「第12回 ロボットグランプリ」レポート【スカベンジャーロボット競技編】

~ゴミを分別・回収して得点を競い合う


 3月28日(土)と29日(日)の両日、東京都江東区の日本科学未来館において「第12回 ロボットグランプリ」が開催された。主催は日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス部門。本イベントは、日本機械学会の100周年記念行事として1997年からスタートしたロボット競技会。このレポートでは29日に行なわれた「スカベンジャー(scavenger)ロボット競技」の模様についてお伝えする【写真1】【写真2】。

【写真1】ゴミを分別回収するスカベンジャーロボット競技の模様(予選)。1チーム2人でペアを組んで戦う。写真は愛知県・滝中学校(近藤澄弥さん、小出直樹さん)の「乙乙の小出」【写真2】スカベンジャーロボット競技の模様(決勝)。決勝はゴミの数が予選より若干多く、難易度が高くなっている。写真は早稲田大学本庄高等学院(森裕之さん、森弘さん)の「必笑くんX」

1チーム2人でペアを組んで、協力しながらゴミを分別回収

【動画1】フォールドに散らばったピンポンと空き缶をゴミとして分別する競技だ。写真は町田市立つくし野中学校(村上佑樹さん、森将太さん)の「DXコーデット」

 このロボット競技は、子供からお年寄りまで参加できる車両型ロボット競技会だ。あまり聞き慣れない名前かもしれないが、スカベンジャーとは「街路掃除人」という意味。フィールドに散らばった沢山のゴミを規定の場所へ一定時間内(3分間)に分別・回収して、得点を競い合うエコロジカルなロボット競技だ【動画1】。1チーム2名で参加し、2台以上のロボットをリモコンで操縦する。

 ロボットは参加者が競技前に自作しておく。配布されるキット(山崎教育システムのロボットキット)でベース車両を製作し、さらに牛乳パックやペットボトル【写真3】【動画2】、菓子のパッケージ【写真4】、トイレットペーパーの芯といった身近な材料を利用して、アームやバケットなどのゴミ回収機構をつくる。この部分はロボットの設計思想が色濃く反映されるため、チームごとにユニークなアイデアが見られるところだ。

 2台のロボットを同一機構にして設計してもよいし、ゴミの種類によってロボットを使い分け、異なる回収機構にすることもできる。ただし機構部に使用できるモータは最大8個まで、駆動源は市販のアルカリ単三電池×4本までと制限されている。そのほか駆動源には、バネ・ゴムの収縮、磁石による磁力、風船の空気圧、重りによる重力なども許可されている。

【写真3】ボールを回収する機構にペットボトルを利用したロボット。写真は「ピンポンダッシュ」(土方康平さん、土方和行さん)【動画2】ペットボトルで細長いピンポン回収ストッカーをつくった「ピンポンダッシュ」【写真4】ボールを回収する機構に細長い円筒状の菓子のパッケージを利用したロボット。写真は見明川小学校(大原朋洋さん、小川陽光さん)の「ダブル君マグネ君」

 さて具体的な競技内容について見てみよう。フィールド150×200cm(縦×横)には、角材で囲われた「格納庫」「市街地」「ゴミ集積所」「焼却炉」「リサイクル工場」のエリアがある【写真5】。オレンジ色のピンポン(直径40mm)が「燃やせるゴミ」、スチール空き缶(190ml)が燃やせない「粗大ゴミ」となっており、これらを分別して回収するというルールだ。スカベンジャーロボットは、はじめは格納庫に置かれ、ここからスタートする。そして市街地に散らばるピンポン(予選50個、決勝70個)や、粗大ゴミ(予選6個、決勝10個)を回収していき、集積所にゴミを集めたり、焼却炉やリサイクル工場に分別する。

 焼却炉は背の低いアクリル製の箱でつくられており、ここにピンポンを1つ入れると4点が加算されるが、燃えない空き缶を誤って入れてしまうと10点の減点になる。焼却炉の箱自体はサイズが大きいので、ピンポンを入れることはそれほど難しくなさそうだ【動画3】【動画4】。一方、リサイクル工場へ空き缶を入れるためには、十分に練習しないとかなり難しいように感じた。そのためか、最初から空き缶を狙わずに、ピンポンのみ回収して得点をかせぐ作戦に出るチームもあった。

