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「今年のロボット」大賞2008記念シンポジウムレポート【受賞者講演編】


 12月19日(金)、東京・青山にあるTEPIAで「今年のロボット」大賞2008記念シンポジウムが行なわれ、前日18日に表彰された「今年のロボット」大賞各賞の受賞者が受賞ロボットについて講演を行なった。

 まずはじめに、経済産業省 製造産業局長 細野哲弘氏が主催者挨拶に立った。細野氏は、大賞を受賞したタカラトミー「i-SOBOT」を取り上げ、「青少年へのインパクトも大きい。理科が大切だからといって教科書の厚さを倍にするというのは、ちょっと違う。このロボットを見せたほうが刺激になるのではないか。ストレートに、かつ素朴にインパクトを与えるほうが効果がある。もちろん子供だけではなく大人にとっても面白いものだ」と述べた。「i-SOBOT」はサミット時のエネルギー大臣会合でプレゼントになるなど、日本の親善大使的なプロダクトとしての役割も果たしている。

 また、ロボットがブレイクスルーを起こさなければならない分野は多数あるとし、「制度的な障害もあるが、なるべくポテンシャルの高い技術力を発揮しやすい環境整備が重要。ロボット技術が活躍する領域が広がることを願っている」と述べた。


【「今年のロボット」大賞(経済産業大臣賞)】株式会社タカラトミー「Omnibot17μ i-SOBOT」

株式会社タカラトミー 開発本部戦略開発室 シーズ開発グループ グループリーダー渡辺公貴氏
 はじめに、大賞受賞者として株式会社タカラトミー 開発本部 戦略開発室 シーズ開発グループ グループリーダーの渡辺公貴氏が講演した。まず渡辺氏は「i-SOBOT」をスーツのポケットから取り出して身長16.5cmの小ささを強調。「i-SOBOT」は完全組み立て済みで操作も簡単だ。リモートコントロール、プログラムモード、スペシャルアクションモード、ボイスコントロールモードと4つの操作モードで楽しめる玩具である。

 タカラトミーは、タカラとトミーが合併してできた会社で、両社のロボット玩具開発の歴史は古い。ロボット玩具はブリキの玩具からはじまり、なかには2,000万個以上売れている玩具もあるという。1980年代にはエレクトロニクスを入れた「Omnibot」シリーズ、1個のモーターだけで歯車を144枚使ったロボットアームなどが登場した。はじめてサーボモーターを使ったロボット玩具も同社の製品だ。

 もう1つ、i-SOBOTの歴史上で重要な製品が「マイクロペット」だという。小さい玩具を作ろうというコンセプトで始まった企画で、全世界で1,500万個、小売価格で150億円相当売れたという。最近売り出された小型ラジコンの「ヘリQ」などもその1つで、「i-SOBOT」も同じ枠組みで2002年から開発が始まった。

 おもちゃメーカーなので、わくわくどきどきする商品であることは必須。そして安価であること、強度が十分であること、安全であること、取り扱いが簡単であること、世界中に販売できることを「エンターテイメントロボット実用化の必須要件」として、開発を進めていったという。採算性も玩具では非常に重要にな問題だ。どんなに良いものでも採算がとれなければ開発はやめることになっているという。世界市場は日本市場のおよそ5倍。世界で売ることを前提にした大量生産によるコストダウンが必須となる。

 「i-SOBOT」にはおおよそ1,000個の部品が使われているが、もっとも重要な部品はサーボユニット、そのなかでも重要な部品が精密に作られた金属歯車、クラッチ機構だ。これは日本でしか作ることができないという(詳細は本誌過去記事参照)。

 今後の展開としては、教育用教材としての可能性や、「ROBO_JAPAN」で公開されていた「ロボQ」について簡単に触れた。渡辺氏によれば、今の小学校低学年くらいの子供たちに「i-SOBOT」を見せても反応が非常に悪いそうだ。今の子供たちはリアルなCGでものすごい動きをするロボットを、画面で見慣れているからだ。子供たちにもバーチャルだけではなく実物に触れてもらいたいとう。また、制御や構造設計だけではなく、企画なども含めた体系的なロボット開発学が必要だと述べた。

