ZMP、世界初のカーロボティクス・プラットフォーム「RoboCar」を6月下旬より出荷開始

~画像認識モジュールのみの販売も実施


ZMPと、RoboCar開発に携わったパートナー企業の代表者でフォトセッション

 株式会社ゼットエムピー(ZMP)は9日、「1/10スケールモデル ロボットカー製品発表会」を先端技術館@TEPIAにて行なった。昨年12月に行なった同社の発表会で、カーロボティクス分野への進出、開発中のプラットフォームの解説などが行なわれたが、その具体的な製品「RoboCar」の販売がいよいよ開始となる。

世界初のカーロボティクス・プラットフォーム「RoboCar」は6月末出荷開始

 現在、クルマのインテリジェント化=ロボット化の進展が著しいことは、ご存知の方も多いと思う。2月末に東京・お台場地区で行なわれた「ITS-SAFETY 2010」のレポート記事でもお伝えしたが、自動的に減速する衝突被害軽減ブレーキや前走車に追随するアダプティブ・クルーズ・コントロール、縦列駐車も簡単になるパーキングアシストなど、クルマが自分で判断して自分で部分的に動くようになってきている。これらは、「ASV」(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車)技術と呼ばれ、国土交通省自動車交通局が進めており、現在は第4期(2006~2010年)に入っており、その成果が実際に多数の市販車に搭載されるようになってきている。

 発表会では、ZMP代表取締役社長の谷口恒氏がまず会見し、次世代のクルマに求められる最も重要な機能と技術は、環境問題から来る「電動化」と、ASVにあるように「知能化」とし、「ロボティクス」こそが未来のクルマへのカギであるとした。その実現のためには、ソフトウェアの開発が重要であり、そのためには研究・開発用のプラットフォームが必須となるが、現状では大きな課題がある。現状では、実車のプラットフォームを使うしかなく、それだとまずコストが高いことが1つ。さらに、運用のためには広大なスペースが必要だ。また実車プラットフォームともなると、自動車関連メーカー以外の企業や大学などでの運用は危険も伴うため、なかなか手を出せないという点も課題だ。それらを解決するには、低コストでなおかつ省スペースで運用できる小型のデスクトップタイプのプラットフォームが必要である。そこで開発されたのが、世界でも例を見ないという、今回発表された「RoboCar」というわけだ。このサイズであれば、安全でいて手軽に研究開発を行なえ、なおかつ工業系大学の学生や企業のエンジニア教育にも利用できるというわけである。

ZMP代表取締役社長の谷口恒氏RoboCar Z。イエローとレッドがあるRoboCar Zのアップ
側面後方外装なしのRoboCar

 今回は、複数のメーカーの協力を得て開発されており、画像認識システムの開発では、NECエレクトロニクスが画像認識用並列プロセッサ「IMAPCAR」を提供し、レグラスが画像認識ソフトウェアを開発した。また、RoboCarの外装(ボディ)をデザインしたのが、znug design(ツナグデザイン)代表でデザイナー・ビジョンクリエーターの根津孝太氏である。RoboCarには、外装なしのプラットフォームのみのものと、外装をまとった「RoboCar Z」の2タイプがある。ちなみに、RoboCar Zの「Z」はもちろんZMPのZということであり(ツナグデザインのZの意味もあると思われる)、日産「フェアレディZ」とは関係ない。外装のカラーリングは、イエローとレッドの2種類だ。

 そして価格だが、外装なしのプラットフォームのみが最も安価で、国内向けで59万8,000円。海外向けは7,000USドル。外装を備えたRoboCar Zは、国内向けが129万8,000円で、海外向けが1万5,000USドルとなっている。また、今回3社の共同開発で生まれたステレオカメラによるリアルタイム画像認識モジュール(画像認識ボード、CPUボード、ステレオカメラ)のみの販売も行なわれ、こちらはアカデミックプライスということで、39万9,000円。海外向けの価格は設定されていない。

 谷口氏は、世界にまだ例のないカーロボティクス・プラットフォームをこうして提供することで、「自動車業界に、新しいソフトウェアやアプリケーションの開発といった点で、新しいムーブメントを起こすような形で貢献したいと思っています」とした。

RoboCarの特徴は大別して5つ

 技術的な解説は、ZMP技術開発部部長安藤秀之氏が行なった。RoboCarの特徴は複数ある。まず「高剛性・高精度なシャーシ」ということが1つ。これにより、精緻な制御アルゴリズムを実装できるというわけだ。

