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産技研が「平成20年度研究発表会」を開催
~「高品質生活を支援するロボット技術の動向」講演レポート


産業技術大学院大学の産業技術研究科創造技術専攻教授の橋本洋志氏
 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター(産技研)は6月11日~12日、東京都北区にある西が丘本部で「平成20年度研究発表会」を開催した。

 その中で、12日にロボット分野特別発表として、産技研が提携している産業技術大学院大学の産業技術研究科創造技術専攻教授(工学博士)の橋本洋志氏による講演「高品質生活を支援するロボット技術の動向」が行なわれた。その模様をお届けする。

 この研究発表会は年に1度行なわれており、目的は産技研の最新の研究成果を多くの中小企業に広く知ってもらうことだ。研究内容はIT、エレクトロニクス、環境、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、材料、分析など、多岐に渡る。また、産技研が共同研究している企業や他機関などの研究発表も行なわれている。

 今回、ロボット分野特別発表を行なう橋本氏は、システム計測制御、人間・機械・社会システム、画像工学、センシングを専門分野とする実践型の研究者だ。現在は、人間の高度活動支援機器の開発、自律分散システム、人間協調ロボット、生体インターフェース、画像理解、福祉機器、オンライン研修、インテリジェントマニファクチャリングなどを研究課題としている。

 講演は「ロボットというものが技術、研究、産業として非常にすそ野が広いものである」という説明からスタート。また、日本は知財立国として進んでいかねばならず、台頭しつつあるアジア諸国に負けないためには、ロボットは教育分野でも活用すべきとし、また活用するのに適しているとしている。そして、ロボットが教育から産業まで、ずっと連携していく時代が必ず数年後にやってくるとアピール。数年後に、日本の発展のために、ロボットに対してどのように自分が関わっていけるか、そこに十分にビジネスチャンスがあるという観点からも聞いてほしいということを、最初に聴取者に訴えた。

 今回の発表内容は大別して4項目。「高品質生活とは」「RTに基づく指摘活動支援技術」「RTを応用した福祉機器」「ものづくりの持続的発展を支えるRT」だ。ちなみにRTとはいうまでもなく、「Robot Technology(ロボットテクノロジー)」の略である。なお橋本氏はRTだからといって、人が中心にあるということ忘れてはいけないと強調。ロボットだからロボットだけというわけではなく、人間を知らないとRTを進めていくことは難しいということであった。


高品質生活とは

 高品質生活とは、ポスト大量消費生活ともいうべきもので、クリエイティブなことにトライすることで、喜びや達成感を得て、次の行動にまたトライしていくという「生き生きとした」生活のこと。体力、知力、気力が最も充実しているときが、クリエイティブ面で充実した生活を送れる時期であるが、加齢に伴い体力と記憶力(特に短期記憶)が低下することで、その維持が難しくなる。それを強化して再び活性化させるのに必要なのが、テクノロジーというわけだ。

 放っておけば、体力も知力も低下し、気力も萎縮していくので、体力と知力を支えて、気力が衰えないようにするのである。いくつになってもスポーツに挑戦したり楽器に挑戦したりと、そうしたやる気を技術的にサポートすること=テーラーメイドの生活を支援することが、今後中心になっていくという。

 やる気や思考をそぐ問題として、「1アクション問題」が紹介された。例えば、新聞の特定の欄の記事を読んで知識を得て、そのことについて自分なりに考えてみようとしたときに、老眼鏡をかけなければならないとする。「老眼鏡はどこだったかな?」となった時点でストレスとなり、せっかくの意欲を削いでしまう。

 さらに、老眼鏡が見つからないとなると、何をしようとしていたか、ということまでかすんでしまい、クリエイティブな活動そのものが不意になってしまうというわけだ。そうした1アクション問題をテクノロジーで支援することによって、目的にストレスなくスムーズにたどり着けるようにするという。

 元来脳の活動というのは、活発的なもの。加齢によって肉体部分の動きが鈍化してきても、それをテクノロジーで支援すれば、70~80代でもクリエイティブな活動が可能というわけだ。

