通りすがりのロボットウォッチャー
スケールで違うロボットの難しさ
あれか? あれがお台場の白い奴か!
6月なかばに、お台場にある「都立潮風公園」に姿を現したのが、7月11日からの公開を控えた『機動戦士ガンダム30周年プロジェクト』の「ガンダム」像だ。
全高18メートルというから、かなりでかい。
現在は工事中で、足元には工事用フェンスが張りめぐらされているが、それをつきぬけてほぼ全身が見える。
これはビルの工事現場で、完成前に外観が見えるのと同じ感覚だ。
さっそく人々が見に集まっている。
残念ながら、この「ガンダム」像にはほとんど可動部分はないようだ。骨格を鉄骨で作り、外装はFRPとのこと。それでも重さはおよそ35トンになっているという。
頭部が上下左右に可動する以外は、胸の排気口やバーニアなどからミストが放出されるというギミックがあるだけとのことだ。
●巨大ロボットは動けるのか?
巨大なものが動くところを見てみたいものだ。腕に油圧シリンダーを組み込んで動くようになっていればと想像してしまう。
もっと妄想をすると、フランスの劇団「ラ・マシン」の巨大オブジェのように、クレーン車なんかで支えて疑似歩行でもしてくれるとすげーんだが。
それでお台場付近の道を歩いてくれたらカッコいいんだがなぁ。
街並みに18メートルのロボットが歩くとどのように見えるかというシミュレーションになる。
ガンダムのアニメでは、自重53トンという設定だったと思うが、ガンダム像は鉄骨とFRPでできていても35トンだ。もし本当に可動させるための機構を組み込んだとして、53トンという設定はあながち的外れでもない数値に思えてくる。
歩いたときに道路なんかは耐えるのかどうかという気にもなる。
重たくて道路を走るものとして戦車をイメージすると、陸上自衛隊の90式戦車は自重50.2トンとのことだ。
ガンダムが53トンなら、わりと近い重さとなる。
その昔、どこで聞いたのかは忘れたが、日本の道路には戦車が走れる道とそうでない道があるとのことだ。
舗装の質や、川にかかっている橋の耐荷重性によって、戦車の走れる道とそうでない道に分かれるそうだ。
53トンの二足歩行ロボットがノッシノッシと歩くときも、通れる道は制限されるのではないだろうか。
もっとも、戦車のキャタピラも、二足歩行も、不整地を移動できるというふれこみなので、いざとなれば舗装を壊しながら移動をしていくことになるのだろう。
ガンダム像を本当に歩かせるとなると、駆動方式をどうするかとか、まだ解決できない部分も多いと思う。それでも、歩く姿を見てみたいと思わずにはいられない。
●大きさによる移動距離と時間
巨大な人型のものが歩くとき、脚の回転する速度はどれぐらいなのかということを知りたいものだ。
その昔、特撮映画では巨大感を表現するために高速度撮影を律儀に使っていた時代があった。
最初の『ウルトラマン』も、ちゃんと高速度撮影をしていたので、ゆっくりとした動きだった。
いつの間にか、怪獣特撮映像は、格闘技としてのおもしろさを見せるためか、撮影速度は通常とかわらなくなった。
実際に何十メートルもある巨人や怪獣が、現実の等身大の人間と同じ速度で腕や脚を動かしていたら、ものすごく速いことになる。
数メートルの動きではなく、数十メートルの距離を、数メートルと同一時間で移動するということは、数十メートルの方が速くなければできないことだ。
等身大の人間と同じ速さでの動きだと、巨大ロボットでは音速を超えてしまう速さになっているかもしれない。
巨大クレーンなんかの動作って、実際に近くで見るとどうなっているのだろうか?
数十メートルの部分をわりと早くアームが動いていたりするが、それでも見た目にはゆっくりと見える。
●小さいロボットは速すぎる?
一方、ホビーロボットといった小型ロボットではどうだろう?