 2つ目は、「充実した環境認識プラットフォーム」。センサーフュージョンに対応し、センサー類が充実しているのが特徴。超高速ステレオ画像認識モジュール、ジャイロ・加速センサー、4輪独立ロータリーエンコーダ(回転速度計)、赤外線測距センサーを標準搭載。オプションとなるが、レーザレンジファインダも搭載可能だ。

 3つ目は、電気自動車であること。スケールこそ1/10だが、電気自動車(EV)システムとして設計されており、また制御シミュレータの「MATLAB/Simulink」との連携も行なえるようになっている。

 4つ目は、ユーザ独自のアプリケーションを搭載可能なことだ。APIが公開されており、独自のアプリケーションを開発して搭載することが容易となっている。また、本体にはLinuxベースのOSが搭載されている。これにより、RoboCar単体でも自律走行が可能だ。

 5つ目は、Wi-Fiによる無線通信機能を搭載している点だ。PC上のユーザアプリケーションと連携させたり、群制御(複数台のRoboCarを同時にコントロール)させたりすることも可能である。また、RoboCar同士の通信もできるし、無線によるリモートコントロールも行なえる仕組みだ。

 仕様は、以下の通りとなっている。

【商品名/型番】
RoboCar/ZMP RC-Z

【サイズ/重量】
429×195×212.2mm/3kg(最大1kgまでの追加積載可能)

【システム基本構成】
・ステレオカメラ:VGA CCD 30fps(×2個)
・画像認識モジュール:ZMP製モジュール(NEC製並列プロセッサ「IMAPCAR」搭載)
・メインコントローラ(CPU):AMD Geode LX800 Processor 500MHz
・通信モジュール:Wi-Fi通信モジュール IEEE802.11 b/g/n
・内界センサー:ジャイロ1軸/加速度3軸/ロータリーエンコーダ(車輪×4/駆動モータ軸×1)
・外界センサー:赤外線測距センサー(×8個)/レーザレンジファインダ(オプション)
・シャーシ/フレーム:カーボンFRPシャーシ/ダブルウィッシュボーンサスペンション/ZMP製アルミフレーム
・モータドライバ:ZMP製モジュール
・サーボモータ:ロボット用サーボモータ
・駆動用モータ:小型DCモータ
・バッテリ:制御システム用バッテリ 単三ニッケル水素電池(×12個)/駆動用バッテリ ニッケル水素バッテリパック7.2v(×1個)

【スケールモデル本体ソフトウェア】
・メインコントローラOS:Linuxベース(ソフトリアルタイム)
・コントロールソフトウェア:制御ソフトウェア/ZMPライブラリ/ネットワークソフトウェア
・画像処理プロセッサ:専用コード

【PCソフトウェア】
・OS:Windows/Linux
・開発環境:gcc

【価格】
・RoboCar(外装なし):国内価格59万8,000円/海外向け価格7,000USドル
・RoboCar Z(外装あり):国内価格129万8,000円/海外向け価格1万5,000USドル
・リアルタイム画像認識モジュール:39万9,000円(国内価格のみ)

RoboCarの寸法センサー、基板レイアウトイメージ(上部)センサー、基板レイアウトイメージ(下部)
外界センサー内界センサー

想定用途および導入メリット、今後の展開など

 想定用途については、自律自動車および自律ロボットの研究開発とRoboCarを教材とした学校や企業のエンジニア教育が大きな柱と考えているようだ。そのほか、安全技術、無線通信を利用した車車間通信、自動車向けIT(情報提供、検索サービス)技術といったASV関連や、省エネ・環境技術などの研究開発も。さらには、ディーラーやショールームの新技術ディスプレイなども考慮しているという。具体的なターゲットとしては大別して、自動車関連・重機・重電機メーカーと、大学・公的研究機関の2つとしていた。

 主要な導入メリットとしては、研究用途、学習効果のほか、モチベーション・チームビルディング、経済的メリットも挙げている。それぞれ、以下のようなリストを挙げていた。

【研究用途】
・初期の自律アルゴリズム検証
・人間との基礎的なインタラクションの検証
・群制御、自動車間通信などの実験
・他人の運転経験をネットワークにより自動車間で共有するなど、ヒューマトロニクスの初期研究に活用

