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宇宙ビジネス=(モノづくり魂+感性)×宇宙?
~JAXA産学官連携シンポジウム2006「宇宙×イノベーション」レポート


 12月7日、「JAXA産学官連携シンポジウム2006『宇宙×イノベーション』~宇宙ビジネスが『オトコゴコロ』と『オンナゴコロ』と刺激する」が大手町サンケイプラザにて開かれた。

 『オトコゴコロ(モノづくり魂)×宇宙』、『オンナゴコロ(感性)×宇宙』をキャッチフレーズに掲げ、「身近な生活者の視点で新しい発想から生まれた宇宙ビジネスや、宇宙関連の商品開発の実例」を紹介することを目的として開催されたもの。参加人数はおよそ400人。技術移転の例そのほか、一部は実物展示も行なわれた。

 JAXA理事長の立川敬二氏は「テーマはイノベーションの『i』。子供には宇宙は夢があるものと捉えられているが、大人になっていくと夢がなくなっていく。現状では宇宙開発の市場規模は3,000億円程度しかない。しかしここで宇宙のイノベーションを築き上げ、将来は花開かせたい」と開会挨拶をした。


JAXA理事長 立川敬二氏 展示されていたCANSAT JTBによる宇宙旅行の案内も

第一部 宇宙イノベーションの真価と始動

一橋大学イノベーション研究センター教授 米倉誠一郎氏
 はじめに「イノベーション:常識なんてぶっ飛ばせ 日本の宇宙開発は地球のため」と題して、一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏が講演を行なった。米倉氏は宇宙開発委員会の特別委員でもあるが、以前は「日本の宇宙開発はやめてしまえ」と思っていたという。

 米倉氏は、戦前の日本と戦後の日本の違いは何かという話からはじめた。資源に乏しいという基本条件は変わっていないが、戦後の日本は、発想の大転換を行なうことで高度成長を遂げて復活した。現在、他の国々も日本のように発展したいと考えている。

 米倉氏は、「インドの二桁の九九や北京の清華大学が怖いわけじゃない、本当に怖いのはそれらの国の若者たちが希望を持っていることだ」と述べた。たとえば日本の若者はトヨタのような会社に「入りたい」と考えるが、彼らはトヨタのような会社を「作りたい」と考えるという。

 日本のGDPは500兆円。税収は49兆円。予算は79兆円。政府の借金は800兆円である。ブラジルはGDPの40%で破綻といわれたのに、日本はなぜGDPの160%も借金していて平気なのか。ひとつは対外債務がないからだ。つまり国民から借りているわけだ。貯金を使って銀行が国債を買っているので、間接的に国に貸していることになる。現在はなんとか単年度黒字にすべく大蔵省は努力している。このような状況で宇宙開発に回すカネがあるのか。

 また日本は観光客ランキングで世界で32位。マレーシアやタイ、韓国よりも低い。このような状況は、ずるずると日本の6割を占めるサービス産業を縮小させていく。


 上海ではリニアモーターカーが動いているのに、新幹線はすでに43年前のテクノロジーである。また京都は個別の寺院仏閣はすばらしいが街全体に人を惹きつける魅力がない。

 米倉氏は、「実験と商用化では最終的にものすごく差が開いていく」と会場に語った。中国でのリニアモーターカー運用を馬鹿にしていると、現場で試行錯誤を続けている中国にどんどん差を広げられていくという。またクウェートのプラントも韓国や中国にとられていっているという。だが日本の技術者たちは、中国製は安物で質が悪い、といい続けている。「これが怖い」という。アメリカは日本に対して同じことを言い続けていた。日本が見くびっている間に、宇宙開発においても他国に差をつけられていく。

 こういうときこそビジョンが大事だという。みんなが向いている方向をひとつにまとめる力があるからだ。つまりビジョンとは、多くの人がエネルギーを集中する分野を明示的に示すこと、すなわち「期待のコーディネーション」だ。ビジョンを示すためには、インパクトのある言葉が必要だ。

 日本はなぜ宇宙開発を行なうのか。「日本は、地球のために宇宙開発を行なうべきだ」と米倉氏はいう。「2030年のビジョンは遠すぎた」という米倉氏は、2010年までに実現することを立てるべきだと述べた。

