石井英男のロボットキットレビュー
近藤科学「KHR-3HV」ハードウェア組み立て編(その2)
前回に引き続いて、KHR-3HVの組み立て手順を紹介する。前回は、アームユニットの組み立てまでの作業を行なったが、今回はハードウェアの組み立てが完了するまでの作業と、ホームポジションの設定方法、サンプルモーションの実行までを紹介したい。
●サイユニットとレッグユニットの組み立て
次はサイユニットの組み立てだ。サイとはあまり聞き慣れない単語だが、thighと綴り、太腿を意味する。膝の上の部分だ。サイジョイントには、LとRの区別があるので、間違えないように注意しよう。左右のサイユニットを組み立てたら、膝下部分となるレッグユニットを組み立てる。サイユニットやレッグユニットなど、左右の区別があるユニットを組み立てたら、セロテープなどにLとRの文字を書いて貼りつけておくとわかりやすい。
●ソールとフロントカウルの組み立て
引き続いてソールの組み立てを行なう。ソール自体は左右共通だが、その上に取り付けるフットアングルAとBには左右の区別があるので、注意しよう。フットアングルの固定は、M2-6BHビスとM2ナットで行なうが、ナットが緩みやすいので、ネジロック剤を使うことをお勧めする。ソールの次は、フロントカウルを組み立てる。ベースプレートにバッテリーホルダを取り付け、フロントカウルを固定するだけなので簡単だ。
●各ユニットの取り付け(上半身部分)
これで、各ユニットの組み立ては一通り完了だ。これからは、これまで組み立てたユニット同士を組み合わせて、全身を組み立てる作業になる。まずは、胸ユニットに肩サーボアームや小径ホーンを組み合わせて、胴体部分を組み立てる。肩サーボアームを取り付ける際は、角度に注意しよう。
続いて、腕ユニットを組み立てる。サーボモーターの出力軸にアッパーアームをはめ込む工程が何度も出てくるが、アッパーアームがサーボケースの長辺に対して平行になるようにはめ込むことが重要だ。両腕を胸ユニットに取り付けたら、ヘッドパーツを装着する。
●各ユニットの取り付け(下半身部分)
続いて、下半身部分の組み立てだ。サイユニットの上下にアッパーアームを取り付け、レッグユニットと合体させる。さらに、サーボブラケットを上下に装着して、そこにサーボモーターを取り付ける。最後にソールを取り付けて、腰ユニットと合体させれば、下半身部分は完成だ。
●配線と配線のまとめを行なう
今度は、サーボモーターのケーブルの配線と配線のまとめを行なう。従来のKHRシリーズでは、PWM方式のサーボモーターを利用していたため、サーボモーターとコントロールボードを1対1で接続する必要があり、サーボモーターを17個使うのなら、17本のケーブルをコントロールボードまで引き回して、17個のコネクタを接続する必要があった。そのため、配線の引き回しがなかなか面倒で、断線などのトラブルも起きやすかった。しかし、KHR-3HVでは、サーボモーターがシリアル方式になり、デイジーチェーンが可能になったので、コントロールボードに接続する配線の数が減り、配線の引き回しや配線のまとめが格段にやりやすくなったことは嬉しい。ケーブルの長さも、場所に応じて何種類か用意されているので、配線があまり余らず、初心者でも綺麗にできる。
KHR-3HVでは、配線をまとめるために、2種類のケーブルガイドが使われている。ケーブルガイドは2種類とも、プラモデルのようにランナーに繋がった状態で箱に入っているので、ニッパーなどを使ってランナーを切り離す必要がある。
配線の引き回しとまとめ方は、組立説明書に説明されているが、少し図がわかりにくいところもある。下の写真と組立説明書の写真を参考にしてほしい。なお、ケーブルガイドで配線をまとめても、肩の下など多少ケーブルに余りが出るが、余り部分はナイロンストラップでまとめるように説明されている。ナイロンストラップを使わなくても、それほど問題はなさそうだったので、筆者はナイロンストラップを使わなかったが、より外観をすっきりさせたいのなら、ナイロンストラップで配線の余りをまとめたほうがよいだろう。
配線のまとめが完了したら、上半身と下半身を合体させれば、KHR-3HVの全身が姿を現す。
●バックパックを取り付け、コントロールボードへの配線を行なう
次に、バックパックを組み立て、背中に装着する。バックパックの中にはコントロールボードのRCB-4HVが格納される。KHR-2HV/1HVの場合、バックパックはポリカーボネート製で不要な部分を自分で切り抜いて使う必要があったが、KHR-3HVでは、バックパックがABS製成型済みパーツになっているので、そうした手間は不要だ。さらに、コントロールボードへのアクセスも簡単にでき、PCと接続するためのポートも用意されているので、より使いやすくなっている。
