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大大特統括シンポジウム「レスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発」レポート

~現場に必要なロボットを追求し続けた5年間

 12月22日、「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(略称:大大特)」総括シンポジウムが東京国際フォーラムにて行なわれた。主催は、文部科学省、防災科学技術研究所、東京大学地震研究所、京都大学防災研究所、国際レスキューシステム研究機構。後援は東京駅周辺防災隣組。

 大大特は2002年から始まったプロジェクトで今年が最終年度。いくつかのプロジェクトが行なわれ、同様に最終報告が行なわれたが、ここではそのうち「レスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発」セッションのレポートをお送りする。

 なおこの前日に統括シンポジウムの一環として、レスキューロボットのデモンストレーションが行なわれた。下記のレポート記事と合わせてお読み頂きたい。


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IRSによるレスキューロボットデモ公開(2006/12/22)

東北大学 田所諭教授
 まずはじめに、「レスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発」プロジェクト代表の東北大学機械系情報科学研究科応用情報技術論講座の田所諭教授が全体説明を行なった。田所氏らはロボティクスの研究者だが、最初に文部科学省から「これはロボティクスの研究ではなく防災研究。ソリューションを出すことが重要だ」といわれたことを念頭に置いたという。はじめの2年で要素技術を開発し、その後3年間で実用試験機を開発した。

 田所氏は「このプロジェクトでいうところの『実用化』とは現場使用での有効性を示すことであり、現場投入が可能な技術を確立すること。製品開発はミッションとしていない」と述べた。だが製品化、実戦配備は重要であり必ず行なわなければならないと考え、特に今年度は、その道筋をつけることを重点的に行なってきたという。

 田所氏らがレスキューロボットの開発を本格的にスタートしたきっかけは、'95年の阪神淡路大震災だ。当時、田所教授は神戸大工学部助教授を務めていた。実際に被災者や大惨事を目の当たりにし、ロボット研究がまったく役に立っていないと実感した。アニメのヒーローロボットのように人間を助けるロボットなど皆無で、研究開発を行なっていた人もゼロに近かったという。しかし少しでも始めればやがて成果が出るだろうと考えた。

 今後の大地震としては、南海地震、東南海地震が警戒されており、もし2つの地震が連動して発生した場合は、1万人程度の死者が出ると予想されている。このような大災害発生時、ロボットに対して期待されている点は3つあるという。

 1つ目は救助する隊員などへの2次災害の防止、2つ目は人間の能力を超えた救助だ。だがその2つだけでは作っても使われない。使われるためにもっとも重要な3つ目のポイントは救助の効率化、生存率向上だ。これはコスト低減、効率向上のためのソリューションとして用いられる産業用ロボットと比較すると、きわめて当たり前である。効率が悪い道具は使われない。


 もうひとつ重要なことは、作るものは決して「ロボット」ではない、という。ロボットが道具として使われ、救助チーム全体のパフォーマンスを向上することが重要だ。

 救助というと瓦礫を取り除き、被災者を確保するシーンを思い浮かべる人が多い。しかしもっと時間がかかるのは情報収集と探索であり、機械がもっとも貢献できるのはここだと考え、ターゲットとした。現状のロボット技術からすれば、瓦礫の掘削はできなくはないが、万が一操作ミスを起こすことを考えると実際に使われることは難しいだろうという。

 選んだのは4つのミッションである。1つ目が上空からの情報収集を目的としたインテリジェントヘリ。上空にとどまって情報収集する気球などの研究も行なっている。2つ目が非常に狭い空間である瓦礫内の情報収集。ヘビ型ロボットなどの開発を行なった。3つ目が瓦礫上からの情報収集。ヘビ型ロボットよりも大きくよりセンサー類を搭載して構造物内を検索するクローラ型・ジャンプ型ロボットの開発を行なった。4つ目が広域情報収集のためのインフラとしてのユビキタス情報収集端末だ。

 その研究の中心となったのがNPO国際レスキューシステム研究機構(IRS)である。現在では大大特以外の研究プロジェクトも受託して研究開発を行なっている。NEDO戦略的先端ロボット要素技術開発被災建造物内移動RTシステムや消防防災科学技術研究推進制度UWBレーダー、油空圧レスキューツールの開発などだ。それらのプロジェクトは大大特プロジェクトで創られた技術を発展させ,製品化や現場配備につなげることを目的にしているという。