 1つ目は道州制の導入である。日本は道州制を導入すれば500兆円の経済力がある計算になるという。関西(93兆円)はカナダ(85兆円)よりも大きく、北海道(21兆円)はデンマーク(22兆円)に匹敵する経済圏があることになる。道州制に関しては総論賛成、各論反対になることが多いが、ヨーロッパでユーロが導入されたことに比べれば不可能ではない。そうでなければ日本には未来がないという。米倉氏は「少ないお金で豊かな生活を生むのは集中からではなく分散から生まれる」と語った。

 2つ目は公用車・準公用車の燃料電池化だ。新エネルギー体系への取り組み、温暖化ガス排出権問題のリーダーシップを、実用化によってとるべきだという。

 3つ目は太陽電池を小中学校に設置すること。昼間しか稼動しない小中学校を太陽電池化することで、公共事業が発生するし、民生普及も行なえる。また、教育に力を入れることで経済力を向上させる、アジアのモデルとなれるという。アジアの多くの国ではまだ貧困があり、電力が不足しているからだ。


 イノベーションは技術革新だけではない、という。プロセスや社会制度を変えることもイノベーションだ。

 さて、日本の宇宙開発は何のためか。それは地球のためだという。製造業は500兆円のうち、20%しかない。だが民間支出は300兆円もある。そこに直結するようなことが必要だという。

 MITのエリック・フォン・ヒッペルは、イノベーションを推進するのはリードユーザーだと言った。たとえばシャンプーメーカーにとってのリードユーザーは、ミンクを扱う毛皮商だという。ものすごくニッチだが、貴重なところで使われる技術が伝播していき、やがて一般に使われる。リードユーザーが先端的であるほど、イノベーションの質は高い。自動車、環境、安全技術のリードユーザーは宇宙開発現場だ。

 ロバート・サットンは、見慣れたものを新しく見る力、「ヴジャデ」の精神が重要だと語っている。ティーバッグが開発されたのは1951年だが改良されたのは1990年で39年もかかった。また100年間評価されていた科学的管理法(Scientific Management)よりも、1人ですべて作るセル生産方式が優れているという。つまりヴジャデとは「本当なの?」と疑う精神だという。

 車の基本コンセプトは1890年代に作られたときから変わっていない。宇宙開発研究者がヴジャデで、新しく考え直すべきだ。米倉氏は、小型軽量自動車、水浄化装置、繊維、燃料電池などを例としてあげた。日本は、どんな最先端の技術イノベーションを実現するのか、それがどういう形で地球に戻ってくるのか、世界から見られているとまとめた。


「すごいけどまずい」状況にある日本 観光客ランキング。日本は32位 道州制の導入

必要なことはイノベーションによるパラダイムチェンジ 小さくても世界を変えるイノベーションが重要だという

本田技研工業株式会社 新事業推進室 室長 山田清実氏
 続けて、「ホンダに見る次世代成長戦略:新事業開発マネージメントの実践」と題して、本田技研工業株式会社 新事業推進室 室長の山田清実氏が講演した。元はNHKの政治部記者をしていたという山田氏は、「非常に個性的な企業」であるホンダの基本は「夢」だと語る。ホンダでは儲けるために新事業をやるのではなく、「夢」をおいかけるために新事業を行なっているという。

 「夢」、「志」といわれてもピンと来ない。山田氏は、ホンダが行なっている「子どもアイデアコンテスト」のオープニングで使った映像を示し、「本当にやりたいことができているか」が重要だと語った。たとえばF1の開発に入ると、レースで土日も完全につぶれる。モータースポーツが嫌いな人間からすれば大変だが、好きな人間にとっては非常に幸せなことになる。ホンダは人材採用にあたっても学歴はあまり重視せず、なぜホンダに入りたいのかという志望動機を重視することで、「ホンダのDNA」を維持しているという。

 ホンダは町工場時代にマン島での二輪レースに出場し、優勝した。二輪の工場ができたときにはF1参戦を決めて出場した。ホンダは常に10年後を見据えて開発をしてきたという。またエンジンだけで開発に17年かかったホンダジェットは、受注開始二日間で178機売れ、3年分の受注をとってしまったという。この事業は本田宗一郎の夢だったことから経営会議でもすんなり通った、そうだ。

 事業としてはうまくいってないものもあるという。だが常に顧客満足を考えて進めているという。鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎの運営は、他社の文化活動に相当する。レース以外の平日は安全運転教育活動に使われている。

 ASIMOも、新事業推進室の仕事だ。採算を追いかけないことがもっとも分かりやすい分野である。山田氏は「なかなか難しい、人間がいかにすごいものかよく分かる」と語った。

