特別展「±150年の技術~エコみらいハウスへようこそ~」レポート

~三菱みなとみらい技術館開館15周年×横浜開港150周年記念


三菱みなとみらい技術館は、桜木町駅からパシフィコ横浜へ向かう途中の横浜ランドマークタワー近くに立地する

 横浜みなとみらい地区にある、三菱重工の陸・海・空・宇宙など、さまざまな分野の科学技術を見られるミュージアム「三菱みなとみらい技術館」では、今月2日より特別展「±150年の技術~エコみらいハウスへようこそ~」を行なっている。同館開館15周年と横浜開港150周年を記念した特別展で、9月27日までの予定だ。入場料は大人300円、中・高校生200円、小学生100円。

 150年後(西暦2159年:ドラえもん生誕年(笑)より47年先)の暮らしを予想したエコみらいハウスをイメージした展示スペースの各所に、8つのカテゴリーごとに150年後に実現が予想される技術と、15年後(西暦2024年:平成36年)に実現していると高い確率で推測される技術の両方を紹介・解説しているという内容だ。また、150年前(西暦1859年:安政6年)と15年前(西暦1994年:平成6年)についても、エントランスのパネルで紹介されている。この特別展をレポートすると同時に、Robot Watchが同館を取材するのは初めてなので、合わせて常設展示もご覧に入れよう。

 なお、三菱みなとみらい技術館は今年で開館15年となるわけだが、設立のきっかけは、1994年にみなとみらい21地区に三菱重工が本社技術センターを設置したことだそうだ。それを機会にして、地域に集う人々とコミュニケーションを深め、明日を担う青少年たちが科学技術に触れ、夢をふくらませることのできる場として同年6月にオープンしたというわけである。

三菱みなとみらい技術館友の会会員のアイディアがベースに

 エコみらいハウスは、同館友の会「みらいくらぶ」会員の方々から、「150年後の夢」のアイディアを事前募集し、神奈川県在住の中学1年生の「環境に配慮した都市」と題したアイディアが選ばれ、それをベースに各技術がまとめられた。エコみらいハウスで紹介されている技術は、実現の可能性を実際にエンジニアが検証し、まとめられている。単純に、中学1年生の夢というわけではない。扱っているカテゴリーは、衣服、遊び、食、宇宙、環境・エネルギー、交通、医療、防災の8つ。それらを、イラストやガジェットなどとともに紹介・解説している。また、それらと合わせて、同じカテゴリー内で15年後に実現しているであろうという技術も紹介されているというわけだ。

 150年後に実際にあり得るものとしてエコみらいハウスで採用されている状況は、まず石油・石炭などの化石燃料が底を突いているというもの。それから、飲用に適した水も非常に貴重になっているということだ。ここでは、大多数の読者の方がその時も生活しているであろう15年後に関しては直接同館に足を運んでもらって見てもらうとして、150年後の8カテゴリーの技術を紹介していく。

150年前と15年前の様子をまとめたパネルは、エントランスにあるエントランスには、純国産の三菱重工業製H-IIAロケットの1/10スケールモデルなども展示されている
H-IIAと並ぶエントランスの2大展示物が、風力発電設備。ブレードがグルグルと回っている「±150年の技術~エコみらいハウスへようこそ~」は、2階右手の特別展示コーナーで行なわれている

150年後の衣料って?

 衣服は、まず石油由来のポリエステル系繊維がなくなっていることから、天然繊維に加え、ナノテクノロジーで進化した機能繊維を利用する形になるとする。高齢者用のパワーアシストスーツや、衣服感覚の人工筋肉が作られていることもあり得るだろう。水が貴重なことから、服は光触媒作用で洗濯の必要がまったくなくなっているようだ。そのほか、遊び心のある機能繊維が一般的に普及し、日常的なファッションとして採り入れられていることも予想され、展示物として、温度で色が変わるサーモクロミズム衣料をイメージしたものがかけられていた。

エコハウス内の衣装ダンスをイメージした展示ナノテクノロジーによる機能繊維をイメージした衣服。手を当てて高温になった部分の色が変化

150年後の食って?