 やりたいことは現場で使える実用化技術の開発なので、性能試験、改良開発、そしてまた研究開発というループをまわさなければならない。そのためにテストフィールドとして、神戸倒壊家屋実験施設などを設けてさまざまなロボットでの試験をIRS-Uなどで行なって改良を続けてきた。


選ばれた4つのミッション テストフィールドを利用して研究開発を行なっている

上空からの情報収集ミッション
 このあと各ミッションのオーバービューが解説された。後述の各ミッションリーダーからの解説とも重なるが、ここでもまずオーバービューをまとめる。

 上空からの情報収集ミッションでは、GPSとINS複合航法、突風にも耐えられる高度制御技術を持ち、3次元地形データを収集できるインテリジェントヘリの開発と、定点観測を行なう気球の開発を行なった。ヘリに関しても使いやすさに重点を置いた。

 気球は「インフォバルーン」と呼ばれ、50m~150mの高さにあげても風に対して安定する気球を作った。上空から画像を収集すると水滴などがついて画像が汚れてしまう。そこで複数枚の画像を使うことで汚れを消してきれいな画像が得られるような技術を開発した。

 集められた各種データは、MISPという共通プロトコルで、「DaRuMa(ダルマ)」と名づけられているレスキューデータベースに集められる。データは災害対策本部や、シミュレーションで活用される。データは生データだけではなく、加工された2次データとして意思決定に使うこともできる。


広域災害情報収集ミッション
 広域災害情報収集では、レスキューコミュニケータの開発と、RFIDの活用方法を研究した。普段は家電の一部を構成し、ハブあるいはルータとして活動しているレスキューコミュニケータ群が、いざというときに家庭内にいる人のデータをネットワーク越しに救助隊に情報を与える。まずは初期微動のときに速報を送り、揺れが来たあとにはアドホックネットワークで情報を送る。

 RFIDでは、災害時の人の動態チェックと、救助時のトリアージタグとしての活用である。あるいは救助を一度行なった建造物に対してタグを張って、どのような救助が行なわれたかマークする手段としての活用もされる。


HELIOS Carrier
 3番目が瓦礫上情報収集である。蛇型よりもモビリティの高いロボットの開発を行なっている。たとえばヘリオスキャリアは連結することでモビリティを向上させる。場所が狭い災害現場では向いているという。また、瓦礫上ジャンプロボットは、瓦礫の上をエアシリンダーを使って飛んで情報を収集する。最新型ではジャンプロボット内にさらに情報収集用のボールをつんで、2m程度の障害物の向こうの情報を収集できるようになった。

 ロボットの操作は基本的に遠隔操作で行なう。遠隔操作はカメラを通じて行なうとかなり難しい。周囲の状況が分からないからだ。そこで、仮想的に鳥瞰画像をつくったところ、操縦が非常に容易になったという。また画像のゆれを抑える技術も開発している。ロボット上のレーザーレンジファインダーと画像を使って、3次元地図を作る研究も行なっている。これらを統合することで、ロボットをどう動かせばいいか、戦略が立てやすくなる。

 ヒューマンインターフェイスにはガイドラインを設けるべきだと考え、いま策定をしているところだという。誰でも使いやすいシステムの実現を目指している。

 操縦においては無線ネットワーク技術が重要だ。アドホックネットワークのルータを普通に使うだけでは容量不足になるが、開発されてたシステムでは、伝送経路と容量を指定することによって、たとえば特定のカメラの映像をコマ落ち無く伝送することが可能になっているという。

 UWBレーダーではがれきの向こうの人体を発見することができる。


瓦礫内情報酬集ミッション
 瓦礫内情報酬集ミッションでは、瓦礫内探索アドバンスドツールや、探査ロボットを作っている。IRS蒼龍は3つのクローラからなるヘビ型ロボットで倒壊家屋などに入ることができる。アメリカのFEMAなどとも共同でレスキューロボットの評価を行なっているという。

 現在、32個のカメラからなる死角のないマルチカメラシステム、ロボットの位置を把握するためのフレキシブル・センサー・チューブ(FST)、レーザーレンジファインダーなど、さまざまなセンサーを搭載した「ハイパー蒼龍4」というロボットを開発している。

 またジェットを使うことで地中に潜れるシステムや、振動駆動によって瓦礫に入っていける能動スコープカメラ、棒の先にレーザーレンジスキャナーを作ることで3次元マップを作る道具、ジャッキアップする小型ロボットなどなどの研究開発を行ない、現在ある消防ツールの高度化も行なっている。

