研究者たちの「知りたい」気持ちが直接わかる

~理研一般公開でのロボット


理研BSI動的認知行動研究チームによるデモ

 4月のゴールデンウィーク前、発明の日(4月18日(土))を含む一週間は、科学技術週間とされている。科学技術について広く一般に理解と関心を深め、日本の科学技術の振興を図ることを目的として各地の研究機関が市民に公開される。今年は4月13日(月)~19日(日)までの一週間だった。埼玉県和光市にある独立行政法人理化学研究所(理研)の本所でも、19日に一般公開が行なわれ、筆者も含めて大勢の人が訪れた。

 理研では本誌でも時折レポートしているとおり、防災・レスキュー関連のロボットと、脳科学関連研究の一環としてロボットを使った研究が行なわれている。簡単にご紹介しよう。

 まずは理研脳科学総合研究センター(理研BSI)の動的認知行動研究チーム。谷淳氏の研究室は、脳の前頭葉の神経回路モデルを組み込んだロボットを使ったデモを行なっていた。デモに使われていたロボットは富士通の「HOAP-2」。階層化された1つの神経回路を使って複数の動きをすることをねらいとしたもので、感覚や運動情報は下位の神経細胞が受け取り、上位の神経細胞は下位からの情報を受け取る。神経細胞の動きの速度も階層化されていて、下位は速く、上位ほどゆっくり動く。谷氏によれば、ゆったり動く上位はいわば会社の重役陣にあたり、忙しく動く下位は末端のヒラサラリーマンのようなものだと考えればいいという。

 そして上位で初期値を変えると、ロボットはそれぞれ別の行動を行なう。逆に目的を与えて初期値を探索させることで、あたかも頭のなかで行動を計画するように、適切な初期値を探して行動を計画することができるのだという。デモでは、「積み木を倒す」「立っている積み木を台の上に載せる」といった、あらかじめ教えた5つの動作パターンを組み直して、それらの動作よりも複雑な「倒した積み木を両手でつかんで台の上に載せる」という動作の初期値を探索して実行した例が行なわれていた。単なるプログラムではなく、力学系を利用したニューラルネットワークの初期値を探すことで目的に沿った動作パターンの組み合わせを探す点が新しい。

 また、同じく脳信号処理研究チームのアンジェイ・チホツキー(Andrzej CICHOCKI)氏らは、ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)、ブレイン・マシーン・インターフェイス(BMI)の研究についてパネルと計測用の電極を並べて紹介していた。脳の視覚野での神経活動を脳波を使って捉え、Non-negative Matrix and Tensor Factorization (NMF)やSparse Component Analysis (SCA)といった手法を使って、未知の混合信号から特定の信号を分離する「ブラインド信号源分離」処理を行なうことで、単なるYes/Noだけではなく、BCIによる4方向の操作などが可能になったという。特に信号がそれぞれ独立していると仮定する独立成分分析に力を入れており、将来は障害者のインターフェイスやエンターテイメントなどの用途を考えているそうだ。

【動画】実際のデモの様子脳信号処理研究チームはBCIの研究を紹介

 いっぽう、川端知能システム研究ユニットの川端邦明氏らは、レスキューをアプリケーションとして、知能ロボットのシステム化の研究を行なっている。センサーノードが撮影した映像をアドホックネットワークを使って転送し、統合するシステムの研究だ。また、個体の密度に応じたコオロギの行動変化をモデル化する研究も行なっている。コオロギは群れの密度に応じて、「強気」の個体が出現するのだが、それが密度に応じて変化するのだそうだ。今後は、小型ロボットにコオロギのフェロモンを付着させて実際のコオロギの群れに投入し、どうなるか見る予定だという。

 そのほか、理研全体でさまざまな研究が紹介されていたが、ここでは情報基盤センターで公開されていたスパコンや、計算機の歴史展示の一部を紹介する。

センサーノードとして開発された球形のロボット。広視野カメラが上についている全方向移動ロボット実際の移動機構
スーパーコンピュータも公開。こちらはNECのSX-71950年代のIBMのコンピュータに使われていた真空管もシャープのMZ-80K2E。「CLEAN COMPUTER」の文字が懐かしい

 理研の公開には多くの高校生たちが訪れていた。公開終了後、駅までの帰路、来場していた高校生たちの会話を背中で聞いた。「質問したら『そこまではまだ分かってないんだけど』って言ってたじゃん。ああいうの良いよねー! 最先端って感じするじゃん! あの人きっとえらい人だよ!」とか、「超知りたいんだろうなーって良くわかった!!」などなど、とにかく興奮気味に喋りまくっていた高校生たちの声が、印象に残った。

 ごく普通の人は、ふだんは研究者から話を聞くどころか、会うことも滅多にないだろう。理研に限らず、研究所の一般公開は本当に最先端の研究をしている人たちから直接話を聞ける数少ない機会だ。研究所訪問のついでに、普段は歩かない街をぶらぶら歩くのも楽しい。散歩ついででいいので、今後、機会があれば是非足を運んでもらいたい。

理研の隣は「樹林公園」街角で見つけた「環境戦隊ワコレンジャー」の看板「座って良ィ~ス」


(森山和道)

2009/4/20 19:19