先端技術館@TEPIA、リニューアル展示開始
~ロボット関連の展示は半数以上が入れ替え
「生活支援ロボット」コーナーの展示ロボットは2/3を昨年度から入れ替えた |
ロボットも含めた先端技術を扱っている無料の展示・体験施設の先端技術館@TEPIAは、年1回の大幅な展示内容の更新を14日(火)に行なった。平成21年度は、世界的なテーマである地球環境問題にもフォーカス。日本の環境・エネルギー関連先端技術を中心に、総展示物点数97点の内の50点を刷新した。ロボット関連では、12点の内6点がこの4月に入れ替えになり、2点は模様替えが施されている。ここでは、ロボット関連の新しい展示を中心に紹介していく。
●展示スペース入口では「wakamaru」とデンソー製ロボットアームがお出迎え
電気自動車「ゼロ EV エレクシード RS(リチウムイオンバッテリーモデル)」のあるロビー部分を抜け、展示スペースの入口まで来ると、出迎えてくれるのが三菱重工業製のコミュニケーションロボット「wakamaru」だ。昨年4月のリニューアル時には導入されていなかったが、後半に入ってから常設展示されるようになり、今年度も引き続き来場者のお出迎え役として活躍することになった。
これまで、幾度もロボット関連の展示会や三菱重工関連のイベントなどにも登場しているので、決して新しいロボットではないのだが、都内の常設展示は同館と品川の三菱重工品川ビル2Fのエムズスクエアのショールームのみ(常設は、ほかに横浜の三菱みなとみらい技術館でも行なわれている)となっている。同館では、「wakamaru」と手をつないで散歩したり、会話したりすることももちろん可能だ。ちなみに、ちゃんと充電施設周辺の館内マップが記録されており、しゃべる言葉も一部はTEPIA仕様となっている。
ロビーには、市販電気自動車「ゼロ EV エレクシード RS」のリチウムイオンバッテリモデルを展示 | 【動画】出迎えてくれる「wakamaru」。挨拶すると返事をしてくれる |
【動画】「wakamaru」は、手をつないで散歩もしてくれる | 【動画】移動する「wakamaru」。現在位置が不確かな時は、下を向いて考えるらしい。その仕草がかわいい |
そして、「wakamaru」が出迎えてくれる辺りに設置されているプロローグ展示が、デンソー製ロボットアームを利用した「探検!エコシティ」だ(展示協力はパナソニック)。昨年もプロローグ展示としてデンソー製ロボットアームが活躍していたが、今回は先端をハンドからビデオカメラに交換。またロボットアームの周囲には、屋上が緑地化されたり太陽電池が設置されたりしているエコ型ビルが建ち並ぶジオラマ「エコシティ」が設けられた。すぐ後方のモニターで環境問題についての話をしたり、実際にロボットアームからの映像でエコシティを紹介したりするという内容だ。
プロローグ展示の「探検!エコシティ」 | デンソー製ロボットアームの先端が、今年度はカメラに変わった | 【動画】デンソー製ロボットアームが撮影した映像は、後ろのモニターに表示される |
展示スペースに入ると、「wakamaru」の充電スタンドがある。来場者やスタッフに「充電」といわれたり、充電率の低下を感知したりすると自動で接続して休憩&食事タイムとなる仕組みだ。また、その正面には、昨年から引き続きの設置となるオムロン製の「笑顔度推定技術」がある。これは、カメラでとらえられた人物全員の顔の位置を認識して、なおかつどれだけ笑顔かをパーセンテージで表示してくれるというシステムだ。記者の場合、普通の顔をしていると確実に0%なので、結構真面目というか、仏頂面らしい。無理な作り笑いをすると50%ぐらい、楽しいことを思い出して笑ってみたら80%までいった。常に90%以上の笑顔を作れるようになったら、恋人づくりも商談も思いのままなので(?)、スマイルの練習をするのにもってこいである。
充電中の「wakamaru」 | 【動画】充電に向かう「wakamaru」 | オムロン製「笑顔度推定技術」モニター。記者の顔を撮ってもつまらないので、お姉さんにお願いした |
●ロボットは「技術分野:生活支援ロボット」コーナーで展示
環境メッセージパネルコーナーを抜けると、メイン展示のスペースとなるのだが、その入口で待っているのが、wakamaruと同じシンボル展示のNEC製の小型ロボット「PaPeRo」。こちらは2001年デビューで、愛・地球博ほか何度もさまざまなイベントなどで紹介されているし、TEPIAへの常駐そのものも長いのだが、現在「PaPeRo」が常設している施設はTEPIAと皇居に近い北の丸公園の科学技術館のみ。
また、「PaPeRo」も話す内容の一部がTEPIA仕様となっている。常駐が長いと書いたが、実はずっと同じロボットがいるわけではなく、今年度は模様替え。「PaPeRo」が常時バージョンアップされていることもあり、昨年までのボディがホワイト+オレンジから、今年度はホワイト+グリーンの新カラーの機体に変更となった。設置場所、コンテンツ内容は変わっていないのだが、カラーリングが変わるだけでも意外と新鮮である。「PaPeRo」は5万円ぐらいだったら(たぶん大赤字だろうけど)、結構売れそうな気がすると思うのだが、いかがなものだろうか。とりあえず普及させて、コンテンツ利用料月額300円といった感じで後から料金を徴収すればいいのではないかと思うが、どうだろう?