 これらのロボットで集められたデータはDaRuMaに集められて参照される。「レスキューの目的を果たすためには多様な技術を統合してシステム化することが不可欠なため、プロジェクト内では幅広い研究が行なわれている」という。

 技術だけでできても、使われるようにはならない。本当に使われるためには、消防、産業界、医学界などとの共同作業が重要になる。消防からも「実用まではまだまだだが、かなり良くなっているので今後に期待している」という声をもらっているという。

 田所教授は「実用技術を開発するという目的は120%果たした。ロボット技術が安全で安心して暮らせる社会を実現する技術となることを願っている」とまとめた。


各情報はMISPという共通プロトコルでデータベース「DaRuMa」に統合される 研究成果活用のシナリオ

実用化のための活動 安全安心社会の基盤としてのロボット技術

ユビキタス被災者探索システム 広域災害情報収集のためのインフラ

東京大学 淺間一教授
 以下、各ミッションのミッションリーダーからの報告が行なわれた。まずはじめに「広域災害情報収集のためのインフラ」については、東京大学人工物工学研究センターサービス工学部門の淺間一教授から講演が行なわれた。

 まずレスキュー戦略を立てるためにはいち早く状況を把握することが重要だ。しかし現状の技術では、情報インフラも死んでしまう可能性が高い。だからいざというときのための情報インフラ構築が必要になる。ユビキタス端末を家庭内に設置しておき、センサネットワークをベースにロボットが動き回り、それを収集して集計する。それらは共通の通信プロトコルで送信され、時空間統合されたGIS上で統合される。

 広い領域のなかで、外界との通信が断絶した瓦礫に埋もれた被災者をどうやって探索するか。二次被害の可能性もある。従来のアプローチは人あるいは犬が探しているわけだが、まず環境そのものをインテリジェントにしようというアプローチが「ユビキタス被災者探索システム」である。

 普段は家庭内にある何かしらのデバイス端末が、地震が起きると被災者探索モードに変わる。被災者が「助けて」といったらその音声を記録し、上空の自律飛行船やヘリなどから形成されるアドホックネットワークにアップロードするというのが基本シナリオだ。

 レスキューコミュニケータはSH4を搭載、LINUXで動作する。バッテリが搭載されていて72時間動作する。スピーカーとマイクが搭載され、音声の再生や録音ができる。

 利用シーンのイメージはこうだ。通常はホームネットワークの一部として、セキュリティなどの用途のサーバー、あるいはルータとして使われる。だが地震で電源が落ちたり、揺れを検知すると、親機が家のなかの子機を起こし、直前まで人がどの部屋にいたか、といった情報をレスキュー隊に伝える。そのためにはネットワークをアドホックに構築する能力が必要だ。

 子機は重さ78g、75×50×40mmと非常に小さく、コンセントにそのままささるようになっている。親機は三菱電機から研究用に販売もされている。

 NICTでは、RFIDを使った情報管理の研究を行なっている。瓦礫から被災者を助け出したときに、どのような救助行為をしたかタグに書いて残す。それによっていつ誰が助け出されたかが分かるわけだ。収集した情報は地図上に表現される。


 データは、人間が持つPDA、UAV(無人航空機)のカメラ、車載マッピングシステムなどが撮影した画像そのほかは、XMLベースで情報を表現するMISP(Mitigation information Sharing Protocol)というプロトコルで送られ、DaRuMa(Databese for Rescue Utility Management)データベースで管理される。DaRuMaは階層構造になっていて、「親DaRuMa」で統合される。データは時空間GISで表現されるため時々刻々変化する情報を一元管理して活用できる。実際に昨年と今年、山古志村で実験を行ない、有効性を確かめた。データは村役場でも活用されているという。

 アジア航測とも共同研究を行なっており、どこのエリアがダメージを受けたのか、上空からの3次元画像からすぐに分かるシステムを作っている。

 実証実験を非常に重視しており、今年11月には川崎住宅展示場で実証試験を行なった。3F建ての建物のなかで実際に通信が通るかどうか、ロボットとの通信はどうかなどのテストを行なった。するとトイレなどは通信状況が悪かったり、1Fと3Fでは通信が通らないなど、各部屋ひとつの設置では環境によっては通信ができない状況があり、もっと信頼性をあげる必要があると分かったという。

