「メディカルショージャパン&ビジネスエキスポ 2009」レポート

~患者シミュレータや内視鏡下手術支援ロボットなどがデモを実施


手術用ロボットや患者シミュレータなどが複数展示された

 14日(木)から16日(土)にかけてパシフィコ横浜で、ロボット関連の製品も含む各種医療・福祉機器などの展示会「メディカルショージャパン&ビジネスエキスポ 2009」が開催された。ここでは、そうしたロボットテクノロジーを応用した医療関連機器を中心に紹介していく。

高機能患者シミュレータなどを出展したIMI

 医師にしろ、看護師にしろ、救命士にしろ、医療現場でのトレーニングで難しいのは、任意のタイミングで目的の傷病例を用意することはできないということ。また、患者の協力を得る必要があり、倫理的な問題もつきまとう。そこで、現在はロボットテクノロジーを応用した患者シミュレータが開発されており、アイ・エム・アイ(IMI)が扱う「ECS」もそんな製品の1つだ。機能的には、心音・呼吸音・腸音の聴診ができたり、脈や血圧測定が可能だったり、まばたきなど20に及ぶ。それにより、麻酔の導入から覚醒まで、脳卒中初期診療、実際に除細動器による通電を行なう心臓マッサージ、人工呼吸器のトラブルシューティングなど、多数のシチュエーションのトレーニングに利用可能だ。実際に手首などを触ると脈がわかるし、呼吸で胸やお腹が動いているなど、かなりリアルな作りが特徴である。

高機能患者シミュレータECS。本来は寝かせて使うが、関節を曲げられるので、今回は車イスで展示顔のアップ。涙を流したり、よだれを垂らしたりといったことまでシミュレート
胸部アップ。電気ショックの訓練もできるし、心臓近辺の一部の手術の訓練にも利用可能な仕組み【動画】ECSが自発呼吸しているように胸などが動いているのがわかる

 また、同社では、乳幼児に異常が起きた場合に、両親が緊急処置をするためのトレーニング用ロボットとして、クマのヌイグルミ型の「CPR Teddy」も用意。リアルな乳幼児の姿をしていると、普段家の中に置いておくには適していないので、こうしてテディベアのヌイグルミにしてあるのである。胸にハートマークが描かれていて、心臓マッサージの胸骨圧迫の位置がわかりやすかったり、適度な圧迫の時だけライトが点滅したり、人工呼吸時の胸の隆起を確認できたりといった機能を持つ。

 そのほか、同社では、ビデオ機能付きの硬性挿管用喉頭鏡「エアウェイスコープ AWS-S100」なども扱う。「ER 緊急救命室」などの医療ドラマを視聴されている方ならご存知かと思うが、よく心肺停止状況の傷病者や麻酔時の患者の呼吸を確保するため、「挿管」といって、管型の医療用具を口の中に突っ込むが、あの管の最新モデルがこれ。人によって気管の太さなどが微妙に異なるためにかなりコツがいるのだが、同機器の場合は先端につけたライト付きのカメラで口腔内の様子をモニタで見られる。1秒を争う緊急事態や、経験の浅い人でも素早く挿管を行なえるようになるというわけだ。

乳幼児に対する心臓マッサージや人工呼吸の訓練を行なえるテディベアのヌイグルミ「CPR Teddy」硬性挿管用喉頭鏡「エアウェイスコープ AWS-S100」モニタで口腔内の様子を見られるので、挿入すべき気管もすぐわかる

新生児ロボットや分娩シミュレータなどを扱うアクティブメディカル

 各種医療シミュレータやロボットなどを扱うアクティブメディカル。今回は、「ノエル分娩管理シミュレーター Newborn」に付属する新生児ロボットを展示していた。新生児ロボットは、プルプルと震えたり、鳴き声を出したりといった新生児らしさを再現しているだけでなく、チアノーゼを起こすといった、実際に新生児に起きうる症状をPCでコントロールする形でシミュレートできるようになっている。これを用いることで、実際の赤ん坊を使わずとも、新生児に関する医療トレーニングを行なえるというわけだ。