 次は、食について。150年後の食に大きな影響を与えるのは、街づくりのコンセプトだ。環境への配慮から、コンパクトで「地産地消」の街づくりが今後進められていくと予想され、その結果、食糧自給率が大幅にアップしているだろうとしている(日本は自給率がかなり低いので、ぜひそうなってほしい)。また、天候のコントロールも可能な域に達しており、農業用に降雨を調節することもこの時代には行なわれているようだ。キッチン周りや食事の場などはIT化が非常に進み、食品のDNAレベルから安全性をチェックするインテリジェント冷蔵庫、メニュー情報を表示するダイニングテーブル、調理や食器などの片付けを行なう壁内蔵型調理器具などが、150年後の白物(?)家電となっている。飲用水が貴重な時代であっても、これらの技術がそれを補完し、今よりも桁違いの便利で快適な暮らしを生み出しているという。また、食とは直接関係ないが、家事支援ロボットが家のすみずみまで掃除をしてくれるようになるだろうとも予想していた。

インテリジェント冷蔵庫。人が近づくと情報が表示される仕組みダイニングテーブル。宇宙旅行のパンフレットも置いてあるダイニングテーブルに表示されるメニュー情報のイメージ。家庭内医療機器と連動している模様

150年後の環境・エネルギーって?

 前述したように、150年後は、石油・石炭などの化石燃料がほぼ使い切られてしまっているため(実際にはもっと早い段階で枯渇すると予想されている)、新しいエネルギー技術が確立されている(というか、確立しないと大変なことになる)。家屋や高層ビルなどには人工光合成システムが備えられ、日常的に現場で発電を行なう仕組みだ。人工光合成とは、水とCO2を原料に、太陽光をエネルギー源にして、有機物を作って酸素を放出する光合成を、原子レベルでコントロールして人工的に行なうシステムのこと。作った有機物から電気エネルギーを生み出して蓄電する仕組みも有するが、最大の特徴は大気中からCO2を減少させる、究極ともいえるエコシステムである点だろう。

 また、エコハウスは地下1階にある家屋という設定(その理由の説明はなかったが、紫外線の問題など地上では暮らしにくいということかも知れない)で、「光ダクト」や集光ファイバーなどを利用して地上から太陽光を採り入れる仕組みだ。光ダクトの内側に人工光合成パネルが張られており、そこで発電するというわけである。逆にCO2不足になりそうだが、現在、CO2の排出量は増える一方なので、人工光合成発電システムは早急に開発してもらいたいところだ(ちなみに光合成は、その仕組みが現在の科学でも100%解明されていない、植物の神秘なのである)。

 さらに、都市部から離れた場所では、地殻を掘って1,500~3,000度といわれるマントルからエネルギーを取り出したり、核融合発電も行なわれたりしている。海上施設でも、カーボンナノファイバーなどの材料技術の発展で軽量・大型化した風車による風力発電、潮流のエネルギーを取り出す潮流発電などにより発電する仕組みだ。宇宙空間で太陽光を集めて地上に送る宇宙太陽光発電も一般的に用いられているとする。地上への伝達には、マイクロ波に変換する方法と、集光してレーザーに変換する方法と2通りが考えられている。これらは、どれも発電時にCO2の排出量が極めて少ない、またはゼロのクリーンシステムというわけだ。

エコハウスの光ダクトをイメージしたもの人工光合成システムから作られた液体燃料をイメージしたもの

150年後の医療って?

150年後の医療は、家庭で人間ドッグ並みの健康診断を行なえる「レンドゲンミラー」が活躍

 150年後は、人工臓器移植手術なども一般的に行なわれるほか、体内を正確にシミュレートすることで体外からの精密な遠隔操作も可能となり、ドラッグデリバリーシステムの精度が飛躍的にアップするという。しかし、そうした医療技術が長寿をもたらす結果、現在の日本が既に抱えている超高齢化社会問題にますます拍車がかかっていくとする。それに対応するために介護ロボットが活躍しているが、年齢を重ねても健康でいること、できるだけ医者にかからないことが重要視され、予防医療の研究が進むだろうという予想だ。発達したセンシング技術と生態情報解析機能を搭載した「レントゲンミラー」がバスルームなどに設置され、センサーに手を当てれば血液や内臓、肌の状態やストレスの有無などすべてがわかり、家庭で人間ドッグ並みの健康診断を行なえるようになるという。家族の健康情報は毎日キッチンに送られ、それぞれに最適な料理をサポートするような仕組みとなっている。メタボアラームが出れば、後述するが150年後の個人用交通手段のパワーアシスト付き自転車のアシスト機能をあまり使用しないように指示が出たりもするという仕組みだ。

 それから、医療というレベルではないが、健康管理の範疇として、入浴についての解説もあった。飲用水が世界的に不足することが予想されることから、入浴好きな日本人にとって、入浴は問題になりそうというわけだ。一般的には、温風、オゾン流、特殊なレーザーなどによる、水を使用しない除菌シャワーを使うことになるというが、日本人は、お風呂にこだわるだろうとする。そのため、海辺では海水から淡水化した水を使用したり、ナノバブル発生技術の進展で燃料電池から生成した少量の水を増やしたりして、入浴に利用するに違いない、というわけだ。もしかしたら、記者の子供時代のように、銭湯通いが普通になっていたりするのかも。

150年後の遊びって?

