石井英男のロボットキットレビュー
アールティのZigBeeモジュールXBee搭載無線コントロールセット「Wiz-XR-RCB-C」
アールティが開発した無線コントロールセット「Wiz-XR-RCB-C」 |
KHRシリーズやマノイシリーズなどの二足歩行ロボットキットは、G-ROBOTS GR-001などの一部の例外を除いて、無線で操縦するにはオプションの無線コントロールユニットなどを用意する必要がある。無線コントロールユニットは、ロボットキットメーカーから純正品が発売されているほか、PS2用無線コントローラなどを用いるサードパーティ製品もある。
今回紹介するアールティの「Wiz-XR-RCB-C」は、近藤科学のコントロールボード「RCB-3HV/J」に対応した無線コントロールセットだ。RCB-3HV/Jは、KHRシリーズやマノイシリーズに搭載されているほか、自作機のコントロールボードとしてもよく使われている。Wiz-XR-RCB-Cは、任天堂のゲーム機「Wii」用として販売されているクラシックコントローラと組み合わせて使うように設計されている。
●無線通信方式にZigBeeを採用
Wiz-XR-RCB-Cは、無線通信方式にZigBeeを採用していることが特徴だ。ホビーロボットの無線コントロールユニットの通信方式としては、ラジコン用ADバンドを使うものやBluetooth、2.4GHz帯の独自方式(PS2用無線コントローラも含む)などがあるが、筆者が知る限りZigBeeを使う市販品は初めてだ。ZigBeeとは、家電やセンサー・ネットワーク向けの無線通信方式規格の1つで、伝送速度は最高250kbps、伝送距離は最大30mと、比較的速度が遅く、短距離の規格だが、消費電力が非常に少ないことが利点だ。周波数帯はいくつかあるが、日本では2.4GHz帯のみ許可されている。Wiz-XR-RBC-Cでは、ZigBee規格に準拠したMaxStream社の小型無線モジュール「XBee Series2」を利用している。もちろん、TELEC認証済みで、日本国内の電波法をクリアしている。
Wiz-XR-RCB-Cは、クラシックコントローラに接続する送信機「Wiz-XR-RCB-TX-C」とロボット本体に搭載する受信機「Wiz-XR-RCB-RX」から構成されており、クラシックコントローラとRCB-3HV/J接続用ケーブルは別途用意する必要がある。
こちらが送信機の「Wiz-XR-RCB-TX-C」。下の黒いのは電池ボックスだ。アンテナはWhipタイプで、XBeeモジュールから直接短いアンテナが生えている | こちらが受信機の「Wiz-XR-RCB-RX」。こちらは場所をとらないチップアンテナを搭載。基板上部の青い正方形がチップアンテナだ |
Wiz-XR-RCB-RXの裏側。Atmel製のAVRマイコン「ATMEGA64L」が実装されている |
Wiz-XR-RCB-Cを利用する手順は非常に簡単だ。まず、送信機の電池ボックスに単4電池3本を入れ、Wiiのクラシックコントローラのコネクタを送信機基板下部の端子に接続する。ここでは、モンスターハンターGオリジナル仕様のクラシックコントローラを利用したが、もちろん、通常の白色のクラシックコントローラでも手順は同じだ。クラシックコントローラのコネクタには、ケーブルをまとめるための透明なフックが付いているが、そのフックが上にくるように差し込む。次に、受信機をロボット本体に搭載する。受信機基板の大きさやねじ穴の位置はRCB-3HV/Jと同じなので、KHR-2HV/1HVの場合は、RCB-3HV/Jを左右どちらにずらして取り付け、反対側に受信機基板を取り付け、ネジで固定すればよい。受信機基板は近藤科学純正のKRR-1よりも大きいが、KRR-1とは違ってアンテナ線を外部に延ばす必要がないのは便利だ。受信機を取り付けたら、RCB-3HV/Jの低速シリアル端子と受信機の左上コネクタをケーブルで接続する。ケーブルを接続する際には、コネクタの向きを間違えないように注意すること。信号線(白)が基板の内側に向くように差し込めばよい。
受信機のロボット本体への搭載が完了したら、ロボットとPCをUSB経由で接続し、HeartToHeart 3を起動する。オプションウィンドウを開いて、「送信機でのモーション・シナリオ再生」を有効にするにチェックを付け、「KRC1から制御する」のチェックを外して、ウィンドウを閉じれば準備は完了だ。
●クリスタル交換が不要で、コンパクトで使いやすい
準備ができたら、まずロボットの電源を入れて、次に送信機の電源を入れる。電源スイッチは電池ボックスの背面にある。送信機の電源を入れると、まず、送信機の緑LEDが明るく点灯し、3~4秒して緑LEDが素早く点滅を始める。さらに1~2秒後、受信機の赤色LEDが素早く点滅を始めれば、接続は完了だ。なお、Wiz-XR-RCB-Cは、受信機と送信機のXBeeモジュールのペアリング設定済みで出荷されており、他のWiz-XR-RCB-Cと同時に利用しても、混信してしまうことはない。
まず、ロボットの電源を入れてから、送信機の電池ボックスの電源スイッチをオンにする | 【動画】送信機の電源を入れたところ。まず、緑LEDが明るく点灯し、3~4秒して緑LEDが素早く点滅を始めれば、クラシックコントローラとの接続はOK(この動画ではやや暗くなったように見える) |