最近では、東京、名古屋、大阪といった太平洋ベルト地帯にホビーロボット専門店もでき、昔よりも買いやすくなってきている。
それだけ一般的に認知されてきたということだろう。
ホビーロボットの動作は、小型モーターの回転を利用しているが、モーターの回転は小型だからといって遅くはなっていない。
そのため、全高で30~40センチメートルの人型のロボットが、チョコチョコとせわしなく動く。
その動きの早さから、やっぱり小さいものだと感じてしまう。
これはミニチュアのラジコン玩具全体にいえることなんだけど、ミニチュア自体が実物の何分の1、何十分の1と小さいのにもかかわらず、それらが出す速度は実物に近いので、とてもチョコマカとした動きに感じてしまう。
エンジンを搭載した自動車のラジコンでは、時速100キロメートルほどの速度が出るという。
実物の10分の1スケールだとすると、実車換算で時速1,000キロメートルで走っていることになる。
そんなアホなと感じてしまうのは僕だけだろうか?
実物よりもスケールダウンしているなら、ミニチュアの出せる速度にも制限を設けないとリアル感がでない。
実際のF1マシンは時速300キロメートル超で走ることができる。ならば、このF1マシンのミニチュアを10分の1スケールで作ったなら、時速30~40キロメートルになるようにモーターの回転数とかに制限をつけてほしいものだ。
それで、実際の10分の1スケールのサーキット(それだけでも広大な土地がいるけど)で走らせるとリアルだと思う。
●小さいがゆえにできる動作
さてホビーロボットの話にもどろう。
最近のホビーロボット躍進の要素のひとつに、ロボットバトルがあると思う。
それらを見ていると、素早い動きで戦っている。本体が軽く、モーターの力があり余っているためにできるのだろう。
ただ、あまりに速く、動きも軽いために、どうしてもおもちゃ感が強い。
ホビーロボットの身長は30~40センチメートルほど。日本人の成人の平均身長は、2005年で171.6センチメートルだとというので、ざっと5分の1といったところか。
もし、自分で作るとなると、それにあわせてホビーロボットの動作も遅くしてみたいものだ。
ホビーロボットの動作は、小型であることや、重量の軽さによって、等身大のロボットよりも歩行や動作の厳密な制御がいらないように見える。
足を床に擦って方向転換をしたりすることは、等身大では床との摩擦でなかなか難しいだろう。
遊びのためのロボットだから、それでいいのだと言われれば、それでおしまいだが、将来のロボット技術者を育成するのなら、ハードルを少し高くしておきたいものだ。
ホビーロボットでも、身長1メートルクラスのものが作られるようになってきているが、大きくなり、重量も増えると、違ったノウハウが必要になってくるのではないだろうか。
そして、遊びだけではなく、実生活でも役に立つロボットのサイズを考えると1メートルを超えることは確かだろう。130センチメートル~150センチメートル程度のサイズではないだろうか。
そうしたサイズのものは、個人的ホビーの範疇では作るのが難しいのか、大学や研究機関、機械メーカーでの開発になってしまう。
●遊びだけではないホビーロボットの道が欲しい
『鉄腕アトム』のお茶の水博士は、『アトム今昔物語』のなかで、市井のロボット研究者として描かれていた。1960年代からロボットを作っては失敗している若者だったのだ。
2003年4月7日に「アトム」が生まれ、それから数年後に科学省長官となった。約40年かけてロボット研究者として登りつめたといったところか。
現在の20代の若者も、40年かけて研鑽していけば、ロボット研究者として活躍できるかもしれない。
その入口にホビーロボットがあるのならば、ただバトルをするだけではなく、制御や知能のプログラムなど、そうした方向へ進むことのできるモデルが欲しいものだ。
誰でも簡単に楽しめる道と、少し努力が必要な道、この2つをホビーロボットに求めてはいかんのだろうか?
ロボットのおもしろさに目覚めた若者のなかに、将来、全高18メートルのロボットを歩かせる者が出てくるかもしれない。
そのために、ロボットのスケール感てわりと重要なカギになりそうなんだが。全身が小さくて軽いから制御が楽という以外の道が欲しい。
米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員
2009/6/26 12:52