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通りすがりのロボットウォッチャー
福祉用ロボットの小さいが大きな1歩

Reported by 米田 裕


 テレビなんぞはほとんど見ない。

 というよりも見ている時間もないし、番組のために一定時間を奪われるというのも押しつけがましいのでいやだ。

 ニュースも昔ならテレビだが、今ではネットでひろい読みをしてあまり時間をかけずに全体を把握できる。

 それでもテレビを見るとしたら、日本代表のサッカーの試合か、突発的な事件、事故、災害のライブ映像、そして興味のある番組といったものぐらいか。その興味のある番組はものすごく少なくなっている。

 先日、関東地方では「テレビ東京」という放送局で放映された『ガイアの夜明け』を見てしまった。販売が始まった「HAL」が番組に出てくるとわかったからだ。

 ヘンチャービジネス特集の回だったが、その中に、サイバーダイン社の外骨格型ロボットスーツHALが、昨年10月より、大和ハウス工業株式会社を国内総販売代理店として全国の「福祉・介護施設」へ向けてリース販売されたというリポートがあった。取り上げられた時間はそれほど長くない。


福祉機器関係者は首をひねるが

 昨年発売された「HAL」は、それまでの全身型と違い、脚だけの部分の「HAL福祉用」というのだそうだ。両脚用と片脚用がある。

 さてその「HAL福祉用」は、福井市で開催された『リハビリテーション・ケア合同研究大会福井2008』へ出品されたのだが、来場者の反応はよくなかった。

「ごつすぎる」
「重たそうなので高齢者はいやがる」
「自分の身体が勝手に動いてしまうのではないかという不安がある」
「動けることで、なんでもできると思われると苦しいのではないか」

 などと、福祉関係者からは福祉機器としての「HAL」は、あまり歓迎されていないようだった。

 ロボットの知能が、急速に発達することを望めない現在、身体に装着してスレーブ状態で使うか、身体機能の補助をするロボットが現実世界に現れるのがいちばん早いと思っていた。

 そのロボットが実際にリース販売されたのだ。ホビーロボットや、大学にある研究用ロボットと違い、自分でさわれて、身につけられる製品ということで、とても画期的だという反応が多いかと思っていた。

 ところが、福祉機器関係者にはまだまだ実用には遠いと見られたようだ。

 実際にデザインという観点から見ても、見た目がごつくなる機械を脚の外側へマジックテープでつけている姿は、あまりかっこよくはない。

 「HAL」がまだ大学内で研究されていたころ、学生さんが全身タイプのを身につけ、宇宙刑事? ばりのポーズをとっていたころには、そうしたデザインがカッコいい~と人気も出ただろうが、実際の生活の場で使うとなるとデザインには生活にとけこむ自然さが求められる。

 アニメや特撮映画に出てくる「カッコよさ」という方向でデザインをしてしまうと、普段の生活には合わないと思う。

 さりげなく、装着していることすらわからないほど、身体に溶けこんでいるようなデザインがいい。

 ひょっとすると、服を着ているとしか見えないものが究極的には求められるのではないだろうか。

 実際の高齢者の方、身体の不自由な方たちからは、身につけたい、装着したいという要望が数多く寄せられているという。

 しかし、リハビリ機器の研究者たちとの温度差が気になる。

 まだ、世の中にない機器なので、ゆっくりと人間に慣れていってもらう方向でいくのか、付けていることがわからないデザインにしていくべきものなのかだ。


福祉用というだけで無骨な動力車

 異質といえば、歩道を走っているシニアカー、セニアカーというんだっけ? (歩行補助用電動車)なんて、走っている姿を最初に見たときには、「なんじゃこりゃー!」と思ったぞ。

 モーターで走り、ハンドルで舵をとり、モーターで走るので、「こんな物を歩道を走らせても道路交通法違反にならんのか?」と首をかしげたほどだ。

 時速は6km以下だし、福祉用の歩行補助車両なので、車いすと同じ扱いだという。

 免許もいらず、ライトや警報機などの保安機器の装着義務もないそうだ。

 しかしまぁ、これが歩道を走るのには無理があるのではないかと思う。中途半端な立場であるため、危険な乗り物となることもあるだろう。

 時速は6km以下までしか出せないように決められているらしいが、とあるメーカー製のものは、それ以上の速度が出るといわれているし、ライト類の装着義務がないので夜は見づらくなる。

 だからといって、自転車用のフラッシングライトを付けているものもあるが、赤色を前面には付けないで欲しい。前照灯は白か黄色、尾灯は赤か橙と法律で規定されているので、明らかに道路交通法違反だが、道路交通法で管理される乗り物でないところがややこしい。

 バッテリこみの車重は約80~100kg。人が乗った状態ではこれに70~100kgが上乗せされる。

 200kg近いものにぶつかったり、のりかかられたらどーするよと、歩道ですれ違うたびに考えてしまう。

 これなら「HAL福祉用」の方が断然いい。

 「HAL福祉用」はバッテリなしで、約11kg。リチウムボリマーのバッテリは2kg以内だろう。重量的にはママチャリと呼ばれる婦人用買い物自転車よりも軽い。

 そして、自身を支えるようになっているので、身体につけても重さはほとんど感じないというのだ。

 もし「HAL福祉用」をつけた人が歩道を歩いてきても「ギョッ!」とは驚かない。松葉杖や義足など、歩行を補助する装具をつけている人はわりといるものだからだ。

 もっとも「HAL」見たさに後をつけていってしまうかもしれないけど(笑)。


普及へ向けてのHALの課題

 現時点での「HAL福祉用」は、まだ実際に歩けない人が装着した場合の報告がないので、リハビリ用とか、歩行補助機器としては未知数だが、そのデザインはやっと及第点といったところだろうか。

