西日本唯一の組込み専門技術展「Embedded Technology West 2009」レポート

~組込みシステム技術に関するサマースクール受講生募集中


 2009年6月4日(木)~5日(金)の2日間、インテックス大阪において「Embedded Technology West 2009」が開催された。本イベントは2006年より開催され、今年で4回目を迎える西日本で唯一の組込み技術の総合展示会だ。本年は107社・団体が出展し、2日間で4,500人を超える来場者があった。主催は、社団法人 組込みシステム技術協会(JASA)。

 会場で紹介された技術は、ハードウェア、ソフトウェア、開発環境・ツール、ネットワーク、センサー等、ロボットを構成する要素技術として不可欠なものだ。展示以外にも、組込業界を代表するキーパーソンを招いた講演会や、パネルディスカッション、セミナーが開催された。基調講演の「一輪車型ロボット“ムラタセイコちゃん”の開発秘話と活用事例」(講師:村田製作所 吉川浩一氏)では、若手社員のモチベーションを高めプロジェクトにチャレンジする話を多くの参加者が聴講した。

インテックス大阪「ムラタセイコちゃん」と「ムラタセイサクくん」講演後、セミナー参加者が熱心に写真を撮っていた

ロボット・テクノロジーが身近なところで稼動

 本展示会では、目に見える“ロボット”のカタチをしたものは少なく、教材用ロボットが静展示されている程度だった。そうした中で一般的にはロボットと認識されていないが、筆者が「ロボットだなぁ」と感じたのが、NTTドコモブースで紹介していた各社が提供するソリューションで、FOMAパケット通信を利用して実現するマンマシンコミュニケーションの事例だ。

 プレゼンテーションでは、飲料メーカーが自販機設置について抱える“非効率な在庫確認”“設置場所の新規開拓”“代金の盗難”といった問題を、サンデン株式会社の双方向性/相互運用性モデム「moderno(モデルノ)」を搭載して解決した事例を詳しく紹介した。

 「moderno」を自販機に搭載すると、自販機内の在庫情報をハンディターミナルを使ってリアルタイムに確認できるため、輸送トラックを効率よく稼働させ作業時間の大幅な短縮が実現可能になる。また、在庫状況を時間帯別で管理可能になるので、購買者の嗜好を季節や時間帯別に細かく分析しマーケットリサーチに活用できる。災害時には、センターからの操作で商品を無料で提供することができるという地域貢献をアピールし、設置場所確保にも有利に働いているという。

 従来の携帯無線を利用した遠隔監視システムは、地域などにより最適な通信方式が異なるため、相互運用性や双方向性などに課題があった。「moderno」は、エリアに応じて最適な通信方法が選択可能で、端末機器との通信方法を変えない共通インターフェイスを搭載することで課題を解決し、利便性の向上とコスト削減を可能とした。昨年11月に発売を開始し、既に600台を販売。年内1万台を目標としている。

コカ・コーラの取り組みを例にあげ、自販機メンテナンス業務の効率化を紹介サンデン株式会社の「moderno」×FOMAで、自動販売機メンテナンス業務システム自販機にドコモの電子マネー「iD」決済機能を搭載すれば、セキュリティもアップする
オムロン株式会社のエネルギー遠隔監視システム「EW300F」×FOMAで、倉庫内の湿温度管理システム日本セック株式会社の「OSRDシリーズ」×FOMAで、災害時の情報収集などに対応した表示機制御システムパナソニックシステムソリューションズ社のワイヤレス通信ユニット3×FOMAで、ナビゲーション連携システム

 隣のNECシステムテクノロジー株式会社ブースでは、タッチパネル方式のマルチメディア端末を展示していた。製品は、人感センサー、FeliCaリーダーを搭載したWVGA7インチタッチパネル液晶端末と、無線LANを通じて管理するサーバー、管理者用PCで構成されたシステム。

 例えば、食品売り場で献立の提案としてレシピや作り方の動画を表示、携帯電話をかざすだけでレシピの保存や割引クーポンの発行などの集客に役立つシステムを簡単に実現できる。人感センサーにより、通りかかったユーザーの注意を音声や画像で引いたり、店頭で消費者がパネルに触れたデータを集めて市場調査に活かしたり、販促やマーケティングに活用するツールとなる。今月から発売を開始、リース販売も予定している。

タッチパネル方式のマルチメディア端末の食品売り場での利用例組込みソリューション/開発・設計ソリューション、組込みコンポート群地図データを用いて、組込みナビゲーションプラットフォームに活用した事例

 一般的には、“ロボット”というとアニメで活躍する二足歩行ロボットを最初にイメージする人が多いだろう。しかし、現在、実用化が期待されている次世代ロボット・サービスに期待されるのは、そうした手足が生えたカタチあるロボットだけではなく、広い意味で人間と共生する知的人工物だ。前述のようなセンサーを搭載した機械が自律的に人に声を掛けたり、マーケティングデータを収集するようになれば、それは一種のロボットと言える。我々が“ロボット”と一緒に生活するのは、まだ時間が掛かるだろうが、センサーやネットワークなどの幅広いロボット・テクノロジーが搭載されたマシンは、既に身近なところで活用されている。