150年後の遊びはさすがに表現が難しかった模様。この中に入って「念じてみて」とあった

 遊びやスポーツなどの日常的な余暇の分野では、技術による利便性が必ずしも必要とはされないことから、現在や昔とは変わらないものも多く見られるだろうとする。ただし、年々、子供たちの屋外の遊び場に関して治安の点が不安視されてきていることから、150年後は子供たちの遊び場(というか街全体)は情報通信技術の発達によるセキュリティの確保された形になるだろうという(150年後といわず、今すぐにでもそうなってほしいところ)。一方、遊びの分野によっては格段に進歩した技術が応用されることも予想され、脳科学の研究の進展から、バーチャルリアリティ技術が感覚を再現するレベルにまで発達するだろうとする。旅行先の友人や家族と、自分は自宅にいながら空間を共有したり、脳波を利用した「念力インターフェイス」で夢を再現したり占いをしたりするような、現在はフィクションの中でしか見られないような新しいジャンルの遊びやレジャーが、現実に楽しまれている可能性も考えられるとした。

150年後の防災って?

日本実験棟「きぼう」をスペースデブリから守るバンパー壁の実物試験サンプル

 150年後に降雨のコントロールはできるようになっているというが、地震や津波の発生まではコントロールできるまでは至っていないと予想される。ただし、地震予知技術は現在より格段に進歩するものと思われ、小さな地震でも起きる1時間前には各家庭に速報を流せるようになるという。各家庭は人工光合成システムを備えているので、送電線の断線による停電といった心配もなく、もともと現在よりも防災に強い構造になっているといえる。さらに、地震波を吸収する技術や工法も発達すると思われるが、積極的に振動のエネルギーを電気に変換して活用するということも考えられている。河川は各都市の大深度地下に作り直されているようで、都市水害の心配はないようだ(水辺の景観がないのはさみしい気もするが)。また、150年後の家屋や高層ビルには、現在の国際宇宙ステーションの施設用に開発された技術の応用から生まれた複合機能壁面などが利用されている可能性も考えられるとしていた。

150年後の交通って?

 人の健康と地球環境を考える思想が定着し、次世代エネルギーが登場したこと、街自体がコンパクトになっていることから、大人も子供も通常の交通手段としては「ハイパーアシスト自転車」を使用する。通学・通勤、買い物、友達の家やアミューズメント施設などへ遊びに行く時など、すべてにおいて徒歩かハイパーアシスト自転車というわけだ。ハイパーアシスト自転車は、近年流行している電動アシスト型自転車の発展型といえ、小型燃料カプセル(ペダルを漕いで発生した余剰エネルギーはここに戻される)で稼動する高効率モーターを搭載し、そのアシストによって坂道でも自動車並みのスピードで走れるというものだ(それだけのスピードを出せるとなると、安全面の問題からヘルメット着用の義務、免許の必要性なども出てくる可能性があるが、子供用は最高速度があまり出ないなどの設定がなされるに違いない)。そして、もう1つのこの時代の乗物の大きな特徴は、個人での所有はできなくなり、街(行政)が所有するシェアリングシステムとなっている点だ。いちいち個人が購入したり保管場所を確保したりする手間を省け、好きな所で乗り降りが可能になるというわけである。ペダルの生体認証により、誰がどれだけ使用したかの管理がなされる仕組みだ。ただし、朝と夕方の通勤・通学時は乗りたい人が多いだろうから需要と供給のバランスの問題も生じることだろう。余っている場所からは、自動運転で不足気味な場所にハイパーアシスト自転車が移動してくるといった機構も備えるといいのではないだろうか。