 なお27日からオンエアされるサンヨー「エネループ」のCMに「i-SOBOT」がキャラクターとして登場する予定だそうだ。


i-SOBOTスペック 日本でしか作ることができない高精度の部品を使用 技術特性

エンターテイメントロボット実用化の必須要件 今後は教材としても展開 多くのことが学べる

【最優秀中小・ベンチャー企業賞】株式会社西澤電機計器製作所「ブックタイム」

株式会社西澤電機計器製作所 技術部部長 小林英敏氏
 「ブックタイム」は肢体が不自由で自分で本や雑誌のページがめくれない人向けの自動ページめくり器である。一番大事な技術は紙の1枚分離、1枚めくりだ。人はページのコーナ部において、固定指で紙を固定し、移動指を端から動かすことで、紙を座屈させて、1枚めくりを行なう。それを機械化することができれば機械がページをめくれる。ここまでの研究開発は信州大学で行なわれていた。この技術シーズを使って、経営理念の1つに「社会貢献の経営立社」を掲げる西澤電機計器製作所で肢体不自由者向けのページめくり機を作ろうとなったと株式会社西澤電機計器製作所 技術部部長の小林英敏氏は語った。

 開発過程では実際のユーザーを含めた開発研究会に入ってもらい、試作、試用、評価、検討、改良を何度も繰り返した。アクチュエータの自由度を高めようとするとモーター個数が多くなる。モーター個数を増やすとコストが上がるが、検討の結果、最低5個のモータが必要となった。商品化段階ではモーター個数が少なくなると機構が複雑になるため1個増やして6個にした。ページ面を抑える機構など、改良も加えた。さらに外装を付け、操作をシンプル化、本のセッティングを簡易化し、2004年に国際福祉機器展に第2次商品化試作器を出展した。

 販売実績は2005年発売以降、99台。国内28台、海外71台。今後は実機を貸し出し、モニター評価を継続することで改善を続ける。同時に磨きをかけたページめくり技術を使って、たとえばスキャンマシンなど読書以外の用途も考えているという。


「ブックタイム」操作風景 「ブックタイム」の特徴 実際のユーザーを交えて試作と改良を繰り返した

開発経緯 第4次試作機 カバーの付けられた第2次商品化試作機

信州大学によって開発された1枚ページめくりの原理 実用に向けて西澤電機計器製作所が新技術を開発 販売実績

【日本機械工業連合会会長賞】株式会社安川電機 第10世代液晶ガラス基板搬送ロボット「MOTOMAN-CDL3000D」

株式会社安川電機FPDロボット事業統括部統括部長 大倉正彦氏
 株式会社安川電機の「MOTOMAN-CDL3000D」は第10世代、すなわち2,850×3,050mmのガラス基板を搬送するロボットだ。このガラス基板は畳み5畳分あるが、厚さはわずか0.7mmしかない。液晶テレビの薄型化、大型化、そして低価格化を支えているロボットである。株式会社安川電機FPDロボット事業統括部統括部長 大倉正彦氏は電気店のチラシを見て「消費者としてはうれしいが、生産材を収めているメーカーの人間としては複雑な気持ちだ」とジョークを飛ばして講演を始めた。

 従来のロボットには「昇降直動タイプ」と、「昇降シングルリンクタイプ」があった。昇降直動タイプは上下軸に4mを超えるストロークが必要とされる。そのため通常の道路交通法では完成品のまま運ぶことができず、現地で組み立てが必要になり、立ち上げ時間がかかる。また、この軸が動作したときにどうしても粉塵が発生する。そのためクリーンルームを保つためには粉塵を吸引する装置が必要で、さらにその装置のためのメンテナンス装置が必要になる。いっぽう、昇降シングルリンクタイプで長いストロークをとることためには広い空間が必要になり、高価なクリーンルームを有効に活用できないため、あまり現実的ではない。

