Make:Tokyo Meeting 03レポート

~創意工夫&マッドサイエンス&冗談技術のカオス的品評会


初日の校庭の様子。かなりの人手だった

 Make誌を発行するオライリー・ジャパン主催による、創意工夫の心意気にマッドサイエンスと冗談技術を隠し味としてまぶした、ものづくり系品評会「Make:Tokyo Meeting 03」が5月23日(土)、24日(日)に開催された。第3回となった今回は、クリエイター養成機関デジタルハリウッド・八王子制作スタジオの校舎、校庭、体育館で実施。ロボット系のほか、面白かったものをピックアップして紹介する。

ロボット関連も複数が出展

 今回もロボット関連作品が複数出展しており、中でも面白かったのは、ROBO-ONEの第1回から出場しているB作さんの佐藤ロボット研究所による簡易無方向性ロボット「エンドレスさとぼ」。Robot Watchでは、「わんだほーろぼっとか~にばる・ぷち」で無類の強さを発揮した多足ロボットとして既に紹介済みだが、そのシャカシャカぶりや、ひっくり返ってもすぐ元通りに戻れたりする、抜群の安定性は必見なので、改めて紹介する。その小気味いいような、不気味なような(笑)、見事な多足歩行をご覧いただきたい。

 ちなみに、プログラムで制御せず、オペレータが直接ラジコンのプロポで操作して一歩ずつ歩かせる「毘夷ウォーカー」も出展。毘夷ウォーカーはオペレータのリズム感と正確な操作がダイレクトに歩行に反映されるのが特徴だ。これで2m走などのアスリート系競技を行なえば、完全なオペレータの腕前勝負となるので、それはそれで面白いかも知れない。B作さん自身は、初心者が、プログラムで制御する2足歩行ロボットの製作に入る前に、こうしたシンプルな構造のロボットを作ってみることがオススメしたい、ということである。

【動画】シャカシャカと動く様は小気味いいような、不気味なような感じ【動画】エンドレスさとぼは、ひっくり返ってもすぐ元に戻れる機構を搭載【動画】毘夷ウォーカー。歩かすのはすべてオペレータのスティックさばき次第なので、如実に腕前の差が出る

 アクアモデラーズ・ミーティングブースで展示されていたのが、水中ロボットやラジコン潜水艦。防水機構を備え、水中に潜行しての移動も行なえるラジコンたちだ。潜りすぎると電波が届かなくなって操縦不能になってしまうそうだが、中には5m潜っても問題ないという素晴らしい性能を持った機体もあるという。今回は、潜水艦や水中ロボットなどを実際に大型のツールボックスのような物に水を張ってその動きを披露していた。

 水中ロボットは亀のようなイメージで、手足のように見える左右2本ずつ放射状に伸びているフィンがポイント。フィンにはねじれが入っているので、ボディ自体が上下方向に移動できるスクリューそのものというわけだ。この仕組みにより、ロボット本体を回転させるだけで潜水・浮上を行なえる。

 通常の水中ラジコンの場合、前後左右に加えて潜水・浮上の上下の動きも加えた3チャンネルが必要になるそうだが、この水中ロボットは2チャンネルで済むため、一般的なカーラジコンのプロポで間に合うというメリットも持つ。

 スクリューは左右に計2つあり、それぞれ別個に180度向きを変えられるので、同一方向に揃えれば前進・後進の推力になり、前後に振り分ければボディを回転させられるというわけだ。

 ちなみに水中ラジコンというと、なかなか場所がなくて楽しむのが大変かと思われるが、アクアモデラーズ・ミーティングでは現在、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の理解・協力を得て、神奈川県横須賀市にある同機構の潜水訓練プールなどを利用して、月に1回ほどのペースでミーティングを実施中。また、横浜では市営プールを運営していない冬場に、有料で貸し出してくれるそうで、そこでも行なっているそうだ。ちなみに次の機会は、6月14日開催の「水中ビークル・フリーミーティング in JAMSTEC」。水中ロボットやラジコンにロマンを感じるという人は、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