 また、街と街の間はバスと電車を融合させたような「次世代リニアトラム」が利用される。トラムは複数の目的地へ行く車両が連結されており、走行中に連結・切り離しが行なわれ、隣町から遠くの都市へも1回の乗車で高速かつスムーズに移動できる形だ。街の端にトラムステーションがあり、行き先を入力すればどの車両が目的地まで最も早く着くか、またルートによる値段の差なども教えてもらえる。席に座れば自動認証されるので、きっぷを買う必要もない仕組みだ。動力は超伝導モーターで、線路上ではなくチューブの中を静かに移動する。非常に便利そうだが、インフラの整備が大変そうだし、既存の鉄道会社やバス会社の扱いなども難しそうなので、実現には時間がかかりそうである。既存の高速道路や鉄道の路線などの用地をうまく再利用する方法がいいのではないだろうか。

 それから、複数の街が集まった都市と都市の間は自動車か中距離用のトラム、遠距離の都市間は電動飛行機や垂直離着陸航空機、超音速機などが利用される。海上は常温超伝導船、100万tクラスの超大型客船などが往来する形だ。自動車も個人所有はなくなり、やはりカーシェアリング方式になる。都市の端部に自動車ステーションが設けられており、そこで目的にあった車両を選んで乗る形だ。トラムステーションや自動車ステーションまでは、もちろんハイパーアシスト自転車で移動する。このカーシェアリング方式は、記者のようにクルマ好きで所有願望のある人間にとっては結構抵抗があるが、現在の若者の車離れなどからすると、50年、100年先になれば、どうということはないのかも知れない。ただ、それでも超高級車など特別なクルマを所有したい資産家などはなくならないと思われるので、高額の納税をすれば環境条件を満たしたクルマに限ってなら所有できるという、仕組みになるのではないかと思う。100%のカーシェアリングとなると、自動車産業にも大きな影響が出ると思われるので、実現までは時間がかかりそうである(というか、確実に台数が減るだろうから、倒産する自動車会社も出てくるのではないだろうか)。

 物資の輸送は、現在のように人がトラックを運転する仕組みはなくなり、コンピュータ制御の地下専用路自操式のコンテナ自動車によって運ばれる仕組みになるとする。非常に高効率で、一般車への影響もないという点が大きなメリットだ。ただし、これもインフラの整備で非常にコストと時間がかかる。トラムの登場によって地下鉄は不要となるだろうから、都市部は現在の地下鉄のトンネルを利用する(東京メトロのように企業が運営する場合は旅客鉄道業から輸送業にスイッチ)といいかもしれない。全自動となると、トラックの運転手も仕事を奪われてしまうので、フォローが必要だろう。万が一のトラブルのために車両に乗り込んでおく形で運転手の仕事を残すか、街中で店舗などに商品を運ぶ際の荷運び用(?)ハイパーアシスト自転車のライダーに転職してもらうのもありかも知れない。このように、大規模なインフラ整備が関連し、特定の職種がなくなったり、企業の倒産も招いたりする可能性がある形での予想は、そこに到達するまでは結構厳しいものがある。150年というのは、遠い先のようでいて、思ったほど先でもないので、あまりドラスティックな改革はしない方がいいのではないかと個人的には思う次第である。

ハイパーアシスト自転車をイメージしたもの。ペダルは漕げないハイパーアシスト自転車には乗ることが可能なので、乗った状態で撮影してみた。かなり寝そべった視点だ

150年後の宇宙って?

 最後は、宇宙について。150年後は、現在の海外旅行(ヘタな国内旅行より安い海外旅行もあるけど)のような感じで、衛星軌道の宇宙ホテルなどに旅行に行けるようになっているだろうとする(もしかしたら、月面にも一般客が滞在できるようになっているかも)。微少重力空間を楽しむリゾートやテーマパーク(スペースディズニーランドとか?)、宇宙スタジアムなどがオープンしており、スクラムジェットエンジンを備えたスペースプレーンが普通のジェット旅客機のように飛び立ち、宇宙と地球を1日になん往復もするとした。また、特殊な半導体の大規模製造工場などが静止軌道に建設されるなど、産業分野での微少重力空間の利用が活発になることももちろん予想される。また、宇宙でしか作れない野菜工場なども現れるかも知れないという。それから、近年騒がれているスペースデブリ問題は、自律型スペースガード・ロボットが投入されており、各種施設の安全が守られているのだそうだ。