 そこで開発されたのが昇降ダブルリンク式支柱タイプを採用したMOTOMAN-CDL3000Dである。4軸の昇降用モータが使われているが、安川電機の持つモーターの同時制御技術を使い、2つのアームをリアルタイムに協調制御する。左右動作、ひねり動作を可能にし、長い上下ストロークと低い輸送姿勢を両立した。クラス最高の高速・高精度・安定搬送で高生産性を実現した。

 ガラス基板はカセットの中に入って輸送されるが、ずれが生じる。そのずれを補正するために従来のロボットでは横行装置を使う必要があった。それに対しCDL3000Dはロボット単品で位置ずれ補正作業を行なうことができる。システム自身もシンプルになり、コストも下がった。全体重量も軽減され、空間も有効に活用できるようになった。

 陸送可能なコンパクトさも確保したことでロボット立ち上げ期間は、ロボット組み立てが必要だった従来の1/2となった。上下軸をダブルリンク式にしたことで高クリーン度の維持が可能になった。このため排気ファン、フィルタが不要になり、ランニングコストも下がった。

 最後に今後の展開として安川電機としては、第7世代、第8世代の基板にも水平展開すると同時に、第11世代の超大型液晶ガラス基板にも積極的に展開し、太陽電池製造ラインへも導入していくと語った。


FPDガラス基板搬送ロボットのラインナップ 市場要求と安川電機のソリューション 従来機と「MOTOMAN-CDL3000D」の比較

「MOTOMAN-CDL3000D」の特徴 位置ずれ補正装置も不要になった 陸送可能なコンパクトさによって立ち上げ期間短縮

ダブルリンクで高クリーン度を維持 今後は太陽電池製造ラインへ水平展開

【中小企業基盤整備機構理事長賞】株式会社ゼットエムピー「ZMP e-nuvoシリーズ」

株式会社ゼットエムピー 技術開発部部長 安藤秀之氏
 株式会社ゼットエムピー(ZMP)の技術開発部部長 安藤秀之氏は最初に同社の事業紹介を行なった。2001年1月に設立されたZMP。現在の社員数は18名。RT製品開発・販売、受託だけではなく、教材開発などの事業を行なっている。安藤氏は「ZMP e- nuvoシリーズ」を使うメリットとして、MATLAB/Simulinkを用いた高度な制御理論の実習や、CANバスシステム構成の実習ができること、何より、現場で起こるさまざまな問題に対する課題解決能力が向上することを挙げた。非常に安価であることや、チームワークなどを学べるのも利点だ。

 新市場開拓のポイントはニーズと技術のマッチングにあるという。「ZMP e-nuvo」シリーズは、産業界のニーズをロボット技術と教育カリキュラムを組み合わせることで、できあがっているという。これまでに300ユーザー、1,500台以上の出荷実績がある。

 テキストやサンプルプログラムが付属している点、ロボットそのものが多くの工学要素を網羅している点、学生がゴールをイメージしやすいことなども魅力の1つだという。学生募集に最適だという声も大学関係者から多いそうだ。産業界からは実践的な研修ができること、特定専門分野だけではなく他の分野に視野を広げさせる上で最適な教材だという声が多いという。実際の使用例として、近畿大学での「ROBOLYMPIC」競技会の様子が紹介された。

 ZMP e-nuvoシリーズは学ぶ内容に応じて「e-nuvo BASIC」「e-nuvo WHEEL」「e-nuvo WALK」「e-nuvo ARM」などのラインナップがある。今後同社では、ロボットのエンジニアのスキルレベルを把握し、企業における人材育成の指針となる「ロボット検定」の立ち上げを計画している。また、カーロボティクスにe-nuvoシリーズを展開。2009年に「カーロボティクス・プラットフォーム」のリリースを予定している。運動系だけではなく、画像処理などセンサー処理系、知能系分野をカバーしていく予定だ。


