があった。具体的には、今年はUMLの書き方は書籍を参照して各自勉強してもらう前提とし、モデルの大切さとどのようにモデリングを行なうのかにフォーカスした教育内容になっているという。また、関西や南関東では、昨年の優秀モデルを受賞した人がモデル説明会を今年の参加者に対して行なっておりこれは非常に参考になると思う、と述べた。

 最後に、各パネラーからETロボコンに今後期待したい点についてコメントがあった。

 大倉氏は「年々、参加者のレベルがアップしているので、初心者が参加しにくい状況になってしまうのではないかと懸念している」という。そして、例えば初参加者だけの競技があってもいいと思うと述べた。また、UMLも1つのコースに複数の難所があって、攻略するためのモデルが複雑にならざるをえない。コースを分けるなど参加しやすい環境があったらいいのでは、と改善案を出した。

 川上氏は「自主性を育てることとUMLの記述については効果があると思う」と参加3年目の感想を述べた。その半面、続けて参加するためにはモチベーションの維持が難しいという。今年は走行体が新しくなったので、かなりモチベーションアップにつながっている、毎年、参加者に刺激を与えるようなコース設定を期待したいと締めくくった。

 江口氏の「走行体の値段が高いので、安くして欲しい」という発言に会場から同意を込めた笑いが上がった。今は、1チーム5~6名に1台のRCXを用意してあるが、学生は自分が作ったプログラムを動かしたくてハードの取り合いになるそうだ。

 「運営側もやっているのでコメントしにくい」と前置きしながら、西川氏が意見を述べた。初参加への敷居を下げるのは、運営側でも毎年話題になっているが難しいという。新人賞を設けるというアイデアもでているそうだ。モチベーション維持のためには、少しずつ難所を増やしてコースを変えている。また、今年は走行体も増えた。RCXはH8マイコンで複雑なことができなかったが、NXTなら32ビットマイコンで実務の組込ソフトに近いことができるようになったので、参加者には楽しんでもらえるだろうと述べた。

 ETロボコンの教育効果としては、社外にネットワークが広がる点を強調した。組込ソフト技術者は社外に出ない傾向があるが、ETロボコンをきっかけに社外に出たら、楽しくてとても勉強になったと、自分自身の経験を振り返った。もっと多くの方が参加して、社外・学外にネットワークを作ると、組込業界がさらに発展していくと思うと述べた。

 総括して松尾氏が「参加者と運営側と両面から、年々、ETロボコンを経験して若手技術者が成長していくというコメントが大勢を占めていた」と述べた。このパネルのテーマ「ETロボコンは組込エンジニア育成の特効薬となれるのか?」に対し、「何年かやれば効果がある。ジワジワと効いてくるという……。実は、特効薬ではなく“漢方薬”だった」と答えを出し、会場の笑いを誘った。

 これからETロボコンに参加する方には、効果が現れるまで、2~3年計画の長い目で見て欲しい。

ETロボコン2009の見どころ紹介

 展示会場内に設けられたコミュニティパビリオンで、関西地区運営委員から今年のETロボコンの見どころの紹介があった。

 今年の大会は、去年と大きく違う点が2つある。まず1つめは、従来の走行体LEGO Mindstorms RCXに加え、新しくLEGO Mindstorms NXTが採用されたことだ。NXTは二輪倒立振子の形状で、センサーにジャイロセンサー、タッチセンサー、光センサー、超音波センサーを搭載する。CPUが従来の8ビットから32ビットになるため、メモリ容量が増え複雑なプログラムも可能となるという。

 RCXとNXTのスピードを比較した場合、RCXの方が速いことは間違いない。しかし競技の規定周回数は、NXT走行体は1周、RCX走行体は2周と定められている。しかも、難所通過やゲート通過で与えられるボーナスタイムは、NXTの方が多い。つまり、RCXは、NXTの2倍以上のスピードが要求されているのだ。

2009年からLEGO Mindstorms NXTの二輪倒立振子走行体が採用される新規追加された走行体。二輪倒立振子のLEGO Mindstorms NXT従来の走行体。車輪型のLEGO Mindstorms RCX

 2つめはアウトコースに新しい難所「トレジャーハント」が追加されたことだ。コース図を見ると、最後のS字カーブの部分をショートカットする直線のラインが途中まで描かれている。素直に考えれば、ラインが途切れても真っ直ぐ進み、本線に戻ったらトレースを再開するというアイデアが出てくる。過去の大会でも、スタート直後にコースを無視してショートカットする“ドルフィンジャンプ”と呼ばれるテクニックで、タイムを短縮したチームが存在する。新難所もドルフィンジャンプの流用でクリアできるだろう。

 しかし、ETロボコンのフィールド上にはさまざまなオブジェが飾られるのが慣例となっている。トレジャーハントのラインが途切れた場所に障害物が設置された場合、難易度はアップする。対策として、障害物を検知し避けて本線を目指すか、ラインを戻って本線へ復帰するなどの対策が必要になる。

 ちなみに、各難所をクリアするとボーナスタイムが与えられる。トレジャーハントのボーナスは、点線ショートカット走破やツインループのゲート通過と比較すると配点が高い。「ということは、難易度が高いことが予測されるため障害物の設置は想定しておいた方がよい」と予測される。

 新走行体のNXTにチャレンジするチームがどのくらいあるのか、そして難所の攻略方法に新しいアイデアが登場するのかといった点が今年の見どころとなるだろう。

2009年度のコース。昨年度のコースに新難所「トレジャーハント」が追加された2009年度は、走行体によりボーナスタイムが異なる。トレジャーハントの難易度は高く設定されそうだ