 こうしたクリエイティブな活動が次々と重なって活性化していけば、社会全体を高品質な生活に持っていけるのではないだろうか、ということであった。


高品質生活はクリエイティブな行動の循環 気力の充実を維持するため、加齢に伴って低下する体力と記憶力を技術で補っていく

RTに基づく指摘活動支援技術

 高品質生活を送るための手段として、テクノロジーが大いに利用できるわけだが、具体的にRTでどのようにそれを行なうのか? 続いての「RTに基づく指摘活動支援技術」では、その部分が掘り下げられた。

 最初に橋本氏は「ロボットというと、鉄腕アトムやガンダムに代表されるヒューマノイド型を連想する方が多いかも知れないが、ロボットはシステムである」と説明。また、RTの構成要素としては、機械工学、電気・電子工学、情報工学、センサー工学、コンピュータ技術、人工知能、心理学、材料工学、画像工学などが含まれるとした。中には経済学や社会行動学も含めるべきだ、という研究者もいるそうだ。

 そしてヒューマノイド型をしているだけがロボットではない例として、先ほどの1アクション問題を解決するためのロボット「日常生活用品格納場所想起支援システム」が紹介された。

 日常生活で使う物で、ついどこかに埋もれてしまいがちな物。たとえばハンコ、通帳、メガネ、そのほか日常雑貨などにRFID(電子基盤、皮膜)をつけ、家全体をカバーする形でリーダ(アンテナ)を設置。それをデータベースにつながったコンピュータが位置を検索するというシステムだ。

 このシステムには生活者の行動パターンが記録されており、メガネを外して顔を洗い、メガネをどこに置いたかがわからなくてあちこち見回しているようなときに、能動的にメガネの位置情報を調べて、その所在を教えてくれるのだ。こうして、1アクション問題を解決するというわけである。

 これらのシステムの基盤技術は、RFIDと接着剤、アンテナ、PCなど、非常に多岐に及び、RTがいかに複数の技術の集合であるかということも強調された。

 また、日常生活用品格納場所想起支援システムをもっと広範囲に拡張した形のシステムもある。橋本氏と共同研究を行なっている東京大学 生産研究所の橋本秀紀氏による「知的空間」がそれだ。空間(街)中にロボットを分散配置し、人間行動を観察して、街を行く人々に高品質サービスを提供するという内容である。こうしたものも、ロボットに含まれるのだ。


ロボットは多数の技術の集合 日常生活用品格納場所想起支援システムの概念図 知的空間の概念図

RTを応用した福祉機器

 福祉用途のロボットというと、リハビリ用途、障害を抱えた人への支援機器というイメージがあるが、橋本氏はそれだけではないという。元気だけど足腰が弱ってきていて外出がままならない、といった人たちのためのシステムを考えているそうだ。

 人は閉じこもりがちになると決して精神的によくない。そこで、RTを活用した福祉機器で元気に外出できるように支援し、コミュニティに参加するなどして人と人とのつながりを保ち、明るく楽しい生活を送れるようにするというわけである。ただし、サポートの仕方として、自分の足で普通に歩ける人には自分の足で歩いてもらい、ほかの衰えてきた部分を支援するのがベストだという。

 足を使わなくなってしまうと、認知症の問題など脳の衰えが出てきてしまうため、元気な部分はできるだけ使ってもらう。ただし、衰えてきている記憶力や体力などをテクノロジーで支援するというわけだ。ここでは具体的に研究中のロボットの数々が紹介された。


 福祉用途のロボットとしては、橋本氏が東京工科大学教授の大山恭弘氏と准教授の余錦華氏と共同開発している、「健康増進車」がまず紹介された。

 一般的な電動車との違いはペダルがあることで、大人用のハイテク三輪車という雰囲気の構成である。ペダルを踏んで移動するのだが、平坦な道で進むのが楽な時は、わざとペダルに負荷をかけて運動量を増やす。一方で、坂道を登る時のように負荷がかかるときは逆にサポートするというわけだ。ペダルの踏みやすさをその人の体力や状況に合わせて変化させるという仕組みである。一般的に、運動としてウォーキングやジョギングのほうが大変で、サイクリングは楽、というイメージがあるかもしれないが、ペダルを漕ぎ続けるというだけでも血流を促進するのに十分な運動なので、高齢者にとっては非常に身体にいいのだそうだ。