ZMP e-nuvoシリーズ 【動画】倒立振子ロボット「e-nuvo WHEEL」デモ ニーズと技術のマッチング

納入実績 e-nuvoユーザーからの声 e-nuvo BASIC

e-nuvo WHEEL e-nuvo WALK e-nuvo ARM

【審査委員特別賞】独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター「田植えロボット」

農林水産省 農林水産技術会議事務局 研究専門官(元 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター主任研究員)長坂善禎氏
 「田植えロボット」は±2cmの精度で位置を計測できる高精度GPSからの信号を受け、姿勢センサーを使って自分の姿勢データで傾斜補正をし、コントローラで速度やステアリングを決定して移動するロボットである。軟弱な屋外不整地である田んぼを自律移動できる。使うのはロングマット水耕苗。同じく中央農業総合研究センターで開発されたものだ。30aくらいの田んぼをおおよそ50分かけて人間並みの田植えが可能だ。

 特徴はCANバスを使っていること。将来は装置をモジュール化し、たとえばGPSセンサー部分を外して別の農業機械(コンバインなど)に搭載することで、低コストで高性能な自動農作業機械を実現していくことを目指す。いつ、どこをどう走ったかという作業履歴も残せる。栽培時に、肥料をどのくらいやったかといった作業履歴も残すことができる。これによって、トレーサビリティの信頼性を高め、食の安全・安心を高めていくことができるという。

 開発背景には農作業従事者の高齢化がある。農作業をロボット化できれば、1人の作業者が複数のロボットを管理することも可能になる。日本では農地の面的集約が進んでいないが、複数台数管理ができれば、例えば人間があちらの畑で作業中に、別の畑ではロボットに作業させる、といった並列作業も可能になる。

 長坂氏は開発の歴史を試作機の映像を見せながら示した。開発当初に比べて農業用機械そのもののレベルが上がり、知能化はより容易になっているそうだ。今後は研究開発から実用化を目指す。そのためにはロボットでの農作業という概念そのものを広めていくことが重要だと述べた。


高精度GPS搭載の田植えロボット 【動画】田植えロボットの動作 【動画】旋回の様子

CANバスを使用 部品を他種類の機械で共通化してコストを下げる 作業履歴の記録が容易

背景にあるのは農作業従事者の高齢化 農業機械そのもの高度化で改造は容易に 今後は実用化を目指す

【優秀賞】株式会社デンソーウェーブ「組込型ロボット XR-Gシリーズ」

株式会社デンソーウェーブ FA開発センター主幹 竹田滋氏
 株式会社デンソーウェーブの竹田氏は、「デンソーウェーブはロボット開発メーカーであると同時にユーザーでもあり、常にユーザー視点でロボットを開発している」と講演を始めた。「組込型ロボット XR-Gシリーズ」の特徴は、空間利用の大幅な向上を実現したことだ。これまでデッドスペースだった空間を有効に活用することで生産設備の効率を上げることができる。これからの時代は省資源、省エネルギー、環境保全が重要になるという。そのためには無駄を省くことが重要だ。時間、空間、資源、エネルギー、コスト、これらの無駄を低減するにはロボットはより高速、省スペース、小型軽量化、シンプルで簡単に導入できるものが求められるようになっている。

 従来の現場で使われている産業用ロボットには多関節ロボットと、直交タイプロボットがある。多関節ロボットは直線に動くことができないので最短距離をとることができない。直交タイプロボットは単軸速度に律速され、最高速度が上がらない。空間の無駄に関しても同じように、多関節ロボットは部品のパレットが特定の場所にしか置けない、部品レイアウトに制限があるという問題があり、直交ロボットはロボットの設置スペースが大きく、そのぶん無駄になる。またどちらも遠い距離を運ぼうと思ったらアーム重量増加という課題を抱えている。多関節ロボットはレイアウト設計の手間がかかるため、設計費コストがかかる。直交タイプはベルトコンベアなどの付帯設備が必要になる。