 ちなみに、分娩シミュレータは驚くほど本格的な仕組みになっており、まずお腹の大きな妊婦ロボットがある。帝王切開のトレーニングも想定されていて、お腹をカバーのように取り外して内部を見られるのだが、中にはちゃんと子宮があり、その中には胎盤や新生児ロボットをセットできるようになっている。普通分娩のトレーニングも行なえ、新生児ロボットを押し出す機構が備えられており、リアルに産道を通って股の間からちゃんと新生児ロボットが出てくるという具合。記者、実は14年ほど前になるが長女の出産に立ち会った経験があるのだが、思わずその時の様子を思い出すほどリアルな作りであった。たぶん、あまりにもリアルな形状をしているので、もし今回実物が展示してあったとしても、Robot Watchとしては写真の掲載は無理だっただろうと思われるほど、インパクトのある医療シミュレータであった。

新生児ロボット。頭の横にあるのが、コントロール用のハンドヘルドPC【動画】新生児ロボットがぴくぴく動いたり、チアノーゼを起こしたりする様子

内視鏡下手術支援ロボット

 2003年7月に大阪商工会議所が設置した「次世代医療システム産業化フォーラム」。2005年6月に経済産業省の広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業に採択されて現在に至る同フォーラムは、産学医、産産の連携を行ない、医療・バイオ機器などの開発を促進している。医療ロボットもその中の1つで、今回は「内視鏡下手術支援ロボット」が展示されていた(今回は実物の展示はなかったが、「バイオミメティック筋電義手」や「採血・注射練習用の人工腕」なども開発されている)。大阪大学大学院基礎工学研究科機能創成専攻の宮崎(文夫教授)研究室と、同大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻消化器外科に、大阪商工会議所と大阪産業振興機構が仲介する形で、大研医器株式会社の商品開発研究所が参加し、医工および産学官の連携体制で開発が進められているのが、同ロボットである。

 内視鏡下手術は、患者の腹部や胸部に小さな数個の穴を開け、カメラ(内視鏡)と鉗子などの手術器具を用いて行なう外科的処置。開腹・開胸手術に比べると、低侵襲なので手術時に患者の身体にかかる負担が少なく、なおかつ術後の痛みも少ないし、美容面でも優位といったメリットがある。ただし、手術を行なう部位を直接見られるわけではないため、内視鏡にどれだけ手術操作に適した画像を映し出せるかが、安全かつ円滑に行なうための大きなポイントだ。現状では、スタッフの1人として手術室に入るカメラ助手が内視鏡を操作して執刀医に画像を見せているわけだが、経験不足によって必要な箇所を見せられずに進行に支障をきたしたり、長時間の手術のために疲労で安定した作業ができなくなったりといった問題が生じることもある。それを、ロボットでアシストしようと開発されているのが、この内視鏡下手術支援ロボットというわけだ。

 内視鏡下手術支援ロボットに求められるのは、安全、清潔、使いやすさ。それを実現するコンセプトとして、以下のものが考えられている。安全面では、ロボットが患者や医師にトラブルなどの何かの異常事態が発生して危害を加えようとした場合には、機構的にその力を逃がす仕組みを備えること。清潔面では、清潔野内で稼動する部分に関しては、1回限りの使用のディスポーザブルとすること。使いやすさの面では、小型軽量で、セットアップなどを容易に行なえ、執刀医の邪魔にならないこと。そして、安全、清潔、使いやすさすべてに関わる物として、滅菌済みで医療機関に提供することで品質保証を行なえ、医療機関でのメンテナンスを不要とすること、がある。

 それらのコンセプトをもとに開発されている内視鏡手術支援ロボットは、ジョイスティック・インターフェイス部、制御装置部、マニピュレータ部(ディスポーザブル式)で構成。アクチュエータに大きな特徴があり、特別開発の滅菌可能な水圧駆動型リニアアクチュエータが利用されている。また安全性の確保のため、アクチュエータの1つが暴走した際に暴走した動きを制御できるよう、マニピュレータは6自由度のパラレルメカニズムが採用されている。なおかつ、パラレルメカニズムは腹腔内などの狭い空間において、シリアルメカニズムと比較して専有体積が小さくて済み、機構的にも小型軽量化、シンプル化を図れるというメリットを持つ。アクチュエータの駆動は、清潔野外のシリンダやポンプからチューブを通して送られる水量でコントロールされる形だ。モータなどを一切使用しないため、漏電の可能性がなく、安価でもある。ショックアブソーバーや最大3個の緊急停止スイッチなども用意され、安全面はかなり留意されているのも特徴。そしてインターフェイス部に関しては、音声認識や液晶タッチパネルのほか、自動操縦も検討中だ。

内視鏡下手術支援ロボットのデモ機このように、内視鏡手術は身体を大きく開けないため、負担が少なく、急速に普及している
デモでは、内視鏡がとらえた映像をこのモニタに実際に映していた【動画】内視鏡下手術支援ロボットの自動操縦をイメージしたデモ