 上空との通信実験は山古志村で行なっており、メッシュネットワークを使って実際に音声を送れることを確認した。いったん画像に蓄積された画像はノイズ除去などの処理を行なう。RFIDについてはより小型化してほしいという要望が消防側からあったという。

 浅間氏は、今年は実用化を目指して開発を進めたが、今後さらに実証実験を通して実用化を考えたいと述べた。また市販で使えるものはどんどん使っていく方針だという。


大規模災害に対する情報インフラ センサーノード・レスキューコミュニケータ RFIDシステム

上空からの情報収集

北海道大学 小野里雅彦教授
 「上空からの情報収集」ミッションは、災害時、地表からはアプローチしにくいところに上空から接近し情報を収集することを目指したグループだ。発表は北海道大学の小野里雅彦教授から行なわれた。静止軌道衛星、リモートセンシング用周回衛星、また検討されている成層圏プラットフォームなどもあるが、欲しいときにすぐ情報を取りにいける、無人機をターゲットに、大大特では開発を行なった。

 空中ロボット、エアロロボットもいろいろな種類がある。また大大特でターゲットとした情報収集だけではなく、配信、中継、物質散布、移送なども用途としては考えられる。

 エアロロボットが他のロボットと違う点はなにか。運用面では気象条件の影響を受けることがある。しかし広域の観測ができる。技術面では軽量化と省エネ、そして安全性重視、遠隔操作や自律性確保も必要になる。

 災害情報には3つのフェイズがあるという。まず最初は被災状況の調査、どこがどうなっているかである。第2は被災者の探索。第3は被災地状況の継続的な監視である。フェイズ1の情報収集に時間がかかると状況が把握できない。それが遅れると災害の全体像が分からず、救助活動も遅れる。

 ではロボットに何ができるか。機動性と継続性が必要だが両者を実現するのは難しい。だからそれぞれ3つの違うタイプのロボットを開発し、連携するというアプローチが考えられる。

 活動シナリオは、災害が起きると自動発進。安全な飛行経路をとって、想定地域に行き、情報を収集し、すみやかに映像を中心とした情報を対策本部に送る。それを中心に重点的な探査やスキャンを行なっていく。さらに被害が予想される場所では定置型ロボットを使って継続監視をする、というものだ。


 まず京都大学の中西弘明氏らのグループではGPSとジャイロを使った無人ヘリの開発を行なっている。千葉大・野波健蔵氏らのグループではさまざまなサイズのヘリに対する自律制御則と制御ユニットの開発を行なっている。重さ数十kgから数gにまで対応できるという。地形データをとる研究開発も行なわれている。

 自律小型飛行船は理研・川端邦明氏のグループで研究開発されている。現状では屋内で飛べるものしかできていない。ケーブル駆動型ロボットはIRSの神戸ラボ・武村グループで研究されている。がれきのなかで活動するロボットに対して鳥瞰画像を提供する。北海道大学・小野里グループでは、小型で安定して係留できる「インフォバルーン」を研究開発している。

 静岡大学・三浦憲二郎氏のグループでは画像処理技術を使い、「バーチャルワイパー」と呼ぶ上空カメラに付着した水滴などを除去する技術を開発している。

 上空からのミッションユニットでは旧・山古志村(現在は長岡市の一部)での実証実験を行なった。今後必要なものとしては、小型高性能なカメラユニット、安価な位置姿勢計測ユニット、長距離・高速データ通信モジュール、伸縮性のあるガスバリア皮膜材、全方位の障害物検知システムなどがほしいという。

 エアロロボットを運用するための空間整備も必要だという。またエアロロボットの運用においても安全基準が重要となる。災害時にどこを通るかといったことも平時に了解をとっておく必要がある。また悪用防止技術や運用も実用化においては必要となると述べた。


エアロロボットの特徴 地震発生時の上空ミッションの行動想定シナリオ

開発したロボットシステム カメラに付着した水滴を除去する画像処理技術バーチャルワイパー

瓦礫内探索ミッションユニット

神戸大学 大須賀公一教授
 瓦礫内移動体を用いた情報収集については、神戸大学の大須賀公一教授が講演した。ロボットシステムを作るグループ、アドバンストツールを作るグループ、ヒューマンインターフェイス担当の3グループに分かれて研究開発を行なっている。それらを統合した探索チームが、瓦礫内の要救助者を探すわけだ。