【動画】水中ロボットの動作の様子【動画】ラジコン潜水艦の動作の様子水中ロボットとして改造された量産型ズゴックもあったが、残念ながら現在は修理中で展示のみ
エイのようなスタイルの水中ロボット。こちらも整備中で当日は泳げず水中ラジコンの潜水艦の内部。注水して潜水するなど本物と同様の仕組みを備えている

そのほかのロボットたち

 第1回の開催では、搭乗型歩行ロボット「フッタウェイ2」や犬型ロボット「エッヂ」などを出展し、目玉となっていたKIMURAブース。今回の新作は、KIMURA工房を運営するMasa Kimuraさんが現在ハマっているという、ペーパークラフト系のロボットを展示した。ただのペーパークラフトではなく、ダイナモを回すと発電できる手動発電機で動かす電動ペーパークラフトたちだ。

【動画】ペーパークラフトその1。ダイナモで発電するのでいい運動にもなる?【動画】ペーパークラフトその2。こちらも要発電【動画】こちらはゼンマイ式
フッタウェイ2。後部に搭乗して歩行可能。一度乗ってみたいロボット犬のエッヂ

 坂上徳翁さんと石渡昌太さんのNoRAブースで展示されていたのが、雪だるまのようなロボットの「スファエラ」。プルプルと動いていた。岩崎修さんと毛利朋子さんのエレキテキトロニクステッチのブースで展示されていたのは、マスクロボット。ファンタジー系の女性の頭部なのだが、マスクがピコピコ動いていた。とにかく、同イベントの特徴は、テクノロジーを利用しているが、「これはいったい何?」みたいなものが多いことも特徴で、まさにこのマスクロボットはその代表的な1体といえる。

 それから、芝崎郁さんが展示した「Totter」は、内部に機構を備えているので自立的に動き回れる起きあがりこぼし。こちらは、卵形の状態と、半分にわけて、内部の機構の動きが見える状態と2バージョンを録画させてもらった。そのほかにも何体かロボット系の出展があったのだが、タイミングが合わなかったため、また次の機会に紹介したい。

【動画】Noraブースのスファエラ【動画】ちょっと不気味な感もある(笑)マスクロボット【動画】Totterの動く様子
【動画】Totterを半分に割った状態での動く様子Totterの内部メカ

 また、今回はホビーロボット系の企業も出展。ヴイストンは「Beauto」シリーズなどの販売などのほか、初日にプレゼンテーション「H8マイコン搭載CPUボード『VS-WRC003』を中心にした製品の特徴や使用事例」も実施。共立電子産業シリコンハウスラボラトリーも「プチロボ」シリーズのデモや、センサー・半導体などの販売を行なっていた。

初出展のヴイストンはプレゼンも実施したシリコンハウスラボラトリーブースではプチロボのデモやセンサーなどの販売を行なった

マッドサイエンス色あふれる(?)豪快なデモンストレーションたち

 続いては、ロボット関連ではないが、マッドサイエンス色が感じられるデモンストレーションを紹介しよう。今回は会場の立地場所の周辺に一般の民家などがあまりないため、大きな音を出しても大丈夫だったことから、これまでも展示はされていたがあまり大々的なデモンストレーションをしてこなかった製作物も、まさにその性能を全開にして披露していた。

 まずは、高校生のKさん(高校生のため本名は伏せて掲載)のHTLAB.NETのジェットエンジンから。ホームセンターで買ってきたパイプや消火器、ガスボンベなどを利用して作ったハンドメイドという驚異的な一品。点火は手持ちのバーナーなどを駆使して行なうのだが、その際の炎がハデなことこの上ない。風が強めだったこともあり、またかなり微調整が必要なことから、ちょうど撮影した時はなかなか点火しなかったのだが、作業開始から約5分で見事ジェットを噴射。なかなかの爆音であった。ちなみに設計はかなりアバウトなので推力は大して発生しないそうである。なお、Kさんは大学受験ということでで、しばらく出展をお休みするということだが、ぜひ大学生として次々回くらいには復活していただきたい。お待ちしております!