 これらの問題を解決するためには発想を転換する必要がある。従来の生産設備は、まずロボットを中心に設置、周囲に部品を配置、どう動かすか検討した。だが、部品の動きを最小にする配置ができるのが理想の生産設備だ。設置の指針は、コンパクト、シンプル、スリム、スピード。そこで発想したのが、天井に設置することと、直動の動きと回転の動きを組み合わせることだった。

 開発されたXR-Gシリーズは、Z軸テレスコピック機構を使い、省エネで高速、メンテナンスがしやすいと現場にも好評だそうだ。スペーサーを使うことでロボットのアームの長さを簡単に変えられる。また専用架台に取り付けるだけで設計者はロボットの能力を引き出せる。竹田氏はスターターを組みつけているラインでの実際に動いている様子を示しながら語った。部品レイアウトが自在、ロボットのレイアウトも自在、部品を運ぶ距離が短くでき、また自分自身がコンベアがわりになって部品を運ぶことで付帯設備もいらなくなる。

 「XR-Gシリーズ」の性能をビデオで披露した竹田氏は最後に「本当の主役は設備。ロボットではない。理想の設備を創るためにどういうものがいいか考えることが重要」とまとめた。


これからは産業用ロボットも省エネ、省スペース、環境が重視される コンセプトは無駄の排除 多関節ロボットと、直交タイプロボットの「時間の無駄」課題

同じく「空間の無駄」課題 従来の生産設備と理想の生産設備 2つの新発想でブレイクスルー

XR-Gシリーズの特徴 時間と空間の節約 省エネ・省コストの生産設備を実現

【優秀賞】東京大学、パナソニック株式会社「超小型MEMS 3軸触覚センサーチップ」

東京大学IRT研究機構特任助教 中井亮仁氏
 中井氏はまず東京大学IRT研究機構の概要や、その社会背景について解説した(本誌関連記事参照)。IRTとは、Information and Robot technologyの略。情報化された密着ロボットを開発することで少子高齢化社会に対応するオプションの1つを提案することを目指している。

 MEMS 3軸触覚センサーは12月17日に発表された「キッチンロボット」のエンドエフェクタに搭載されているものだ。最初の試作品が作られたのはおおよそ4年前。シリコンゴムに厚さ300nmのピエゾ抵抗直立カンチレバーを入れることで曲面へ配置可能な、せん断力センサーだった。これを手軽に使えるものにしようということで開発が始まったのが今回のセンサーになる。

 センサー表面をなでるようなごく軽い力にも反応するし、埋め込んで曲げても使えるものになった。X軸に力を加えても、Y軸方向にはほとんど変化しない。中井氏はロボットハンドのデモや、センサーを付けた状態で、手に持った水が注がれていくコップの重さが増えるとそれに応じて剪断力が増していく様子を示した。

 このセンサーはMEMSプロセスで作られた部品をゴムで覆った構造になっている。カンチレバーを作り、そこにPDMSを滴下する。硬化するのを待って、ダイシングする。このチップ化プロセスは「あとで見ると『だれでもやりそうだよね』という感じ」だが、柔らかいゴムのようなものをMEMSプロセスに入れることは案外、誰もやっていなかったそうで、実際にやってみたら意外とうまくいった、ということだという。

 応用としてはロボットハンド以外に、ゴルフクラブにセンサーを埋め込んだものを使って、ボールに当たったインパクトの瞬間の撃力を計測する試みを現在行なっているそうだ。通常、このような試験では高速度カメラを使って、打たれた瞬間のボールの変形やスピン量を見て、そこからどの程度飛ぶのかを計算する。だがこのセンサーを使えば、クラブがボールに当たった瞬間の撃力を直接計測することができる。なおこのときに使ったセンサーは柔らかいゴムではなくエポキシ樹脂を使うことで、強い力も取れるし、サンプリングレートも上げられている。

