「自動車技術展 人とくるまのテクノロジー展2009」レポート

~自動運転ロボットや各種センサー、ドライビングシミュレータなどが多数集結


出展社数、小間数ともに減ってしまったが、それでもにぎやかといえる展示会だった

 5月20日(水)から22日(金)まで、パシフィコ横浜で「自動車技術展 人とくるまのテクノロジー展2009」が開催された。ご承知の通り、近年、自動車のロボット化は著しいが、それ以外にも興味をそそられる多数の技術を見られるのが、同展示会。不況の波が自動車業界を直撃し、なおかつここに来て首都圏でも新型インフルエンザ感染者が出るなど、厳しい条件が重なったため、来場者は前年比26%減となったが、それでも3日間通して51,446名が来場した。なにはともあれ、面白かった技術はいくつもあったので、それらをピックアップして紹介しよう。

ダイナテックが扱う無人走行のためのドライビングロボットシリーズ

 車両ダイナミクス解析を手がけるダイナテックが、今回メインに展示していたのが、英Anthony Best Dynamicsが開発している「ドライビングロボット」シリーズだ。ステアリング、アクセル、ブレーキの3体のロボットと、それらを統括するPCによって構成され(ロボットはどれか1体だけもしくは2体だけの使用も可能)、無人運転も行なえるというシステムである。アメリカでの無人ロボット車レース「Urban Challenge」に出場した車両のように、人や一般車などの認識まではできないが、サーキットのようなクローズドなコースや、街中でも人や他のクルマなどがなければ、単独でコースや道に沿って目的地までの無人運転が可能だ。

 また、プロのドライバーでもできないような急激なハンドルさばきなども行なえるし、クラッシュなどを伴う危険な走行に関しても躊躇することなく実行できるので、日本の自動車メーカー各社も既に導入済みだという。今後は、ぜひ人や他車を認識するためのセンサーやプログラムを搭載し、街中でも使用できる完全自動運転システムを開発していただきたいところである。

ドライビングロボットのほか、各種センサーも取り付けたフォルクスワーゲンを展示運転席はご覧のとおり。ステアリング、アクセル、ブレーキロボットや統括するノートPCがある助手席側から見たところ
ステアリング部分のアップ。ステアリングの下側にロボットが装着されている足下のアップ。アクセルとブレーキにアームが装着されているのがわかる後部座席には、ロボットの電源などの心臓部が搭載されている
【動画】ステアリングがくるくると自動で動く様子。まるでK.I.T.T.が操作しているよう【動画】アクセルとブレーキはペダルを踏む形で、基本的にクルマ側の機構をそのまま利用する形だ

東芝が参考出展した運転者状態認識システム

 東芝の今回の目玉展示といえるのが、参考出展した「運転者状態認識システム」だ。読んで字のごとく、ドライバーの状態を認識し、安全で快適な運転環境を提供するシステムである。東芝独自の画像認識および音声認識技術を活用し、ドライバーの状態や嗜好に応じた情報提供を行なう仕組みだ。ドライバーの顔の向きから視線を検出し、注視している装置やエリアなどをシステムが認識していることを教えてくれるのだが、今回はそれを体験できるようになっていた。さらに、個人認証や開眼状態検出、表情認識などを画像認識で行なう予定だ。それから、ドライバーの状態を認識する材料としては、音声認識による音声も用いる仕組みとなっている。これらに加え、クルマの各所に備えられたセンサーやインフラからの情報(接近車両および歩行者、交通情報、地図情報など)も活用して、運転者状態の総合的な認識を行ない、警報音、ディスプレイ、音声アナウンス、エアコン、音楽といった手段を使って情報の提供を行なっていく形だ。

 今回の展示内容はドライバーの顔の向きと視線検出を行なうわけだが、仕組みとしては、まずドライバーの頭部全体のワイヤーフレームモデルを作成するところから始まる。独自の画像認識技術を用いて、作成したワイヤーフレームモデルと、その時々の頭部の映像を照合することで、ドライバーの顔の向きを推定。続いて、顔の向きをもとに視線の方向を推定し、最終的に注視方向を推定するという具合である。