ハンドメイド・ジェットエンジン吹き出す炎5mぐらい離れていたが、それでもかなり熱かった
【動画】ジェットエンジンの点火に成功したところ。爆音をご堪能あれジェットの熱で赤くなっているのがわかるだろうか

 続いて校庭でのデモは、PEAKS MOPED'Sが開発している「ホンダ ピープル カセットボンベ号」だ。かつてホンダが実際に発売していた(1984年に発売開始)ペダル付きのスクーターで、ある意味では最も「原動機付自転車」テイストな1台を、LPG仕様、しかもカセットボンベで走れるように改造した1台である。マッドサイエンスというよりは、実用性が高いのだが。なんでも、車内に持ち込むと、ガソリン臭くて嫌だったため、LPGカセットボンベ仕様に改造したそうである。

 ちなみに、ナンバーを取得すればちゃんと公道も走れ、なおかつ公共機関にも持ち込めるという優れもの。PEAKS MOPED'Sでは、現在も販売しているそうだ。1本のガスボンベで40分から1時間ぐらい走行が可能。エンジンはLPG仕様にする関係で改造しているため、馬力やトルクは不明だそうだ。24ccで、最高時速は42km/hとなっている。ちなみに記者も乗らせてもらったが、重たいせいか(笑)、途中でエンスト気味に。結構漕ぐハメになった。実際のところは、ガスボンベの残り容量とかの関係で、LPGガスがプラグに被ってしまうことがあり、エンストが発生したりするそうである。重いのが原因ではないということで一安心。

ホンダ ピープル カセットボンベ号ホンダ ピープル カセットボンベ号を正面からガスボンベとエンジン部分
ハンドルは結構狭い。黄色いレバーがアクセル【動画】発進していく様子。最初は漕いだ方が確実らしい【動画】結構スピードが出てきたところ。立派なスクーターである

 そして、マッドサイエンスな香りが漂うガジェットといえば、やはりテスラコイル。放電しながらテスラコイルが音楽を奏でる、一種のミニライブを行なっていたのが、鈴木ヒロシさんと荻野剛さんのDRYROOM&スパーク2009だ。体育館の舞台にブースを設け、緞帳を降ろして暗くしてあったので、その放電ぶりは肉眼ではかなり見やすかった。写真だとかなり粗くなってしまったので、あらかじめご了承いただきたい。

テスラコイル。マッドサイエンティストを名乗るには必須のガジェット(笑)放電しているところ【動画】テスラコイルでの演奏の様子

 「マイクロコントローラでクールなものを作る」と題して、「ムードランプ」などのセンサーとLED、マイコンを使った小型デバイスや、電子工作系ワークショップを開いていたのが、Mitch Altmanさん。テスラコイルと並んでマッドサイエンスな香り漂う製作物も展示され、試した来場者から「これはアブない(笑)」と喜ばれていたのが、その名もシンプルな「Brain Machine」。ゴーグルの内側にLEDがセットされており、それが一定時間ごときに切り替わる形でさまざまなパターンで明滅を繰り返すという、危険な香りが漂うデバイスだ。

 耳もヘッドホンをしてホワイトノイズを聞かせてくれるという念の入れようで、脳をリラックスさせてくれいるのか、頭を真っ白くしたところで何か秘密の指令を吹き込んでいるのか、人体実験の雰囲気である(笑)。なお、長時間やりすぎると、頭痛がするので注意(実際、てんかんの発作の危険性がある人は使用できない)。

来場者に協力いただいたBrain Machine装着の図。かなり気持ちよく脳に来ていそうだけど、ヤラセ(笑)電子工作教室の様子【動画】電子工作キット「ムードランプ」。手をかざすとライトの色が変わり、光のウェーブのように見える