 実証実験では、80代の歩行がやや困難な方に利用してもらい、10度の坂も登ってもらったところ、軽く汗をかく程度で快適に登れたそうである。


健康増進車 実際にお年寄りに使用してもらった際の様子

 続いて紹介されたのは、身体インターフェイスを用いた電動車。橋本氏が、東京工科大学助教の横田祥氏と前述の大山氏との共同研究を行なっている題材だ。電動車と同時に、そのインターフェイス部分にもフォーカスされた内容となった。

 背景として、現在のインターフェイス(ジョイスティックで動作させる市販品が多い)は、機器側の仕様に合わせた操作を使用者に要求する仕組みであったり、システムの高度化に伴ってインターフェイスが複雑になってきていたりする点が問題となっている。

 実は、今の50歳代以上の人たちでジョイスティックに触ったことがある人はとても少ないし、手首の関節が硬くなってくるに従ってジョイスティックの操作は困難になってくるという問題は、意外と無視されている状況だ。結果、ちょっとした操作ミスで事故につながったりしているそうで、橋本氏はそれを解決したいとしている。

 また、そうしたユーザー側に強要する仕組みは、使用者の身体・心理的バリアになるだけでなく、知的活動を行なう上でも作業効率を悪化させるという問題もある(1アクション問題を増やしてしまう)。そこで、この研究ではユニバーサルデザインの特徴を有するインターフェイスの開発が目的となった。

 実験結果から得られたのは、車イス(電動車)使用時に移動方向に上半身を傾ける傾向。年齢などに関係なく、上半身が身体動作の中心となっていることから、その動きを情報として利用することになった。また計測手段としては「電動車のサイズがJIS規格を超えない」「事前の準備が不要」「無拘束に測定できる」といった条件を満たすものとして、座面・背もたれ部分の圧力分布から取得する方法が採用されるに至っている。


身体インターフェイスを用いた電動車 動作確認実験の様子。見事に動いていた

 さらに、手足を動かせない人のためのインターフェイスとして、「EMGインターフェイスを用いた電動車操作」も研究されている。その場合に利用することにしたのが、人の皮膚から発生できる電気(EMG)というわけだ。

 ただし、当初はこのシステムは非常に乗り心地が悪かったそうだ。その理由を調査した結果、加減速のコントロールに問題があるとわかり、インターフェイスのフィルタリングなどを行ない、現在では手のひらや首などに貼った電極アンプから、指を動かしたり首を曲げたりする筋肉の動きでスムーズにコントロールできるに至ったそうである。


EMGインターフェイスを用いた電動車 方向のコントロールは首の筋肉の動きを利用

 次は「目の代替感覚:手のハプティックを用いた歩行ガイド機」。これは、目の不自由な人のためのシステムで、押したり引いたりといったハプティック(フォースフィードバック)の仕組みを用いて、利用者の力覚(もしくは圧覚)および自己受容感覚(体の部位の相対的な位置の感覚)を介して障害物の存在と位置を通知するというシステムだ。

 機器としては、測距センサーを搭載したインテリジェントな手押し車というイメージ。フォースフィードバック機能付きジョイスティックで、利用者が進みたい方向をコントロールすると同時に、センサーが感知した障害物の存在をジョイスティックの能動的な動きで伝えるというわけだ。

 要するに進もうとジョイスティックを倒したときに、その方向に障害物がある場合はフォースフィードバックが発生し、抵抗が感じられれば障害物があるとわかるのである。そこで進行方向を左右どちらかにずらしていけば、フォースフィードバックの力が変化し、障害物がなくて通れる場所に向くと抵抗がゼロになるので、脳内にマップが形成されていく(感覚的に進める方向がわかるようになる)。視覚を介して作る脳内マップほどの精度はないのは当然なのだが、いつ何にぶつかるかわからないような状況の中を歩くよりは、格段に安心できるようになるというわけだ。


実験用のシステム。実験の場は複雑な形状の廊下が使われた 実験の様子。壁のでっぱりを避けているのがわかる

 「RTを応用した福祉機器」の最後は、「家庭用ロボットの特性に関する研究」について。日本は国策として今後、家庭にロボットを導入していこうとしており、家庭用ロボットは非常に重要なジャンルである。そこで、日本人の感性に合ったものが家庭用ロボットには仕様として求められるわけだが、その第一がかわいらしさや友達感覚でつきあえる雰囲気だ。