【学習効果】
・MATLAB/Simulinkなどを用いた高度な制御理論の実習
・組込みシステム開発の基礎をわかりやすく学習
・要求仕様から制御系設計、シミュレーション、実装、テストにいたる開発プロセスの体験
・シミュレーションに加え、実機確認により現場で起こりうるさまざまな問題に対する課題解決能力の向上
・設計から実装に至る学習を通して、システム全体を見通した判断力の向上
・問題を与えて解かせるPBL(Problem-Based Learning)と、問題自体を発見するPBL(Project Based Learning)の体験

【モチベーション・チームビルディング】
・ロボットとクルマというわかりやすい題材を用いてモチベーションを保ち、実践的な教育の実施
・さまざまなエンジニアリング分野の担当間で協力してプロジェクトをマネージメントするチームビルディングに活用

【経済的メリット】
・プラットフォームとPCがあれば実習をスタートさせることができ、研修導入コストを大幅に削減
・研究目的のプラットフォームとして安価
・オープンキャンパスに置いて、学生募集のアピールに活用

 実際にすでに購入予定の顧客が想定している使用例としては、人や他車を検出して衝突を回避する障害物アルゴリズム検証、前者に追従する群制御や交通情報の取得をするインフラ協調の研究、レーン追従や標識・信号認識の自動運転の研究、自動車と人間のインタラクションに関する研究などが紹介されていた。

ターゲット顧客と主要な機能想定使用例

 そして今後の展開だが、まず研究者からのニーズを収集し、開発環境、ツールの充実を図っていくとする。移動ロボットや、監視システム向けにリアルタイム画像認識モジュールを単体で販売。また、つくばチャレンジなどの屋外用にさらに大きなスケール(例えば1/8)プラットフォームも開発していくとする。海外からの引き合いも多いため、拡販も進めていくとした。製品としての目標は、未来のクルマのハードウェアシミュレータとして、世界中の開発者に使ってもらえる製品に育てていくとしている。

 出荷は6月末開始で、初年度の目標販売台数は、国内・海外合わせて200台ということだが、すでに目標の半数以上の受注を受けているということである。

 製品内容と付属品、およびオプションは以下の通りだ。

【ハードウェア】
・RoboCar本体:1台
・駆動用バッテリ充電器:1台
・駆動用バッテリ:1個

【ソフトウェア】
・レンズ歪み補正・光軸補正:1式
・床面に描かれた白色レーンの認識:1式
・ステレオ視による距離画像生成(距離測定):1式

【ドキュメント】
・基本性能・仕様及び操作方法:1式

【保守】
・3カ月無償サービス(オンサイトサポート、センドパック対応など):1式

【オプション】
・レーザレンジファインダ:1台(スキャン時間100msec/scan、範囲240deg、距離60~4,095mm)/19万円
・バッテリセット(情報系):1式(エネループ12個、充電器3台)/2万790円
・有線操作用ACアダプタ(情報系):1式(情報系基板へ電源供給が可能):5,050円
・バッテリセット(駆動系):1式(1,700mAhバッテリ、充電器):1万3,400円
・ツナグデザインボディ:1台(受注生産)/70万円
・年間保守:1式/9万円

RoboCar Zを用いたデモンストレーション

 それでは、実際にRoboCarのデモンストレーションの様子をご覧に入れよう。デモンストレーションは、4種類行なわれた。1つは、2台のRoboCar Zを群制御でコントロールして、シンクロさせた動きを見せるというもの。2つ目は、ステレオカメラによる距離計測の様子を、ZMPの社員3名が距離を取って立つことで、色によって距離を表しているところを披露した。赤のように色温度が高いと近距離であること示し、青は遠距離であることを示す。3つ目は、白線検出による自律走行。ステレオカメラの右目を使って白線を検出する形で、テーブル上に設けられたオーバル(というかカプセル型)トラックを反時計回りで走行した。最後は、ボール紙を使ってテーブル上に雲形に壁を築き、その中で障害物検出と回避を行なわせるというものだった。

【動画】2台のRoboCar Zを群制御でコントロールしているデモステレオカメラにより距離計測。30cmの距離、数m、もっと先という形で人が並んでいるイエローがレッドを映している様子。距離が近いので赤が多い
【動画】白線検出による自律走行の様子【動画】白線を検出している様子【動画】障害物をよけて移動する様子

パートナー企業によるプレゼンその1:レグラスの画像技術

 また今回は、RoboCarの開発でZMPに協力したパートナー企業のプレゼンも行なわれた。最初は、RoboCarに搭載されている画像認識モジュールのソフトウェア部分をZMPとともに開発した、レグラスから。「ロボットカー搭載の画像処理技術の紹介」と題して、同社代表取締役の吉田研一氏が解説を行なった。同社は、画像処理技術に関するシステム開発の仕様設計からソフトおよびハードの開発、量産までを一貫してサポートしており、カメラ・スキャナ・検査装置・複写機などでの受託開発および自社IP(設計資産)の開発販売を行なっている。

