「第5回KHRアニバーサリー」レポート
初日の会場を上から撮影。メインステージの八角形リングがバトル、左隅で見切れているのが自律ビーチフラッグのサブコート(この写真の時間は休憩) |
2009年6月13日(土)~14日(日)、東京・浅草のROX3スーパーマルチコートにて、「第5回KHRアニバーサリー」が開催された。主催はKHRシリーズの発売元である近藤科学株式会社。同社製品のユーザーを対象としたイベントとして、毎年恒例となっている。
●KHRシリーズ限定の格闘競技「KHRバトル」
初日のメインステージで行なわれていたのが、参加できる機体を「KHRシリーズをベースとした機体のみ」と限定した「KHRバトル」。トルクが高かったり、スピードが速いサーボモーターに換装できるのは「全身のうち4個のみ」となっているので、“全身ハイパワーサーボ”というようなロボットが闊歩するROBO-ONEに比べると、ハードルが低くなっているのが特徴だ。また、指定されたオプション部品を使って改造することは認められているが、自作のフレームを使用することはできないので、ロボットの大きさで差が出にくいことも、初心者にとってはありがたい部分のはずだ。ただ、フレーム以外の外装やカバーに関しては自由なため、各参加者がどんなドレスアップをしてくるかも見所といえる。
参加機体は32機。学生さんからROBO-ONE優勝経験者まで幅広いビルダーの名前が並んでいるが、その全員がKHRベースのロボットという、他のイベントではなかなか見られない構成になっていた。そんな中、ベスト4に残ったのは「シーラカンス」(ホリパパ)、「セイガ」(イガア)、「KHR-5th スーパーディガー」(ひろのっち)、「コガルー」(くまま)といったメンバー。
サッカーでは「ミステイクス」のチームメイト同士の対決となった「シーラカンス」対「セイガ」戦は、「シーラカンス」が2分過ぎまでに2-0とリード。そのまま決まってしまう勢いだったが、「シーラカンス」が操作ミスでリングアウトしてから情勢が一変。そこから一気に「セイガ」が3ダウンを連取し、逆転勝ちで決勝に進んだ。
もう一方の対決は、ROBO-ONE決勝トーナメントと比べても引けを取らない、ひろのっち氏の「KHR-5th スーパーディガー」と、くまま氏の「コガルー」の顔合わせ。「KHR-5th スーパーディガー」が開始から30秒程度でトントンと2ダウンを奪うと、間を置かずに3ダウン目も連取。3-0のストレートで勝利した。
【動画】決勝戦「セイガ」対「KHR-5th スーパーディガー」 |
どちらも一気に勝負を決める力がある2機の対決となった決勝は、開始直後に「KHR-5th スーパーディガー」が間合いを計る「セイガ」に突きを2発連続でヒットさせ、2ダウンを連取。その後も「KHR-5th スーパーディガー」の攻勢が続き、「セイガ」は間合いを外すために逃げ回っているような状況に見える。だが、「セイガ」が狙っていたのはお得意の“投げ”で、試合開始2分のところでついに「KHR-5th スーパーディガー」の左腕を捕まえると、そのまま巻き込むようにして引き倒し、1本返す。ここから攻勢に出た「セイガ」は、さらに「KHR-5th スーパーディガー」を背面から捕まえて投げようとするが、逆にパンチを食らってしまい、そこまで。優勝は「KHR-5th スーパーディガー」となった。
優勝したひろのっち氏は、ROBO-ONE本大会でも決勝トーナメントに進出するなど、自作ロボットが参加できるオープンな大会でも好成績を収めているロボットビルダーだ。だが、そんなひろのっち氏にとってKHRアニバーサリーのタイトルは格別の思い入れがあるという。というのも、ひろのっち氏の二足歩行ロボットにおけるキャリアは、KHR-1からスタートしているからだ。
「KHR-5th スーパーディガー」は大幅に改造されているものの、その部品の多くは初代のKHR-1のもの。初代の「スーパーディガー」となった、まさにそのフレームだ。そこにHVコンバージョンキットやピボットターンユニット、オフセットアームなどを組み合わせて作られている。前回のアニバーサリーで相手を押せずに負けた経験から、今回は肩と肘にKRS-4013HVを組み込んで、攻撃力を上げたという。「KHRユーザーにとっては特別なタイトルだと思います。本当に嬉しいです」と、ひろのっち氏は本当に嬉しそうな笑顔で話してくれた。
●自律バトル
機体の規格は「KHRバトル」と同じながら、機体に触れていいのはスタートの時の1回だけで、無線操縦することもできないというのが、この「自律バトル」だ。