運転者状態認識システムのデモ機自分の顔のワイヤーフレームが見られて、ちょっと面白かった

 運転席を模したデモ装置のダッシュボード上は、左から左サイドミラーに相当する左後方視界モニタ、ステアリング正面にスピードメーターおよびタコメーターなどのインストルメントパネル、その右側にカーナビ画面、カーナビ画面の右側には右サイドミラーに相当する右後方視界モニタ、カーナビ画面の下側(ステアリング右横)にはオーディオ画面が配置されている。ドライバーの視線通りに認識しているかどうかのキャリブレーションを一度実施するだけで、あとはどのデバイスを見ているかを正確にシステムが認識しているところを見せてくれた(各モニタを見ると、そのモニタが黄色い縁取りになる)。また、正面にはフロントウィンドウを模して風景を映しているスクリーンがあるのだが、そこでもどの辺を見ているかがわかる仕組みだった。

【動画】インパネ&ダッシュボード上の各種モニタの視線を検知しているところ【動画】フロントウィンドウ越しの前方風景も含めての視線検知の様子

エフ・アイ・ティー・パシフィックは展示人体ダミーで内部も披露

 ロボットというわけではないが、かなり外見的には通じるものがある、衝突安全実験用人体ダミー。エフ・アイ・ティー・パシフィックは、米Denton ATD社製衝突安全実験用人体ダミーを扱っており、今回は、身体の半分を縦に割って、内部を見せるカットモデルを展示していた。腕部や脚部のフレームは関節構造を有しており、センサー用のケーブルも見えるので、そのままサーボをつければ動きそうな雰囲気である。ちなみに、男性モデルの顔はDenton ATDのまた別の「FOCUS」という製品。目などにセンサーを搭載しており、衝突時の頭部への衝撃を測定できるようになっている。

男性型のカットモデル首から胸の辺りのアップお腹の辺りのアップ
ヒザの辺りのアップ頭部への衝撃を測定できるFOCUS。ちょっとユーモラスな骸骨という感じだ女性型のカットモデル

各社の最新センサー&スキャナ

 人とくるまのテクノロジー展では、毎年多数のセンサーやスキャナなどが展示されるが、今年も多数を見かけた。その中で、面白かった製品をいくつかピックアップしてお届けしよう。

 エプソンが参考出展していたのが、「感情認識デバイス」。音声の韻律情報から非言語的に発話者の感情を認識するという装置だ。「喜び」「怒り」「悲しみ」「平常」「笑い」「興奮」のそれぞれのレベルを50段階で表示するという仕組みで、認識エンジンにはAGI社が開発した感情認識技術「ST」が搭載されている。ちなみに感情認識に関しては、音声認識のような膨大な辞書や登録が不要であるという。

 応用例としては、車内の人同士の会話から感情を認識し、興奮していたり殺伐としていたり(怒っている)する時は音楽やアロマ(香り)を流してリラックスした環境を作るといった、車内のムードをいい方向へ持っていくのが1つ。もう1つは、タクシーの乗客の音声から感情を認識し、不審な点がある場合は、ドライブレコーダーで車内の録画を開始するといった具合だ。実演してもらったのだが、周囲がうるさすぎるのか、チューニングがまだ完璧ではないのか、残念ながら今回は「悲しみ」評価がどうしても高くなってしまうようだった。しかし、これはぜひパートナー型のロボットには搭載してもらいたい技術である。

感情認識デバイス。将来のパートナー型のロボットには、これを積んでいただきたい本来は6つの感情がそれぞれ50段階で表示されるが、ここでは「笑い」が少なかったため、省略【動画】実際に話しかけて、感情を読み取る様子。今回は「悲しみ」がどうしても強いらしい

 そのほか、エプソンブースでは、直接端子を接触させたりプラグを差し込んだりせずに充電できる「無接点電力伝送モジュール」も展示。充電器の上に携帯電話などを置いておくだけで充電できるので、とても便利そう。なお、登録されていないほかの携帯電話を置いても、充電は開始されない仕組みだそうだ。また、間に異物が挟まっている場合は、加熱による発火などを防ぐため、安全機構として充電が停止するようになっている。実際にその様子を動画で撮影させてもらった。また、広ダイナミックレンジの「HDRカメラ」も参考出展されていた。記者のカメラだと、画面は白く飛んでいて、なおかつ周囲は暗くなってしまうような明暗差のある被写体でも、しっかりと映っているのがわかるはずだ。

「無接点電力伝送モジュール」【動画】異物が挟まると給電が停止する様子
エプソン製「HDRカメラ」(右)と、通常のCCDカメラ。このように被写体が明るすぎると周囲が暗くなるHDRとCCDの画像比較。HDRカメラならかなりきれいに映る