 RoboCar開発における同社の役割は、障害物距離測定、障害物検出、白線検出といった機能を画像処理で行なうことで、NECエレクトロニクス製IMAPCARに画像処理アルゴリズムを実装した。性能的には、要求される実行速度を達成しながら、検出/測定の精度を30fpsで確保している。

 また、次のステップとして、明暗の変化の激しい屋外での画像検出において、検出精度を落とさないようにするための必須技術ということで、ワイドダイナミックレンジ技術の紹介もされた。今回は、RoboCarの使用が基本的に屋内を前提としていることから、実装は見送られたが、今後、つくばチャレンジなどに参加するためとして開発が検討されている、1/8スケールロボットカーには搭載されるかも知れない。

 さらに将来へのチャレンジとしては、人の行動の予測、他車両の動きの検出と行動予測、人とほかの障害物の識別、信号機や道路標識など交通システムの検出にもチャレンジしていくとし、次世代の交通安全システムに貢献していきたいとした。

 そして最後は、その場で実際に撮影した映像と、それを処理した映像の両方を披露。デジカメもそうだが、どうしても、樽型や糸巻き型などのレンズの歪みが出てしまうが、それを補正して表示。さらに、ワイドダイナミックレンジ技術による画像処理も加え、すっきりとした映像を表示した。

レグラス代表取締役の吉田研一氏画面の修整を行なった画面。明らかに左側の変換後の方がきれい

パートナー企業によるプレゼンその2:IMAPCARを提供したNECエレクトロニクス

 画像認識用並列プロセッサIMAPCARを提供したNECエレクトロニクスからは、マイクロコンピュータ事業本部自動車システム事業部グループ長の伊賀直人氏が解説を行なった。

 まず、NECエレクトロニクスでは、画像認識アプリケーションのさまざまな分野での応用を期待しており、監視・ホームセキュリティやユーザーインターフェイス(ジェスチャ認識)とともに、ロボットや自動車(運転支援)が含まれているというわけだ。

 組込み機器向けのリアルタイム画像処理を高並列プロセッサで実現したのが、同社が開発したIMAPCARである。従来型CPUとの性能的な違いは、まず従来型ドット単位で逐次処理するため、処理が要求時間に間に合わないことと、高い動作周波数と消費電力が必要という欠点があった。それをIMAPCARではライン単位で並列処理するため、リアルタイム処理を実現すると同時に、低動作周波数と低消費電力を実現している。超高速処理性能と開発の柔軟性および信頼性を両立させており、ロボットなどの組込み機器でのリアルタイム画像認識の実現に必要な、100GOPS=1秒間に1兆回の演算命令を実行可能という処理能力を達成している。また、メモリと密接に結合した128個のプロセッサからなるオールソフトウェア並列処理も特徴の1つで、研究開発におけるアルゴリズム変更に柔軟に対応している。車載品質設計のデバイスであることから、研究開発から産業応用まで高い信頼性を発揮する点もポイントだ。

 同社としては、ZMPのRoboCarのような教育キット・カリキュラムに搭載することで、大学・研究機関で利用されて新技術の人材育成に役立ち、それが同社を始めとする産業界に当然プラスのフィードバックとなり、また新たなデバイスやツール、ライブラリなどをZMPのようなロボットメーカーなどに提供できるという、メリットも挙げていた。RoboCarに搭載されたIMAPCARは第1世代だが、現在、既に発表済みだがさらに高性能・低価格化を実現した第2世代を開発中で、来年の夏ぐらいまでには形にしたいとしている。第2世代は、より多くのニーズに応えるため、32プロセッサのローエンドから、64プロセッサのミドルレンジ、128プロセッサのハイエンドまで、4タイプ(ミドルレンジを2種類予定している模様)を開発中とのことだ。

NECエレクトロニクスの伊賀直人氏IMAPCAR

パートナー企業によるプレゼンその3:外装をデザインしたツナグデザイン

 RoboCar Zのかわいさのある外装デザインを行なったツナグデザインは、かつてトヨタ自動車が愛知万博で出展したパーソナルモビリティシリーズの「i-unit」をデザインした根津孝太氏が2005年に設立した企業だ。