クラシックコントローラの後ろに送信機を輪ゴムで取り付けてみた |
十字ボタンや右側のa、b、x、yなどの各ボタンを押せば、それぞれのボタンに割り当てられた数値がボタン入力としてRCB-3HV/Jに送信される。このあたりの使い方は、近藤科学純正のKRC-1/3と全く同じなので、同社のWebサイトで公開されている「RCB-3J操作説明書 上級編」を参考にしてほしい。もちろん、L、R、ZL、ZR、-、+、HOMEの各ボタンも利用でき、シフトキーとして使うことも可能だ。KRC-1やKRC-3ADでは、ボタンが8方向に配置されているが、2つのボタンの同時押しによって(例えば、右上斜めボタンなら、右ボタンと上ボタンを同時に押す)、斜めボタンの代わりになる。
純正のKRC-1/3ADに比べて、Wiz-XR-RCB-TX-Cとクラシックコントローラの組み合わせは、コンパクトで軽いので、小さな子供の手でも気軽に操作できるというメリットがある。また、アンテナを伸ばす必要がないので、見た目もスマートだ。ロボットサッカー大会などでは、同時に多くのロボットを操縦するので、ADバンドを利用するKRC-1/3ADでは、バンドがかぶらないようにクリスタルを交換する必要がある。このクリスタル交換は結構面倒だし、クリスタルを多数用意するのはコストもかかってしまう。しかし、Wiz-XR-RCB-Cを使えば、クリスタル交換が不要で、同時に複数台の操縦が可能だ。
送信機+コントローラのサイズ比較。左がWiz-XR-RCB-TX-C+クラシックコントローラ、右が近藤科学純正のKRC-3。Wiz-XR-RCB-TX-C+クラシックコントローラのほうがかなりコンパクトで、アンテナを伸ばす必要もない | 【動画】Wiz-XR-RCB-TX-C+クラシックコントローラで、ロボットを動かしているところ。4歳の娘の小さな手でも操作しやすい |
●アナログスティックでのアナログ入力にも対応
さらに、Wiz-XR-RCB-Cは、アナログスティックによるアナログ入力にも対応している。アナログ入力のミキシングに対応しているのは、RCB-3HVのみで、RCB-3Jは非対応だが(KHR-2HVのRCB-3Jは有償でRCB-3HVへとバージョンアップできる)、アナログミキシングを利用すれば、疑似マスタースレーブや滑らかなスラローム歩行も実現可能だ。近藤科学純正のKRC-3ADの場合、アナログスティックが1つしかないため、PA1とPA2の2つのアナログ入力しか利用できないが、Wiz-XR-RCB-TX+クラシックコントローラなら、アナログスティックを2つ備えているため、PA1~PA4の全てのアナログ入力を利用できる。そこで、両腕の疑似マスタースレーブモーションを作成してみた。
●リモートブレインなどの制御に便利なPC対応版も用意
Wiz-XR-RCB-Cは、入手性の高いWiiのクラシックコントローラに対応していることも大きなポイントだ。Hotproceedなどから、PS2用無線コントローラを使って、ロボットを操縦するための製品が発売されているが、ゲームプラットフォームの中心がPS2からPS3へと移行したことで、動作保証済みのPS2用無線コントローラの入手がだんだん難しくなってきた。Wiiのクラシックコントローラは現行製品であり、玩具店や大手家電店など、多くの店で購入できる。Wiz-XR-RCB-Cの価格は1万8,900円であり、クラシックコントローラ(1,800円)との合計価格は2万700円になる。近藤科学のロボット専用コントローラ「KRC-3AD 無線コントロールセット」の価格は2万2,890円なので、追加クリスタルが不要なことを考えれば、価格的にもWiz-XR-RCB-Cのほうが安い。
また、送信機、受信機ともにアンテナが大きく出っ張らないので、ロボットの外観を損ねず、安定した通信が可能というメリットもある。ZigBeeベースということで、到達距離が気になるところだが、通常のホビーロボット競技で使われるフィールド内なら十分電波は届くようだ。KHRシリーズやマノイシリーズを無線で操縦したいが、まだ純正の無線コントローラを持っていないという人や、アナログスティックを2本使って操作したいという人には、Wiz-XR-RCB-Cはお勧めだ。
また、Wiz-XR-RCBシリーズには、PCからの制御を行なうための製品「Wiz-XR-RCB-P」(1万8,900円)も用意されている。こちらは、Wiiのクラシックコントローラに接続して使うのではなく、送信機とPCをUSB経由で接続し、PCからロボットの操縦・制御を行なうための製品だ。Visual C++ Express 2008用のサンプルプログラムが提供されているが、基本的にソフトウェアは自作することになる。こちらは、手で操縦するというより、PCをリモートブレインとして利用し、カメラやセンサーから取り込んだ情報を元に、自律でロボットを操りたいという目的に適した製品であろう。例えば、ロボカップのSSL Humanoidリーグでは、グローバルビジョンを利用したリモートブレイン制御によってサッカー競技を行なうが、こうした用途にぴったりだ。Gainer miniなどのフィジカルコンピューティングI/Oデバイスと組み合わせて、ロボットの動きと舞台の照明効果などを同期させたり、アイデア次第で面白いことができそうだ。
2009/6/4 14:50