宇宙旅行プランのハイテクパンフレット(電子ペーパーをイメージしたもの?)150年後は地球上の環境保護の成果は出ているようだが、宇宙空間にも気を配る必要が出てくる

 なかなか150年後というのは、予想しやすい分野もあれば、難しい分野もあり、「自分ならこうではないかと思う」といろいろと考えられることが、エコみらいハウスの楽しみ方の1つのようだ。ただ、環境・エネルギー問題は、実際に切実な状況になっているので、やはり150年後といわず、今すぐ実現してもらいたいものもいくつもある。ぜひ、三菱重工の技術力でなんとかしてもらいたい。それから、個人的には、カーシェアリングオンリーの社会はできるならやめてほしい。ほしいクルマを所有する楽しさ、所有できなくても所有する日を想像する楽しさは、やはり奪わないでほしいところである。電気自動車や燃料電池自動車ならCO2をほぼ出さないわけで、環境にやさしいのだから、所有してもいいのではないだろうか? カーシェアリング法なんてものが決まるような日には、記者は国会の前で抗議活動に身を投じたい(笑)。あと、医療や宇宙などいくつかのカテゴリーでロボットが活躍することが記されていたが、イメージを見られなかったのは残念。Robot Watchとしては、展示物が無理だとしても、せめてイラストを展示してほしかったところである。

常設展示:1階は「くらしの発見」「宇宙」「海洋」「交通・輸送」ゾーンで構成

 続いては、常設展示を紹介しよう。1Fの常設展示は、大きく4つのゾーンに分かれる。順路が設定されており、まずはエントランスから入ってすぐ左手にある「くらしの発見」ゾーンに進む形となる。その次に、「宇宙」「海洋」「交通・輸送」という順だ。ただ、絶対というわけではなく、宇宙からでも、海洋からでも見ることもできる。自分の最も興味のあるものから見ていけばいいのである。

【くらしの発見ゾーン】
 それではまず、順路の通りにくらしの発見ゾーンから。「家でのみっけ」、「フューチャーカフェでのみっけ」、「お店でのみっけ」、「ガレージでのみっけ」の4つのコーナーに分かれており、生活の中の技術的な秘密を発見するという内容だ。例えば、家でのみっけでは、居間を模しているのだが、テーブル上の新聞や霧吹きなどを決められたポイントにかざすと、輪転機や加湿器などの解説映像が見られるという具合。ただし、フューチャーカフェは暮らしというよりは、名前から少し想像がつくと思うが、今後の技術について触れている。砂漠をオアシスにする「砂漠環境改善」といった大規模環境技術から、次世代照明とされる「有機EL」、今年打ち上げ予定のH-IIAロケットの後継機の「H-IIBロケット」などだ。

家でのみっけコーナーのテーブルには、新聞などがあり、それを特定のポイントにかざすと……モニタにそれに関連する技術の解説映像が流れる。新聞の場合には輪転機の解説だフューチャーカフェでのみっけ。今後の技術について解説されている
ガレージでのみっけ。クルマの機構的な知識を得られるコーナーだお店でのみっけ。レジを通した商品に関連する解説映像がモニタに流れる仕組み

【宇宙ゾーン】
 続いての宇宙ゾーンは、宇宙開発と太陽系がテーマで、日本の宇宙開発の最先端ともいえる展示物もある。最大の見所は、何といってもH-IIロケットのメインエンジンLE-7と、その後継ロケットで現行機のH-IIAに搭載されている改良型のLE-7Aの実物が展示されていること。名称上はたったひと文字Aが付くか付かないかの差だけなのだが、まったく別物と思えるほどサイズや配管などが異なっており、LE-7Aの方が目に見えてコンパクトなのがわかる。今年度には、H-IIシリーズの集大成といわれ、H-IIAの後継機となるH-IIBの打ち上げが予定されているが、こちらは第1段ロケットにLE-7Aを2基並列に装備して同時燃焼させる仕組み。H-IIAでは不可能な高度300kmのHTV軌道まで16.5tの物資を運ぶことができることから、国際宇宙ステーションへの物資運搬の役割も担う(H-IIBでステーションにドッキングする補給船のHTVを打ち上げるという流れ)。日本の技術力の高さを証明し、将来的にはその技術を活かしてぜひ日本の有人宇宙飛行を成功させていただきたいところである。

LE-7。H-IIロケットのメインエンジンだったLE-7A。現行機H-IIAのメインエンジン。LE-7よりとても細身なので、下のクラスのエンジンかと思ってしまう宇宙飛行士適性チェックコーナーなどもある