【写真5】予選の競技用フィールド左側の2つの透明な箱が「焼却炉」と「リサイクル工場」のエリア。ここにピンポンや空缶を入れる【動画3】ストッカーにピンポンを溜めてから、一気に焼却炉に入れているところ。ロボットは町田市立つくし野中学校(矢野環さん、田口俊輝さん)の「Wブルーベリー DX」【動画4】回収したピンポンを焼却炉に入れているところ。ペットボトルのストッカーを備えた広沢小学校(廣恵大輔さん、廣恵次郎さん)の「Wペットボトルロボ」

 リサイクル工場は背の高いアクリル製の箱でできており、この箱には正面に3つの丸穴、天板に長方形の穴が開いている【写真6】。したがって缶の入れ方には正面【動画5】と上方向【動画6】からの2つのアプローチがあるが、天板のほうが穴のサイズが大きいため、上から缶を落とすほうが有利だろう。いずれも空き缶を1個入れると20点が加算される。箱の上に空き缶が置かれた状態でも10点の得点が加えられる。ただし、こちらも誤ってピンポンを入れてしまうと、1個につき8点の減点(箱上の場合はマイナス4点)が科せられる。なお決勝戦では、リサイクル工場の天板に開いた長方形の穴が2分割され、より難易度が高くなっていた。

【写真6】リサイクル工場(決勝戦用)を俯瞰して見たところ。長方形の穴が開いており、ここから空き缶を入れる。正面に開いた3つの丸い穴から空き缶を入れることも可能【動画5】空缶回収のアプローチその1。正面には3つの丸い穴があり、ここから空き缶を入れる。やや難易度が高そうだ。写真は「Wブルーベリー DX」。【動画6】空缶回収のアプローチその2。上の長方形の穴から空き缶を入れる。写真は「ピンポンダッシュ」。正面から入れるより簡単そうだ

 また焼却炉とリサイクル工場の間にあるゴミ集積所には、あらかじめ2つの空き缶と5つのピンポンが入っている。このエリアにゴミを入れると1点が加算される。そして最終的なゲームセット時に、ゴミ集積所、焼却炉、リサイクル工場にゴミがいくつ入ったかで得点を競うことになる。すべてのピンポンと空き缶を指定場所に入れたパーフェクトゲームの場合、予選では最高得点340点、決勝では540点が与えられる計算だ。

見た目が面白く、ユニークな発想のロボットが多数エントリー

 実はスカベンジャーロボット競技は、別のフロアーで行なわれていたランサーロボット競技と同時に開催された。そのため残念ながら取材では、すべてのロボットについてカバーできなかった。その点をご了承いただければ幸いだ。以下、取材できた範囲内で面白かったロボットについて紹介していこう。

 この競技は親子や友人同士での参加が多かったのだが、今年は例年よりもかなりハイレベルの戦いになったようだ。予選からすべての缶とピンポンを回収するパーフェクトゲームに成功したチームも登場した。ちなみにパーフェクトを達成したのは、横須賀市立長井中学校の3チーム「長井ジャスティス号」、「長井レジェンド号」【動画7】、「長井フリーダム号」【写真7】および、早稲田大学本庄高等学院の「必笑くんX」【写真8】などだ。必笑くんXは昨年優勝を果たした強豪チームで、本年も好成績を収めた。

【動画7】パーフェクトゲームに成功した横須賀市立長井中学校(斉藤準也さん、渡辺裕希さん)の「長井レジェンド号」。取りこぼしたピンポンをもう1台のロボットで回収【写真7】横須賀市立長井中学校の3チームがすべてがパーフェクトゲームに成功した。写真は「長井フリーダム号」【写真8】早稲田大学本庄高等学院(森裕之さん、森弘さん)の「必笑くんX」は、昨年の優勝チームだ。缶もピンポンもキレイに規定の場所に回収できている
【動画8】横須賀市立長井中学校(龍崎舟さん、鈴木士亜斗さん)の「長井フリーダム号」。2つのロボットともピンポンと空き缶を回収する機構を備えている。1人で2つのパターンの操縦をする必要があるため、十分な練習が必要だろう