 新事業の評価項目は、ホンダブランドへの寄与、自主自立性、時代変革可能性、顧客満足性。なぜホンダがするのか? と何度も議論することが重要だという。重要視されることはオリジナリティ、独創性だ。たとえはホンダのFitやOdysseyは室内を広くするための設計上の工夫が行なわれている。


 またレジェンドには、インテリジェント・ナイトビジョンシステム、車の四輪を別々に自在に駆動制御するSH-AWDなど、ロボット的な技術が搭載されている。これらは昔のアメリカの連続テレビドラマ「ナイトライダー」の世界を夢見ながら実現させようとしているという。

 ホンダは、1972年、世界で初めて排気ガスを規制するマスキー法をクリアした。またシートベルト実用化(1963)、ナビシステム実用化(1981)、ABS実用化(1982)、エアバッグ実用化(1987)も、いずれもホンダが最初に成し遂げた。ナビについてはホンダが特許を持っているが、本田宗一郎の一声で開放されたという。

 「独創で世界一を目指す」ことがホンダの使命だと考えているという。アシモの開発は1986年以降、20年行なわれてきた。最初のE0は1歩歩くのに5秒~20秒かかった。その後、P1を経てP2を'96年に発表。2000年10月にはASIMOを発表した。2002年にはジェスチャ・ポスチャ認識技術など知能化技術を搭載。'04年12月には走行した。これらは試行錯誤の繰り返しであり、その過程で仲間意識と知恵が生まれるという。ホンダはそのほか、稲の研究なども行なっている。

 ホンダは何が必要な技術なのかと絶えず自問自答しているという。採算を重視しすぎると、顧客視点からずれていく。ホンダのスーパーカブは1958年に誕生し2006年3月で累計5,000万台突破している。最初は道路交通法で片手運転が認められていたので、配達用に右アクセル、左アクセルを選べるようになっていたそうだ。そこで岡持ちハンガーをつけることになったのだが、最初から岡持ちハンガーをつけたモデルを発売することは、これまた本田宗一郎によってストップさせられたそうだ。岡持ちハンガーをつくっている町工場がつぶれるからである。


 ホンダの新事業の方向については、移動の喜び、モビリティにこだわり、環境(ecology)、エネルギー(energy)、高齢者(elder)の3つのEを重視して新事業を推進していくとまとめた。山田氏はソニーを例に出し、会社がいろいろなことに手を出すと方向性が見えなくなり、社員のモチベーションが下がり、製品の質が下がると述べた。ホンダは7万7,000人の社員がいるが、ホンダがどの方向に向かっているか示すことが重要だという。

 ホンダはインターナビ Premium Clubを運営している。ここでは、渋滞のデータによって渋滞予測を行ない、ナビを行なう。過去の渋滞データと現在の渋滞データを総合して予測を行なうところがポイントだ。また、車線別情報も提供されている。右ルート、左ルートどこを選べばいいかもわかる。

 プレミアムメンバーズの車は、センターから情報を得るだけではなく、センターに情報をアップする。それによって、VICSでは情報を提供していない経路についても所要時間を計測することができるようになっている。これによって裏道を通ったほうがいいかどうかが分かる。ホンダの車が通れば通るほど、渋滞データがきめ細かく取れるようになる仕組みだ。インターナビは、安全装置の一種だと考えているという。また、これにより環境負荷も減るそうだ。

 このほか山田氏は、太陽電池事業やOBの求職登録を行なう会社などについても触れ「人間は何かに出会うために移動する、それはコミュニケーションをとるためであり、つまり喜びや愛を生むのだ」と述べた。


「夢」が大事だと繰り返した ホンダのレース記録 受注が殺到したというホンダジェットとASIMO

ホンダのプロダクト。事業として見ると全てが大成功ではないという 新事業の1つ「ASIMO」 ホンダの新事業推進におけるチェックリスト

レジェンドに搭載されているホンダの技術 ホンダの取り組み。全てホンダが世界で初めて開発したものだという ASIMOと燃料電池車

第2部 宇宙支援によるイノベーション創出最前線

システム・インテグレーション株式会社 代表取締役 多喜義彦氏
 第2部「宇宙支援によるイノベーション創出最前線」では、まず「宇宙技術で拓く、イノベーションの可能性」と題してシステム・インテグレーション株式会社 代表取締役の多喜義彦氏が講演した。