環境メッセージパネルコーナー | NEC製の「PaPeRo」 |
そしてメイン展示1。タイトルは「くらしとコミュニケーション」。ロボットは、その中の「技術分野:生活支援ロボット」のコーナーで展示されている。同コーナーの展示ロボットは、昨年からほぼ一新となり、Robot Watch初お目見えのものもある。
一番手前に設置されているのは、ROBO_JAPANで一般には初公開されたビジネスデザイン研究所の受付ロボット「メカドロイド タイプC3」だ。「wakamaru」や「PaPeRo」同様にコンテンツがTEPIA仕様となっている。センサーで人の接近を検知し、多目的タッチディスプレイを見やすい角度に変更し、音声で話しかけるというロボットである。また、表情なども変えて楽しませてくれるのもポイント。そのほか、TEPIAでは来場者用には使用されていないと思われるが、「TakumiVision」顔検出/認証ソフトウェアにより、人物識別を行なうといった機能も持つ。TEPIAでは、クイズ形式で同ロボットの性能などを学べるようになっている。
一般的な展示施設などでの常駐は関東圏はTEPIAぐらいだが、中京圏では「豊通kiteo」で、5月29日(金)までの期間限定で開催されているロボットギャラリーで見ることが可能だ。
ビジネスデザイン研究所製「メカドロイド タイプC3」 | 「メカドロイド タイプC3」を別角度から | 顔は表情を変えられるだけでなく、クイズの何問目かといったちょっとした文字なども表示できる |
センサー。人の接近を検知するとタッチパネルが見やすい角度に変わる | 【動画】タッチパネルの角度が変化する様子 |
その隣は、日本ロジックマシン製の、Robot Watch初見参となるホーム介護ロボット「百合菜」(ユリナ)だ。Robot Watchでかつて紹介したことがある、同社のホーム介護ロボットの初代「レジーナ」から数えて3代目に当たる。看護士や介助士のアシストを目的として開発され、なおかつ要介護者自らが操作も行なえる機能を持つ。
操作方法は、音声認識機能と顔に当たる部分のタッチパネルの2種類。要介護者をベッドから車イスへ移すこともできれば、「百合菜」自体が要介護者を抱えて移動できる電動車イス的な機能も有しているので、単体で簡易トイレや簡易浴槽などへの移動も行なえる。体重80kgまでの人を持ち上げられ(両腕の総可搬重量なら120kg)、畳の上での使用や、状況に応じてハンド部を交換できるといった特徴も有する。残念ながら、90kg以上ある記者は負担が大きそうなので、ぜひ4代目、5代目は100kgぐらい余裕で持ち上げてくれるようパワーアップしてもらえるとありがたい。
日本ロジックマシン製の「百合菜」 | 上半身を別角度から | 足先。安全性のためにバンパーが取り付けられている |
顔部分。普段は目を映し、表情を見せている | 顔部分はタッチパネルになっており、音声認識と同時にここでも操作可能 | このタイプのハンドは、要介護者がこのようにして身体を預ける形だ |
「今年のロボット大賞」2008で、最優秀中小・ベンチャー企業賞を受賞した西澤電機計器製作所の自動ページめくり器「ブックタイム」も新たに加わった。こちらは常時デモを行なってくれるようで、実際にめくる様子を見せてくれる。サイズはA4から文庫本まで対応しており、厚さは3cmまでセット可能。あらかじめセットすれば、雑誌であれ、マンガであれ、ハードカバーの小説であれ、前述したサイズと厚さ以内であればすべてに対応してくれるという優れものだ。海外では、要介護者の方のための助成金が出る国があるそうで、海外の方がとても人気があるらしい。日本の場合、助成金制度などはないそうで、30万円以上の値段はちょっと買いづらいところ。日本でも、ぜひ要介護者のための助成制度などをしっかりと行政には設けてほしいところである。