 根津氏は、今回のRoboCarのデザインを、未来のクルマのデザインに近いものとしてとらえているという。ポイントはカメラやセンサーが搭載されている点(現在の市販車も多くがセンサーを搭載してきているが)、知能化であり、未来のクルマは「感じて・考える」クルマだとした。具体的なポイントとしては、感じて考えることから、「頭」に相当する部分をどうするかということ、センサーの「穴」をどうするかということ、カメラは「目」としてあつかうのか、の3つであるとする。

ツナグデザイン代表の根津孝太氏「感じて・考える」クルマのイメージ

 ただし、最初は頭部とセンサーの穴のデザインの2つだけで進めていたという。まず頭部だが、今回はメカ部分(プラットフォームのみのRoboCarの部分)が完成してからのデザインスタートだったため、問題となったのが、上部に飛び出したカメラ部をどう解釈するか、だったそうである。さらに、オプションではあるが、レーザレンジファインダを搭載することによる、後方まで回り込むセンシングエリアがある点も重要な部分だ。デザインの大まかなタイプとしては、頭部を一体化させるか、別体にするかということで、今回は「ボディの一部がポップアップして頭になる」というコンセプトを選択。ただし、ボディのカタマリ感の表現が不可欠なので、円弧的な線で面を構成してカタマリ感を表現することにした。そして、ボディのカタマリから一部を切り取るような形で頭部をポップアップさせるというデザインとなった。

頭部を一体にするか、別体にするかボディのカタマリから頭部がポップアップ

 次は、センサーの穴。レーザレンジファインダの下などにぐるりと車体を囲むように連なって配置された赤外線センサーをどう解釈するかがポイントである。現在の市販車のセンサーの取り扱いは、目立たないように「ないほうがいい」というデザイン処理になっている。ただし、RoboCarは1/10スケールのため、車体とセンサーの大きさが市販車とはまったく異なる。市販車のサイズなら目立たないようにできても、RoboCarではどうしても目立ってしまう。そこで、すき間からのぞく目のような、「周囲を感じる」「見ている」という意思表示をするような、逆にセンサーの存在をわからせるデザイン処理に発想を転換。ボディ部分を上下に分割するようなデザインとし、センサーの帯を設定したという形だ。結果、拡張性・発展性を予感させるような効果も加わり、より未来のクルマらしい雰囲気に仕上がったという。

センサーの帯を設定することで、周囲を感じる意思表示に加え、拡張性・発展性も予感させることに成功初期バージョンのデザイン初期バージョンのデザインの後方

 ところが、ここでダメ出し(?)したのが、ZMPの谷口氏。「イマイチかわいくないですね」というコメントに、修整することになる。そこで、カメラを目とするのかどうかというデザイン上の第3のポイントにフォーカスする形となったというわけだ。これまでのクルマの擬人化の例としては、ライトや窓が目であることが多い。そのほか、目からは離れるがタイヤが脚というものもある。ここで根津氏が感じたのが、RoboCarは工業デザインなのか、キャラクターデザインなのか、というところ。そして、頭がポップアップしたという記号性は維持しつつ、工業デザイン手法のキャラクターデザインという形で取り組み直し、カメラを目とした、頭部に顔を持たせるデザインが行なわれていったのである。結果、谷口氏も満足したようで「かわいいですね! 後頭部も」というコメント。そして、それが今回のデザインとなったというわけだ。

カメラを目とすることで、工業デザイン手法のキャラクターデザインを行なう形に最終バージョンのモデリング最終バージョンのモデリングを後方から見たところ

 こうしたデザインを経て、クルマのデザインにおいて、カメラ・センサーは再構築のトリガーだと根津氏は感じたという。クルマのデザインで後頭部がポイントになるとは思っていなかったそうだが、クルマのデザインの新しい可能性を感じているとした。

そして、実際の製品RoboCar Z同じく実物のRoboCar Z

 クルマが電気自動車に向かうことで、これまでは自動車メーカーしか手がけられなかったが、電機メーカーも参入しやすくなるとされている。こうした、小型の研究開発用のプラットフォームを利用できる環境が整えば、そうした流れに加速がつくのではないだろうか。RoboCarを購入して研究を開始して即、電気自動車を作れるようになるというわけでもないだろうが、5年後、10年後の自動車業界には確実に影響を与えるのではないだろうか。RoboCarの登場によって、家電量販店で電気自動車を買えるようになる日が来るのも、思ったより先の話ではなくなったのかも知れない。



(デイビー日高)

2009/6/12 14:41