 多喜氏はJAXAの知財関連の仕事を含め、多くの会社の事業コンサルティングを行なっているという。風俗以外のすべての業種で仕事をしたそうだ。多喜氏は「宇宙関連技術は優れているが使うには勘所が必要だ」と話を始めた。

 いまはもう、規格大量生産時代は終わったという。日本企業はこれまで「品質、コスト、納期」を一生懸命やってきた。良いものをより安く、スピーディに提供することがこれまでの日本経済の構造であり、強みだった。しかし、それはもう終わりに近づいている。中国そのほか人件費の安い国が力をつけてきたからだ。

 では新しいパラダイムはなにか。「安全、環境、コンプライアンス(法令順守)」だという。食品におけるトレーサビリティ情報開示がその一例だ。北海道のCOOPでは鶏卵の1個1個にコードをつけて管理し提供しており、2割ほど価格が高いにも関わらず、顧客からの評価も高いそうだ。牛肉も同様である。安全、環境、コンプライアンスが新しい経営資源だ。

 宇宙技術はこれまで目をつけられていなかった。しかしなかには本当にびっくりするような技術があり、技術移転関連の業務でJAXAの技術を見た多喜氏は「一般産業界が目を向けなかった技術が目の前にあると感じた」という。それは目先の利益に囚われず研究開発が行なわれている大学の研究についても同様で、逆にいまこそ、そのような「浮世離れした」研究テーマを世の中が必要としているという。「これからは大気圏を突破したすっ飛んだ技術を一般産業界も考えなければならない。宇宙技術は間違いなく経営資源になる」と語る。だが、宇宙開発技術は、そのままでは使えない。

 多喜氏は実例として、ロケットエンジンに関する技術を、ダイオキシンを出さずに産廃を燃やす技術として転用できないかと考えた例を示した。


 ちょっとしたアイデアを付加して新しい商品事業として展開しているわけだが、覚えておくべきことは「業際(きわ)を越える」ことだという。もっとも縁遠い分野を探し、そこと宇宙開発技術を結びつける。業際を越えたところにチャンスがある。

 もうひとつ重要なことは「ビジネスモデル」である。開発というと、すぐモノを作ってしまう。しかし、モノがいいからといって、売れるわけではない。良いモノができればできるほど、ライバルが出てきてしまい、結局コスト競争で潰れてしまうことがある。そうなららないためにも、まずはビジネスモデルが重要だ。

 どのようなビジネスモデルにしたら強いのか。事例として出されたのは「富山の薬売り」の置き薬だ。

 無料で薬を置いていき、飲んだ分だけ払ってもらう。江戸時代から未だに通用するこの秘密はなにか。それは、ビジネスモデルの成功にあったと多喜氏は強調する。置いておくだけなら無料なのだから置くほうには何の負担もないわけだ。風邪をひきはじめたときに、目の前に薬箱があったら薬を飲む、ひきはじめだからよく効く、というわけだ。最盛期の元禄期には、今の価値に換算すると2,300億円の売り上げがあったそうだ。

 その背景には、薬が入れ替わる3年分の売り掛け在庫のコストを負担した藩の存在があった。このようにビジネスモデルの存在と、その価値を見抜いた行政支援は非常に重要なのだ。

 置き薬はグリコの置き菓子「オフィスグリコ」として現代も存在している。首都圏だけで売上は40億円。なお実際の売り上げとの誤差は2%しかないそうだ。人は意外とごまかしたりしないのである。置いてある菓子は普通のお菓子である。要は、ビジネスモデルが重要なのだと多喜氏は強調した。

 これまで日本はとにかく作って売るということで商売が成り立ってきた。だがそういう時代ではない。これからは「売り方」を考え、「モノ」ではなく「コト」にすることが重要だという。


 もともとリースという仕組みは高い製品を安く使ってもらうために、メーカーが考えたものだったそうだ。しかしいまは大手銀行がリース会社を持っている。リースもビジネスモデルのひとつである。「宇宙事業も、どのようなビジネスモデルでやるかを考えていただきたい。優れた技術があっても、技術そのものが利益を生むわけではない。どのような製品のためにどのような技術がいるかと考えれば宇宙技術も花開く」と語った。