西澤電機計器製作所製「ブックタイム」 | 【動画】「ブックタイム」が雑誌をめくってくれる様子 |
試作モデルなので動作デモはないのだが、岐阜大学工学部人間情報システム工学科の矢野賢一准教授の研究室で開発中の「上肢動作支援ロボット」も今年度から展示されることになった。腕のリハビリ支援を行なうための装着型ロボットで、腕を動かす意志を感じて食事や運動をサポートする仕組みだ。特徴は手首がリングになっていること。このリングが圧力センサーになっており、そのため手首がどの角度に動いてもそれを検知でき、それによってヒジの曲げ伸ばしをコントロールするというわけだ。
ちなみに同ロボットはデザイン的にも特徴がある。一般的に大学で研究・開発中のロボットというと、当たり前だが機能の実現を最重要視しており、そのためデザインは二の次となっているのが現状。しかし、同ロボットはデザイン担当のデザインアンドリアライゼイションズと設計・製作担当のD-Artという民間企業2社が協力しており、非常に洗練されたものになっている。そのまま製品として発売されてもおかしくないデザインだ。
岐阜大学工学部人間情報システム工学科の矢野研究室の「上肢動作支援ロボット」 | ポイントは手首のリング状のセンサー |
ヒジ部分 | 下側から見ると、デザイン的にかなり洗練されているのがわかる |
映像展示も昨年から一新され、今回は早稲田大学創造理工学部総合機械工学科菅野重樹研究室で研究・開発されている人間共存ロボット「TWENDY-ONE」と、独立行政法人理化学研究所の「RI-MAN」(リー・マン)の2体に関して紹介されていた。
昨年から引き続き展示されているのは3点。ニッタ製の2種類の触覚センサーと、音声認識の原理解説モデル。触覚センサーは既に製品として発売中で、光ファイバ触覚センサー「KINOTEX」と、3次元ベクトル分布触覚センサー「GelForce」(ゲルフォース)である。KINOTEXは製品名だけでなく、センシング技術の名称でもあり、光散乱特性を有する材質内に照射された散乱光の輝度は、その材質の表面に加えられる圧力の大きさに依存する(=輝度が材質の歪みに影響される)という特性に基づいた特許技術。これにより、面のどの部分にどれだけの圧力がかかっているかといったことを検出できるというわけだ。一方のGelForceは、立体的な形状をしているのが特徴。センサの内側に配置されたマーカー群をカメラで撮影している仕組みで、力が加わることでセンサー本体が変形した際の情報と、弾性体理論に基づきベクトル分布を算出することで、加えられた力の大きさと向きを検出できるというものだ。
もう1つの音声認識の原理解説モデルは、特にどこかの企業の製品や大学で研究開発中のものというわけではなく、あくまでもTEPIAオリジナルの展示解説物。その名の通り、音声認識について解説してくれると同時に、好きな言葉をしゃべることと、それを音声データのサンプルデータとして記録される仕組みだ。サンプルデータが増えると、よりお利口さんになっていくというわけである。
ニッタ製光ファイバ触覚センサー「KINOTEX」 | 光ファイバが張り巡らされているのがわかるだろうか | ニッタ製3次元ベクトル分布触覚センサー「GelForce」 |
【動画】ゲルフォースに加えられた力は3DCGで表示される | 音声認識の原理解説モデル |
●そのほかの展示内容について
メイン展示1は複数の分野からなり、ロボット以外で扱っている技術分野は、ディスプレイ、ユビキタス、RFIDとなっている。メイン展示2の「健康と医療」では、ヘルスケア、先端医療機器の2つの技術分野が題材だ。メイン展示3「都市とモビリティ」は、耐震・免震・制震、モビリティ。メイン展示4は「環境とエネルギー・資源」で、自然エネルギーと環境、リデュース・リユース・リサイクル、都市環境、燃料電池、省エネルギーとなっている。冒頭で述べたように、環境問題にフォーカスしており、メイン展示4はかなり力が入っている。