 瓦礫内は、あまり大きな空間がない。数cmから数十cmあればラッキーだ。瓦礫外で活動するロボットに対して、小さくなければならない。でもあまり小さくすると走破性が悪くなるので細長く連結した形が多い。瓦礫内も浅い部分と深い部分では状況が違う。浅い部分はファイバースコープなどを突っ込むことがある程度できる。それをより能力の高いものにするアドバンストツール研究が必要だ。奥となると、能動的に進入する能力が必要だ。それがロボットになる。両者は独立ではなく、うまく連結してひとつの統合的探索チームとして活動することが望ましい。

 いま開発しているのが「Hyper-Soryu4」である。東工大・広瀬研究室の「蒼龍」シリーズの最新版の改造機だ。3つのクローラが接続された形は同じだが、中央のボディのクローラは左右独立に動くのでその場旋回もできる。

 瓦礫内で人を探すだけではなく、広く状況を把握するためのマルチカメラシステム(全部で44、現在は32個)、三次元マップを作るマルチファンクション・レンジファインダー、位置を知るためのフレキシブル・センサー・チューブ(FST)などを持つ。位置が正確にわかって過去画像が使えるので、過去画像を使った操縦用システムも開発されている。送られたデータはシミュレーションなどに使われる。

 マルチカメラシステムはひとつのボードから4つのカメラを制御している。一昔前ではコンピュータの処理能力のため無理だったという。現在はカメラの位置はまだ最適ではなく、人間が見やすいようにはなっていないが、将来は、あたかも自分が蒼龍のなかにいるかのように感じられるようにすることが目標だという。

 次に問題になるのが瓦礫のなかのどこにいるか、位置を知ることだが、そのためのデバイスがFSTだ。もともと神戸大がMOIRAというシステムのために作っていたシステムを改良したものだ。MOIRAはもともと空気圧で動作していたので有線にしていた。そのケーブルの形状を把握、利用して、ロボットの位置を知るというのが基本アイデアだ。最初のMOIRAには10mで200関節がついていて、ポテンショメーターのデータを使って形状を知るようになっていた。8つの関節を1つのCPUにつなぎ、CPU同士をシリアルに繋ぐという構造になっていた。


 現在のFSTは縦、横だけではなく、ねじりの自由度がそれぞれの関節についていて、内部はCANで通信をしており、電力線とLANケーブルがついている。

 こうして位置情報が分かれば、過去画像を利用することができる。画像の上に蒼龍の姿をCGで描き、あたかも俯瞰で見ているかのように見せるというのが過去画像を用いた操縦システムだ。現状では3台のノートPCを使っているが、将来はよりコンパクトになる。

 あとは通っていった経路をちゃんとマップとして残せるかだ。そのための装置がマルチファンクショナル・レンジファインダーだ。瓦礫の中にロボットが入っていったときに、その様子をリアルタイムに取り込んでいければ、あたかも自分が入っていっているかのように見せることができるようになる。

 赤外線レーザーは周囲に面状に照射して距離画像を撮る。それとイメージを合わせて3次元の立体像を作る。装置そのものは長さ15cm程度。ふだんは蒼龍のなかに格納されていて、必要なときに外に突き出して計測する。データはDaRuMaに送り込まれてGISに統合される。

 瓦礫があまり深くない場所ではアドバンストツールが使われる。岡山大・鈴森康一氏らのカッターロボット、ジャッキアップロボット、東工大・塚越秀行氏らのジャッキアップロボット「バリバリ」で隙間をあける。隙間ができれば棒を突っ込めるので、棒の先にカメラがついた大阪府立高専の土井智晴氏らによる「くるくる4」を使える。くるくる4はハンドルを回転することでDCモータで発電する機能を持っている。

 もっと細い空間ではどうするか。消防ではファイバースコープを使うが、摩擦が大きくなると入らなくなる。東北大の田所氏のグループではネコジャラシの原理を使った繊毛センサー(アクチュエータ)を使ったアクティブファイバースコープを開発している。これまでのファイバースコープではいけなかった部分にもいけるようになる。普通のファイバースコープに巻きつけるだけで使える。東工大の広瀬氏らはニューマジャッキという足踏みで使えるジャッキを作っている。


 東工大の塚越氏らは、高圧の空気圧を使って土砂や雪のなかに能動的に入っていける土内移動ホースを開発しようとしている。このほか、水難救助ツールなども開発しようとしているという。