 また知的財産権戦略も重要だという。あっさり真似されては何にもならない。開発費用がかからない「後出し」の模倣者は安く製品を出すことができる。だから知的財産権が重視される。知財がなければ後出しで負ける。基本特許だけではなく、アプリケーション、応用展開の特許も重要だ。ユーザーに近ければ近いほど、特許の実効性は高くなるからだ。「おおげさにいえば、日本は知財戦略こそが唯一の資本だともいえる」という。「知財資本」だ。

 知財は、他社のそれを侵害してしまう危険もある。だから「知財資本」が重要なのだという。「日本の知財資本のひとつがJAXAの技術だ。それは日本の知恵だ。知恵を資本化することが重要だ。高齢化社会においても安全、環境、コンプライアンスは重要だ。そして、それにもっとも近いのは宇宙技術である」とまとめた。


ロケットエンジンに関する技術をスピンアウトした例 ダイオキシン発生を防ぐための二次燃焼装置として商品化した

JAXA産学官連携部 部長 石塚淳 氏
 「産学官連携による宇宙発イノベーション」という題で講演したのは、JAXA産学官連携部 部長 石塚淳 氏だ。JAXAはイノベーションに取り組みつつあるところだという。

 石塚氏は、経済同友会代表幹事で日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役会長の北城恪太郎氏の『イノベーション立国・日本を目指して』をひいて、イノベーションとは、新たな価値を生み出す源泉であり、そのために重要なものは多様性、他分野の異質なものとのぶつかりあいだと述べた。

 JAXAは3つ取り組んでいる。1つ目は宇宙への敷居を下げるために行なっている「宇宙オープンラボ」だ。宇宙事業と地上マーケットの融合と活性化、ベンチャー企業の取り組みなどを積極的に支援することを目指している。

 2つ目は地域と中小企業の活性化だ。中小企業や地域が、宇宙開発最前線で活躍する場所を作り、支援を行なう。同時に中小企業技術を入れることで宇宙産業活性化を目指す。

 3つ目はスピンオフである。JAXAは1,000件の特許を持っている。これの活用である。NASAはレトルト食品やテンピュール、ゴアテックスなど多くのスピンオフを生んでいる。

 JAXAではロケットの先端部のカバー・フェアリングの断熱材技術に対し、http://www..co.jp/株式会社日進産業(http://www.nissin-sangyo.jp/)が自社技術をプラスして、住宅用断熱材を開発している。また宇宙ステーション用浄水技術に使われている逆浸透膜技術を飲料水確保用として商品化した話も紹介された。現在この技術を再び宇宙で活用する方向で研究を行なっているという。


JAXAのイノベーションのイメージ NASAのスピンオフ例

ロケットのフェアリング技術を建築用塗布式断熱材に応用した例 宇宙ステーション用浄水技術

第3部 宇宙的モノづくり魂(オトコゴコロ×宇宙)

 第3部は「宇宙的モノづくり魂(オトコゴコロ×宇宙)」と題して行なわれた。プレゼンターは、有限会社大平技研メガスター開発者の大平貴之氏、株式会社植松電機専務取締役の植松努氏、株式会社オービタルエンジニアリング取締役社長で「まんてん」プロジェクト理事の山口耕司氏。進行はJAXA産学官連携部連携企画グループ 副グループ長の岩本裕之氏が務めた。

 最初は大平貴之氏による「メガスター2」のデモンストレーションから始まった。大平氏はこれまでにないプラネタリウムを作っているクリエイター。個人の立場で活動していたが2005年3月に会社化した。デモされた「メガスター2」は500万個の恒星を投影してリアルな星空を作り出すことができるプラネタリウムで、これは世界最多。25m径のドームに対応でき、日本科学未来館にも納入されている。

 大平氏はこれまでの展示活動を紹介し、今後はCGとも組み合わせ、宇宙を舞台にしたエンターテイメントを展開したいと語った。なお大平氏はJAXAオープンラボにも参加している。また大平氏は学生時代に本格的なロケットを自作して打ち上げていたことについても触れ、植松氏と出会って、またふつふつと宇宙開発への気持ちが沸き上がってきたと語った。


メガスター2 有限会社大平技研 大平貴之氏 講演会場の四角い天井に500万個の星が投影された。肉眼ではもっと綺麗に見える

メガスターによる投影像 メガスターの将来像

 その植松氏が専務取締役を務める植松電機は、プロジェクトリーダーを務める北海道大学大学院工学研究科 宇宙環境工学講座助教授の永田晴紀氏やその学生たちと一緒に「CAMUI型ハイブリッドロケット」の開発を進めている会社だ。