【海洋ゾーン】
 そして次は、海洋ゾーン。6,500mの深海まで潜水して探査することが可能な有人潜水調査船「しんかい6500」の1/2精密断面模型が同ゾーンのメインの展示だ。海は10m潜ると1気圧増えることから、深海ともなると宇宙の高真空状態よりも過酷とされる。しんかい6500のマックスの潜行深度の6,500mだと、その時の気圧は651気圧! その圧力から3名の乗員を保護し、なおかつ調査を行なった上で採取したサンプルとともに無事帰ってくるのだから、どれだけすごい技術力かわかるというものである。ちなみに、しんかい6500の1/2精密断面模型は、先端のロボットアームも動かすことが可能。しんかい6500はロボットといってもいいかも知れない。

メインはやはりしんかい6500の1/2精密断面模型右側が内部構造を見られるようになっている
マニピュレータは操作可能しんかい6500の観察用窓に使用されている耐圧ガラス。底面が外側で、水圧で機内方向に押される仕組み

【交通・輸送ゾーン】
 1階最後のゾーンは、交通・輸送ゾーンだ。中央には、横浜らしい街をイメージしつつも、空港(横浜国際空港?)などが設けられた架空の都市の大型ジオラマ「トランスポート・シティパノラマ」が設置されている。その周囲の壁に最新の交通システムの解説などがある形だ。またエントランスに近い場所には、国産初の100%超低床LRV(Light Rail Vehicle)である「jTRAM」の先頭車両を原寸大で再現した、「jTRAMシミュレーター」が設置されている。子供たちが運転しようと長蛇の列を成しており、順番待ちにも一苦労という人気コンテンツだ。

トランスポート・シティパノラマ。地元横浜風の建造物がいくつか見えるが、空港もある架空の都市jTRAMシミュレーター。交通系の博物館では、どこも運転・ドライブシミュレーターは人気者

おみやげコーナー「ミュージアムショップ」

 1Fのくらしの発見ゾーンの入口付近とエントランスの間にあるのが、おみやげコーナーの「ミュージアムショップ」だ。H-IIAロケットをモチーフにしたもの、JAXAの宇宙飛行士キューピーちゃん、小学生用のスペース学習帳、宇宙食、船舶の模型などなど、展示内容に関連した大小さまざまなおみやげが置いてある。中には同館オリジナルネクタイなども。ちなみにネクタイのデザインは、海を表すしんかい6500、空を表すヘリコプター、風を表す風力発電設備の図版があしらわれており、3色ある。4,500円。

エントランスから側から。おみやげ屋さんだけなら無料で入れる店内。科学技術ミュージアムらしいラインナップとなっている同館オリジナルのネクタイ。愛社精神あふれる三菱重工の社員の方が買っていかれるとか

2階は「環境・エネルギー」「トライアルスクエア」「技術探検」「乗物の歴史コーナー」で構成

【環境・エネルギーゾーン】
 2階に上がってすぐにあるのが、「エコ・エネLAND」と名付けられた環境・エネルギーゾーンだ。階段側にあるのが、「CO2バルーン」のコーナー。シャワーを10分出しっぱなしにすると630.1gのCO2を排出するといった、無駄遣いがどれだけCO2を出すかが風船の大きさでわかるようになっている。ちなみに掃除機を10分間使うと45.5g、歯磨き中に1分間水を出しっぱなしにすると43.2g、週に1回の買い物でレジ袋大1枚小3枚を使用すると112.1g、500mlのペットボトルを1本飲むと20.1gだそうである。皆さんも減らせるものは減らそう。

 そしてCO2バルーンの裏側にあるのが、地球環境問題体感エリア「地球レスキュー」だ。バーチャルな地球上で、自分のキャラクターを歩き回らせられ、さらにエコ活動も行なえるコンテンツである。同館への入館時にもらえるエントリーカードを使い、このゾーンの各エリアを回って環境やエネルギーの学習をしてポイントを集め、それを地球レスキューでの環境改善に用いるという仕組みだ。同ゾーンのエリアには、風力発電や太陽光発電などの仕組みを学べる自然エネルギーエリア、クイズを行ないながら走れる電気自動車シミュレーターや燃料電池の仕組みを学べる新エネルギーエリア、火力発電エリア、原子力発電エリア、2100年の温暖化予測などさまざまな地球の姿を見られるバランスグローブなどがある。多くが体感型のコンテンツとなっており、ゲーム感覚で楽しみながら学べるため、子供の人気が高く、休日などは撮影もままならないという具合だ。取材した日も、横浜開港記念日ということで入館料無料だったため、近隣の小学生たちが親子で多数来場しており、かなりの混み具合だった。