【お詫びと訂正】初出時、塚越氏の所属について東北大学と記述しておりましたが、東工大の誤りでした。お詫びと共に訂正させていただきます。

 これらのツール・ロボットに対してはいろいろな操縦システムが考えられる。これまでは研究者が独自にロボットの操縦方法を考えていた。ロボットが違えば操縦系も違っていた。だが、いざというときに一同に介したときにそれでは使えない。基本的な使い方は共通であったほうがいい。ヘビ型だろうが車輪型だろうがクローラだろうが同じように走って曲がれる、瓦礫を乗り越えられるほうがいいのである。この研究は京大で行なわれている。大大特やロボカップレスキューで良いロボットを見つけて、それを標準化しようとしているという。

 これらを統合するのが統合的探索システムだ。地震が起きたときに何らかのかたちで現場までロボットやツールを運ぶのだが、地震のときには悪路を走破できる車両が必要になる。弁慶のように複数の機材を運べる能力も必要なので「BENKEI」というシステムを提案している。

 「不整地出動用救助資機材搬送車両」という正式名称がついたこの車のコンテナにはロボットやツールが納められ、キャリア自体がベースとなるように発電機も積んでいる。現在のモデルには全周囲カメラもつけられ、周囲の状況も把握できるようになっている。

 今年10月には実証実験のときに土砂降りになり、図らずも雨天での想定訓練実験となった。結果的には一部不具合が出た。ロボットを組み立てるときにコネクタを接続するのだが、一部ロボットでは、そこに砂が入って動かなくなったという。大須賀教授は「悪環境でやってはじめてわかることもたくさんある」と述べた。ケーブル類の引き回しなども研究者は考えない人が多いが、実際の現場ではだめだ。大須賀教授は「今後、なんとか統合化システムとして動くものを作っていくべきだ」とまとめた。


蒼龍4の改造版、Hyper-Soryu4 マルチカメラシステム フレキシブルセンサーチューブ

マルチファンクショナルレンジファインダー 蒼龍4の先端部に取り付けられている ジャッキアップロボットの試験の様子

アクティブファイバースコープ 土内移動ホース レスキューバギーBENKEI

瓦礫上移動体ユニット

電気通信大学 松野文俊教授
 瓦礫上移動体を用いた情報収集ミッションについては、電気通信大学の松野文俊教授が述べた。このグループではクローラ、車輪、あるいはジャンプをするようなロボットを使って、局所的なポイントで被災者や被災地域の情報収集をすることを目的としたロボットシステムの開発を行なった。

 瓦礫環境では防塵防水対策も必要だ。またアドホック通信技術も必要だし、操縦におけるヒューマンインターフェイス研究、瓦礫の外から人を探す技術も必要である。

 まず移動体プラットフォームとして「ヘリオス(HELIOS)」シリーズが紹介された。これをベースに、各グループが開発した技術が搭載された。「ヘリオス7」は東工大の広瀬教授らが中心となって開発したロボット。コンパクトなクローラながら、アームをうまく使ってクローラと同期させて階段を上ることもできる。操作は無線で行なう。講演では、クローラだけではなく、グリッパのついたアームを巧みに使って高い段差を乗り越えたり、バランスをとったりする様子がビデオで紹介された。

【お詫びと訂正】初出時「ヘリオス7」について有線操作と記述してありましたが、有線は電源を供給するもので操作は無線で実行していたとご指摘を頂きました。お詫びとともに訂正させていただきます。

 ヘリオス7は70kg程度の重量があり、重たい。スケールを3/4にし(幅486mm、長さ540mm)、重量を30kgにしてレスキュー隊員が1人で持てるようにしたのが「ヘリオス8」である。コンセプトは基本的に同じだが、アームにはカメラが取り付けられ、グリッパの構造が変わっている。広瀬教授が研究している「ソフトグリッパー」が取り付けられており、これはひとつずつ制御するのではなく、プーリー、ワイヤー、スプリングを組み合わせた純粋にメカニカルな機構によって指が一本ずつ動くようになっている。不定形なものを柔軟に掴むことが簡単にできる。