THKブースでは東大製遠隔腹腔鏡下手術用スレーブ・マニピュレータを展示

 リニア・モーション・ガイド機器のパイオニアとして知られるTHKブースでは、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻の光石(衛教授)・杉田(直彦准教授)研究室で開発された「遠隔腹腔鏡下手術用スレーブ・マニピュレータ」が参考展示されていた。実際に動作させるデモはなかったが、目の前で見ることができた。THKでは、手術器具を鉗子アームや内視鏡アームなどのガイドラインを提供したそうである。

 同システムも、前述の内視鏡下手術支援ロボットと同様に、内視鏡下手術が急速に普及していることから生じている問題点を解消すべく開発されている医療機器だ。患者に対する負担は軽くなるが、執刀医に対しては高度な技術を要求するために負担が大きい点が内視鏡下手術の大きな問題点の1つで、それを軽減するため2つのポイントを重点的に設計・開発がなされている。まず1つ目は、執刀医が容易に操作できるようにすることが重要なことから、「セッティングの容易化」が掲げられた。もう1つは、助手の手術室における効率のよい作業を可能とすることも重要であることから、「手技をサポートする助手との共存」となっている。要求機能・制約条件としては、「患者の安全を確保していること」「手術環境に適合可能なこと」「内視鏡下手術で必要な手技を行なえること」「遠隔操作が可能なこと」だ。それらに対しては、患者に対する挿入点に対して機構的不動点を有する仕組みや、内視鏡視軸方向と術具挿入方向を一致させてあること、300×200×150mmにポート位置決めが可能なこと、腹腔内150×150×150mmの作業領域が確保されていること、寸法が1,300×900×1,750mm、総重量630kgとして手術室への運搬が容易となっていることなどで対応している。

 また、鉗子アームの術前位置決めは6自由度、術中駆動は7自由度。内視鏡アームの術前位置決めは4自由度、術中駆動3自由度。位置決めにおけるアームの干渉はもちろん回避されている。多自由度屈曲鉗子はアーム部にスライドイン/アウトする方式であるほか、アームの関節に配置された電磁ブレーキボタンによりロックが解除される仕組みであったり、姿勢軸の1つの自由度が平行リンク機構となっているのでハンドルで操作できたりするなど、容易な操作を実現している。

 豚を用いた遠隔手術実験も実施されており、胆嚢摘出手術が行なわれた。その際のネットワーク環境に対しては、時間遅延130msを付加して行なわれている。実験中は計3回のスレーブ・マニピュレータのセッティングを行ない、平均15分で完了。また、目標の間隔100mmよりも狭い範囲に各ポートを配置して手術を行なっている。結果、スレーブ・マニピュレータの手術室環境への適合性について確認できたという。

遠隔腹腔鏡下手術用スレーブ・マニピュレータ遠隔腹腔鏡下手術用スレーブ・マニピュレータを別角度からTHKが提供したガイドラインなどのアームの取り付け部のアップ

シャワー式介護入浴システムのシャワーベッドを展示していたパラテクノ

 ロボット技術が応用された製品ではないのだが、そのSFチックなデザインに惹かれてしまったのが、パラテクノの要介護者向けのシャワー式介護入浴システム「シャワーベッド」だ。シャワーベッド専用の電動昇降トロリーに要介護者が寝て、そのままシャワーベッドの中に押して入れてもらって、全身にローション入りのシャワーを浴びられるという製品である。トロリーは430mmまで下げられるので低床ベッドや車イス、ストレッチャーからの移乗・移載が行ないやすかったり、脇の下などシャワーが届きにくいところも、本体脇の介護窓から手を入れられ、ハンドシャワーで介護者が脇の下などを洗ってあげられたりと、至れり尽くせりの設計となっている。また、シャワー湯温はシャワーベッド搭載のマイコンが常時監視しており、断水・ボイラーの故障など万が一の事態が発生したり、操作ミスをした場合はシャワー噴射を停止させる安全機構が装備されており、冷水や熱水をいきなり利用者に浴びせてしまう心配は皆無となっている(通常のシャワー噴射開始時ももちろん適温)。