中でも都市環境は、4つの展示品があるが、すべて新らしい。燃料電池も昨年までは説明のみだったが、家庭用燃料電池や燃料電池バイクなどを実際に展示。さらには、洞爺湖サミットで実際にデモ走行を行なったダイハツ工業の「貴金属を使わない燃料電池技術」を利用したスケールモデルカーも飾られている。そしてメイン展示5は「小さな世界と高機能素材」ということで、高機能素材を扱う。
また、メイン展示スペースの奥にある「テクノスタジオ」では、子供でも実際に遊んで楽しめるものが用意されている。今年度新たに設置されたものとしては、大阪電気通信大学で開発されたカードゲーム「ウノ」の音声版ともいったイメージの新ゲーム「キキミミ」(最大4人までプレー可能)や、体を動かしてジェスチャーで操作できる「ジェスチャー操作テレビ」(日立製作所)などがある。
RFIDの新展示物、大阪電気通信大学の「キキミミ」。音声版ウノというイメージのゲームだ | 【動画】ジェスチャー操作テレビ。お姉さんに操作してもらった | タッチパネル型の高級タブレットも設置。お絵描きも楽しめる |
メイン展示5の次はもう入口まで戻る形になるが、その近辺にはエピローグ展示として、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「技術戦略マップ展示アイテム FUTURE CUBE」がある。ここでは、西暦2025年に実現し、実際に社会で利用されているであろう技術を5つの分野に分けて解説。「技術戦略マップ」というA4の冊子ももらえ、地球とエネルギー・環境、都市と交通インフラ、IT・ユビキタスと暮らし、工場とモノづくり、バイオと医療の5冊が用意されている。記者も子供のころは(というか今でも)未来の技術や生活などを予測した図鑑などを見るのが大好きだったが、1冊当たり15ページ弱とはいえ、5冊もタダでもらえてしまうので、未来派・SF派の少年少女(もちろん大人も)はぜひとも読んでみよう。
プロローグ展示。今から16年後の未来は、どんな社会になっているのかを予想している | 引き出しを開けると解説を読めるなど、ちょっとしたインタラクティブ型になっている |
それから、展示とは直接関係ないのだが、同館の公式キャラクターが決定したので、そちらも合わせて紹介する。昨年7月26日から12月7日まで、テクノスタジオの高級タブレットのお絵描きパソコンで自由にキャラクターを描いてもらい、その場で応募するという方式で募集したところ、子供からお年寄りまで幅広い世代から総数2,029点が寄せられたそうだ。3度もの審査を経て、最優秀作品賞1点、優秀作品賞1点、キッズ賞2点、佳作5点を発表。渡辺美彦さんの作品が最優秀作品に選ばれ、それをベースにクリーンナップしたのが下で紹介しているロボットだ。名前は、「てぴあん」に決定し、早くもTEPIAグッズにも登場している。
「てぴあん」のポーズ4態 | 「てぴあん」があしらわれたグッズが早くも用意されている |
先端技術館@TEPIAは、ほかの科学技術系ミュージアムと比較すると、展示面積としてはあまり広い方ではないのだが、なんといっても無料で見られるというのが最大のポイント。しかも、2階ではさまざまな科学技術情報を映像で学習できるシステムも備えている。大人も子供も楽しめるし勉強になるし情報も得られるしで、ゴールデンウィークは理科好き親子はぜひ訪問してみてはいかがだろうか。もちろん、子供だけでも大人だけで来てもいいし、1人でもカップルでもOK。取材時も、日本の先端技術を幅広く学べるということで、ガイドをつけて実際に何組もの修学旅行中の学生たちやスーツ姿のサラリーマンが館内の展示物を見て回っていた。まだ足を運んだことがないという人は、ぜひ要チェックである。きっと楽しめるはずだ。
2009/4/28 15:35