 モーターはコンパクトなサイズのモーターを2つ入れたダブルモータ機構・制御となっている。CPUはSH2が使われている。

 「ヘリオスキャリア」は手軽に平坦なところで動くロボットだ。アドホックネットワーク通信の中継や、センサー搭載用に使われることを想定している。重さは32kg。1台だけだと段差があっても乗り越えられないが、2台連結すると段差も登れるようになる。これはもともと広瀬教授の「群龍」というアイデアをベースにしたものだ。間を変形するゴムばねを使った受動関節で繋ぐ。そうすると、変形のひずみも吸収できるというわけだ。ピッチ軸には異方性ばねが使われている。

 これらのロボットをどのように操縦すればいいのか。連結された2台を1台の駆動車両と考えて、動かせるように制御を行なっている。しかし実際には前後の車両がずれる。それを連結部の機構を工夫することで吸収している。オペレーターは前進後退、回転の命令だけを与えるだけでいい。操作用コントローラーはひとつのバッグにおさめられている。


 続けて、基礎技術が紹介された。空気圧アームモジュールは、連結アームをゴム人工筋を使って能動化したもの。UWB人体探査センサは湘南工科大学の秋山いわき氏らが開発しているもので、非接触で人間を瓦礫の上から探れる。ドップラー効果を使って動いているものを検地でき、呼吸している人であれば、要救助者がいる可能性が高い場所が確率で表示される。広いエリアの瓦礫の上から中に埋もれている人を探せるようになるという。

 理想的な状況では5mくらいまで探知できるが、間に金属板や水があると探索が難しくなるそうだ。鉄筋1枚くらいなら問題ないが、何枚か重なると難しいそうだ。土砂の場合は間に水が含まれるので、その状態によるという。

 また東工大の塚越秀行氏らは、ロボット本体が瓦礫を乗り越えられないときにセンサそのものを飛ばしてしまう投擲型探査システムを開発している。空気圧源としてドライアイスを使ったパワーセルが用いられている点が特徴。3重点をうまく使うことで圧力を一定で供給できるという。

 ヒューマンインターフェイスと環境地図作成技術についても説明が行なわれた。ロボットが動き出すと、画面は揺れるしモーターからのノイズも入る。その画面を見続けることはかなり負担だ。情報収集することが目的なのであって、ロボットを操縦することそのものが目的ではないので、オペレーターの負担を軽減することが重要となる。だからロボットのどこにカメラを積むかも重要だ。たとえば全方位カメラを使うと、真正面のカメラ1台よりは、自分がどこにいるのか把握することはかなり容易になる。ポールの先に魚眼カメラをつけると、俯瞰視点が得られるので全体の状況が非常に分かりやすくなる。

 また揺れを抑えることも重要だ。モーションセンサを使って画像の一部だけを切り出してみせると、見かけ上カメラの揺れがなくなる。

 もうひとつは客観的視点の提示も遠隔操縦では重要である。環境とロボットの関係を把握できるかできないかでは、かなりの違いが出る。フライトシミュレータやレースゲームでも自分が操作する車が見える3人称視点のほうが操作がはるかに容易である。それをカメラの映像から作れないか。過去画像と現在の自己位置、画像履歴から生成された任意視点画像があれば車載カメラ画像から俯瞰視点を作ることができる。

 3次元環境地図は、レーザーレンジファインダーを使って作成している。距離画像にテクスチャマップを張り込むことで臨場感のある画像を作り出すことができる。真っ暗な場所であっても形状データは取得できるので、さまざまな方向からロボット操作を検討できるのが利点だ。

 IRS-Uや消防との実証実験を行なって、開発を進めているとまとめた。なお地下街での無線通信では、やはり1ホップでの通信は難しいため、途中に中継器をおく必要があるという。


システムの全体 HELIOS Carrierを連結する空圧アーム

軽量化し、ソフトグリッパーを持つヘリオス8号 ソフトグリッパー

ロボットの関節機構と移動機構 連結アームを使ったロボットシステム

UWBセンサーを使った瓦礫の向こう側の人体検知 ジャンピングロボット

俯瞰映像提示システム 三次元環境地図

総合討論

 最後に総合討論が行なわれた。田所教授が「開発したロボットシステムは、どうすれば実際に配備されるような形に持っていけるだろうかという問題について議論したい」と問題提起を行ない、それに対して各ミッションリーダーが応えた。

 最初に松野教授が、「災害現場での被害を減らすという目的達成型のプロジェクトである以上、ユーザーの立場から開発を進めることが重要ではないか。少しでもボトムアップ的に現場のニーズを組み入れて開発することが重要。もうひとつは現在の1品生産体制から量産ができるような国の仕組みが必要だろう。そのためにも有用性をわれわれが示す必要がある」と述べた。