 ここで橋本氏が問題としていたのは、インダストリアルデザイナーが陥りがちな「外見さえかわいくすればいい」という点。もちろん外見も重要だが、きちんと考えれば見た目だけではダメなことがわかるはずだ、という。また、一見しただけだとメカがむき出しで、かわいらしい要素がまったくないといって、必ずしも人間はそこにかわいらしさを見出せないわけではないともいう。

 実験の様子をとらえたムービーでは、オムニホイール(どの方向にも進める方式の車輪)と全方位カメラを備えた30kgのロボットが、歩いている被験者の後をつけていく様子が見て取れた。橋本氏は「動き出すとかわいらしさが出てくる」というが、まさにその通りで、飼い主の後をついて回るペットのような雰囲気である。ロボットに対する被験者の感想も、最初は「冷たい」「重い」といったものが最後は「暖かい」「かわいい」に変わっていったとのことだ。


 結論として「かわいさ」「親しみやすさ」といった感覚は、もちろん見た目のデザインも大事なのだが、「動き」も重要ということがわかったわけである(その点は、ホビーロボットのセンスがフィードバックできる可能性が大きいはず)。

 以上で実験中のロボットの紹介がおしまいとなり、「RTを応用した福祉機器」のまとめとして、今後のロボットについても言及された。人の生活空間に導入されるロボットに対しては、日本人の場合はノンバーバル(非言語)コミュニケーションが重要になるという。
 日本人は「間(今風に言うなら“空気”)を読む」「あうんの呼吸」「目配せ」など、ノンバーバルコミュニケーションが多いのだそうだ。よって橋本氏は、人とロボットがよりスムーズなコミュニケーションを取る方法として、人から計測できる生態情報などを利用したノンバーバルコミュニケーションを提案している。

 その研究のひとつとして実施されたのが、「アイコンタクトだけでロボットを動かすにはどうするか」というもので、視線追跡装置を用いて実験が行なわれた。難しいのは、眼球の角度だけを見ればいいわけではなく、顔面そのものの角度も必要だということ。同じ対象を見るにしても、正面から見据える場合、斜めから流し目で見る場合など、顔と眼球の向きの組み合わせはいくらでもあるわけである。

 一般的な実験では、顔をがっちりと固定してしまうそうだが、今回は顔の角度もわかるように、天井に多量の位置センサーを配した位置計測システム「Hiball」と視線追跡システム「ISCAN」を組み合わせて、実験を行なったそうである。この実験で橋本氏が興味深く感じたのは、「人間の天の邪鬼さ」だという。人はある角度を見ていても、実は頭の中では別の角度を見ていることがあるそうだ。そして難しかったことは、眼球が常に振動しているという点。単純に眼球の動きだけでなく、人間の視覚は脳の処理とも密接に連動しているので、「人の視覚」は非常に難しいと感じたそうだ。


一見、親しみを感じないメカニカル感むき出しのロボットだが…… 人のあとを追いかけるという動作を見せると、健気でかわいらしさが出てくるから不思議である 位置計測システム「Hiball」と視線追跡システム「ISCAN」を組み合わせた視線計測システム

ものづくりの持続的発展を支えるRT

 続いて、最後の項目である「ものづくりの持続的発展を支えるRT」。日本が今後急激に伸びてきているアジア諸国と、ものづくりの面で渡り合って生き残っていくには、「ラピッド・タイピング」しかないという。製品のプロトタイプをいかに早く作り出せるか、というわけである。

 そうした面から、橋本氏が現在研究を行なっているのが「可触知バーチャル・プロトタイピング」だ。陶芸やクレイモデル製作のように行なえる3次元CGの造形システムで、3次元CADに応用すれば、製品設計工程の容易化や短期化に結びつくというシステムである。要するに、仮想空間内の粘土を直感的にいじくって造形していくシステムで、現在のCADソフトの操作の専門的な知識と技術を必要とし、時間のかかる部分をもっと簡単に、短時間で作業を進められるようにしてしまおうというものだ。