CO2バルーン。こうして目に見える形だと、切実感がある地球レスキュー。エントリーカードに集めたポイントでバーチャルな地球環境をよくできるコンテンツエントリーカード
自然エネルギーエリアの「風力発電のしくみ島」。風力発電の仕組みがわかるコーナー自然エネルギーエリアの「太陽光発電のしくみ島」。こちらは太陽光発電のしくみを学べるコーナー新エネルギーエリアの「電気自動車に乗ろう!」。シミュレーターだが、クイズも出題される内容
新エネルギーエリアの「燃料電池のしくみ島」。燃料電池について学べる火力発電エリアの「発電ブロック島」。ブロックを組み合わせることで、3種類の火力発電のシステムを学べる火力発電と原子力発電の両エリア間にある「バーチャルプラントツアー」。CGで再現された両発電所を見学
原子力発電エリアの原子炉容器の1/30断面模型。特別展寄りには、同容器を格納設備の断面模型もある原子力発電エリアの「核分裂グラグラボール」。核分裂の基本的な仕組みを学べるゲームだバランスグローブ。現在の昼と夜の地球の様子や、2100年の温暖化予測など、さまざまな地球の姿を見られる

【トライアルスクエア】
 ものづくりの設計・製作・操縦体験を学べるのがトライアルスクエアだ。大別して4つのコーナーに分かれる。「3D_CADワークス スタジオ プロ ミッションタイプ」、「同フリータイプ」、「フューチャーファクトリー」、「スカイウォークアドベンチャー」となっている。ここはすべて先着予約制で、どれか1つを予約して体験が終了したら、次のコンテンツを予約できるというルールだ。満席になり次第その日の体験は終了となるので、同館に足を運んだ時は、まず真っ先にここを訪ねることをオススメする。なお、利用は小学生以上で、推奨は小学4年生以上となっている。

 3D_CADワークス スタジオ プロは、同名のオリジナルソフトを利用し、ジェット機、ヘリコプター、フェリー、深海潜水艇の4種類を設計して操縦できるというコーナー。与えられた指示の通りに前述の乗物の内の1種類を設計していくミッションタイプと、一定時間借りて自分のペースで作業を進められるフリータイプがある。ミッションタイプは6つのデスクが、フリータイプは5つのデスクが用意されており、1つのデスクには最大で2人が参加可能だ。設計といっても、さすがに線を引くところから始めるわけではなく、ボディを選んだり、パーツの設置場所を選んだりして進めていくようになっている。それでも、性能のいい機体を作ろうとすると、1回では難しく、ハマり要素のあるコンテンツとなっている。

ミッションタイプのコーナーミッションタイプのメインスクリーン。6組の設計の様子を同時に見られるミッションタイプのデスク。親子など2人で参加できるようになっている
フリータイプのデスク。こちらも2人で一緒に楽しめる記者が設計してみた深海潜水艇。カッコはよさそうだけど?ミッションの様子。熱水噴出域で生物を採取するのが与えられた目的
ミッションの詳細な評価。40点満点中の18点と、メタメタ設計と操縦の得点のレーダーチャート。海の中で青はダメということらしい設計した乗り物は、プリントアウトしてもらうことも可能だ

 フューチャーファクトリーは、タッチスクリーン式のテーブル上で無重力空間のように漂う3DCGのパーツを、複数人で協力して組み合わせ、C57蒸気機関車やコンセプトカー(ガソリン自動車)を作っていくという内容の製作体験型の映像施設。テーブルにはワイヤーフレームの設計図が表示されており、その周囲で漂っているパーツを、ホッケーのパックのような形のデバイスを使ってホールドし、設計図上の正しい場所に持っていくとはまるというルールだ。制限時間内に全パーツを揃えれば成功である(揃えられなくても、機関車やコンセプトカーは完成する)。前方にはスクリーンがあり、そこで操作方法の解説がされるほか、完成した際には蒸気機関車やコンセプトカーの3D映像が流される。

 なお、3D映像は、偏向式のメガネをかけるタイプだ。エンジンのパーツなどはかなり細かく分解されているため、クルマの知識がないと、意外とどれがどこに収まるかがわからなかったりするほど本格的なのがポイント。結構クールな感じの体験型コンテンツで、これまた何度もトライしたくなってしまった。

フューチャーファクトリー内。正面が3D映像を映すメインスクリーンで、下に見えるのがテーブルタッチスクリーン式のテーブル。合計4つある。3Dのパーツが漂っているのが見えるデバイスを使ってクルマのパーツの1つを押さえたところ