決勝は昨年のKHRアニバーサリーのほか、さまざまな自律ロボットの競技会で好成績を収めている磯子工業高校の「磯工ウォーカーT」(尾花健司)と、第1回KHRアニバーサリーでプレゼントされたフレームを利用した、「ANV-1」(SLAN)。
幅の広い手に測距センサーを付けた「磯工ウォーカー」に対し、センサーは1個ながら腕をひねることで索敵する「ANV-1」。相手の姿勢を感知するようなセンサーは搭載されていないので、相手より先に“見つけて攻撃”する戦いだ。最初に見つけたのは「ANV-1」。だが遠すぎるために空振り。そこからだんだんと近づいていき、互いに相手を感知できる距離に。お互いに攻撃を放つのだが、運良く真後ろに滑り込んだ「ANV-1」が完璧な一打を「磯工ウォーカー」にたたき込み、1ダウンを奪う。その後またお互いに索敵し合う状態がしばらく続き、やっと攻撃し合う間合いになったのが残り30秒を切ってから。勝負が決まってしまうかと思われた残り10秒、突きを繰り出した「ANV-1」の不安定な姿勢に「磯工ウォーカー」のパンチが当たり、土壇場で1-1の引き分けとなる。決着をつけるために行なわれた、サドンデスの延長戦では、開始直後からお互いを見つけた状態でスタート。撃ち合いの中で「磯工ウォーカー」がうまく引っかけ、決勝のダウンを奪って優勝を決めた。
自律バトルの解説パネル。ほぼすべての競技について、ルール解説などのパネルがあったのは親切だ | 【動画】自律バトル決勝「磯工ウォーカーT」対「ANV-1」 | 【動画】自律バトル決勝「磯工ウォーカーT」対「ANV-1」延長戦。一瞬で決着が付いた |
●自律ビーチフラッグ&自律ビーチフラッグJr
自律ビーチフラッグは、フラッグ(超音波の発信器)に背中を向けて寝転んだ姿勢から、立ち上がって180度ターンし、どちらが先にフラッグを倒すか、という競技である。バトルに比べて派手さはないが、運の要素が強いバトルよりも、ベストを尽くせば結果が付いてくるため、いわゆるヒューマノイドロボット以外のロボット競技会に参加している人からも注目されているという。学生部門では指定されている自律のためのボード(KCB-1/KCB-2)でC言語によるプログラムが必要になるため、勉強の要素も含まれることになるといえるだろう。
学生部門には「ねぎくん」(TDUヒュー研)、「おらくるsun」(中込昭太)、「E.D.I.」(中山悟)、「海人」(野田久寛)、「Tsuyoshi」(横浜システム工学院専門学校)の5機が参加。
昨年の優勝者である「海人」は、今回緒戦で「E.D.I.」と対戦。この「E.D.I.」が非常に堅実に動作し、1本目から28秒の好成績。続く2本目でも31秒でフラッグを倒し、決勝に進出。「海人」のほうは直後にフラッグを倒せるレベルで動いていたし、後ほど行なわれた敗者同士の3者同時ビーチフラッグで圧勝していただけに、まさに“相手が悪かった”対戦となった。
「E.D.I.」対「Tsuyoshi」となった決勝は、「E.D.I.」が立ち上がりからリード。「Tsuyoshi」も近づくものの、2本とも「E.D.I.」がフラッグを先に倒し、優勝。決勝では「タイムを縮めるために(フラッグを見つけるための)首振りを行なう条件を緩く設定した」ということもあってかあらぬ方向に歩いてしまうこともあったが、結局最後も勝利した。
【動画】敗者同士が戦う、3機同時スタートのビーチフラッグ。右下からスタートした「海人」はあっという間にフラッグを倒した | 【動画】「E.D.I.」対「Tsuyoshi」の決勝戦 |
使用ボードの制限がないエキスパート部門には、「磯工ウォーカーT」(尾花健司)、「カラエン」(エンディー)、「BLACK TIGER」(IKETOMU)、「キャプテンSEVAWT」(東海大学)、「THKR-2」(伊藤小澤)、「玉2」(玉造工業B)の6機が参戦した。自律部門の先駆者といえる「磯工ウォーカーT」が実力を発揮し、「優勝とベストタイム、両方を取るつもりで来ました」(尾花健司氏)というコメント通りに勝ち進む。エキスパート部門の決勝であるにもかかわらず、工業高校同士の対戦となった「玉2」との決勝も圧勝し、「THKR-2」戦で出した全体のベストタイム22秒65とともに、昨年2位に終わった悔しさを晴らした。
【動画】「磯工ウォーカーT」対「カラエン」。「磯工ウォーカーT」が途中からぐるぐる回るようになってしまったのは、センサーが近接用に切り替えられてしまったためらしい | 【動画】「磯工ウォーカー」のベストタイム22秒65のトライアル | 【動画】エキスパートクラス決勝「磯工ウォーカー」対「玉2」1本目 |