 さて参加ロボットを機構から見てみると、同じチームでもロボットごとに異なる回収機能を設けているものがほとんどであった。これは2つの異なるロボットでピンポンと空き缶の回収機構を分離し、チームのメンバーが責任を持って競技を分担するケースだ。その一方で少数派ながら、2つのロボットをまったく同一機構にしたり、ピンポンと空き缶の回収機構を1台のロボットで併用するケースなども見られた【動画8】。

 ピンポンを回収する場合には、ショベルカー型で複数の球を一度にすくい上げるもの【動画9】【動画10】、ペットボトルや筒などを利用して1個ずつピッキングしてストッカーに溜めて回収していくもの【動画11】が多かったようだ。ピンポン回収機構で特に印象的だったロボットは、ベルトコンベアでベルトを高速回転させて掃除機のように吸い込むタイプや、ガムテープの粘着力を利用したロールタイプだ。ベルトコンベアの場合はピンポンをいちいちピップアップするのではなく、大きな吸引口から吸い上げるため、確実にピンポンを回収でき、操作も簡単だ【動画12】【動画13】【動画14】。

【動画9】ピンポン回収機構の例その1。日本大学三島中学校(滝澤正章さん、下司智基さん)の「日三物理」。ショベル型のアームでピンポンをゲット【動画10】ピンポン回収機構の例その2。埼玉県行田市立西小学校(柴田実央子さん、柴田英則さん)の「Quicksilver」。こちらもショベル型のアームを採用した【動画11】各アームにお菓子の筒を取り付けて、それをストッカーとして利用した「ダブル君マグネ君」。身近なものを使用した好例
【動画12】コンベア型でピンポンを吸い込んでストックする「MOETOMO」(阿部萌斗さん、阿部朋樹さん)【動画13】見明川中学校(大原良太郎さん、小川恵風さん)の「FUJIGABRIO9」。垂直コンベア型でピンポンを吸い込んでストックし、反対側から放出する【動画14】垂直コンベア型でピンポンを吸い込む「必笑くん」。ストッカーも大容量で、すべてのピンポンが余裕で入る

 一方、ガムテープタイプを採用していたロボットは日本大学三島高等学校(十亀俊樹さん、山本樹さん)の「梟」(ふくろう)。ピンポン、空き缶ともにロールタイプの粘着テープで貼り付けてから回収していく独創的なアイデアだ【写真9】【動画15】。しかも1台のロボットは途中から分離できるようになっており【写真10】、最終的に合計3台のロボットが活躍できるように工夫していた点も面白かった。

【写真9】ロールタイプの粘着テープでゴミを貼り付けて回収していく独自方式を採用した「梟」。上が空缶用、下がピンポン用のロボットだ【動画15】「梟」の空き缶回収の様子。テープに缶を貼り付けて巻き上げていく様子【写真10】1台のロボットが2つに分離する梟。写真はロボットが分離した状態。手前にあるロボットで低い位置からピンポンを回収する

 また町田市つくし野中学校(大友優人さん、竹内仁志さん)の「レッドアロー」のように、ピンポンを焼却炉に入れるときバケットがまるごと分離できる機構を持つものもあった。ベルコンベアで回収したピンポンをバケットに溜め、焼却炉に移す際にまるごとバケットを落すという大胆な発想だ【動画16】。これならば焼却炉の枠からピンポンがこぼれてしまう心配もない。ただし時間ギリギリまでピンポンを溜め込み一気に落とす方式のため、バケットを落とす前に時間切れになったり、万一バケットが焼却炉に入らないような事態に陥ると、それまでの苦労が水泡に帰してしまう。

 次に空き缶の回収方式について見てみよう。空缶の回収はオーソドックスにハンドでつかんで押し込むタイプから、磁石を利用して缶を吸引するタイプ【動画17】、さらにピックアップした缶をストックしてリサイクル工場に一気に入れてしまうタイプ【動画18】などが見受けられた。