 CAMUIとは「縦列多段衝突噴流(Cascaded Multistage Impinging-jet)」の略で、プラスチックと液体酸素を使い、燃焼ガスが固体燃料表面への衝突を順次繰り返すようにした燃焼方式。固体ロケット並の小型高推力を、燃料コストだけみても1/200以下と格段に安価に得ることができる。CAMUIの現在の新型エンジンは100%の稼働率で動いているという。将来的には実際に衛星の軌道投入が可能なロケット開発を目指す。

 同社の本業は他にあるが、宇宙関連ではロケットエンジン開発のほか、微小重力実験、人工衛星開発なども行なっている。学歴は全く問わないので社員構成は多種多様だという。

 人工衛星開発は1年半かけて行なったが、開発した社員は、開発前は「衛星のえの字も」知らなかったそうだ。日本では何かと実績が重視される傾向にある。だから新しい素材を作って衛星に使いたいといっても、実績がなかったら採用されない。同社はCAMUIロケットを使って打ち上げて、同社の衛星をテストベッドとして使っていきたいという。

 また、人工衛星と熱真空チャンバーの写真を見せ、購入すれば数億円単位の熱真空チャンバーだが、材料代だけの20万円で作ってしまったと語った。とにかく自作すれば何とかなるし、安くできてしまうのだ。同社の微小重力試験施設もやはり自作だが、3秒間の無重量環境を作ることができる。

 これらは一切、公的なお金をいれないで作っている。それは「補助金を探す人たち」ではなく、あとに続く人たちに出てきてもらいたかったからだという。

 植松氏は「小さなロケットだが未来はある。大事なことは空を見ることだ」と語った。ロケットがもたらしたことは「やったことがないからやってみたい」と社員がいうようになったことだという。「やったことがなければ、やってみればいいだけだ」(植松氏)。


 また、いまの産学官連携は好きじゃないと語る。なぜなら官がお金を出す仕組みになっているからだ。「お金は市場にある。官が出すお金は税金。だから失敗する可能性のある博打はできない」。やはり民がリスクをとらないといけない、という。

 また、「学」は徹底的に、わけの分からないことをやるべきであり、「産」は「学」の成果からヒントを見つけて市場からお金をもってくるべきで、「官」はそのために制度を整えるなど、それぞれできることをやるべきだと語った。

 航空宇宙産業は妥協を許さない分野だ。その結果、モラルの高い技術を作ることになると述べ、モラルは実際に売上を伸ばすことができると述べた。実際に同社の売上はロケット開発を始めてから伸びているという。

 「産がうけとるべき対価はカネではなく経験。こっちのほうがはるかに効果がある。道路はその上で商いが行なわれれて初めて利益を生むのだ」と語り、何よりも大事なことは「自分への投資」だと語った。

 また力を入れているのが、未来の世代、つまり子ども達への投資である。たとえば子供たちにモデルロケットを作らせたりしている。その数は1,000機、コストは150万円。だが、まったく無駄ではないという。たとえば会社でロケット好きを1年かけて育てようとすると800万円くらいのコストがかかる。だが、150万円投資するだけで、1,000人中1人でもロケット好きが生まれれば、勝手にロケット好きができるからだ、という。

 「理想は届く存在ではない。だが届かないからといってあきらめる必要はない。空を見続けることが重要。宇宙は空を見上げればそこにある」、だから理想とする上で最適だ、といい、「10年後に自分たちが雇える人間がいるか」と問うと人材不足がどうしても懸念される、だからいま一生懸命子供たちに夢をもちなさいと語っている、と述べた。「お金だけ見ると何も生まれない、大事なのは使い方だ」と熱弁をふるった。


株式会社植松電機 専務取締役 植松努氏 植松電機の宇宙への取り組み 北海道の真ん中にある

CAMUIロケット 同社の衛星(右)と同社が製作した熱真空チャンバー(左) 微小重力試験施設

社員は多様、子どもたちへの教育にも力を入れている 同社の技術モラル3箇条 モラルを植松氏が持ち込んだことで売上が上昇したという

 会場が沸いたあとに「やりにくい」と苦笑しながらプレゼンを行なった株式会社オービタルエンジニアリング取締役社長の山口耕司氏は、同社事業の紹介と、「まんてん」プロジェクトのコンセプトを紹介した。