 スカイウォークアドベンチャーは、外見からすると航空機に見えるが、ヘリコプターのシミュレーター(モデルの名称は「MH2000」)だ。6軸モーションで動作し、最大4人が乗れる大型の筐体である。順番待ちでかなり混んでいたため、操縦体験はできなかったが、豪快な動作を撮影してみた。機会があったら、次はぜひ乗ってみたいところである。

大型の筐体が特徴で、外見はジェット機の前部のよう6軸モーションの基部シミュレーターの内部
前方視界前席で操縦桿を操作できる【動画】スカイウォークアドベンチャーの動作の様子
【動画】スカイウォークアドベンチャーの6軸アームの稼動する様子

【技術探検ゾーン】
 メカニズムや製品の製造過程に焦点を当てたゾーンで、体験装置や組み立て模型、ビデオライブラリーや図書などを通して、来館者自身がものづくりの原点を探れるようになっている。中央には「メカ・ジャングル」と呼ばれる体験型コンテンツがあり、発電モーター、油圧装置、滑車などのメカニズムの基本原理を体験しながら学べる仕組みだ。また、その奥には、「みなとみらい技術図書館」がある。技術やモノづくりに関する図書を収集しており、書架手前のテーブルやカウンター席で自由に閲覧可能だ。「ファクトリーチャレンジ」では、H-IIAロケットの組み立てや、新交通システム車両の組み立てに挑戦できるコンテンツ。完成と同時に発射および走行シーンの映像が流される仕組みだ。そのほか、ビデオライブラリーなども用意されている。

メカ・ジャングル。その左奥にみなとみらい技術図書館があるH-IIAの組み立て工程なども紹介されている

【乗物の歴史コーナー】
 ゾーンという分類はされていないが、特別展示ゾーンの奥にあるのが、「乗物の歴史コーナー」だ。日本の産業発展に大きな役割を果たしてきた、三菱重工業製の船舶(潜水艦を含む)、鉄道車両、航空機(戦闘機を含む)のスケールモデルが展示されている。太平洋戦争時の零戦など、旧日本軍の戦闘機も多数展示されており、三菱重工の歴史を見ることが可能。それと同時に、三菱重工業が昔からあらゆる分野の工業製品を手がけてきており、日本を支えてきた企業の1つであることが実感できる内容となっている。

太平洋戦争時の戦闘機からYS-11などの民間機、航空自衛隊の訓練機など三菱重工製の航空機は実に多いタンカー。向こう側には太平洋戦争時の戦艦や潜水艦が展示されている三菱重工は鉄道の車両も数多く手がけてきた

2階から見る吹き抜けの空中の展示物

 エントランスからも見られるのだが、解説パネルは2階にあるので、2階の展示物として紹介したい。1つが、H-IIAロケットの上空につり下げられている、国際宇宙ステーションの模型だ。そして風力発電設備の上空にあるのが、1992年に日本の宇宙科学研究所(当時)とNASAが協力して打ち上げた、地球の磁気圏を観測する人工衛星「GEOTAIL」の模型だ。1階から見ると、地上から見上げている感じだが、2階から見ると同じ衛星軌道にいるような感じで見られるというわけだ。

国際宇宙ステーションの模型。2階からだと衛星軌道上から見ているような雰囲気国際宇宙ステーションを1階からH-IIAロケットを2階から。左奥側は、喫茶コーナーとなっている
GEOTAILを2階からGEOTAILを1階から。横は風力発電設備

 さて、150年後の技術を描いたエコみらいハウスと三菱みなとみらい技術館の常設展示、いかがだっただろうか? エコみらいハウスで描かれた未来はとても明るい未来であるが、それだけに逆に現代社会に対する警鐘とも取れた。特に環境やエネルギーに関しては現時点で既に問題が発生しているわけで、それらを解決していかないとこうした未来はないということが、ヒシヒシと感じられる。しかし、人間はこうした危機も乗り越えられると記者は信じているので、150年後にはぜひここで描かれた未来以上の世界を実現してほしい。そして、ぜひともRobot Watchも150年といわずさらに存続してもらって、検索すればこの記事が出てくることを切に望む。この記事を読んだ150年後の人が、「こんなに控えめな未来を想像していたんだ」と思えてしまうぐらい、発展していてほしいものである。



(デイビー日高)

2009/6/19 00:00