 もちろん、上位入賞を目指すためにはモデル審査も重要なポイントとなる。モデル審査では、正確性、理解性、設計品質、性能についてチェックされる。UMLの正確さはもちろん、図が適切に使用されているか、見やすく書けているか、図に繋がりがあるかなどがポイントとなる。また、性能については、ユニークなオリジナリティや戦略の記載、調査結果に基づく具体的なデータで信憑性をアピールすることが重要だという。

 モデル手法は毎年新しいチャレンジをするチームが現れるという。今年は、新走行体NXTの登場で、倒立振子制御の修正要素など新しい要素が追加される。参加者がどのような取り組みで課題をクリアするのか楽しみだ。

2008年度シルバー・モデル「なんだいや 」(リコーソフトウエア(株)プロダクト事業部 鳥取開発センター)モデル作成のポイントモデル作成に期待されること

ETロボコン WEST杯に8体出走。NXT走行体が完走

 会場ではETロボコンのブースに2008年度のコースが設営され、「ETロボコン WEST杯」が実施された。コースを多くの来場者が取り囲み観戦した。競技ルールは、2008年度の規約に準じているが、新走行体のNXTも出場できる。NXTは今年のルールに従って1周のタイムを計測し、ボーナスタイムも2009年度ルールを適応した。

 平日の開催ということもありエントリー台数は8台と少なかったが、展示会開催期間中、コースを自由に走行できるとあって、熱心に調整している選手が多かった。NXTを使用したのは5チームで、新走行体に対する意気込みを感じた。

 ETロボコンブースのすぐ向かいにある日本XPユーザーグループ関西(以下XPJUG関西)ブースでは、NXTを用いて競技用プログラム作成の実習を行なっていた。

 XPJU関西は、ソフトウェア開発手法のひとつであるXP(=eXtreme Programming)の普及活動をしている。XPをテーマとした研究会やワークショップを定期的に開催し、参加者同士の交流促進をはかっている。XPは、アジャイル開発手法(agile:俊敏な・すばやい)の1種で、開発現場が抱える問題点を解決する方法論として注目されているという。ET WEST 2009の会場では、多くのブースがアジャイル開発手法を紹介していた。

 講習を受けた3名は、ETロボコンもLEGO Mindstorms NXTを見るのも初めてだったという。事前募集に申込み会期中の2日間で、ETロボコン用プログラムを作成し競技に参加した。インコース、アウトコースを80秒台のタイムで完走し3位に入賞した。「難所を攻めたかったのだが、プログラムが間に合わずにチャレンジできなかったのが残念。来年はETロボコンに出場したい」と感想を述べた。

XPJUG関西ブースでは、ETロボコンを題材にしてプログラムの実習を行ない競技会に出場した展示会場で2日間の実習を受けて、コースを完走した
【動画】うしろむき9.8%は、スタート直後にドルフィンジャンプを決めて、ツインループも成功した

 優勝記録を出したのは、RCXのうしろむき9.8%だった。アウトコース走行でゴール後停止、インコース走行ではツインループをクリアしてボーナスタイムを稼いだ。インコースでは2周連続ドルフィンジャンプを決めてかなりの好タイムを期待されたのだが、残念ながら最終コーナー手前でコースアウトしてリタイアしていた。今大会は、難所にチャレンジしたチームが少なかったために、リタイアにも関わらずボーナスタイムによって好記録となった。うしろむき9.8%の製作者は、完走できなかったことを理由に優勝を辞退した。

 繰り上げで優勝となったのは、ETロボコン初参加のNEON BLUE 2(フルタニ産業株式会社)だった。NXTで出場したNEON BLUE 2は第1走者だったため、実戦競技第1号としても注目を浴びた。前日の調整では、ゴール前の坂道でグレーゾーンに入るとコースアウトしてしまうなど苦労しているようすだった。競技会に向けて徹夜でプログラムの修正をした結果、2周とも無事完走した。

 製作者の伊丹氏に話を伺うと、2008年に関西地区大会を上司と一緒に観戦したことが、初参加のきっかけになったそうだ。単なるロボコンではなくモデルを重視している点が、要求分析の技術向上に役立つと期待しているという。今年は、若手社員10名が2チームに別れて、関西地区大会出場に挑む。

 NXT走行体で最高タイムを出したのは、「猪名寺駅前徒歩1分」のインコース走行で63.4秒だった。今大会は、初めて倒立振子NXTが出場する競技会にも関わらず、完走率は80%と高かった。ちなみにRCXは6走中わずか1走しか完走できなかった。これは、NXTは完走を目標として無難なスピードで走り難所にチャレンジしていないのに比べ、RCXは高速走行かつ難所へのチャレンジと優勝を目指したプログラムになっているためもある。

【動画】若手技術者のスキルアップを目指して、初出場のNEON BLUE 2(フルタニ産業株式会社)【動画】NXTの最速は、「猪名寺徒歩1分」が63.4秒を出した

 委員会としては、RCXの2周とNXTの1周が同タイムくらいを想定しているそうだ。昨年優勝ロボットのタイム42秒と比較すると、現時点では20秒程度の差があるといえる。地区大会では走行体毎に順位をつけるため、RCXより上を目指す必要は必ずしもないが、委員会側は「プログラムを練り込めば50秒台は狙える筈」と、各チームのチャレンジに期待を寄せている。8月30日から北海道・東北地区を皮切りにスタートする地区予選大会でどのような走りが見られるか楽しみだ。



(三月兎)

2009/7/1 14:40