 また今後は、車のタイヤ等にセンサーを埋めることでスリップが測れるのではないかと考えているという。そのほか、歩行ロボットの足裏などに入れて滑りが取れるとそれもまた面白そうだが、そのためにはまずは人間の足の滑りを計測する実験を行なう予定があるそうだ。


IRTとはITとRTを足した言葉 3軸触覚センサーの必要性 最初に作られた試作品

手に持ったコップの重量が増えるに従って剪断力が上がっていく様子 センサーのチップ化プロセス 開発された3軸触覚センサーチップ

性能評価 ロボットハンドが持ったペットボトルを傾けたときのデータ ゴルフクラブの開発にも応用可能

【優秀賞】東北大学 国際レスキューシステム研究機構「能動スコープカメラ」

国際レスキューシステム研究機構会長 東北大学大学院情報科学研究科教授 田所諭氏
 「能動スコープカメラ」は駆動する機構を持ったビデオスコープカメラである。植物のネコジャラシを手に持ってにぎにぎすると動く。それと似たような原理を使い、ネコジャラシのようにスコープを繊毛で覆い、それを振動させることで駆動する。これによって、通常のスコープでは覗き込めない場所までスコープを入れていくことができる。

 開発は国際レスキューシステム研究機構と東北大学の共同によるもの。田所氏はまず、レスキューロボット開発の発端が阪神淡路大震災であったことや、人命救助への思いを語った。講演での体験を交え、今の子ども達が「人の命を助けられるものを作りたい、役に立つものを作りたい」と思うようになること、また、世の中のためになるものを作ることを夢とするような価値観を持たせる教育が重要だと述べた。

 レスキューロボットの役割は「鉄腕アトム」のような万能ロボットではない。現場からすれば学問的に高度であるかどうかはどうでもいいことである。その道具は役に立つかどうかだけが重要だ。また実際にレスキューをするのは人間である。そこにロボットが何らかの助けとなり、これまで助からなかった人が助かるようになる、そして人間にできない救助機能を実現すること、ファーストレスポンダーの二次災害防止、救助の速度とクオリティの向上が必要だという。「ロボットを創るかどうかはどうでもいいこと。ここ10年、20年、30年の間はロボットを作ることが目的ではなくて、人の命を救うことに役に立つものを作ることが重要」だと強調した。

 能動スコープカメラは「目的を果たすためのシステムを作ろう」という発想から生まれたものの一つだ。瓦礫のような複雑な環境で壊れずに長時間動いてくれる耐久性の高さを考え、表面を樹脂の毛で覆った振動駆動を移動手段として選んだ。クローラなどいろいろな機構を試した結果、これがベターだったという。能動スコープカメラは鉛直方向・水平方向だけでなく、進行方向を左右上下に操作可能で、条件がよければ20cmくらいの乗り越えが可能。のぼりスロープも20度程度であれば登れるという。また、毛を振動させることで摩擦が動摩擦に変わるので、引き抜きも容易だという。

2007年6月には米国FEMAのDisasterCityにて実験を行った。そのときの隊員が能動ファイバースコープのことを覚えており、2007年12月に米国Jacksonbill駐車場建設現場が倒壊する事故が起きたあと、請われて事故原因調査に使われた。通常のファイバースコープは1m程度しか入らないが、瓦礫の奥深く最大7mの映像を取得することができたという。

最後に田所氏は「これがまだ現場で役に立ったということは実現できていない。もっと能力をあげていって、瓦礫のなかのどこに入っていったのかといったことも分かるようにしたい」と述べた。また、この賞の応募にあたって「これがロボットかという点では悩んだが、少なくともRTと呼んでもいいだろう」と考えたと語った。


レスキューロボット 狭所探索用能動スコープカメラ 特徴

FEMA訓練所での使用 駐車場建設現場倒壊事故での倒壊原因調査に実際に使用された

URL
  「今年のロボット」大賞
  http://www.robotaward.jp/

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( 森山和道 )
2008/12/25 15:09

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