 なお、どのぐらいの体重まで利用できるか気になるところだが、トロリーは体重100kgの人が寝ても問題ないそうだ。さすがにシャワーの快適さまでは今回の展示会では体験できなかったが、東京江東区にある同社のショールームでは、シャワーベッドの体験入浴も可能だそうだ。もしこの記事を読んで興味を持たれた介護関係の方、もしくは家族の介護をされている方、そして介護を必要とされている方がいらっしゃったら、試してみてはいかがだろうか。

シャワーベッドリフター。体重100kgの人が乗っても問題なし【動画】実際にトロリーに寝ころんで、記者をシャワーベッドまで入れてもらってみた。内部も撮影
左右計4カ所ある介護窓から、介護者がハンドシャワーで脇の下などを洗ってあげたりすることも可能シャワーベッドを後方から。黄色いフタのタンク部分はここから中を洗浄できる仕組み左が薬用シャワーローションボトルで、右が消毒剤用ボトル

各種医療用センサーなどを展示したメムザス

 各種医療用センサーを開発しているメムザスは、経済産業省が推進する産業クラスター計画の東北地域プロジェクト「TOHOKUものづくりコリドー」として、同プロジェクトに属する複数の企業と共同出展していた。同社が展示した製品は複数あり、1つは「極細径光ファイバ圧力センサ」。カテーテル治療などで、血管内局所内圧などを測定する目的で開発されており、外形125μmという細さが特徴。光ファイバ端面に薄いダイヤフラム(膜)が形成されており、圧力によるダイヤフラムのたわみを光の干渉現象を用いて計測するという仕組みだ。光を利用しているため、電磁気による影響を受けないというメリットがある。

 もう1つの開発中の製品は、能動屈曲イレウスチューブ。これはセンサーではなく、治療用具の1つ。腸閉塞(イレウス)では、非手術的治療法の1つとしてイレウスチューブを用いた腸管内減圧法が広く普及しているが、使用法としては技量を要するという問題点がある。チューブを腸管内に挿入する際に、胃の幽門部を通過させることが難しく、術者や患者にとっても負担がかかる場合があるというわけだ。そこで、先端に形状記憶合金(SMA)コイルを用いた能動屈曲機構を付加したのが能動屈曲イレウスチューブというわけで、これなら胃の幽門部を通過させるのも非常に楽になるというわけである。

 そのほか、「前方視超音波内視鏡センサヘッド」なども展示されていた。

極細径光ファイバ圧力センサ能動屈曲イレウスチューブ前方視超音波内視鏡センサヘッド

血管年齢を測定するBCチェッカーを出展したフューチャー・ウエイブ

 指先の2階微分脈波(加速度脈波)測定による血管年齢の算出システムは、国内で複数のメーカーが医療機器認可済みで販売を行なっているが、機器によって測定結果の差異が非常に大きいという点が問題となっている。フューチャー・ウエイブはそれを医療機器の信頼性を損なう重要な問題と考えており、そこで同社が開発したのが「BCチェッカー」というわけだ。拡散透過方式光学センサーを用いて、20秒ほど人差し指をセンサー上に置くだけで測定可能で、年齢と性別を登録することで、それぞれを加味したコメントも表示してくれる。

 ちなみに、記者も測定してもらったところ、実年齢より2歳若く、末梢血液循環機能はBパターンの中のB(大まかにA~Gのパターンとあり、それぞれの中でもいくつかに分かれる)。記者の年代では良好な機能だそうだ。現在の生活パターンを維持し、より積極的な運動習慣を身につけ、機能維持に努めて下さいとのことであった。確かに、ここ数年はレース関係の取材でサーキットを、展示会の取材で展示会場を歩く機会が非常に増えているので、いい運動になっているのかも知れない(笑)。

血管年齢測定器BCチェッカー。表示されているのが記者の測定結果BCチェッカーの測定結果の見方。不惑の年齢でB(の中のB)なら高い機能の中に入る

 以上、ロボット系医療機器をお楽しみいただけただろうか。ロボットテクノロジーがこうして医療分野でも活用されている証拠を見ていただけたことだろう。ロボットテクノロジーを用いることで、外科医師の不足問題を軽減させたり、さまざまな医療トレーニングに活用できたりと、今後ますます活用されていくことだろう。ロボットが自ら判断して手術を行なうというのはまだしばらく先になるだろうが、名医のオペのモーションをすべて記録することで、その高度な技術をコピーするといったことは、実現まで思っているほど遠くはないのかも知れない。医療分野での今後のロボットの活躍を見ていきたいと思うと同時に、医療分野でも活躍するロボットたちのことを誇りに思える展示会であった。


(デイビー日高)

2009/5/26 12:12