テクノロジーの変な使い方(?)系の展示

 もともと、テクノロジーの変な使い方(悪い意味ではなくて)=冗談技術の見本市といってもいいMake Tokyo Meetingだが、女性発明家も結構おり、ごうだまりぽさんもそのひとり。彼女が出展したのが「Space Bike」だ。実際にロードレーサー系の自転車を持ち込んで、その後輪をジャッキアップして実演していた。ペダルを漕いで後輪が回転すると、その回転数を検知し、「Google Earth」上を飛行機兼ロケットのように飛び回れるというシステムである。本来はエアロバイク用に開発した人力飛行機シミュレータだそうで、風景の変わらない部屋中で漕いでいると飽きてしまうから、Google Earthで世界中を旅してしまおうというわけだ。漕いでいるとどんどん上昇して衛星軌道まで上がっていき、休むとグライダーとして滑空しながら徐々に高度が下がっていくという仕組みで、ヨーロッパ当たりまでは1時間ぐらいで行けるとか。そのほか、「Google Street View」上で擬似的にサイクリングすることもできるそうである。

ロードレーサーを漕いで自らデモをみせてくれるごうだまりぽさんいろいろなものを作っているようで、顔の前にかざしていたステレオカメラ

 手作りによる無段階キーボードのシンセサイザーを持ち込んで演奏していたのが、「Beatnic.jp」。鍵盤の代わりにテープが張ってあり、どこを触ってもその位置に相当する周波数の音を出す仕組みで、ドとレの間だけでもどれだけの音があるかわからないという具合だった。

無段階のキーボード。黒いテープの部分に触れれば、どこででも音が出る【動画】実際に演奏してもらった。一応、ドやレなどのところには印があり、引きやすくはなっている

 「多摩射爆場」として、ふたりで操作するラジコン戦車での対決の場を校庭に用意していたのが、濱原和明さん。「ATmarquinoで楽しいプロトタイピング」が、ブースの正式なタイトルなのだが、たぶんほとんどの人が多摩射爆場として覚えて帰ったはず(笑)。オープンソースハードウェアの基板「Arduino Diecimila」の互換ボード「ATmarquino」を用いて、市販ラジコン戦車を改造し、操縦手と砲手とふたりでコンビを組んで操作できるようにしてあった。ちなみに砲弾はBB弾を使用しているのだが、かなり威力があり、プラスチック製の的が一部破損していたほど(手製ジェットエンジンといい、Brain Machineといい、微妙に危ないものがあるのが同イベントの面白いところ)。ちなみに戦車は米軍のM1A2エイブラムスと独軍のレオパルド2 A6という、現在実際に運用されている最新の戦車であった。

多摩射爆場をかける、現代戦車で世界屈指の2台が激突。左がレオパルド2で右がエイブラムスコントローラ。車体と砲身を独立して操作するので、2人で操作しないと移動と攻撃を同時に行なえないえらいことになっている的。こんなちょっと危険な香りが漂うところもMake Tokyo Meetingらしいところ

 創意工夫、マッドサイエンス、冗談技術のカオス的なテクノロジー品評会の雰囲気の一端を少しでも味わっていただけただろうか。本当は全部を紹介したいところだが、タイミングが合わなくて撮影できなかったものもあるが、今回はこのようにチョイスさせていただいた。また次回も秋から冬ぐらいにはあるらしいので、ぜひとも次回は読者のみなさんにも直接足を運んでこの空気を堪能していただきたい。このカオス的空間は間違いなく味わう価値があると断言しよう。

 また、第1回、第2回の会場は、スペースを必要とするもの、騒音の大きなデモは行なえなかった。それが、今回は素晴らしい会場を選択し、それらのデモも行なえるようにしたことを評価しておきたい。都心から離れているので交通の便はやや難があるのだが、出展者側も心おきなくデモを行なえるし、来場者側もそれらを満喫できるので、今後もこうした郊外の学校のキャンパスを利用してほしいところである。



(デイビー日高)

2009/6/1 00:00