 なにかデザイン的に手を加えることで親しみやすくなる可能性はあると思える。

 無骨感をなくせば、もっと抵抗なく使ってもらえるものになっていくと思う。

 メカのデザイナーだけでなく、服飾デザイナーなど、身につける物のデザイナーに参画してもらう手もあるだろう。

 決してアニメや特撮映画方向的デザインには進まないでもらいたいものだ。

 こうして二足歩行の脚用「HAL」がうまくいったなら、つぎは全身用が待っている。全身装着用となると、またまたデザイン的にはエレガントさが求められる。

 開発者の山海嘉之教授の嫌う「軍事用」としての外骨格型パワードスーツなら、無骨でもかまわないだろうし、「こいつは道具だ、戦う機械だ。おまえらのチキンみたいなパワーをゴリラなみにしてくれるぜ」などと命令されれば、ためらわずに着込むことだろう。

 だが「HAL」は軍事用ではない。山海教授が子供のころに書いた作文にある「自分の研究所でロボットをさらにすぐれたものにしたい」「おてつだいロボットをつくりたい」「ロボットは役にたつもの」という夢の部分を発展させ、長年かけて実現させたものだ。

 その作文の端には「科学は悪用すればこわいもの」といった文章も書かれている。

 子供のころからの理想を実現させた山海教授の、長い期間の努力には頭が下がる。実は僕は山海教授より1歳年上になる。だからテレビで紹介された作文に描かれていたロボットとロケットのイラストに、ものすごく懐かしさを感じてしまった。

 あれだよなぁ。

 子供のころは、ロケットやロボットはあこがれの的で、21世紀にはロボットを連れて宇宙旅行へ行っていたはずなんだがなぁと現実とのギャップにがっかりとしてしまう。

 僕も子供のときには、軍事的なものは嫌いだった。親がお使いで出かけるとき、留守番を頼まれたので、駄賃として「おもちゃのおみやげ」を頼んでおいたのだが、買って帰ってきたのは戦車と歩兵のセットだった。

 男の子向けということでデパートの店員かなにかに勧められたのかもしれない。ところが僕は子供のころからSF的なものが好きで、ロボットか宇宙船といったものを買ってきてほしかったのだ。

 「こんなものいらない」と泣きわめいて、戦車と歩兵のセットは路上にあるゴミ置き場へ持って行って捨ててしまった。

 その後、大人になりイラストレーターとなるが、注文によっては兵器や武器、戦闘機、戦車も描かなくてはならなくなった。細部まで描くには資料が必要なので、兵器類の本もかなり集めた。

 機構的、機能的なデザインには美しさを感じるときもあるが、人殺しに使われていると思うと複雑な気分になる。


必需品アシスト機器になれるか?

 また脱線したが、「HAL」は人間社会で販売された初めての着用型アシストロボットというものだ。まだ1歩を踏み出したところで、この先にはまだまだ解決しなければならないことも出てくるだろう。

 たとえば、歩行できなかった人が「HAL」によって歩行ができるようになり、一般生活ができるようになり、家庭へ戻ったとする。

 夜寝ているときにトイレへ生きたくなった場合には、「HAL」を装着してトイレへと向かわないといけない。この時間をどれだけ短縮できるのか? どれだけ寝ぼけていてもきちんと「HAL」を装着できるのかという問題も出てくるだろう。

 僕も大酒飲んで帰ってきて寝てしまうと、突然の尿意で夜中に目が覚めることがある。早くトイレへと行かないとヤバイというのに、身体は半分寝ているためにうまく動けない。

 なんとかギリギリでトイレまでたどりつくが、もう少し歳をとったら、おもらししてしまうのではないかという不安を持っている。

 「HAL」を着けて日常生活ができるようになっても、着けたままでは寝られないだろう。枕元に置いておくとして、夜中に尿意で目が覚めて、「HAL」を装着しはじめる。寝ぼけていてマジックテープがうまくつかない。センサーはどこだ? などともたもたしながら、トイレへ向かって間に合うか?

 1階にトイレがあり、2階に寝ていたらどうだろうか? 装着時間と階段の移動を含めて時間的に間に合うのだろうか?

 風呂へだって自分1人で入りたいとなれば、防水機能も必要だ。

 こう考えると、装着型アシストスーツは『光速エスパー』に出てきた強化服のように着るのがいいかなぁと思ったりする。『光速エスパー』は東芝が提供していた特撮番組で、最初は「あさの りじ」氏がマンガ化し、後期には「松本零士」氏がテレビストーリーを無視してマンガ化をした。

 全国の東芝系電気店のシャッターに描かれたキャラなので、憶えている人もいるかと思う。

 この『光速エスパー』、主人公が強化服を着るときには、「イー・エス・パー!」と叫んで跳びあがるだけで身体に装着してしまうという仕組みだった。わずか3秒ほど。これぐらい短期間に装着できれば夜中の尿意にも間に合うだろう。

 人間とロボットの共存、ロボットによる人間のアシストといっても、まだまだ改善点は多いように思える。その装着法や形態もベストの状態にするには時間がかかるだろう。

 だけど「HAL」には、困難に負けずに、しっかりと1歩1歩未来へと歩んでいって、未来の僕らを助けて欲しい。

 身体が不自由になっていくことが、歳をとっていくことの悲しい部分だ。昔はできたことができない。

 そうなると人は自信をなくしふさぎこんで生活するようになる。

 自分で自由に動ける生活が、老齢になっても保証される未来がやってきてほしいものだ。そのためのロボット技術に期待をしている。

 その未来にはリース代もお安くなっているととてもいいなぁ(笑)。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2009/01/30 00:10

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