エキスパート部門ならではという機体で挑戦したのは「カラエン」。搭載している頭脳部分はPicoボードで、Windows XPで動作しているという。フラッグの発見も色認識で行なっていて、レベルの高い処理を行なっていた。また、今回は「キャプテンSEVAWT」も画像認識に挑戦しており、よりロボットとして高度な制御にチャレンジしていたようだ。KHRではペイロードが小さいこともあって、ボードなどの重さに耐えきれずに動作が不安定になってしまっていたが、負担がかかる足首などのポイントをハイトルクサーボで強化すれば、さらにいい成績が望めるのではないだろうか。
自律ビーチフラッグJrは、KCB-2を利用した移動できるロボットで行なうビーチフラッグ競技。130モーター(いわゆるミニ四駆のモーターサイズ)を4つまでコントロールできるボードなので、タミヤの工作基本セットを含めた、タイヤ/キャタピラなどで移動するキットをベースにしてロボットを作ることができる。(逆に言うと、KHRアニバーサリーなのに、唯一KHRシリーズが参加できない競技となっている)。
参加したのが2機しかおらず、しかも1機は筆者の「フォークおじさん」だったので、もう1機の「メカコーギー」(AIR)とガチンコのサシ対決である。
最初の対決1本目で16秒86と勝利したものの、その後は一度も勝利することができず、フラッグの本数でもベストタイムでも完敗。2位で表彰されたが、本当は2機しか参加していなかったんです。「すごいですね」と声をかけてくれた他の参加者の方、ごめんなさい。
【動画】手前が「フォークおじさん」、奥が「メカコーギー」。スピードが全く違いました | 優勝した「メカコーギー」。ネズミの耳がデザインだけではなく、しっかり超音波を捕らえる傘になっていた |
●第16回KONDO CUP
2日目の14日には、二足歩行ロボットによるサッカー競技大会、第16回KONDO CUPが開催された。メインフィールドではこのイベントの主役、KHRシリーズとその改造機によって争われる「KHRクラス」、サブフィールドではKONDO製サーボモーターのみを使用している二足歩行ロボットの「オープンクラス」が行なわれた。
KHRクラスに参加したのは7チーム。2リーグに分かれ、前後半合計10分のリーグ戦を行なって、各リーグの1位チーム同士が決勝戦に進むというシステムで行なわれた。
Aリーグは、「J-SKY」「日本工学院八王子専門学校」「電気通信大学ロボメカ工房」「GENEX(個人参加チーム)」の4チーム。
優勝候補に挙げられていた「日本工学院八王子専門学校」は、オープニングゲームの「J-SKY」戦を4-0で快勝すると、2戦目「GENEX」戦も1-0で勝ち、この時点で単独トップとなる。「GENEX」はその後「J-SKY」戦で2-0と勝利して、2勝1敗・得失点差+2で決勝争いにギリギリ踏みとどまったが、続くリーグ最終戦で「日本工学院八王子専門学校」が「電気通信大学ロボメカ工房」戦を1-1の引き分けとしたことで、2勝1分と勝ち点で上回り、決勝に進んだ。
Bリーグは「関東支部」「ミステイクス」「RFCオータムリーフ」の3チーム。優勝経験のある「ミステイクス」中心に展開すると思われたこのリーグだったが、なんと緒戦の「関東支部」戦で0-2と完敗。「RFCオータムリーフ」戦も0-1で負けたため、リーグ最下位でこの大会を終えるという波乱となった。
【動画】Aリーグ予選「日本工学院八王子専門学校」対「電気通信大学ロボメカ工房」 | 【動画】Bリーグ予選「関東支部」対「ミステイクス」 | 【動画】惜しくも0-1と敗退したが、揃いのピンクユニフォームが目立っていた「RFCオータムリーフ」 |
「日本工学院八王子専門学校」対「関東支部」となった決勝は、前半から「日本工学院八王子専門学校」が積極的に攻める。押し込む展開の中でゴールキーパーのクリアミスを落ち着いてシュートした「日本工学院八王子専門学校」が先制点を決める。追加点を取りに「日本工学院八王子専門学校」がさらに攻め上がるが、「関東支部」の守備も堅く、前半は1-0で終了する。
後半「関東支部」も惜しいシュートを放つなどだいぶ「日本工学院八王子専門学校」側のコートで試合を進めるのだが、確実なキャッチを見せるキーパーを破ることができず、1-0のまま試合終了。「日本工学院八王子専門学校」が優勝した。先輩がチームを卒業してもレベルを落とさずに世代交代を成功させた「日本工学院八王子専門学校」には脱帽である。今回は予選敗退となってしまった、同クラスのライバルチームである「ミステイクス」の復活が待たれるところだ。