 大須賀教授は、「何回か想定訓練のなかで思っていることなのだが、ユーザビリティとも関連することで、ロボットをセットアップするときの問題が気になる。現場ではコンセントがあるわけでもなく、調整に何十分もかかるようでは使えない。最初に持っていくところからが勝負なので、機材そのものの開発だけではなく、周辺の問題も解決しなければならない。できるだけコンパクトなシステムとして、スイッチをひとつ入れれば全部立ち上がるというものでなければ。新しい技術よりも、いまある技術の組み合わせ方が重要」と述べた。

 これらに対して筑波大学の坪内孝司教授は「消防の人が使ってくれるようになったのは画期的なこと。研究室内の自己満足からは、5年かけて一歩踏み出せたと思う。こういう消防機材が産業的にやっていけるようになるかどうかはわからない。経済規模のリサーチや技術移転リサーチも考えられる人材もほしい」とコメントした。

 レスキューコミュニケータを開発した羽田靖史氏は、「レスキューコミュニケータはもともと普段の日常生活から使ってもらうことを想定している。日常から使えるシステムでなければ使えないことを念頭においてやっていきたいと思っている。社会インフラはこれから家庭内のネットワークに接続することを必ず求められる。企業からも提案型の商品として、出していく形もありうる」と述べた。

 情報通信研究機構(NICT)の滝澤修氏は「結果的として、ひとつの統合されたものを出すには、5年は短かったのでは。私がかかわっている通信では標準や規格が重要視される。ロボットにしても多くの人に使ってもらうためには規格化や標準化を狙いながら進めていくべきだったのではないか。クローラの規格などを作ってから働きかけるといったやり方もあったと思う。今回はそれぞれ得意な分野で活躍するために、それぞれ違うロボットを作っていったわけだが、標準化を念頭におきながらやったら普及が早くなるのではないか」と述べた。


 産総研 サイバーアシスト研究センターの野田五十樹氏からも「いろいろなロボットがあって現場では使いにくい部分もあるのでは。DaRuMaは技術的には新しいことはない。しかし汎用性があって色々なところから引き合いがある。ロボットも比較的受け入れられやすいものを、うまく展開すれば広まる可能性があるのではないか」と付け加えた。

 これに対して大須賀氏は「まず作ってみなければわからないという面があった。まずレスキューロボットの場合はどういう災害現場があるか分からないため、設計仕様がわからない。それで結果的にはいろんなタイプのロボットができた。それが実証実験している間に、だんだん1つにまとまってきた。あと2、3年あれば、おっしゃったようなことができるのではないかという気がしている」と答えた。

 田所氏も「NEDOのプロジェクトのなかではそういうことを志向しているプロジェクトもあるし、消防の人もそういうひとがいる。最初は消防の人も意見を求められても困るなという話だった。作ってみて、初めて意見が得られた」と述べた。

 「いままでロボットは存在していなかった。しかし情勢はいまは変わってきた」という。「以前は災害にロボットなどけしからんと言っている人もいた。だが説明するとその人の意見はがらっと変わった。ロボットが世の中で使えることは徐々に認知されつつある。アメリカでもレスキューロボット評価標準化の話がある。こういう場面ではこういうものが有効だということが分かるようになるだろう」と述べた。

 また、京都大学の横小路泰義氏は「コマがないと標準化は難しい。これまでも遠回りで回り道をしたが結局、落ち着くところに落ち着くという経験をしている。それとデモ、訓練、PRは非常に重要だ。消防訓練は平時に機械と人間を動かすことでチェックの役割も果たしているし、アピールも果たしている。ロボットも積極的にPRすることが重要だろう」と述べた。

 これで大大特の公式行事は、ほぼ終わりになる。最後に田所教授が「技術的なことができただけでは駄目で実戦配備されないといけない。5年10年後には我々が開発したものが使われるようになるのではないか。1つの研究の流れとしてレスキューロボットが頭に染み付いた。今後も続いていくと考えている」と語った。


IRS-Uとの実証訓練の様子 消防署との総合訓練

URL
  国際レスキューシステム研究機構
  http://www.rescuesystem.org/
  文部科学省 大都市大震災軽減化特別プロジェクト レスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発
  http://www.rescuesystem.org/ddt/

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( 森山和道 )
2006/12/25 16:31

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