 オービタルエンジニアリングは'98年に設立された、衛星のサーマルブランケット(多層断熱材)や、人工衛星の設計などを行なっている会社だ。ちなみに酒屋の2Fにあり、そこを抜けないと上がれないそうだ。元々、山口氏が、アメリカは宇宙ビジネスが中小企業込みで産業になっていることに目を付けて立ち上げた会社だが、なかなか利益が出ていないそうだ。しかし見学は海外からも非常に多く、日本だけを見るのではなく、世界をマーケットとすることが重要だという。

 「まんてんプロジェクト」は、'03年9月、宇宙開発における中小企業のインフラネットワークを作るために生まれた。モノづくりに対する漠然とした危機感が背景としてどこの会社にもあり、あちこちにあるギャップを埋めるために中小が寄り集まることで1つの仕組みとしている。

 実際に受発注を行なうために「JASPA」という組織も作られており、「ブランド」を作っていきたいという。また開発においては、早稲田大学理工学総合研究センターが今年4月から始めた航空機開発に関する研究を行なう「NIKEプロジェクト」と共同で進めている。


株式会社オービタルエンジニアリング取締役社長、「まんてん」プロジェクト理事 山口耕司氏 まんてんプロジェクト。中小企業による航空宇宙部品のSCMのインフラ 背景にはものづくりに対する漠然とした不安があったという

宇宙産業における課題は空白期間と需要量 まんてんの仕組み 品質管理がカギ

 それぞれのプレゼンのあと、「宇宙開発への夢がフツフツたぎってきた」という大平氏は「ものを作るモチベーションは単純。自分が作ったものが飛んでいく、そのロマンがすべて。それは誰もが持っている。そこを大事にしていきたい」と語った。

 植松氏は「必死になって誰かがやっていれば、『俺もやってみるか』と思う。またそいつが必死になっていれば別の人間も必死になる。その『必死の連鎖』が本当のリーダーシップ。だから一番てっぺんが必死になることを見せることが重要。お金は市場にたくさんある。だから必死でやることがまずは重要だ」と「植松節」で再び語った。

 山口氏は「確かにお金は目的ではなく結果だが、それだけでは経営者失格。やぱり儲かることも重要だ。宇宙開発が儲けの面でもやりがいのある産業になればいいなと思う」と述べた。


第4部 宇宙的感性(オンナゴコロ×宇宙)

 第4部は「宇宙的感性(オンナゴコロ×宇宙)」。プレゼンテーターは株式会社資生堂 特許部長の福井寛氏、マリアージュ ドゥ ファリーヌのシェフパティシエ 辻口博啓氏、エリ松居Japan代表の松居エリ氏、特別コメンテーターは宇宙飛行士の古川聡氏。

 進行は宇宙オープンラボの1つ「近未来宇宙暮らしユニット」のユニットリーダーを務める日本女子大学 家政学部大学院教授の多屋淑子氏と、JAXA産学官連携部連携推進グループ 副グループ長で宇宙オープンラボ担当者の内冨素子氏。


JAXA産学官連携部連携推進グループ 副グループ長 内冨素子氏 日本女子大学 家政学部大学院教授 多屋淑子氏

 「近未来宇宙暮らしユニット」では、地上の生活関連技術を宇宙での生活支援として応用し、さらにその成果を地上でも活用することを狙っている。

 今年度は宇宙での船内服の開発をテーマに行ない、たとえば縫い目のない無縫製の衣服を開発した。また樹脂加工を行ない、消臭・制電機能を持たせた。日本の繊維産業はレベルが高いので宇宙でも十分いかせるという。


近未来宇宙暮らしユニットの目的 生活支援を目的とした衣服の開発を行なった 実物。縫い目がない

 はじめにプレゼンを行なったのは株式会社資生堂 特許部長の福井寛氏。資生堂は「ZEN」という香水を作っている。宇宙で咲いた「宇宙バラ」の香りを再現したものだ。きっかけは、NASDA時代の香り研究会。宇宙とフレグランスをやってみようと福井氏が言い出したこと、それまでに香りの生理・心理効果の活用が狙いだったという。

 資生堂は2000年に記念の「ミレニアム・フレグランス」を出すと決めていた。そこで、千年に一度のフレグランスということで、未来のイメージと過去のイメージを考え、過去は「禅」、未来は「宇宙」だと考え、向井千秋氏の宇宙バラを使うことを考えた。

 宇宙バラとは、同じバラを無重量状態で咲かせたときと地上で咲かせたときに香りが違うかどうか、という実験だった。実際に地上に持ち帰って調べたところ、地上と宇宙では3種類くらいメインの成分が違っていたそうだ。