【動画】決勝戦「日本工学院八王子専門学校」対「関東支部」前半 | 【動画】決勝戦「日本工学院八王子専門学校」対「関東支部」後半 |
オープンクラスは6チームが参加。3チームずつに分かれたリーグ戦で予選順位を決定したうえ、決勝トーナメントで優勝を争うシステムで行なわれた。
Aリーグには「スピード☆スターズ」「RFCバンブーブリッジ」「SKY」が入った。「スピード☆スターズ」は緒戦、まだエンジンがかかっていなかったこともあってか「RFCバンブーブリッジ」と0-0で引き分けるが、続く2戦目「SKY」戦で3-0と快勝。同じく「SKY」戦を1-0と勝利した「RFCバンブーブリッジ」と勝ち点は同じながら、得失点差で1位通過。準決勝へのシード権を得る。
Bリーグは「関東学生連合」「トリニティ」「四川会」が入り、「トリニティ」と「四川会」が互いに譲らずハイレベルな戦いでの引き分けとなる。順位は対「関東学生連合」戦で「トリニティ」が2-0、「四川会」が1-0で勝ったため、得失点差で「トリニティ」が準決勝へのシード権を得た。
決勝トーナメント緒戦を勝ち上がった「RFCバンブーブリッジ」は「トリニティ」と対戦して前半途中までは踏ん張るものの、一度も勝ったことがない相性の悪い相手ということもあったか、ロングシュートを決められてリードを許すと、そのままストレートで敗退。一方、「四川会」は決勝トーナメントの1回戦「SKY」戦を0-0の引き分けながらじゃんけん勝負で勝ち上がり、再度「トリニティ」に対戦する権利をかけてAリーグ1位「スピード☆スターズ」と戦うことに。だが、前半に「スピード☆スターズ」のお得意・スローインからのゴールで負った2点のビハインドを跳ね返すことができず、ここで敗退となった。
【動画】予選Bリーグ「トリニティ」対「四川会」戦。お互いにゴールを脅かす、レベルの高い戦いだ | 【動画】準決勝「RFCバンブーブリッジ」対「トリニティ」前半 | 【動画】準決勝「四川会」対「スピード☆スターズ」前半 |
決勝は「スピード☆スターズ」対「トリニティ」。巨大なキーパーと、スピードに優れたフォワードを擁する、同タイプの2チームがぶつかることになった。
試合開始から両チームが積極的に攻め合う展開となるが、どちらかというと「スピード☆スターズ」が攻め気味の展開に。前半の最後に「サアガ」が「ガーゴイル」にボールごと“キャッチ”されるという名場面もありつつ(地引き網キャッチ、なんて表現で実況にコメントされていた)、0-0で終わる。
後半開始直後、ハーフウェーラインあたりから「ガルー」が放り込んだスローインを「スピード☆スターズ」のキーパー、「GAT」が止められず、痛恨のワンタッチゴール。そのまま前半のような一進一退の攻防が続き、残り40秒となったところで、今度は「スピード☆スターズ」の「ATACO the STRIKER」が、巨大なゴールキーパー「ガーゴイル」の頭上にあったわずかな隙間に通すスローインゴールを決め、土壇場で1-1の同点とする。
延長に持ち込まれた決勝戦は、「トリニティ」の「キャバリアー」が故障し、同じように故障で下がっていた「クロムキッド」が足首から嫌な音をさせながらフィールドに戻る。機動力も落ち、このまま「スピード☆スターズ」が押し切るかと思われたが、「クロムキッド」が苦しい中で放り込んだスローインがこぼれたところを「ガルー」が押し込み、決勝点となった。
試合後「同タイプだったのでやりにくかった」というコメントがトリニティ側から出ていたが、確かに両チームともにスローインの飛距離があるため、コートのほぼ全域から相手ゴールを狙うことができる。なんだかサッカーとは別の競技みたいだ、というコメントもあったが、最後は見事なチームプレーだった。
【動画】「スピード☆スターズ」対「トリニティ」前半 | 【動画】「スピード☆スターズ」対「トリニティ」後半 | 【動画】「スピード☆スターズ」対「トリニティ」延長戦前半 |
今回のイベント終了後、主催した近藤科学株式会社の代表取締役社長、近藤博俊氏は、初日に発表した新型機「KHR-3HV」のことも挙げながら「今後もいろいろいいものを作っていくので、是非使っていただいて、いいロボットを作ってください」と集まったユーザーに挨拶。大きな拍手を受けていた。来年のアニバーサリーはKHR-3HVを購入したユーザーが加わって、さらに賑やかなものになるのだろうか。今から楽しみである。
2009/6/30 00:00