【動画16】「レッドアロー」は、垂直ベルトコンベアでピンポンを吸引し、バケットごと焼却炉に落とすという大胆な作戦を敢行。入るまでけっこうスリルがある【動画17】「長井レジェンド号」。ピンポン収集用にペットボトルのアーム、空缶収集用に磁石のついたアームを持ったロボット。もう1台はベルトコンベア型でピンポンを回収する【動画18】「レッドアロー」の空缶回収用ロボットは空缶を磁石で吸引してストックした。その後、アームをハンマーのように回転させて缶を押し出す

 たとえば滝中学校(楠本尚生さん)のMA&OH【写真11】は、金属で3つの溝をつくったストッカー部に空き缶を溜めておき、底部のベルトで送り出せるような機構になっていた。1つの溝に2個、合計6個の缶をストックすることが可能で、リサイクル工場の正面方向から缶を挿入する方式だ【動画19】。必笑くんX【写真12】も同じような発想だが、こちらは長い3列の溝に最大12個まで缶をストックでき、上部に付いたローラーを回しながら、3列同時に缶を正面方向から送れるように工夫していた【動画20】。乙乙の小出も3列同時並列に正面方向から3つの缶を送れる機構だった【写真13】【動画21】。

【写真11】滝中学校(楠本尚生さん、小崎拓登さん)の「MA&OH」。3つの溝に缶をストックして、溝に備えたクローラーで押し出す【動画19】1つの溝に空缶を2個ストックできるので合計6個まで回収が可能。空缶は溝に備えたクローラーを回して横方向に押し出す方式【写真12】「必笑くんX」も同様に3列の溝があり、4個×3列、合計12個の空缶をストック。さらに上に装備したローラーで同時に3列の空缶を送り出せる仕組み
【動画20】「必笑くんX」の空き缶入れの模様。正面方向の小さい3つの穴をうまく合わせて、一気に12個の空缶を落とした。流石にうまい!【写真13】「乙乙の小出」は3つずつ空き缶をストックして、同時にリサイクル工場に入れる方式だ【動画21】「乙乙の小出」の空き缶入れ。リサイクル工場の正面方向の穴からアプローチ。うまく穴に合うようにアームを上げながら微調整して缶を押し込む

 以下にスカベンジャーロボット競技の結果を示す。昨年に引き続き「必笑くんX」が優勝の栄誉に輝いた。準優勝は「長井レジェンド号」で、いずれも予選や決勝においてパーフェクトゲームを出していた。全体を通しての感想は、個性的でアイデアを凝らしたユニークなロボットが多かったことだ。ただし試合に勝つためには、ロボットの機能だけでなく、本番でうまく操縦できるように日ごろから十分な練習を積んでおくこと、チームメイト2人でゴミの回収を分担して協力し合って戦うことが大切だと感じた。

【優勝】 「必笑くんX」(早稲田大学本庄高等学院、森裕之さん、森弘さん)
【準優勝】 「長井レジェンド号」(横須賀市立長井中学校、斉藤準也さん、渡辺裕希さん)
【3位】 「TAKI-V」(愛知県滝中学校、松井康太郎さん、稲見英人さん)

・そのほかの特別賞
【技術賞】 「乙乙の小出」(愛知県滝中学校、近藤澄弥さん、小出直樹さん)
【技術賞】 「フレンチコネクションズ」(小平市立小平第八小学校、リムザン礼実さん、リムザン・フィリッツさん)
【技能賞】 「ゴーストバスターズ」(町田市立つくし野中学校、長村透さん、松浦亮介さん)
【敢闘賞】 「ガッツ1号・2号」(上田市立神科小学校、波多腰一真さん、滝沢優太さん)
【敢闘賞】 「Quicksilver」(行田市立西小学校、柴田実央子さん、柴田英則さん)
【アイデア賞】 チーム「KANAI」(中塩田小学校、金井涼さん、金井淳さん)
など



(井上猛雄)

2009/4/28 18:48