 ユーザーインターフェイスとしては、粘土オブジェクトの状態を手に感触で伝えるハプティックな仕組みがあり、指先の位置や手などの姿勢を計測する2台のカメラという構成。実現のための要素技術としては、指先の位置や手の姿勢をカメラの映像を基に計測する「画像処理(コンピュータ・ビジョン)」、変形状況を触覚により伝える「マイクロアクチュエータを用いた触感提示デバイス」、仮想空間内の粘土オブジェクトを変形させるための「曲面表現と接触・変形の物理モデル」としている。

 また、教育コンテンツの提供(ものづくり人材養成)という点も語られた。子供たちの理数離れが叫ばれて久しいが、理工系大学になると非常に厳しい状況で、電気系などは絶滅に近く、定員割れが続いているという。情報系も同様、機械関連はかろうじて、という具合だそうである。

 小学校の教師を対象に「理科の実験や算数の授業を楽しく教えてあげられる自信があるか」というアンケートをとったところ、「自信がない」と答えた教師は6割に及んだそうだ。これは、小学校の教師は多くは教育学部出身者で、理数系をあまり得意としていなかったり、本格的に学ばずに来ていたりするのだから必然といっても仕方のない状況で、このままいくと本当に若い技術者が育ってこないと、橋本氏は懸念している。


 それに対しアジア諸国では、LEGOマインドストームNXTやノートPC一式を国策として中学生たちに貸与し、10代の頃からきっちり将来の技術者を育てており、そのことからもロボットがものづくり技術養成に非常に適しているという。日本では神奈川県のように力を入れている行政もあるが、残念ながら一部の学校が学校単位で採り入れているだけ、という感が強い。

 また、Robot Watchの読者ならご存知だろうが、ロボットは競技会も多い。競技会で優勝を目指すという目標があることで、興味ややる気が持続するメリットもあり、その点からも教育コンテンツとして向いている。ロボット作りは様々なものづくりの要素を包含する、すそ野の広さを持っているため、多方面の技術者の下地作りに向いており、将来の技術者を育てるため、ロボットを教育に使わない手はないという。

 最後に、RTについてのポイントがまとめられた。次世代に向けた高品質生活を支援する技術であること(素材、機械、電気・電子部品への波及)、日本の重点領域5つのうちのひとつに指定されていること(公的予算の補助)、子供・青年向けものづくり技術教育に適していること、RTを担う産業のすそ野が広いこと、産業・文化・教育の複合文化の橋渡し役であること、というわけである。橋本氏は「RTは、人の喜ぶ顔を見られるテクノロジーです」として結んだ。


可触知バーチャル・プロトタイピング ロボットは競技会を通して、やる気や興味の持続をうながせる仕組みを持つ

産技研で研究中のロボットに環境を認識させる技術

 橋本氏の講演が終わった後、特別に産技研で研究中のロボット関連の技術を見せていただいた。研究開発部 第一部 情報技術グループ 信号処理技術研究室所属の研究員で、工学博士の周 洪鈞氏が担当しているプロジェクトだ。

 屋内の環境マップを作ろうとした場合、重い家具や家電製品、ロッカーやデスクなどの備品はめったなことでは移動しないので、一度スキャンすればその位置情報はずっと使えるが、イスやゴミ箱など、人のように頻繁に移動はしないものの、時々移動する物もある(ドアのように開いていたり閉じていたりと状態の変わるものもある)。人間ももちろん移動するわけだが、非常に短時間なので、削除しやすいのだそうだ。しかし、イスやゴミ箱はそうはいかないので、定期的にセンシングして環境マップを更新していくというわけである。

 今回ロボットが産技研にないため、ロボット自体はいただいた画像のみとなったが、センシングして環境マップを構築していく様子をモニターした映像を録画させてもらうことはできた。人間にとって、周囲の環境を認識することは非常に簡単なことであるが、ロボットにはまだまだ大変。人間と共存できるロボットの開発のためにも、環境認識技術のさらなる精度アップが望まれるところである。


実験で使用されたロボット 【動画】環境を認識していく様子

URL
  東京都立産業技術研究センター
  http://www.iri-tokyo.jp/
  産業技術大学院大学
  http://aiit.ac.jp/


( デイビー日高 )
2008/07/16 17:29

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