 数々の計測装置を展示していたのが、ケン・オートメーションだ。その内の1つが、独Breuckmann社の3次元形状計測システム「naviSCAN3D」。なかなかデザイン的にも魅力的な1台である。クルマそのものなど大サイズの物体を3次元計測する場合、多くの機器では分割して測定するので、後ほどデータの合成をできるようにマーカーをいくつも貼り付ける必要があったりする。しかし、naviSCAN3Dの場合は、「Metronor DUO」という2台でワンセットのCCDカメラがnaviSCAN3D本体の位置計測を行なうので、マーカーは一切入らない。2台のカメラでnaviSCAN3Dがどの角度からどのぐらいの距離でスキャンしたかといったことが把握できるので、シームレスに計測できるというわけだ。

「naviSCAN3D」のスキャナ部分ブースでは、撮影を再現「naviSCAN3D」自体の位置計測を行なう「Metronor DUO」のカメラの1台

 ケン・オートメーションが最も得意とするのが赤外線カメラおよび赤外線サーモグラフ。今回は、仏CEDIP社のFLIR System ATSブランド「SC5000」を展示していた。赤外線サーモグラフ映像をリアルタイムで撮影できるカメラで、これを利用すればクルマの部品の応力検査などを非破壊的に行なえるようになる。無理な力がかかっている部品がある場合、そこだけ熱が上がるため、すぐにわかるので、わざわざ試験をして負荷をかけてどこが壊れるかを調べなくても済むというわけだ。

スケールモデルを用いて、実際に左前輪を振動させて負荷を与えて部品の熱の上がり具合をリアルタイム表示右が赤外線画面。ピンク色の長い直線がサスと思われる。振動させられて熱が上がってきているというわけだ

 スター・エレクトロニクスは、世界中のさまざまな半導体製品を取り扱っている商社。今回は、ベルギーMelexis社の各種センサーを中心に展示していた。面白かったのは、加速度センサー「MLX90609-N2」の紹介の仕方。その性能を見せるため、Robot Watchの読者にはお馴染みのヴイストンからリリースされている二輪車型ロボットの倒立振子制御学習キット「Beauto Balancer」を利用していたのである。どう利用したかというと、本来搭載されている加速度センサーを外し、Melexis製品の性能をアピールするのに使用していたというわけだ。

着ぐるみでわからないが、中味はヴイストン製「Beauto Balancer」中央のチップがMelexis製加速度センサーの「MLX90609-N2」

 米Tekscan社が展示していたのは、薄型のシート状の圧力センサーのシリーズ「I-Scan」だ。デモで行なっていたのは、テニスボールを押しつけては、その圧力分布パターンをモニタにリアルタイムに表示するというもの。さまざまな場所で使用でき、クルマの場合でも、ブレーキのパッドとローターの接触やタイヤの接地の様子など、用途は多数ある。さしずめ記者なら、座り方にクセがあるので(結果、腰痛につながっている)、イスに貼り付けて、どちらに重心が偏っているのかリアルタイムでモニタに表示させておきたいところ。いろいろと一般生活でも使いでのありそうなセンサーであった。

「I-Scan」さまざまな形状をした薄型シート状センサーのシリーズ【動画】実際にテニスボールを押し当てて、その圧力分布パターンをリアルタイムで表示している様子

 日東紡音響エンジニアリングが展示していたのは、全方位音源探査システム「Noise Vision」。音源を可視化するシステムである。球形のマイクロフォンであらゆる方向からの音声信号を収録して周波数分析を行ない、モニタ上に音源(どこが最もうるさいか)を色の重ね合わせで表現するという仕組みだ。使用用途としては、エンジンなどのどの部分から最もノイズが発生しているかといったことを調査するのに使う。試しに動画を撮影しながら、スタッフの人に手を叩いてもらったのだが、その方を中心に真っ赤になっていた。

マイクロフォンモニタ。この時はすぐ近くで騒音はないので赤い部分はなし【動画】実際に手を叩いてもらったところ。赤ければ赤いほどうるさいとなる

 日本精機が展示していたセンサーは、「非接触式角度センサ」。複数個のホール素子で磁力変化を探査することで、150度の高温環境下で360度の位置を検出できるというものだ。また、同社では、ヘッドアップディスプレイ(HUD)なども展示していた。HUDはまだわずかだがすでに高級車に搭載されており、メーター類と異なってフロントウィンドウから目を離さなくて済むので、今後はシステムの価格が下がってくれば、大衆車にも搭載されてくるかも知れない。