 当時はあまり宇宙飛行士と一緒に開発したといったことが言えず、販売においてもなかなか苦労があったという。福井氏は「宇宙は美しい。いっぽう研究から見ると、微小重力を利用して新素材のデータをとり、アンチエイジング製品などを作っていきたい。間接的に宇宙は役に立つと捉えている」と述べた。


「宇宙薔薇」の香りを使った化粧品 スペースシャトル・ミッションSTS95で実験された NASDA香り研究会がきっかけだった

マリアージュ ドゥ ファリーヌ・シェフパティシエ 辻口博啓氏
 マリアージュ ドゥ ファリーヌの辻口氏は、「食」という観点でプレゼンを行なった。米で作るお菓子つくりと、自分のハシを使う運動を展開している辻口氏は「米はグルテンがなくて消化吸収がいい。宇宙では米の菓子がむいているのではないか」と述べた。JAXAの内冨氏によれば和食は宇宙でも人気が高いという。なおJAXAは現在、宇宙日本食の開発協力企業を募集している。

 長期保存型のスイーツは一般的に添加物を使っているが、辻口氏はいま無添加のスイーツを開発中だという。それは宇宙食にも応用されるかもしれない。


宇宙日本食の開発企業を募集している 和食は人気が高いそうだ

エリ松居Japan代表 松居エリ氏
 エリ松居Japan代表の松居エリ氏はオープンラボの「スペース・クチュール・デザイン・コンテスト」の実行委員長。コンテストには全部で828点の応募があり、今回のシンポジウムでは、最優秀賞とJAXA賞を獲得した衣装、ドレスだがパンツスタイルで、宇宙でも着られるよう配慮されたウェディングドレスが披露された。

 松居氏は、サイエンスとアートはどちらも探求のなかで生まれてきたものであり共通点はあると述べ、どちらも審美性を求めて飛躍していき、やがて宇宙飛行士になりたいなと思う若者が出てくるといいなと考えてやっていると語った。

 宇宙飛行士の古川氏は、「一見関係なさそうな分野が融合することで突破口ができると素晴らしい」とコメントを述べた。


着物をモチーフにした宇宙服。JAXA賞を獲得したもの 最優秀賞をとった宇宙服

ウェディングドレス宇宙服 宇宙飛行士・古川聡氏

 日大の多屋教授は、スピンオフ例として、宇宙での生活支援用に開発した衣服を重度の寝たきりの重症心身障害児用のハレの衣服としてデザイン応用した例を示した。宇宙と重度の心身障害者が必要としている技術は似ているという。

 また、「宇宙」という言葉の持つ意味は非常に大きく、それは人の生活に明るさを与えるとのべた。

 古川氏は、これからは日本の得意分野を活かしたものが実際に宇宙で使われて、世界の人々が喜ぶ状態が理想だとコメントした。

 また宇宙滞在748日の記録を持つロシアの宇宙飛行士、セルゲイ・アウデエフ氏もゲストとして登場した。アウデエフ氏は株式会社アシックス スポーツ工学研究所らと共同で、宇宙で使う靴の開発に携わっている。

 宇宙では足裏の皮膚が脆弱になる。いっぽう、宇宙飛行士は宇宙滞在中にランニングマシンで一日2回はトレーニングしなければならない。現在開発している靴はそのための靴で、地上で日常使っている靴とは異なっているが、そこで開発される技術は、ハンディキャップを持つ人にも役立つものだと述べた。

 多屋教授は「生活分野の開発が宇宙開発の資産になるのではないか。そのためには多くのエキスパートに宇宙開発技術のスピンアウトを手伝ってもらいたい」と述べ、第4部を締めた。


宇宙での生活支援服用加工技術をスピンオフした例 ロシアの宇宙飛行士、セルゲイ・アウデエフ氏 試作された宇宙ステーション内でのトレーニング用靴

 シンポジウム全体の最後には、JAXA副理事長の間宮馨氏が「これからの時代はイノベーションが重要。宇宙は非常にチャレンジング。そのためには地上から入っていかなければならない。地上の技術、感性が宇宙に入って結実したあと、地上に帰ってくる。JAXAの試みを活用して夢を実現してもらいたい」と述べた。


URL
  JAXA産学官連携部
  http://aerospacebiz.jaxa.jp/

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( 森山和道 )
2006/12/08 22:13

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