 このようにマシンが自律的に人に働きかけたり、情報収集したりするためには、センサーが必要となる。株式会社アサヒ電子研究所のブースでは、画像センサーとして超小型のレンズ付「CMOSカメラモジュール」を紹介していた。低消費電力で高機能・高画質が特長で、携帯電話やドアフォン、監視カメラ等に幅広く組み込まれている。今年5月に発売した「NCM-USB-C」は、USBビデオクラス1.1に対応しており、PCへ接続するだけで撮像可能。複数のカメラ画像を手軽にPC上に表示できる。

 同社が取り扱うNCMシリーズのカメラモジュールを評価できる「NCMシリーズ用評価ボード」は、カメラレジスタの読み込みや保存も可能で、カメラの設定を細部まで行なう場合などに活用できるデバイスだ。

株式会社アサヒ電子研究所の超小型のレンズ付「CMOSカメラモジュール」NCMシリーズのCMOSカメラモジュールを評価できるUSB2.0出力のインターフェイスボード

 ディジインターナショナル株式会社のブースでは、ZigBee/802.15.4、ワイヤレスLAN、イーサネットなどのネットワーク開発がすぐにスタートできるハードウェアとソフトウェアをセットにした開発キットを会場限定1万円で特別提供していた。初日の午前中に完売するキットもあり、人気を集めていた。

ディジインターナショナル株式会社のZigBeeワイヤレスモジュールConnectCore 9M 2443のキットは初日に完売する人気だった

TOPPERSプロジェクト

 組込みシステム技術者と産業の振興を図ることを目的に活動しているNPO法人 TOPPEESプロジェクトのブースでは、TOPPERSを搭載した二足歩行ロボットや車載機器の制御教材「X-by-wire」を紹介していた。

 東海ソフト株式会社は、二足歩行ロボットを使い「機能安全」のアピールするデモを行なっていた。ロボットが片足をあげてバランスを崩しても、機能安全対応していれば倒れないというもの。「機能安全」対応している左のロボットは、片足立ちしてもバランスを保っているが、右のロボットは倒れて手を床についている。

 株式会社ヴィッツの車載機器制御教材「X-by-wire」は、車載システムで広く使われているCAN通信について学習する教材。TOPPERS Platform Boardを用いた演習で、CAN通信の開発方法やCANアナライザを使った通信状態確認方法などを学ぶ。ラジコンとコントローラーで車載システムを模擬したCANの通信制御を体験できるのが特徴。実際にモノを動かすことで、実践レベルの開発スキルを習得するのが目的。

【動画】東海ソフト株式会社の「機能安全」のアピールするデモ株式会社ヴィッツの車載機器制御教材「X-by-wire」

組込みシステム技術に関するサマースクール受講生募集

 組込みシステム技術はロボットだけでなく、あらゆる産業分野の基盤的技術として重要な位置づけにある。近年、組込みシステムの応用分野は拡大し発展している一方で、学生の理科離れや若手技術者の不足で、組込みシステム開発の現場は厳しい状況にあるという。

 こうした状況を打破するために、組込みシステムに関する研究を行なっている大学の研究者・学生、企業の技術者を一堂に集め、組込みシステムに関して徹底的に議論する場として「組込みシステム技術に関するサマーワークショック(SWEST)」を毎年開催している。

 11回目を迎える本年は、8月27日(木)~28日(金)に、石川県の加賀温泉で開催。テーマを「Change! ~100年に1度の先を目指して~」とし、次代を担う若手技術者・研究者が100年に1度の不況を乗り越えた先にある組込みシステム技術の将来像を追求する。参加費(宿泊・食事込)は、一般25,000円 、共催・協賛・後援団体会員23,000円、学生15,000円。参加申込みは公式サイトで受付中。

実習教材「セーフティライントレースカー」

 また組込みシステム開発を学ぶ学生向けに、SWESTと連携して「組込みシステム技術に関するサマースクール (SSEST)」も開催する。実習教材「セーフティライントレースカー(S-LTC:Safety Line Trace Car)」を作成し、組込みシステム開発に必要なハードウェア・ソフトウェアの基礎知識を学び、組込みシステム開発の流れとプロジェクトチームによるシステム開発を体験するもの。参加者は、事前にWebのサポートページを参照してS-LTCを組み立て、組込みシステムの基礎知識・技術を習得する。その後、3日間の合宿でS-LTC改良のグループワークを実習する。最終日には、グループ対抗のライントレース競技会を実施。ほかにも組込みシステム開発に関する講義や、3日間における開発の成果報告会などを行なう。

 事前実習期間は7月中旬から1カ月間、合宿は加賀温泉で8月24日(月)~8月26日(水)。定員は30名程度、参加費用は学生:38,000円、社会人:70,000円。参加申込みは、SSEST5参加申込みで受付中。



(三月兎)

2009/6/22 13:17