コントロールボードのRCB-4HVを取り付けたら、コントロールボードへの配線を行なう。SIOポートは全部で8個用意されているが、そのすべてにサーボモーターからのケーブルを接続する。SIO1~4とSIO5~8はそれぞれ同じ信号が出力されているので(出力としては2系統)、SIO1とSIO2を入れ替えて接続しても問題はないが、一応指定された箇所に接続するほうがいいだろう。コントロールボードへのサーボコネクタ接続時は、コネクタの向きに注意すること。サーボコネクタの場合は、灰色の線(信号線)が基板の内側にくるようにして、延長ケーブルの場合は、白色の線が基板の内側にくるようにする。
コントロールボードへの配線が完了したら、バッテリのHVコネクタを接続し、バッテリをボディ内部に押し込む。フロントカウルをスライドさせてはめ込み、ボディピンを差し込んで固定すれば、ハードウェアの組み立ては一通り完了だ。
●ホームポジションを調整して、サンプルモーションを動かす
一般的な二足歩行ロボットの場合、ハードウェアの組み立てが完了しても、即サンプルモーションを動かすことはできない。サンプルモーションを動かす前に、モーションの基準となるホームポジションの調整が必要になる。KHR-3HVでは、トリムポジションとホームポジションという2つの基本ポジションがあるが、トリムポジションとは、トリムデータが0、ポジションデータが7500(中心)のときのポジションであり、サーボモーターが原点にある状態である。それに対し、ホームポジションとは、サンプルモーションが正確に動くための、ロボットの基本姿勢を指している。手順としては、まずトリムポジションを確認し(トリムポジションは大きくずれてさえいなければいいので、調整は不要)、次にホームポジションのデータを読み込み、微調整をすることになる。
サーボモーターの出力軸とサーボアームのセレーション(ギザギザの部分)をあわせて、サーボアームを出力軸にはめ込むわけだが、KHR-2HVに使われていたKRS-788HVでは、サーボアームがぴったりサーボケースの長辺と平行にならないことが多く、組み立てただけでは、ホームポジションが多少ずれてしまうが、KHR-3HVのKRS-2552HVは、多くの場合、サーボアームがサーボケースの長辺に対してぴったり平行な状態になるので、ホームポジションのずれも少ない。筆者が組み立てた機体では、ホームポジションの調整を一切しなくても、ほぼ正しいホームポジションになっていた。
特に重要なのは、足裏の位置あわせだ。KHR-3HVなら、とりあえず組み立てた状態でも、サンプルモーションはそのまま動きそうだが、前進歩行が曲がったり、不安定なモーションがある場合は、もう一度しっかりとホームポジションの調整を行うとよいだろう。なお、フレームにはニュートラルゲージと呼ばれる穴があいており、この穴とサーボアームの突起を合わせることで、ホームポジションが大体合うようになっている。
ホームポジションの調整が終わったら、付属CD-ROMに含まれているサンプルモーションを実行してみよう。付属CD-ROMには、約30種類のサンプルモーションが収録されており、前進歩行や後退歩行、サイドステップ、旋回、起き上がりといった基本モーションだけでなく、挨拶やウサギ跳び、片足屈伸、キックモーションなどのユニークなモーションも用意されている。ウサギ跳びや片足屈伸などは、KHR-3HVの高い運動性能を示すには、絶好のモーションだ。キックモーションも充実しているので、サンプルモーションだけでも、KONDO CUPなどのロボットサッカー大会に出場できるだろう。
また、歩行モーションの完成度も高く、標準歩行でもかなり安定した歩行が可能だ。初心者が、一から歩行モーションを作るのは大変な作業だが、サンプルモーションをベースに高速化や歩幅を広げるなどの修正を行なっていけば、より高速な歩行も実現できるだろう。
KHR-3HVは、やはり3世代目ということもあり、二足歩行ロボットとしての完成度や潜在能力は、従来のKHR-2HVに比べて格段に向上していると感じた。組み立て作業も、ネジの本数は多いが、一つ一つの工程は決して難しくなく、ハサミやカッターでボディカバーの無駄な部分を切断するといった面倒な作業も不要になったので、初めて二足歩行ロボットを組み立てるという人にもお勧めできる。
ただし、KHR-3HV(RCB-4HV)用のモーション作成ソフト「HeartToHeart4」は、KHR-2HV(RCB-3J/3HV)用のモーション作成ソフト「HeartToHeart3」とは操作方法や考え方がかなり違っているので、HeartToHeart3に慣れている人も、最初はやや戸惑うかもしれない(また、現時点のバージョンでは、HeartToHeart3にはあったが、HeartToHeart4には用意されていない機能もある)。そこで次回は、HeartToHeart4を使ってオリジナルモーションを作成する方法を詳しく解説したい。
2009/8/11 19:32