「非接触式角度センサ」ヘッドアップディスプレイ

複数のメーカーがドライビングシミュレータを出展

 近年は、コックピット下に複数のアームを備え、クルマの挙動を6軸モーションなどでリアルに再現するドライビングシミュレータが開発されているが、今回も複数の企業が出展していた。ここ最近は、小型シミュレータの筐体としては、スバル(富士重工)の子会社のスバルカスタマイズ工房製ドライビングシミュレータがちょっとしたトレンドのようだ。特許技術となっている電動6軸モーションユニットのほか、床面積2,040×1,330mmという小スペース、その上のコンパクトな筐体などが特徴で、複数のメーカーがこれをベースにして自社の技術などを加えたドライビングシミュレータとしているようである。ちなみにメインの制御装置はPCで、OSはWindows XP。

 日産の「日産ドライビングシミュレーター」も、ベースはスバルカスタマイズ工房製ドライビングシミュレータ。日産の安全運転支援技術の「レーンデパーチャプリベンション」と「インテリジェントペダル」の2つを体験できる内容で、それ用にカスタマイズが施されている。ちなみにレーンデパーチャプリベンションとは、レーンから逸脱しそうになると、それをサポートしてレーン中央に戻るような動きをクルマが自動的にしてくれる機能。インテリジェントペダルは、車間距離調整のため、アクセルを自動的にクルマがゆるめてくれるという機能だ。両機能とも、現行車種の「フーガ」に搭載されている。

 試してみたところ、レーンデパーチャプリベンションは「働いているかな?」という感じの、気がつかないうちに車両が制御されているゆるやかさだったが、インパクトがあったのがインテリジェントペダル。前走車にぶつかりそうな危険が出てきた時などは、自動的にアクセルペダルが戻って速度を落とすので(足を持ち上げるほど)、クルマに意志があるような感覚がある。人によっては「クルマが逆らっている」という感覚を持つかもしれないが、安全運転機能としてはいい機能だと思うし、個人的にはロボットっぽくて面白かった。ここまでの機能が実現してきているのだから、そろそろ自動運転までこぎ着けてほしいところである。

日産ドライビングシミュレーターの筐体コックピット部
画面。画像は淡く、きれいな感じに仕上げられていたクルマが自分でアクセルを戻そうとするインテリジェントペダル

 フォーラムエイトは、景観作りのソフトやそれを利用したドライビングシミュレータシステムを販売している企業。今回は、従来とは異なり、スバルカスタマイズ工房製ドライビングシミュレータをベースにした新型の「UC-win/Road 体験シミュレータ」を展示した。こちらは3面マルチスクリーン仕様となっており、視野がとても広いのがポイント。シミュレータの内容は、高速道路や街中を走って危険な状況を体験できるという内容である。日産ドライビングシミュレーターと同じスバルカスタマイズ工房製なわけだが、コックピット内はかなり異なっており、カスタマイズを容易に行なえることがうかがえた。搭載ソフトももちろん異なっており、こちらはいうまでもなくフォーラムエイト製。日産ドライビングシミュレーターが淡くきれいさを求めた感じなのに対し、こちらはコントラストがくっきりとしたCGらしさがより強い画像となっている。

新型「UC-win/Road 体験シミュレータ」3面マルチスクリーンが特徴。ステアリングやインパネ、足下なども日産とはかなり異なる
ステアリングは伊momo社製。実はスーパーカー?画面。コントラストがくっきりとし、クルマなどが四角い感じで、結構CGっぽさがあふれている

 三菱プレシジョンは、デスクトップレベルから、研究所での広大なスペースを利用した360度スクリーンやリニア駆動モーションなどを利用した大型機まで、さまざまなタイプのドライビングシミュレーションシステムを手がけているメーカーだ。「D3sim」シリーズを今回も出展、スクリーンは左右120度ぐらいだが、サイズ自体はかなり大きく、迫力が最もあった。また、アクセルのレスポンスがいいのがこのシミュレータの特徴で、実に爽快感がある。つい、街中の走行なのに100km/hオーバーで赤信号を無視して突っ走り、最後はスピンアウトという、暴走行為を楽しんでしまった(笑)。ぜひ360度スクリーンのシミュレータを体験してみたいものである。

今回は固定式のコックピットを設置360度に比べれば狭いものの、120度ほどのスクリーンはサイズ自体もあって視野も広く、実車感覚に近い

 以上、個人的に見聞きして、体験して楽しかったり興味を持ったりした機器を紹介してみたが、いかがだっただろうか。このほか、三菱重工ブースにはwakamaruがいたり、KUKAブースは大型ロボットアームによるデモを実施していたりと、お馴染みのロボットたちの姿がいくつも見受けられた。今後、ますますロボットとクルマは接近していくと思われるので、来年はどんな技術が出展されるのか、今から楽しみになってしまう展示会であった。



(デイビー日高)

2009/5/28 15:44